街の入り方
さて、関所の中に入れられた。
中はシンプルに机と椅子しか置かれてなかった。
交番を大きくした感じだ。
「……暴れるなよ。元が人間なら言葉は理解できるよな?」
「ああ、こんな所で暴れて街に入れなかったんじゃ今までの苦労が台無しになるからな」
「今までの苦労?」
「1週間くらいさまよい歩いてたからな」
「……」
もう事情聴取は始まっているっぽい。
目の前に座っている50を超えてそうな衛兵さんは紙に何か書きながら俺の話を聴いている。
「記憶が無いと言っていたらしいな。どこまで無いんだ?」
「ほぼ全部。覚えているのはこの姿になった後のしかないな」
「だがそれは呪いの効果ってのは覚えているんだな」
「なんて言ったらいいんだろうな…頭の中、記憶に刻み込まれているってかんじかな?」
「ふむ…そういうものか」
まぁ、呪いを受けた奴がどんな感じになるのか。そもそも人間をこんな姿にする呪いがあるのかなんて知らないからな。
後々矛盾が起きないようにわかりやすくしとくのが賢いやり方だろう。
「で、俺は街に入れてもらえるのか?それともここでおさらばか?」
「そんな事は俺らより上の奴等が決める事だ。俺らはただの衛兵。少し待ってろ。この事を上に伝えてくる」
そう言って衛兵さんは奥の扉に消えていった。
さて、これで入れてもらえなかったらどうしようか。
別の街の場所を聴いてできる限りの変装をするか、それとも強行突破するか…
…いや、強行突破は不味いか。
魔族領的なものはあるのかな?それも聴いておくか。
なんて考えてたら衛兵さんが戻ってきた。
「今からお前を冒険者ギルドへ連れて行く。そこでギルドマスターと会え」
「…会ってどうすんの?」
「だから言っただろう。そんな事は知らん。俺らは衛兵。上の指示に従うだけだ。ほら、行くぞ」
「…マジかよ」
やっぱりこうなるか。王様かそれなりの上の人に会うとは思ってたけどギルドの方か…
冷静なタイプがいいなぁー。
熱血系だと
「力を見せてみろ」
なーんて言いそうだから。
そうなったらスキル使うしかないしなー
まぁなんとかなるか。
気楽に行こう。
「…何?呪い?」
最初聞いた時は何の冗談かと思った。
関所に就いている衛兵から
「呪いを受けた元人間のスケルトンが来ている」
と言う報告を受けたからだ。
モンスターがわざわざ関所に来て、衛兵と会話し、待機している。
しかもただのモンスターではなく、アンデッド。
アンデッドは生きる者を怨む蘇った元生き物。
人間は当たり前、動物、昆虫までもが等しくアンデッドになる可能性を持っている。
そんな存在が会話し私の命令を待っている。
こんな状態を疑わないで何を疑うんだ。
「……再度確認するが、本当に呪いを受けた元人間なのだろうな」
『彼が言うには呪いの事は頭に刻み込まれた唯一の記憶だそうです』
先程から溜息が止まらない。
アンデッドが言うことなど信じれるものか。
何故コイツは信じようと思うのか?
アンデッドの発生方法は何も自然に起きることではない。
悪意を持つネクロマンサーはいるし、冒険者の中にはアンデッドを利用して冒険をしている者もいる。
いわゆる人為的なアンデッドだって存在するのだ。
今関所にいるアンデッドだってその1つかもしれない。
そんな存在を街に入れられるか!
と、思うのだが。今回は例外すぎる。
そも、何か害をもたらそうとするなら関所を通さず壁を越えさせればいい事だ。
…まぁ、超えられたとしてもすぐに発見されるが。
それはさて置き、そんな事をせず堂々と、更には低ランクの冒険者との会話もしたと聞く。
何か作戦があるとしても無駄な行動が多すぎる。
しかし、普通に入れる訳には行かんしな…
こう言うのは専門分野の奴に丸投げするのが1番楽な解決方法だ。
「なら拘束したまま、衛兵2人以上でギルドマスターの所まで連れて行け。妙な真似をしたら問答無用で始末しろ。もし、そのスケルトンが何か事件を起こしたらその責任は全て貴様らに掛かると思え」
『…承知いたしました。では、その様に致します。以上、衛兵長ニムバス。通信終了します』
「うむ。ご苦労」
…アイツ、溜息つきやがって…
俺だって困惑してんだよ。
…頼む、問題を起こさないでくれ。