揺れるカーテン
病院で目を覚ます結月。なぜ彼女は此処に……。
……そうだ早く帰らなきゃ。あれ、ここは何処?
……私は紀ちゃんと別れたところだったような。
目を開けると日差しがまぶしかった。脇を見ると白いカーテンが揺れていて、自分がベッドの上で寝ている事が分って来た。ベッドサイドには、花瓶に花と何やら怪しげな器具が置いてあり、器具からはチューブがつながって私の左腕まで続いているし、白衣っぽいものを着てる。耳元には、小さいキュレットが掛けられていた。
事態がつかめずに、ぼーっとしていると部屋に誰かがやって来た。
……看護師さん? と見慣れた、私のおかんの顔が見えてきた。
「結月! 起きたのしっかりして!」
「うるさい~。頭が痛くなるから喚かないでよ!」
急に、うちのおかんが耳元で騒ぐから、うるさいったらありゃしない。
「あらら、元気みたいね」看護師さんが話しかけてきた。
「そうだ、ここは何処ですか? なんで私は寝ているの?」
ふう~とっ、うちのおかんが、ため息をつくと話し出した。
「あんたね、横浜に何しに行ってたのさ」
「何のこと?」
「神野さん、私が説明してあげる。あなたは、横浜の公園で倒れているところを救急通報があって、病院に運ばれたのよ。ここは、港救急医療センターよ」
おかんを遮って、看護師さんが説明してくれた。よく見ると年上のとっても美人さんなのに驚いた。白衣の下にはナイスボディが秘められ、髪はダークブラウンに染められ、キュレットの奥の瞳がちょっと吊り上がった素敵な容姿。
……ちょっとお姉様タイプも良いのではと内心思ってしまう。
お名前は……胸の名札、三枝碧さんか。
「あんた、公園でずぶ濡れになった倒れてたんだよ。何があったんだい。ちょっと前には、警察の人も来てて大変だったんだよ」
「ずぶ濡れ……警察……。なんか私が悪い事したの?」
「いや、違うわよ。昨日の夜に倒れてたし、事件性があるんじゃないかってね。それに、通報してくれた人も不明でね。本当にどうしたんだい」
「…………」
そうだ、思い出した! 私は夜の公園にいた。
それからクリーチャーと戦ってそれから気を失った。
いや、夢じゃないはずだ。あれは現実のはずだ。
じゃあ、あの時に私の手にあった剣は本当で、一人称が『僕』のイブも一緒にいた。
……でも、こんな訳の分からない話をおかんにできる訳ない。娘がおかしく成ったと思われるのが関の山。余計に心配をかけてしまうよね……。
「つっ!」突然、頭に刺激が流れた。
『Don't talk!』
刺激と共に音声が流れ、それは機械的な声だった。なに、この声。……そうだあの時の音声だ。なんで今も聞こえるの……。
あっけにとられて、驚いた表情をしていたのか、おかんが声をかけてくる。
「やっぱり、また大丈夫じゃないみたいだね……」
色んな事を思い出して私の頭は混乱気味だけど、返事はしないといけないか。
「……私、わからない……」怪しさいっぱいだが、今はおかんに、そう返すので精いっぱいだ。
「そうかい……。いえ母さんはね、あんたのベッドの下にあるBL本や同人誌みたいに、いかがわしい事に巻き込まれたのかと思って、もう心配で心配で」
「――い、いつの間に見つけたの! しかも、しっかり中身まで読んでるわね。そ、そんな事あるわけないじゃん。馬鹿あ!」
「ふふふ」
おかんと、真っ赤な顔になってる私のやり取りを聞いて看護師の三枝さんが笑った。モニターの体温を見て、私のおでこに手を当ててくれた。古臭いやり方だけど、医療は安心が大事と聞いた事がある。耳の医療用キュレットからの情報をモニターやデバイスで確認すれば済む話だけど、スキンシップを重んじているんだろなと勝手に思った。
「うん、熱もないし大丈夫みたいね。でも、精密検査をするから、もう1日入院してもらうわよ。じゃあ、また後でね」
「げ~っ。マジですか」
看護師さんは、そう言い残すとベッドの側を離れた。そして、おかん、いや母の志信様が、花瓶を手に取り、心配そうに私を見つめている。
「いいかい、思い出せたらでいいから、なんでも昨日の夜の事話してよね」
「あっ、うん」
そう言い残すと志信様は、花瓶の水を替えに病室を出て行った。
「そうだ、膝……」
気になって、左膝を確認してみるとバンテージされ処置が施されていた。
……傷がある。やっぱりあれは本当に起きたことなんだ。VRの出来事じゃない。なら、私がやったアレはどうなったの? 警察の人は見つけてないの? それに、惨劇で火の海になった街はどうなったの? おかんも看護師さんも何も言わないし、この病院も平和そうだ……。あんな酷い怪獣大戦争は起きていないの?
もう訳わかんないよ! 頭が変になりそう。
でも、胸のつかえがこみ上げて、一人取り残され私は頭の整理をする事にした。
なぜ、私は夜の公園にいたのか。なぜトカゲのクリーチャーと戦ったのか。ベッドの上で、私は記憶の糸を辿った。
入院の原因を思い出せた結月。彼女は昨日の顛末を思い出して行く。
次回;「空の瞳」




