初戦3分前
ここまで読まれてありがとうございました。
第二話「最初の戦い」の3分前のシーンです。
手を取り合った結月とイブがいる場所は、" 神の仮想現実大規模多人数オンライン"と言う電脳世界の隙間部屋。重量子コンピューターの作り出した仮想現実世界。
同時刻、二人の様子を地下にある《Mother》が、記録を続けている。
3次元ディスプレイに映る、結月とイブのホログラムを確認している者達もいた。
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――Simultaneous records.
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――Yuzuki's body is not in the car. Eve as well.
――Yuzuki and Eve are disappearing from the real world.
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――Eve and Yuzuki complete transfer to the room space in the gap.
――The two are planning to transfer to a different space.
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――Eve's deploying a wormhole.
――Developing in the VR world and the Different space.
――Worm hall connection to different space completed.
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――In progress without a problem.
――Countdown begins.
――Ten・Nine・Eight・Seven・Six ・Five…….
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同時記録中。
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ユズキの肉体は車中に無し。イブも同様。
ユズキとイブは現実世界より消失中。
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イブとユズキは狭間空間へ転移完了。
二人は、異空間転移準備中。
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イブ、ワームホール展開中。
仮想空間、異空間とも展開中。
ワームホール異空間へ連結完了。
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問題なく進行中。
カウントダウン開始。
10・9・8・7・6・5・……
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◇◆◇◆
現実世界のCODE6174の車内。結月もイブも其処にその姿はない。
◇◆◇◆
結月は渦に飛び込むときに怖くて目を閉じていた。
その手はしっかりとイブの手を掴んでいる。
ジャリッ
足が地面に接地する感触があった。
「はは、地面がある。感覚がある。良かった~」私は、狭間の部屋での浮遊感から抜け出せてホッとし、改めて周囲を見渡すとビル街にいる事がわかる。
「あっ、ここは冷たい雨も降ってるし、こんな演出要らないよもう」
「手、放して」イブが呟く。
「あっ、ごめんごめんもう大丈夫だよね」
「もういい。それよりもうすぐ敵来る」
ふうと、一息吐くとと結月は星剣を構えた所へイブが話しかけてきた。
「それともう一つ」
「なに?」
「バトル中にサポートがある。キュレットみたいな感じ」
「そう言えば、今私はキュレット掛けてないけど、どうやって?」
「馴染んだみたいだから大丈夫」
「そう、よく解んないけど、実際はどうなの?」
イブの説明は続いた。視覚と聴覚情報が直接、頭に流れ込んでサポートをしてくれるそうだ。視覚はキュレットのグラスからではなく、眼球と脳を結ぶ視神経間に直接情報を流し、聴覚も三半規管を使わずに直接、聴覚神経に伝達する仕組みとの事。
「へえ、VRゲームって便利よね」
「ちなみに、視覚は”カリズムアイ”と言う」
「で、ここ横浜の街で戦うでいいのね」
「……そう、もう一つのリアル」
そう話し終えると、イブは見ているからと私から離れて行った。
雨足が、だんだんと強くなってきた。とっても不快に感じる。
こんな所で、VRゲームをする人たちの気が知れないと結月は思った。
「まったく、ビショビショに濡れて来たよ。あ、やば、ブラ透けてる」
「もう、早く来なさいよ。う~冷たい。はは、パンツまでが」
街並みに目を凝らして見渡した。前方、左右、敵はまだ見つけられないが、後方を見ると、20m程離れた所にイブがいた。夕暮れ時で暗くなったビルの陰にいるはずなのに黒服のイブをすぐに見つけることが出来た。
なぜなら、この地へ移動した際に使った渦。それをイブは自分の背中あたりに先ほどと変わらず展開している。サイズはやや小さくなったものの、渦の内部は光こそしないが、鏡面が歪んでいるかのようで、良く目立ったからだ。
私は再び視線を前に戻したが敵が現れないので、仕方なくビル街を歩き始めた。だんだんと普通だった街並みが様変わりし、倒壊した建物と燃え盛る炎がある事に気が付く。それはとんでもない光景だった、高層ビルの多くが倒壊して崩れ落ち、路上に散乱していた。つぶれて横転した車両から漏れた水素ガスに火が付いたのか火の手が上がっている。――ここは、戦場か地震の後なの?
結月の後方にいるイブは、同じように振り出した雨に濡れていたが、その目は一心不乱に結月を監視するかのように見つめている。
ゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオォォォォォ――――ン
轟音を響かせて上空を通過する3機編隊の戦闘機の音。
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ―――――――!
小型のバトルシップがビルの合間を降下する音。
イブはそんなものにも目もくれずに結月を見つめていたが、巨大なクリーチャーが出現したのを受けて、キュレットに手を添えて会話を始めている。
「少し座標がずれたの? 相手が大きすぎる」
『Yes. I hope both latitude andlongitude will be corrected.」
「OK、もう一度ジャンプする」
会話を終えるとイブは、座り込んでいる結月の後方へ移動し、再び結月を引き連れて空間移動を試みた。移動した場所は横浜の中心地から離れた山手の公園だった。
すっかり暗くなった夜の公園に降り立つと、結月にバトル再開を告げて、再び後方へ下がったが掛けているキュレットで今だ、《Mother》とリンクし相互的に情報のやり取りを続けている。
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pi.pi.pi.pi.pi.pi.
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Yuzuki is waitingto engage.
According to calculations, engagement is after 3 minutes.
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…………………………
Decrease in sensitivity.
…………………………
Eve, do your best.
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「五月蠅い! ちょっと黙ってて!」イブは、つい口に出してしまった。
――これから、結月の秘めた力が見れるはずだからと。
そして、《Mother》の計算通り、3分後に結月の初戦が始まったのだった。
重量子コンピューターが記録する、結月とイブは電脳世界や現実世界からも消失と。
結月は何処で戦っているのか?現実それとも仮想現実?「もう一つのリアル」ってなんだ?
次回:新章 現実世界 「神経ネットワーク」