目覚め
翌朝、目覚めると私の隣でイブがまだ眠っている。
壁の時計はAM六時を少し過ぎていた。
同じベッドで誰かと一晩中過ごすなんて、母親としか経験したことがなかったな。
「おはようイブ」
スヤスヤと寝息をたてている横顔を眺めながら、昨夜の出来事を思い出すと自分の顔が赤くなってくるし、恥ずかしいようなくすぐったいような変な気分だよ。
でも、昨夜の自分の気持ちには嘘や偽りはない。私が精神的にまいっている時に現れたあなたのおかげで熟睡できた事も本当に嬉しかった。
ずっと落ち込んでぼんやりしていた自分が、嘘のように今朝はスッキリできているのがよくわかるんだ。
「ありがとうイブ」
つんつん。イブのほっぺをつついてみる。柔らかい。
ストロベリーブロンドの髪をすくってみる。サラサラだ。
背中にふれてみた。私よりずっとか細い。
こうして、改めてイブを見るとその小さな体がとても華奢でせつなく感じられた。
自分と年齢は変わらないと言っていたが、こんなにも弱々しいのに、なぜ国防軍とこんな事をしているんだろうか、どうしてあんなに献身的なんだと最近の出来事を振り返って思ったからかな。
イブの事を、もっと知りたい。
自然に私の心の中にそんな想いが湧いている。
それに、私や彼女の人の範疇を超えた力や平行世界の事をもっと聞かずにはいられなかった。
この先、私がどんな生活を過ごすにしても、きちんと理解しないと、きっと後悔する事になると感じていたし、紀子や陽菜、そして家族まで巻き込んでしまっているのだから。
今の状況がよくわかっていないからこそ、これからの暮らしが脅かされる事が起きるのではと考えるとただただ恐ろしいし、平行世界で見て戦った現実が直ぐに目の前に再び現れる予感もして怖い。
瓦礫に挟まれていた小さな手。あれは場所こそ違えどリアルな事実。あんな脅威が襲う未来が……、もし皆が同じめにあったら……。
私は、どうすればいいんだろう。
今になって火野一等海佐との話を思い出すと凄く気になって仕方がない。これから本当にどうなってしまうのかと不安がまた募っていく。
「どうすればいい? イブ」
ぽふっ
私は言葉を漏らしながら寝ているイブに、いつのまにか抱きついていた。
なんでだろう。
なぜこんな事ができちゃうんだろう。
女の子同士であんな事したのに。
Hな本を読みすぎて萌えちゃったのかな。
なんかもう恥ずかしさもなくなっちゃったみたいだ。
イブを抱っこすると気持ちが落ちつく。
もうあなたは、私の抱き枕さんに決定だよ。
ぎゅっとするとイブが目覚めた。思ったより可愛い反応が返って来た。
「う~ん。なに~? まだ眠いよ~」
「私だよ。イブおはよう」
私に振り向いたイブの目と自分と目があうとドキドキする。さらに明るい室内で体を起こした彼女の姿は、白の薄いスリップ一枚だったのでなぜか目のやり場に困ってしまう。う~可愛い幼女にしか見えないよ。
「あれ、結月だ。そうか……あのまま寝たのか。悪かった」
「いや、いいの良いの。来てくれて私は凄く嬉しかったんだ」
「気にしなくていい。僕が勝手にしたこと」
目を覚ましたイブは、いつも通りの様子で答えた。それは昨夜の彼女の反応とは少し違うようにも感じる。
そりゃそうだよね。これが普段のイブ。冷静なイブだ。
私が持ってしまった感情は、私だけの事で彼女には関係のない事かもしれない。
「あっ、ごめんごめん。つい抱っこしてしまいました。あはは」
「へんなの。まあいい。着替えて準備をして。今日は忙しくなる」
「なにがあるの……」
「精密検査。適合状態の再チェックになるはず。それから……」
イブの口から出た『適合状態』を聞いた私は、その言葉の意味をそれなりに解っている。きっとナノマシンの事だろう。唐突に聞こえるあの声は、きっとそれが私の体内にあり、声や映像が頭や目に浮かぶ作用を起こしている。馬鹿な私でも感づいていた事の一つ。
「それから、簡単な訓練かな。もしかしたらMotherと面会」
「訓練!? それにMotherって何なの?」
「訓練は、君のダ《・》ビステイタ。殲滅者の訓練だ。Motherは、結月を選んだ者」
「殲滅者の!?」
イブの言葉はいつも説明が少ないから理解しがたい事も多いが、〝星剣〟の事に違いない。その異能力の訓練だって……。という事は……。
昨夜の海佐の話しと繋がって来た。どこかでもしやと思ってもいたけど、もっと聞かなくちゃいけない。いまならイブに聞いても教えてくれはずだと思った。
「イブ、それって私が戦う手段になる。その為に訓練する。それしかないって事だよね。聞きづらいけどあなたと同じように……」
「結月の運命だろう。奴らは見逃せないしもう時間がない」
そうか、やっぱりそうか。
確かに一度、無我夢中で戦って別の地球で敵を斬った。国防軍は私を取り込んで、あの脅威達と戦わせる人間兵器かなにするつもりなのか。はっきり言われるとショックで目の前が真っ暗になりそうだよイブ。これからも本当にそんな事が自分に出来るようになるんだろうか不安だらけになる。
でも、やらなかったら……どうなる?
色んな〝死〟が頭を過る。
運命っていったいなんなの……?
どうして私なの、普通の女の子だよ。いや、だったはず……か。はっきりとイブに言われると、現実にもどされて納得もさせられてしまう。
「じゃあ、もう一つ質問していい? Motherの事を」
「Motherは君を選んだ者」
「選んだ者? じゃあ、私の件の始まりや平行世界の地球の事も教えて貰えるんだね?」
「そうだ、詳しくはボスの火野一等海佐が説明をするはず。これ以上は僕からは言えない」
「うん、わかったよ。イブもここの人間だものね。なんだっけ、そう守秘義務か。そいうのあるんだもんね」
「そういう事。結月もただのアホの子でなくて良かった」
「うるさいわね。変な事を思い出させないでよ、もう」
「じゃあ僕は自分の部屋に帰る。早く着替えて」
ちょっと初めて会った時の事を思い出してしまったけど、なんだろうな、そう、ぶれないイブの対応に少しホッとしたんだ。でもそんな彼女に一番訊ねたい事が私にはあった。恥ずかしいが今しかない。結月今なら聞ける、頑張れ。
「あっ! ああ、そうだよね。早く用意しないといけないよね。ええっとね……イブ最後にもう一つ聞いてもいいかな?」
「別に構わないよ」
「私、あなたの事をもっと知りたいんだけど、……ダメかな」
「……いいよ。じゃあまた」
そのイブの返事に、私の心臓の鼓動が訊ねた時よりいっそう高鳴った。
私に了解を伝えるとイブは、能力〝渡り人〟と思われる力をふるったようで、目の前の空間が歪んで見える。彼女の髪が揺れて、その姿が鏡のようにも感じたが一瞬で音もなく目の前から消えていた。
ひとり取り残された私は、ついイブのいた場所へ手を伸ばしている。
〝運命だろう〟
イブの言葉には私と彼女の出会いも含まれているんじゃないか。
彼女を見送った私はそう思っていた。




