セキュリティ
検査を終えた結月。そこには懐かしい顔があった。
看護師の三枝は医師との会話を終えて結月の待つ検査室に向かっていたが、その表情は医師とにこやかに話していた様子とは異なり無表情だった。
病院内の各ブロックにはセキュリティが施されており、患者本人であれ家族であれ、医療従事者でもIDパスやキュレットの登録がされていないと、ブロックごとの通過は出来ない。
当然、警備室ではその様子を館内カメラや赤外線センサー・人感センサー・強化ガラス破壊検知センサー・窓開閉検知センサーなどでモニターを行っているが、セキュリティにかかる人員は少なく、数体のスタンガン搭載型警備用ロボットと各ブロックごとの出入り口以外に防火を兼ねた隔離シャッターがいくつか設置され、不測の事態には封じ込めを主体としている。
彼女は地下1Fのセキュリティルームから、一般病床を通りエレベーターで2Fの検査室へと足を進めているが、キュレットの奥の瞳は周囲の様子を伺うかのように注意深く見渡している。
……今のところは問題なさそうね。
結月の検査室に着くと、控室の検査技師に一声かけて結月の検査ポッドに向かう。側に着くと中から結月がこちらを見ている。「パシュッ」と音と共にロックが外れ、ゆっくりとポッドのドアが開くと、中の結月に声をかけた。
「はい、お疲れ様。神野さん気分はどお?」
「ええ、ちょっと緊張したけど大丈夫です。ハハ」
「そう、先生も大丈夫と言ってたわよ」
「そうですか。私ちょっと、心配してたんです」
そんな結月に看護師の三枝は、少し微笑みながら結月に心配させないよう、ポッドから車いすへの移動介助を行う。
「いい、気になるのは分かるけど、明日は退院できるから。それにお友達が来てるわよ」
「本当ですか! 誰だろ、紀ちゃんかな。そうですね、退院できれば少しは気分も変わるかもですね」
「そうそう、落ち込んでばかりは駄目だからね」
結月は三枝NSにそう声をかけてもらい、少し気持ちは軽くなった。
◇◆◇◆
結月と三枝NSは会話を交わして5Fにある結月の病室に向かう。部屋に着くと制服姿の友人二人が待っていた。
「結月~。心配したよ」
「体は、なんともないのか?」
心配そうな二人の顔を見た瞬間だった。
結月は二人の顔を見て、つい、ぽろっと涙がこぼれた。
幼馴染の紀ちゃんとクラスメイトの陽菜ちゃんが私を待っていてくれた。二人の顔を見たら昨日の事で一杯いっぱいだった張り詰めた心が緩んじゃう。やっぱり、私は現実にいるんだと二人が思わせてくれた。
――嬉しい。
「あ、あ、のり~。ひな~」
「やだ~どうしたの。涙でてるよ結月」
「いつもと違う。やっぱり何かあったのか?」
心配してくれる二人を見るともう我慢が出来なかった。私は知らぬ間に車イスから立ち上がって二人に飛びついていた。
「うう、う、う」涙もいっぱい零れた。
「ちょっと、どうしたの結月ったら」
「ふむ、意外に悪くないが」
急に抱き着いた私を、拒むこともなく二人は受け止めてくれた。
そして優しく抱っこしてくれた。
……温かくていい匂い……人の温かさが私を慰めてくれるんだな。
「フフフ、三人で百合ごっこかしら?」
三枝NSの声に三人とも顔を見合わせて、ちょっと気恥しそうに笑う。
「三枝さん、ちょっと嬉しかっただけですよ~」
結月は頬の涙を拭いながら、そう答えた。
紀子と陽菜も少し照れ臭そうに苦笑いしている。
その後、三枝NSは部屋を去り、残った三人は結月がベッドに戻り二人はその脇にイスをおいて、陽菜が持ってきてくれた紅茶を飲みながら談笑を始めた。
「紅茶……」結月は、ベッドに座り少し昨日の事を思い出している。
「で、どうしたんだ結月?」名前に似合わず男っぽい陽菜が話す。
「そうそう、とっても心配したのよ」紀子も尋ねてきた。
――どうしよう。
いくら、二人でもとても信じてもらえないよ……。
――結月が即答出来ずに悩んでいたその時だった。
シャシャシャシャ シャシャシャシャ シャシャシャ シャシャシャシャ!
外から何か風を切るような音が聞こえると同時に部屋の照明が突然消え、警告音が鳴り響き、ドア上部非常灯がパッシングを始めた!
《 緊急連絡! It is an emergency call! 》
突如、鳴り響い緊急通報。病院でなにが起きたのか?
次回:「襲撃」