異能力者
イブから、驚く事実を突きつけられた結月たち。そしてイブの異能力が明かされた。
イブはマルチバースに存在する”別の地球”をパラレルワールドと語った。
ビッグバンから無数の多次元宇宙が発生し、どの宇宙も同じ時間軸で物理法則も同じ。そこに別の地球が無数にあり、知的生命はどの多次元宇宙でもその地球にしか生存しないと説明する。そして、結月は別の地球ですでに戦ったのだと。
「じゃあ、Gap Roomは一体なんなのよ?」紀子が質問する。
「縦・横・高さに時間を加えた現実世界は4次元。ここは、それを超える5次元世界。多次元宇宙にある別の地球に干渉ができる特殊な場所。なぜなら重量子コンピューターが《《重ね合わせの超並列計算》》で創造した電脳世界は《《パラレルワールドの概念》》と同じ。6次元以上の理論もあるがまだ、具体的な説明はついていない」
「何故、肉体で居られるんだ?」陽菜が訊ねた。
「ここは、ある意味生きている電脳世界で現実世界でもある。これ以上はあなたに説明しても絶対に理解不能」
二人の問いに答えるイブは冷静だった。物静かに語る口調に、陽菜と紀子は信じられないと思いながらも、これ以上聞くことは出来ずに沈黙していた。二人の様子を目で追っていた結月は、自分の得た星剣の事を確認すべくイブに問う。
「あなたの並列世界を渡る力はなに?」
「私はマイグランツ。渡り人。負のエネルギーを用いてワームホールを操り空間移動する。相対性理論にのっとりタイムワープ、時間移動は出来ない」
「どこでも行けるのね?」
「並列世界への移動は此処以外では出来ない。現実世界なら座標位置が計算で特定されイメージできる場所なら飛べる。今までのジャンプ記録は北海道。気はのらないけど、月面基地へも行けるだろう」
「それで、あの時私の前に車ごとジャンプして現れたんだ。じゃあ、ここで探すって言ったのは別の地球の敵を探していたのね?」
「そうだ、初戦の結月によさそうな所を探した」
「……あの星剣を掴んだ私はなに?」
「結月、あなたはダビステイタ。殲滅者。すべてを切り裂き死をもたらす者」
「なぜ、私は選ばれたの?」
「結月のヒトゲノム、その遺伝情報の声、生体波長を拾った」
「どうして、それを知ったの? 健康診断とかなの?」
「先日、君が最新のキュレットを掛けた時に、P/AI解析により7G回線ではなく秘匿9G回線で情報が送られた」
私と陽菜は顔を見合わせた。学校帰りのあの時だと思ったからだ。
「ちょっとどういう事よ。あれは私のだよ! なんでそんな勝手なことが出来るのよ!?」
「君らは、個人情報の保護や自由を信じるのかい? 答えはNOだ。特にこの人口減少の中では管理、監視がし易い。ハイネット環境は特に便利だ。キュレットからの情報はP/AIを通じて、君らの手伝いをするだけではない、管理され利用されるためにある。シビリアンコントロールの為にどこの国でもやってる事。現実世界はユートピアじゃやないディストピアだ。そして、戦争やテロに溢れた世界。
2001年、同時多発テロでNYのビルが吹き飛ぶ映像は衝撃的だったはず。
2011年、東日本大震災も多くの犠牲者を出したが、同時に原潜乗組員が日本近郊の太平洋で被ばくの情報があった。
2020年、コロナウィルスの猛威で人類の2割が死んだ。米国は指摘する中国から漏れた人工ウィルスだと。様々な脅威と私達は常に隣り合わせで暮らしている」
……この日本は一見平和だと、昨日までそう思ってた。でもそうじゃない、事件に巻き込まれた今の私なら理解できそうだよイブ。
国民の管理を話すイブの言葉に私は心の中で頷いていた。その様子を陽菜がジッとコチラを見つめているのが視線に入った。彼女は私にに聞きたいことがあった。
「結月、剣とはなんだ? お前が剣道、私は弓道。同じ武道を学ぶものとして聞きづてならんぞ、掴んだ剣とは一体何んなんだ?」
私とイブは、どうしても聞きたいと真剣な顔の陽菜を見つめると、一瞬だが二人の視線が交差する。
視線を合わせたイブは、小さくうなずき手を振るとGap Roomの背景を元の白い空間に戻して私に話しかけた。
「結月、サポートする。引き抜きなさい」
「私に出来るのね……本当に」
二人の会話に、陽菜と紀子は意味が解らなかったが、真剣なやり取りに息を飲んだようだ。
――『End of erasing nanomachine. Please pick it up」
私の脳へまたあの声が聞こえたが、痛みも消えた今は右手を足元へ振り下ろすのみだ。
――感じる。来る。ここにある。
精神を足元の一点に集中すると、その場所の白い空間は歪がみ、光が溢れてくる。側にいた紀子と陽菜は、あまりの眩しさに手で目を覆ったが、私は眼を見開いてそれを睨みつけた。
――来い、来い、来い!
光が一層強くなり結月を包んだその時、光の中からモディファイした星剣の柄を握った。
「はあっ!」
キュイ――――――ン
音と共に私は、光の中から星剣を引きずりだすことに成功する。同時に眩いばかりの光は収まり、陽菜と紀子はロングソードを片手で持ちあげ佇む私を見ている。
「ふう、できた。できたよイブ」
私は安堵した。内心、なぜこんなにほっとするんだろうとも思っていた。あんな嘘をつかれて、酷い目に合ったのに自然とイブの名が浮かんでいた。そんな自分の心がよく判らなかった。
「良く出来た、結月」イブも応えてくれた。
あっけにとられていた陽菜がやっと口を開いた。
「かっこいい……。凄いぞ結月!」
「な、何してんの結月? 何よそれは!?」
二人の反応は様々だが、一応に驚いてる。そんな二人に説明したんだ。
「大地からの贈り物、SES。日本名は星剣」
手にした星剣を頭上に掲げながら、自らも見上げた。手にすると同時に熱量が伝わり、弱って冷え掛けていた自分の心が温まるような、強くなれるような不思議な感覚を得ていた。
――これ、あの時と同じ、クリーチャーを斬った時と同じ。これには、やはり意思があり私に勇気を与えてくれるんだ。私は、手にした星剣をそんなふうに理解をしていた。
結月を羨ましそうに眺める陽菜。もう、なんだか分からずに心配そうな紀子の二人にちょっと微笑んだ結月はイブを見て、踵をかえすともう一つイブへ質問をした。
「あなたに騙されて、別の地球に連れていかれて、勝手に戦わされて、死ぬ思いをして倒したね。その後理解できなくてとっても私は悩んだし、どこかで恨んでもいた。なぜ私を選んだのか、あなたや私の力はまだ理解できないけど、でもイブ、あなたの説明である程度は、馬鹿な私でもやっと理解できたよ。
――こんなことは聞くのは本当に嫌だけど、もう戻れないんだよね? だから聞く! なぜ、別の地球ではあんなに酷い事が起きているの? バイオテロに、クリーチャー、ロボットに怪獣大進撃、果ては核戦争まで。そして、病院で私達を襲ったという奴ら。関係があるのよね、イブ? ……はっきり言いなさいよ。私の住む地球もそうなるって。あんな酷い事が起きて、皆死ぬんでしょ!
――そして、最後に聞くは……イブあなたは一体何者なの?」
黙ったまま結月をイブは見つめている。
紀子と陽菜は、結月の見たことのない真剣な表情とその震える手に再び言葉を失っていた。
イブの正体が知りたい結月は問いかけた。その回答とは?
次回;「甘い誘惑」