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二人の選択


「君は、選ばれた」


 イブの放った一言に私達は3人の困惑は一層深まってしまったが、さらに彼女は言葉を続けた。


「これ以上聞くなら、結月以外の君たち二人も引き返せなくなる」

「まってよイブ、それはどういう事? 私に何があるの? 選ばれたって何に? なぜ、あんなことが起きたの?」


 私はイブの言葉に反応して聞き返したが、帰って来た言葉はやはり選択を強いるモノだった。


「答える前に、そこの二人。どうする?」


 紀子と陽菜の二人はお互いに顔を見合わせていた。病院で起きた尋常ではない体験と今いるこの環境、そして結月とイブの関係性にも多くの疑問や強い憤りを感じている。しかし結月の事を心配する気持ちも強いが、イブの放っている選択には何か恐ろしいモノが感じられて即答が出来ない様子だった。


「イブ……お願い、二人は巻き込まないで」


 返答のない二人に代わり私は答えたが、肩で息をし相変わらず立っているのがやっとで過呼吸も起こしそうな気配さえする。


 そんな結月の様子を見ていた紀子と陽菜は、居てもたっても居られなくなり結月に駆け寄った。


「大丈夫なの結月、震えてる……」

「無理はするな」

「大丈夫よ……紀子、陽菜、聞いては駄目よ。きっと酷い事になる、だからいいえと言うのよ、わかった?」


 そこまで私は話すと膝の力が抜けて、ゆっくりと前のめりに倒れそうになった。


「結月!?」

「しっかりしろ!」


 二人は慌てて私を腕で受けて止めると、たぶん憔悴しきった私の顔を見てお互いに顔を見合わせて頷き合っていた。なんでそんな顔をするのかと思っていたが、紀子と陽菜はイブに視線を向けて、イブの質問に答えてしまった。


「聞くわ、結月に何が起きているのか全部話してよ」紀子の眼差しは真剣だった。

 ……結月を一人になんてできない。それにあんな奴に。


「乗り掛かった舟。聞こう」陽菜も同様に覚悟を決めていた。

 ……そうとう危ない気はするが、こんな不思議体験に心が躍るな。


「だめだよ、二人とも……」

「心配しないで、結月一人になんてしないよ」

「私が決めたことだ。気に病むことはないぞ」


 何時しか私は、そんな二人の顔へ自分の手を交互に差し出して、いとおしそうに触れていた。


「バカ……もう知らないからね」

 二人の言葉にそう返すと目元から涙がまた溢れてしまう。


 私達の様子を見ていたイブは、目を閉じて頷くと右手でアクションを起こし、4m四方の二次元スクリーンを10枚程、仮想空間内に呼び出した。これは最初にこの仮想世界でイブに見せられ、”敵”と呼んだ人への虐殺やテロ、戦争のシーン。


「これを見て」イブが呼びかけた。


 これに気づいた紀子と陽菜は振り返ってイブの頭上に広がっている、その映像に目が釘付けとなる。


 ――なにこれ?! 酷いな! 二人の第一印象はこうだったが。


「こんな映像何故見せるの? 私達を脅かす為にCGかVRで作ったものでしょ!」

 紀子が毒づいた。


「背景が今の日本や外国で、戦争やテロが起きているのシーンではないか? これぐらいは、ハイネットに溢れてる映画などで、特に驚くものではないな」


 イブは二人の言葉を一先介さずに被っていたフードを降ろすと、陽菜と紀子を見つめた。キュレットの奥の碧い瞳やストロベリーブロンドに二人は一瞬驚き、その容貌に神秘的な感覚を覚えたが、負けじと質問を続けた。


「そんな事よりここは何処! なぜ病院からこんな所に居るのよ!」

「そうだそれを先に教えてもらおう」

「イブ、私も聞きたい。本当にこの場所は何なの?どうやって此処へ来たの?」


「ここは重量子コンピューターが作り出した仮想世界の空間”Gap Room(狭間のへや)”」


「それは聞いたよイブ。その先を私は聞きたいの」

「そうよ、仮想世界なんてどんなトリックよ! VRは精神ダイブの仮想世界の筈でしょう!」

「確かにそうだ。しかし今の私達は生身だと感じて仕方がないがな」


「ここが仮想空間には間違いない。通常通りVRゲームのように脳内ネットワークで入れる。今回は結月が現実世界で敵に襲われたので緊急で僕が招いた。僕の能力でダイブした。ここに肉体や実体を持ちながら入れるのは僕と触れたモノだけ」


「あなた、なに言ってんの? 頭おかしいんじゃないの、ナノマシンだのなんだのと変な事ばかり言って……確かに私達は病院に居た……けど」紀子は途中で急に口をつぐんでしまう。


 イブがキュレットに手を当てると何やら情報を探し、すぐに見つかった情報を別の2次元スクリーンに音声付で転送したからだ。


 そこに映しだされた、映像は……。


「生中継です。こちらが港救急医療センターの様子です。本当に酷い状況です。屋上から5F部分までに一部火の手や、倒れた人がおり今、救助消防活動が開始されています。ご覧ください、レスキュー用の捜索ロボットの準備やクレーンが掛けられました。上空には多目的ドローンも到着して捜索や被害状況の確認をおこなって…………」


 先ほどまで居た病院のニュースが転送され、紀子らは言葉を失い見つめている。


「先ほどの襲撃はリアルだよ。結月を助けるためにここへ緊急ジャンプした。信用して欲しいな」


 イブの言葉や生中継を見て、自分のわだかまりや疑問の多くが解けかけている。イブが言葉にした、もう一つのリアルとは何かを理解し始めている。自分の口が自然と動いた。


「そう……イブ、アレは本当だったんだね。昨日の事も今日の事も、私が変になったんじゃないんだ。膝の怪我も本物で、あの剣も本物なんだ。クリーチャーの死骸が無いのも……ただ違うリアルなんだね?」


「そうだ結月。急に巻き込んで悪かった」


 見つめ合う結月とイブの様子や会話に紀子と陽菜は言葉を失い、聞く事しかできない。


 イブは指を上に向けてこう続ける。


「この映像は私達がやっとたどり着いた情報。とても貴重な情報記録」


 イブは語り始めた。驚愕の事実を。


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