獲物
シャ――――ッ ザ――――ッ
只今、火野さんと絶賛連れシャワー中です。火野さんは隣のブースで鼻歌を歌いながらご機嫌そうです。
「ふふん♪ ふふふん♪ やっぱり、ひと汗かいた後はシャワーとビールだな。そうだろ結月君」
「私は、まだ未成年者ですよ。火野さんもまだ仕事中ですよね。お酒は駄目でしょう」
「子供の癖に固い事言うなよ。いいかいビールなんてな水みたいなもんさ。大昔の中世ヨーロッパぐらいまではそうなんだぞ。はははは」
初対面から変わった人だと思っていたけど、さっきの事といい、ホントにこの人はこれでも公務員なのかと思うわ。
キュ、キュッ
シャワーを終えてバスタオルを巻いた火野海佐の姿は凄かった。何がって言うともう全部。外人さん体系で身長も私よりはるかに高いし、がっちりとしながらも、出る所はでて、引っ込むところはしっかりと細くて、そのスタイルの良さはタオル越しにもはっきりと伝わってくるよね。
シャワーを終えて脱衣所に戻り着替えを始めたけど、火野さんの姿に目が行ってしまうな。バスト幾つ? DいやFカップかな、それに比べて私は、……は~っ。
「うん? どうした」
「いやあ、なんでもないで~す」
「おっ、こうしてみると結月君もスポーツマンらしい身体してるな」
「別に大したもんじゃありませんけど」
「いやいや、なかなかのもんだぞ。はははは」
もう意味不だし、その笑いはね。どうせ私はチンチクリンですよ。と思ったわ。
それから着替えを終えて、私達はシャワー室を出た。キュレットを掛けて歩く火野海佐の軍服姿は、裸の時と違い格好良いと素直に思う。
「さて、昼前に先ほどの要件を済ましておこうか。こっちに付いて来給え」
「はい」
さて、やっと聞きたかった〝脅威〟について知る事が出来るんだと思うと緊張するなあ。今の日本や世界に対して存在するそれって一体なんだろう。やっぱり病院を襲撃したテロ組織などの反社会勢力集団や謎の団体とか、もしかして本当に別世界からの来訪者とかあったりするのかな。
そんな事を考えながら、案内された目の前のエレベーターに乗り込み、火野さんと地下へと降りていく。今いる場所は地下5Fのようだった。
先ほどまでとはうって変わり別人の様に黙り込んでいる火野さんと私。ただでさえ狭い空間で向かい合って会話も無いとなると、なんとなく息苦しい雰囲気を感じるよね。違う緊張もしてきちゃった。
「……結月君」
「あっ! ハイ!?」
「もしかして緊張しているのかい」
「も、勿論ですよ。だってこれから先の事に関わる事ですよね」
「そうだな。君や他の人らの未来に関わる事になるかもしれない存在だしな。……で、君も本当にそうだと思ったらどうする結月。君はどうするんだい?」
火野さんも人が悪い。時を図ったかのような急な彼女の真面目な質問や態度にますます緊張してきちゃった。けど、このタイミングという事は、多分私に即答を求めてるんだよね……。
「火野さん、いえ火野海佐。私は、恵まれて普通に育ちました。物心ついてから、ずっと両親や紀子とか、……多くの友達や色んな人に……、いえ、沢山の素敵な人達に囲まれて育てられ教えられて、たぶん世間知らずに大きくなりました。皆いい人ばかりでした。生意気言わせてもらえばですけど、私はまだ16年しか生きていない子供です。いや、もう16年も生きたのかもしれませんけど。……そんな私でも、判る事が有ります。自分の事もそうだけど、今まで関わった人達を大切にしたいって気持ちがあります」
「大切にしたいか。ならば、その人らが襲われたらどうする」
「私なんて海佐みたいな軍人さんとは比較にはならないです。でも、自分に出来る事があれば、やりたいし、やるしかない。……ですよね」
「そうか、その気持ちがあれば十分だ。未成年者としては良い答えだぞ。素直に育ったんだな」
私のたどたどしい答えに、そんな風に火野さんは言ってくれた。
あ~、急な質問に凄い事を言ってしまった気もするけど、自分の気持ちに嘘はないはずだし、とっさに答えてしまったけど、遠からず戦いへ巻き込まれる事もあるんだろうなとなんとなく感じている。
でも本当に私にそんな事ができるのか、凄く不安が大きい。彼女、イブの様になれるのかな、あんなに一生懸命になれるものなのだろうか。いや、今はそんな事まで考える余裕はないはずだよね。だったら一歩でも二歩でも前に進むしかないか……。
そんな事を思っていると、止まったEVの表示は地下13階。軍事施設とはいえ、なんて深いんだ。
EVのドアが開き、通路に出ると軍服姿に装備を固めた男性二人が、火野海佐に会釈して私達に付き添って来た。腕章をして腰には拳銃らしきものを下げている。キョロキョロと見回す訳にもいかないだろうけど、通路の様子も先ほどまで居た階層とは違う雰囲気を感じた。
「結月君、先ほどとは感じが違うだろう。どうだ怖くないかい?」
「ええっ、ちょっと違いますよね此処は」
「上層は研究員らも多いんだが、ここまで降りると軍属が多くてな。」
「食事とか寝室とか無くて、生活とは全く関係ない所のようですね」
「そうだ、ヤバいもんは深く埋めておくのさ。いざとなったら、それしかないからな。そうだろ、矢部警衛士官?」
「いえ、本官の話す事ではありませんので、お答えできません」
「ほら何時もこれだ、職務遂行義務が第一で固くって敵わんのだ。まあ、こんな奴らだが慣れてくれよな結月君」
「はあ、海佐を含めて皆さんがホントの軍人さんって気がしてきました」
「いまさらか? ははははは」
火野さんは笑っているけど、やっぱり、 ヤベー所に居るんだなと再確認した私でした。はあ。
それからしばらく歩いて行きついた先は、例の〝アンノン解析室〟とやらで、エアロック付きの二重ドアを二つ通された。
「さあ、結月君。良く見てみろ。あれが何か解かるだろう」
火野さんに促されて垣間見た解析室の中は、最初に通された指令室のように強化グラス(多分)に覆われている。その室内は明るくてとても良く視えた。三枝さん以外にも数名のスタッフらしき人がいて、色んな装置や計器類も置いてあったが、その中央には見覚えのあるアレがあった。まさか、また相まみえるとは思ってもいなかった代物だよ。
私はそれを見たとたんに背中に冷たいものが走るのを感じていた。
「火野さん!……アレは」
「そうだ、君の獲物だったな」
そうだ、私が切り倒したトカゲ型のクリーチャーだ。
この時、悪い夢なら覚めて欲しいと思ったけど、残念ながらMotherからの声が聞こえてきてしまい、これは現実だと認めるしかない。
『通常コモドドラゴンはインドネシア諸島生息の爬虫類。個別呼称、コモドドラゴンRGE。生体部分及びメカニカルのCCRW/99,99%であり、ほぼ地球のモノと同じと認めます。また搭載された人工知能は、A/AIと推察し、現在も警戒レベル3にてプログラムを解析中』




