神経ネットワーク
事件の一通りを思い出せた結月だが、疑問が多すぎて落ち込んでしまった。
入院先で困惑する結月にまた、怪しげな手が迫る。
今の時間は、13時すぎ。15時に検査があると言われてベッドでふて寝してます。母親の志信さんも家に帰りました。帰り際に友達が、夕方お見舞いに来ると伝えてくれました。お昼ご飯は、やっぱり味が薄くて美味しくなかった。
なんで、こんなに神妙にしているかと言えば、昨日の事をどう考えても理解が及ばなくて知恵熱が出ているから(嘘)。――結月。
「う~。こんな、スレッド立ててる場合じゃなああああいい!」
結月は、病院のベッドの上でスマホをいじりながら鬱々としていた。
――だって、おかしい事が多いよ。イブに出会って公園でバトッたのは思い出せた。救急通報したのも多分彼女。怪我した膝は治療中で確かな証拠の筈……。
一番におかしいのは、VRMMOGへダイブしたのに、なぜ現実世界で戦ったの? あんなクリーチャーが居れば、被害やらなにやらと話題にならない訳がないし、このハイネットワーク社会でありえないはず。あれが初めてなんては偶然過ぎるし。あのトカゲの死体の話しも皆無だ
二番におかしいのは、この手で持っていた星剣は、いったいなに? VRならわかるが、リアルであんなモノがあり得る?
三番におかしいのは、私のスカート。志信さんが持って帰ったのは焦げたりしていなといってた。どうして? 警察も救急隊からの連絡で状況を聞きに来ただけと言ってた。
四番目におかしいのは、メカ怪獣大進撃での湾岸被害の報道も皆無だと言う事だ。
…………やっぱり私が、急に夢遊病にでもなって雨降る公園までさ迷って、倒れて意味不明な妄想癖に捕らわれて、ゲームのせいだと勝手に思い込んでるのかな? さっきも頭に変な声がしたし……。本当に精神病なのかなあ、わたしは。
「あ~~もうヤダ」と結月はベッドの上で頭をうな垂れていた。考えれば考えるほど答えは出なかった。
そこへ、看護師の三枝碧さんが、やって来た。落ち込んでいる私にとって、明るい笑顔を振りまきながら私の側へやってくる姿は、やっぱり優しいお姉さまに見えてしまう。
「神野さん」
「ハイ、お姉さま」しまった、つい口に。
「ん~ん。なあに? 私は看護師よ」
三枝NSが不審そうに結月をじっと見つめた。彼女のキュレットには、リアルタイムで結月のバイタル情報が転送されているので、急に心拍数が上昇した理由を見つけようとしていた。看護は病気を観察するだけでなく患者全体を看るからだ。
結月は顔を近づけられて、思わず口にした言葉が恥ずかしいのと相まって、ますます心臓の鼓動が速くなった。
『BT37℃、BP180/80、P120、SpO2・100』と情報が転送される。
「神野さん、ちょっと変ね。少し早いけど検査しましょう」
「は、はい……」結月は恥ずかしそうに上目がちに答えた。
三枝NSはキュレットに手をふれ、検査オーダーの変更について話をしている。
――はあ、またやっちゃた。私のバカ、これも病気のせいよ。
と結月は落ち込んでしまう。
◇◆◇◆
それから、オート走行の車イスに乗せられ、検査室のポッドに私は押し込められた。メヂカルポッドの狭い空間に横になるってとっても嫌なものです。
――はあ、やだやだ。この中って狭いしなんか息苦しい。それに色々とスキャンされて、検査してる人たちには全部筒抜けに見えちゃう。あ~恥ずかしい。
チーッ。 結月の顔の脇に映像が現れた。
「どこか具合の悪い所はない?」と三枝NSがミニスクリーンにその顔が映る。
「はい、特には」
「じゃあ、ドクターと代わるわね」映像が切り替わり男性の顔が浮かんだ。
「神野さん、担当医師の桐ケ谷です。楽にしていてくださいね」
顔の映像の下に、先生の名前も表示されている。
――脳神経外科の先生か……。
ディ――――――――チチチチッ。
ポッド内で身体スキャンが始まった。特に違和感はないがやっぱり嫌だなと結月は思った。
頭部から足元まで、ポッド内でパルスやエコーを主体に検査が進む。
検査室から離れた場所にある、一般職員の立入りが禁止されたセキュリティルーム。ここで、桐ケ谷医師と三枝NSが、結月の検査内容の各数値と身体の透過スキャニングにより、立体構成されたホログラムを見つめていた。
そこへ、二人のキュレットへ通信が入る。女性のようだ。
「こちらでも確認をしているが、ドクター定着状況に問題はないか?」
「ええ、頭部に50%。残りは体全体に巡っていて、神経ネットワークは安定している状況です」
「三枝君は、彼女を観察してどうだ?」
「ちょっと、フフ。可愛い所もありますし素直な感じです。ただ、脳神経リンクはもう少し調整された方が良いかと」
「数を減らした方が良いのかドクター?」
「いえ、配置位置を調整すれば大丈夫と思います。前頭葉の部分を減らして、下垂体に回しホルモンバランスへの関与を増幅して、ニューロンを活性化させます」
「判った。早く仕上げてくれ」と女性の声が途切れ通信は終了した。
「心配性だね、彼女」
「フフフ、きっとお気に入りなんじゃないですか?」
「まあ、詮索は止めておこうか」
「そうですね、先生。関わりすぎると大変ですよ。きっと」
三枝看護師は、微笑みながら立ち上がり結月の居る検査室へと向かった。
医師と三枝看護師、正体不明な者との不可解な会話。結月の体に一体何が起きているのか?
次回:「セキュリティ」