EVE、宇宙を語る
EVEは語る、この世界の真実を。
「この映像は私達がやっとたどり着いた情報。とても貴重な情報記録」
イブは指を頭上に現した2次元スクリーンを指さして告げた。次に、右腕をフリックすると、真っ白な”Gap Room”が一瞬にして様を変えた。
結月を始め、紀子と陽菜もその様子に息を飲んだ。
そこに現れたのは、雄大に広がる”宇宙”空間だった。
何処までも続く果てのない世界。
暗く、凍てた空間に様々な銀河系が瞬き、広がる世界。
重量子コンピューターが、最新の観測結果を基に構築した3次元空間は圧倒的だった。
宇宙空間は長い時間の中で様々な星間物質を生み出している。
星間物質は、様々な形態の星らを創造し数を増やすなかで引力から星団を織りなす。
星団は銀河となり宇宙に広がってゆく。
「どお、見たことはあるよね。宇宙」
「こんなリアルなものは知らない。地球を遠く離れて空間にいるかの様だ」陽菜が、率直な感想を口にした。
「今の技術で、観測できる範囲は約1,000億光年。現在も広がっている。実際の大きさもほぼ同様だと思われる」イブは語りだした。
「私達の地球がある天の川銀河には、約3,000から4,000億個の恒星がある」
「地球を含む太陽系は、天の川銀河の端、”バビタブルゾーン”の中にある」
「現在、比較的地球に近くにある惑星で、移住可能候補と思われる星は約50個」
「しかし太陽系外への惑星間有人航行はまだ推進機関や重力コントロールに問題があり、実現には至っていない。やっと、火星にコロニー建設が始まった状況だ」
「我々は太陽系内で火星の地下湖や金星の衛星エウロパで原始有機生命体は見つけが、まだ知的生命体の発見や接触はない」
息を飲んで聞いていた紀子が口を挟む。
「そんな事、専門家でなくてもネットで調べれば誰でも知ってる事よ。今の私達になんの関係があるのよ!」
「関係、大有りだ」イブは躊躇なく答えた。
「宇宙の歴史は、約138億光年前のビッグバンから始まったと言われてる。その時から時空間として広がった」
「そんな長い時間の中で、僅か数光年の距離に移住可能の可能性、解りやすく言えば生命の可能性が高い星がいくつもあるのにおかしいと思わないか?」
「何がおかしいのよ」紀子が聞き返す。
「生命は、条件が整えば意識なくとも自己を繋ぐために増えようとする。多数の生命が形作られれば、他の生命を押しのけても、奪っても生きようとする。
進化する生命間では、必然として強きものと弱きものの競争が生じ、進化の過程はそれを刻みこんで、次世代に受け継がれて行く。私達はDNAに刻んでる」
「そんなの只の進化論じゃないのか?」陽菜が質問した。
「僕が言いたいことは一つ。こんなに生命が溢れる可能性があり、競争し進化すれば我々と同程度、またはもっと高度の知性体があって当然のはず。これだけ広大で永遠とも思える時間の中では、相対性理論を振り切り惑星間航行し地球に立ち寄ったり痕跡を残しても不思議ではない生命体、俗に言えば宇宙人となぜ接触していないと思う?」
「イブ、それどういう意味? 何が言いたいの」
「結月でもまだわからない? 一言で言おうか」
イブは、3次元映像を拡大し、天の川銀河の中の太陽系、そして地球を拡大投影した。
「この広大な宇宙空間にある知的生命体は、我々だけ。ただし、宇宙誕生以前の世界は、この世界同様の空間を幾重にも生み出した」
「ちょっと待て、宇宙人ならまだしも、幾重にとはどういうことだ?」冷静な陽菜が問う。
「時空間の理のない特異点前は、計測不可能な無限なエネルギーに満ちている。マルチバースを生んでいるという事。そして、その個々の別の宇宙でも知的生命体の可能性は我々の世界同様に低い、いや同じ確率と言っておく」
「知的生命の確率は、この宇宙空間で星の数だけで考えれば、
約1/10,000,000,000,000,000,000,000以下」
「生命満ち溢れ、知的生命体を生んだ地球はまさしく”奇跡の星”だよ」
私達3人は、イブの言葉に言葉を失った。確かに色んな情報からなんとなく見聞きした事はある話だが、よくよく考えればイブの説明に反論が出来なかった。
イブが一通りの説明が止め、数分の時が流れた。その間に私はイブの説明から、一つの仮説を思いつく。ならば聞くまでだ……。
「イブ……。こんな事聞きたくないけど。……あのバトルはリアルよね?」
「そうだよ結月」
「私が、バトルしたあの場所もリアル?」
「もちろん」
「時間の流れも……リアル?」
「マルチバースは同時発生し、時空間も同じ物理法則」
「私は、あなたと渡った?」
「Yes.With me and the power of this room.」
「……そう、やっとわかってきた、イブ……」
結月とイブの会話を聞いていた二人は、結月の言葉の意味がまだ理解できない。
「ちょっと、どうしたの結月! 何の事!?」
「そうだ、二人だけずるいぞ。何の話だ!?」
結月は上手く説明できないのか黙ったままだ。いや、自分が行ったバトルの事を話し辛かったのかもしれない。その様子を見ていたイブが説明した。
「《《結月は選ばれた》》。《《この奇跡の星に》》。そして脅威とすでに戦った」
「ただ、場所がこの現実世界ではなかっただけ」
「マルチバースにある、別の地球」
「俗に言う”パラレルワールド”だ」
イブは語った。世界の真実を。
次回;「異能力者」