第六回星新一賞ジュニア部門三次審査通過作品「ランドセルの歴史と謎」
「こんにちは!おれランド。みんなといっしょに勉強がんばるぞー!」
彼はランド。ランドセル型のロボットのキャラクターで、小学生に大人気だ。
彼が生まれたのは2010年、もとは数界社という小さな会社から出版された算数の問題集の解説をするちょっとしたキャラだった。しかし、そのかわいらしいデザインから人気が出て、たちまち全教科に登場するようになった。人気はどんどん広がり、グッズ化やアニメ化もされた。ランドの生みの親である数界社もその勢いのまま異常とも言えるスピードで成長し、たちまち大企業となった。
そんな中、2025年にある出来事が起こる。教育革命だ。これまでの授業では、教科書やノートにえんぴつで勉強し、必要な時にタブレットなどの機器を使うという方法だった。2025年以降それは廃止され、全ての学校が授業の全てをタブレットで行うようになった。だが、ランドセルはなにも変わらない。むしろ変えることができなかった。なぜならランドの人気が高すぎたからだ。その頃になると数界社はもはや日本を代表するような企業になっており、日本の教育界に無くてはならないものとなっていた。しかし、その超有名な数界社だがメディアへの露出を嫌っており社長を含めた経営陣は全て謎に包まれていた。一方大人気のランドはというと主戦場がタブレットに変わり、ミニゲームやクイズなど出番が増えたことでその人気はさらに拡大した。また、ランドを知る子供達の世代が成長し親になったことで知名度もかなり高まった。この循環によりランドの人気は保たれ続けた。もちろん、ランドのモチーフであるランドセルもずっと使われ続けていた。
2046年。この頃になると数界社によってとうとう本物の「ランドセル型ロボットのランド」が開発された。ほとんど全ての小学生は本物のランドを購入し、実際にランドセルや勉強の解説役、遊び相手として使っていた。
2049年のある日。
「ナヅキ、ランドの好きな食べ物ってなんだと思う」
「好き嫌いしないからどんな食べ物でも大好きなんでしょ。それぐらい私でも知ってるよ」
窓際の席のナヅキは友だちと何気ない会話をしていた。
「じゃあ好きな飲み物は分かる?」
「えーなんだろ……ランドに聞いてもいい?」
「それはずるいよ」
ナヅキはランドに好きな飲み物を聞いてみることにした。
「ねぇランド、好きな飲み物って何?」
「おれの1番好きな飲み物はね、ランドサイダーっていうジュースだよ」
「ランドサイダー?聞いたことないなー。どんな味がするんだろ」
「実はそのランドサイダーが明日発売されるみたいなんだ」
「へー、明日買いに行こう」
次の日
「ナヅキ、ランドサイダー飲んだ?」
「うん。美味しかったから今日は水筒にこっそりランドサイダー入れて持ってきたんだ」
「えーずるいよ」
「おわりの会を始めます。しずかにしてください」
「やばいやばい!まだ用意できてないのに」
ナヅキはあせりながらタブレットや体操服をレッドカラーのランドに詰め込んでいた。すると、
「あ!ちょっとま——」
ドボボボドボドボ
開けっ放しの水筒が倒れ、ランドサイダーがランドセルにばらまかれた。もちろん、ランドセルと言っても機械でできたランドだ。少し壊れてしまったかもしれない。
「おいおい何してるんだよ」
「なにか拭くもの持ってくるね」
「あれ、ナヅキは?どこ行ったの」
突然、ナヅキの姿が消えた。誰にも理解できなかった。教室は静寂に包まれ、時が止まったようだった。その数秒後、子供達の悲鳴によって再び時は動き出す。長い刀を持ち、大きな傷を負った男が静寂を切り裂いて現れたのだ。
数日後、捜査は続いているがナヅキは一向に見つからない。例の男も治療中のため、取り調べを行うこともできなかった。
そんな中、一人の動画配信者がこの不可解な事件の捜査を始めた。彼はナヅキがランドセルに飲み物をこぼしたことに着目してある実験を行ったのだ。その実験とは、ナヅキのものと同じランドセルに、様々な種類の飲み物をかけるという実験だった。彼はそんなばかばかしい実験の様子を全て撮影し、生配信した。もちろん誰にも相手にされず、ましてや話題にのぼるはずもなかった。
だがある日、その生配信が世界で最も再生されることとなる。ランドセルにランドサイダーをかけたとき、彼がどこかへ消えたのだ。世界各国の学者はその動画を何度も再生した。何度も何度も再生した。そして、ある仮説が立てられた。
タイムマシンの完成だ。ランドセルにランドサイダーをかけるとタイムスリップがおきるのだ。誰しもが一度は考えた人類の夢が、いともたやすく実現したのだ。
ナヅキと例の動画配信者が江戸時代から救出された頃には、タイムマシンは当たり前のものとなっていた。町にはランドセル工場とお茶工場が立ち並び、誰もが未来へ行くことができる世界。人々は未来と現在を行き来し、生活していた。タイムマシンは、未来の技術を得るために使われていた。
そんなある日、ずっと黙秘を貫いていた数界社が会見を始めた。会見はかなり長引いだが、要点をまとめると、ランドというキャラクターを作った頃から会社に宇宙人からの交信が来ていたとのことだ。その交信のいうとうりにランドというキャラクターを作ると、会社がどんどん成長していったそうだ。そしてタイムマシンを作り人間の文明レベルを一気に上げ、宇宙人は人間と協力的な関係を築くことがその宇宙人の目的のようなのだ。これには、宇宙人なんて怖いというマイナスの意見も沢山あったが、宇宙人は我々に高度な技術を与えてくれた為、従うほかなかった。
1年後、まだ宇宙人は現れなかった。そしてタイムマシンで未来と現在を往復するうちに人々は考えた。未来の技術を現在に持ち込まなくても、自分が未来へ移住してしまえばいいんだと。全人類は未来へ移住を始めた。
「移住ノ方ハコチラデス。ミナサンオ早メニ……」
2050年、ランドが生まれてからちょうど40年のこの年、この世界から人が消えた。この地球上にランドセルの残骸やその工場を残したまま、知的生命体は一人残らずより魅力的な未来へと向かった。だがその数秒後、彼らが棄てた残骸から新たな知的生命体が誕生する。
「こんにちは!おれランド。みんなといっしょに勉強がんばるぞー!」
「こんにちは!おれランド。みんなといっしょに勉強がんばるぞー!」
「こんにちは!おれランド。みんなといっしょに勉強がんばるぞー!」
「こんにちは!おれランド。みんなといっしょに勉強がんばるぞー!」
「こんにちは!おれランド。みんなといっしょに勉強がんばるぞー!」
彼等はランドサイダーを貪りながら無慈悲に増殖を続けた。