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指令室

結月に迫る大人の美女。彼女の正体は?そして、案内された先で見たモノ、聞いたモノは。

結月に沸き起こる感情にもご注目下さい。



 私は腕をわしづかみにされて、身動き一つとる事が出来ない。強引に迫る女性の唇が迫った時には、もう諦めて目を閉じてしまった……。なんなのよ、この展開は!


「チュッ」


 あっ、額に触れた感触が、甘い匂いと共に離れていく。目を恐る恐る開けてみると、目の前の女性は彼女の唇を少し舐めると突然笑い出した。


「はははははっ! いや、悪かったな」

「ふふふ、やだわもう、キャプテンったら子猫ちゃんを怖がらせたら駄目ですよ」

 私達のこの様子を見ていた隣の白衣の女性も笑い出した、でもどこかで聞いた声。この声は……。


「――三枝さん!?」

「あら、よく判ったわね、そう看護師の三枝よ。隣はドクターの桐ケ谷先生。そして高笑いしてる私達のボス、一等海佐の火野 凛さんよ」そう言ってキュレットをはずす。やはり、病院の担当看護師さんだった。なぜここに居るんだ? 私の一件に関わる人だったのか?


「やあ神野さん、医師の桐ケ谷です。体はもう大丈夫ですか?」

「悪い悪い、海外派遣が長くて身に付いた悪い癖さ。日本人には、慣れない習慣だったな」


 火野さんの言葉にもう、私の頭はさっきのイブとの会話と同じで、??しかないのでした。あっけにとられていると、ボスの呼ばれた火野さんが話し始めている。


「立ち話もなんだな、案内しようか。ついておいで」

「は、はい」


 私と紀子、陽菜とも、このままでは致し方ないので従う事にした。連れられて歩く通路は、清潔感こそあれども、灰色の壁や床には殺風景にしか感じない。窓一つなく、時折、天井のモニターカメラが私達を追っているが分かる。それに海佐と呼ばれた火野さんも一体何者なんだろう。私達三人の背後には黒服が張り付いていて本当に現実感が無くなって行く。


「あの、ここは何処なんでしょうか?」恐れ知らずの陽菜が口を開いた。


「ああ、ここかい。国防軍の海軍基地の一つだよ。地名までは勘弁してくれよ」振り向きもせずに火野さんは、あっさりと答えた。日本国防軍の基地だって……、また現実感のないワードが増えた。普通の女子高生には縁もゆかりもない言葉。一般人が関わるような言葉じゃない。イブの事といい、私達はとんでもない事に巻き込まれている事を身に染みて実感した瞬間でもあった。


 何ケ所かの厳重そうなセキュリティドアを抜けて通された一室は、狭くて一本の通路に幾つかのイスと簡易なテーブルが並んだ場所の様に感じたが、振り返った火野さんが、パチンと指を鳴らすと、片側の壁が一瞬にして、透明なガラスにかわり、透けて見えるそこが、またまたとんでもない場所だと判った。


「今日は、特別の日だ。歓迎する。ひな壇から眺めてくれよな」


 私達三人は、示された光景を目にして開いた口がふさがらない。なんて非現実的な景色だろうか。オペラ座の最上階に位置するような今の部屋から見える風景それは、ネットや映画の世界で見かける様々な電子機器が妙滅する明かりを発して輝き、中央の大きなスクリーンや随所にホログラム映像も立ち並んでいて、それを数十名のスタッフたちが、パネル操作をし、キュレットで会話し、時には狭い通路を往来しながら情報を解析でもしているのか一心不乱に作業を行っていた。きっと最先端のコンピューティングルームに違いない。


 大スクリーンには、幾ばくもの映像が流れ、日本各地以外にも諸外国の様子も映り、衛星からだろうか、先ほどの病院でのテロ現場も上空からの映像で鮮明に映し出されていた。


「こ、これは……」私は圧倒されて言葉を続けられずに息を飲んでしまった。脇を振り返ると、陽菜は食い入るように見ていたが、紀子は手を口元に組んで恐る恐ると言った感じがする。


「ここが、現実世界と仮想世界を結ぶ最先端指令室、ルームメンフィスだ」


 日本国防軍の最先端指令室……。無骨に語られた言葉に私は寒気を覚えた、薄手の病院着のせいだけじゃない、部屋の冷えた空気のせいだけじゃない、心底心が冷える。


 イブの言った平行世界、別の地球をも解明するための場所だと私は感じていたんだ。


 ひとつの赤いシグナルが付いていた風景、先ほどの港救急医療センターの画像がグリーンシグナルに変わると、作業していた一部の集団が皆手を上げていて、その理由が判る。なぜなら同時に私の脳へも通信が入ったからだ。


『コンディション、グリーン。ハッキングブロック完了。漏洩5%』


 今までは英語で聞こえていたこの声も日本語に変わった。もう、説明されなくても理解できる。だって、部屋に入った時から私の目の隅には、いくつかの情報が転送されていたんだ。


 カリズムアイ……私の体にはナノマシンが住み、それが私の脳と此処の情報リンクとの一体化を進めてしまったのだと。多分、イブに紅茶をもてなされた時に仕組まれたに違いない……。彼女はこの事を私に謝ったんだろうか、それとも別の意味だったんだろうか……。


「神野さん、もう聞こえてるね」そんな私の気持ちを察したのか、タイミングを見計らったかは知らないが、桐ケ谷医師が私に話しかけてきた。


「はい、良く聞こえますよ……。先生が私の体をいじくったの?」

「いじくったわけじゃないけどね、調整はさせてもらったよ」


 ……なっ!

 その、モノに触れるような容赦ない医師の言葉に私は、歯ぎしりをしてうつ向いていた。同時に自分の心に度し難い気持ちが不意に沸き起こり、今までではあり得ない感情が心の奥底にうずまいてしまったんだ。





 ……コイツ……人の体を……。


「どういう事?」紀子が心配そうに私を覗き込む。

「聞こえる?……、調整だと?」陽菜も不審そうな顔をしている。


 いけない! ダメだ、何故こんな感情まで湧くの?……今はそんな事考えてる場合じゃない。……今はこの場を無難に乗り越えなくては、二人にとって良くない事が必ず起きる……。


「あっ、ははは、何でもないよ、ちょっと不眠で先生に薬を調整してもらっただけだよ。ねっ、桐ケ谷先生?」この時の私の目はきっと笑ってなかったと思う。


 私の視線を感じたのか、「ああ、うん、そんな処だよ」と桐ケ谷医師も曖昧に応えてた。それから私と医師のやり取りを聞いていた火野さんが、雰囲気を感じたのか割って入って来た。


「じゃあ、皆で食事にでもしようか? ああ、そうそう、君らのご家族にはすでに連絡済みで心配する事もないぞ。危険だったから他の患者達と保護したと連絡済みだ。怪我がないか、心的ストレスは無いか、検査をして帰宅させると。ただ、連絡については守秘義務を課したがな」


 この呆れるばかりの手回しの良さに、ここが国家権力機関の一部だと、私は再び思い知らされてしまう。私のストレスも何とかして欲しいよ。本当にもう、これからどうなっちゃうんだろ。


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次回;「海佐の言葉」

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