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日常乙女1

いよいよ山笑う、花残月が始まった。

本日も穏やかな陽光の下で咲き乱れる、小田原城下に植わった数多くの桜の樹たち。

城下の眩しい白色が主立った景観ともうまく調和が取れており、ようやく安定してきた日差しの暖かさもあって、うたた寝でもしたくなるほどに心地よい。

しかし残念ながら飛花が刻々と進み、もうあと幾日もすれば葉桜となるだろう。

緩やかな花筏もまた美しい酒匂川沿いに、現在の小田原藩主である大久保忠愨公所有の戦巫女・八重の屋敷はある。

中庭が広く取られた、下屋敷だ。少女ひとりと小物ひとりが住むには、少々立派すぎるし大きすぎるかもしれない。

しかし先日から、ここに住まう者がひとり増えた。

「ねぇ」と一言で呼べば、

「どうぞ」とほんの一瞬で熱い茶とともに菓子が出てくる。

足柄でも選りすぐりの香り高い一番茶に、小田原でも評判な菓子屋の干菓子がお上品に添えられていた。これ以上ない、最高のお八つである。

しかし縁側で寛ぐ八重は、嫌味っぽくたっぷり渋面を浮かべて吠え出した。

「誰が干菓子なんてしょっぱいお八つ頼んだのよ、杵屋の羊羹がいいって言ったでしょ!?」

彼女がいつそんなことを言ったのか、少なくとも深山の記憶にはない。

「お茶も美味しくなーい」

飲めたものじゃない、泥水の方がマシよと散々文句をつけながらボリボリと干菓子を咀嚼するその姿。

憎たらしい。非常に憎たらしい。この小娘が、と首でも絞めてやりたいくらいだ。

お茶の出来は最高に良いと商人からしっかり太鼓判を押され、深山自身も試飲して確かなものを仕入れてきた。

つまり八重の言は単なるイチャモン、深山への嫌がらせに過ぎない。

おそらく深山が音を上げてこの屋敷を出て行くまで、続けるつもりだろう。

だが深山とて、長く厳しい修行を耐えてきた立派な精神が備わっている。ここで、こんな瑣末な問題で根負けするようでは武士の名が廃ると、黙って命令に従うと決めた。

「ねぇ」

相手の名前を呼ばずともわかる、悪意が篭った八重の声。なにか深山を困らせる、いい案が浮かんだのだろうか。

可憐な顔をいやらしげに歪ませ、声も嫌味に弾んでいる。

「暇なんだけど。なんか余興でもやってくんない?つまんなかったらハラキリね」

余興ってなんだ、なにすりゃあ満足するんだ。

いよいよ困惑してしまった深山の姿を最高の余興として、ごろんとだらしなく板張りの床に寝転がる。そこで床の汚れに目を留めたらしい。

「ここ汚れてる!ちゃんと拭いてくんない?」

今朝方に深山が自ら進んで掃除したことを知っている八重は、嬉々として文句をつけ始めた。その様はまるで『意地悪な鬼姑』。

言われた通りに汚れている箇所を拭き掃除しようと、立ち上がる深山を青い顔で慌てて引き止めたのは、薄桜だった。

「深山さま、八重さまの言うことなど真に受けずに。どうぞごゆっくりなさってくださいませ」

「いえ、私もこのお屋敷の一員ですし。ちゃんと働かせていただきますよ」

「深山さまにこんなことをさせては、わたくしが大久保さまに叱られます!」

深山が握っていた雑巾を取り上げて、寛ぐことを強く勧める薄桜の気持ちも虚しく、八重がまたしてもくだらない用事を言いつける気だ。

「ちょっと」

の意地悪そうな声に、深山は驚くほど素直に「はい」と応じる。にこにこ、にこにこと優しげな笑顔さえ貼り付けており、それに薄桜は恐ろしいなにかを感じとった。

先に堪え切れなくなったのは深山ではなく、薄桜の方だった。

「八重さま、いい加減になさいまし!なにかあればこれまで通り、薄桜にお言いつけください!」

「薄桜さん」

調子に乗り放題の八重を叱りたい薄桜をやんわりと制し、深山は穏やかさ極まる口調と声音で言った。

「こうして八重の側を離れないことも、私の仕事になります。この前のように襲われる確率は低くなるでしょう」

「ですが……」

八重の世話係兼教育係は、眉を八の字に寄せる。

彼女の身の安全を鑑みれば、深山の言う通りにすべきだというのは尤も。

しかしこれ以上に八重を調子に乗らせて、それが大久保公の耳に届いた場合のことを、薄桜は危惧しているのだろう。

大久保公はあの通りに懐の広い人だから、まったく気にしないだろう。

しかしその周りが許すはずがない。

地位や体裁、伝統を重んじる連中ばかりで、本当に人のことを思い遣ることなど考えつかないし、しようともしない。

いかに出自の怪しい深山であろうと、『公が選んだ武士』がこんな小娘にいいように扱われているなどと知れば、憤慨するのは必至のことだろう。

八重になにかしらのちょっかいをかける奴も、もしかしたら出てくるかもしれない。しかし八重は公の『持ち物』。

八重のせいにできないとなると、小物に過ぎない薄桜に狙いを定めるかもしれない。

その薄桜は公が八重のために自ら人選したと、深山は公本人の口から聞き及んでいる。

公が手を及ぼすことが不可能になればおそらく、あの連中が根回しした碌でもない人員が配置されることになる。

何処でも同じことだろうが、小田原藩とて一枚岩ではない。

そうなると果たして、結果論では誰が一番に被害を被るのか。

薄桜が言いたいことを把握した深山はまったく、とばかりに嘆息した。

武士の出だから、農民だからと。

士農工商の世において、武士という者共は器の小さい奴らばかりだ。

自分としては自身が武士であろうが農民であろうが、本質はなにも変わらない同じ人間だと認識している。

それについて、とりたてて深い持論があるというわけではない。『武士が偉い』現状に不満はあるし、他人に押し付けられる意見は却下する。

だが改めて考えてみると『身分』というものに対して、一般の人よりいくらか意識が薄いのだと深山は自覚した。

きっと八重という少女は、深山と近い考えを持っているのだろう。

「なにしてんのよウスノロ!さっさと新しいお茶菓子出しなさい!」

などと一般の世では到底、武士に対して言っていい台詞ではない言葉を吐く八重。

普通一般では、この不敬は『斬り捨て御免』である。

どこにも所属していない浪人であればまだ許される風潮だが、相手が立派な藩士であれば尚更のこと。

「これ、八重さま!」

薄桜の首から上も青白いを通り越して、いよいよ真っ青になっている。

それでもまだ八重に教育を施そうと頭が働くだけ冷静なのは、これまでの深山が非常に温厚でいてくれたからだ。

しかしそれも、とうとう終焉の幕が降りる。

むぎゅ、と。

八重の健康的な薔薇色の頬が、深山のよく鍛え上げられた掌による圧力を受けて大きく歪んだ。

「調子こくんじゃねぇぞメス犬風情が。その純情奪い尽くして遊郭に売り飛ばすぞ」

武芸者にしては艶めいていた声はどす黒く、先ほどまで優しい笑顔だったものは鬼神のごとき迫力を得ている。

ただの幻覚であればいいが、彼の背中に虎のような獰猛な獣が目を光らせていた。

「や、やれるもんなら、やってみなさいよっ……!」

台詞だけなら威勢はいいが、八重の全身は恐怖でがたがたと震えている。肩も縮み上がっており、形だけ握った両の拳も弱々しい。

八重のその怯えた姿に、深山は内心で吹き出しそうになった。

強気に見えて実はとても臆病なところも、幼い頃からまったく変わらない。

ここからまた、揶揄うのがものすごく面白いところだ。しかし再会してからここ最近では、攻めるツボだけが変化した。

「いいのか?」

深山の声に再び色艶が舞い戻った、その瞬間。

八重の頬への圧力を弱め、今度は優しく撫でるように指を滑らせる。

「…………っ!!」

深山の変化に気づいた八重も、頬への嫋やかな感触に気色めいた吐息を漏らした。

彼の掌の柔らかさが自分のものと違うことで、ドギマギと不可思議な音を立てる心臓。頬に熱が集中して、大袈裟なほどに火照った。

その熱が深山の手に移動して、緊張が伝播する。

生まれてこのかた、女性に触れるのは母親と双子の姉と、それから幼少期の八重だけ。

武士としての腕を上げる為に、それこそ血反吐が出るほどに修行を積んできた。その合間に女性とアレコレなんて器用なことは、元来が堅物な深山には到底出来るはずがない。

殿との一方的な世間話で知識だけが増えていき、この歳でただの耳年増だ。この場で緊張するのは無理もないと、自分に言い聴かせる。

ここで『あれ?俺はいったいなにをしているんだろうか』、と我に返る隙が少しでも生まれればよかったのに。

どうやら加速するのは、心臓だけではないようだ。

熱を帯びて潤んだ八重の瞳が時折、自分を覗くその一瞬が。

たまらなく可愛い。

幼い頃から思っていたが、その頃とは意味合いがまったく違う。

こんなにも自分のなかに激しくて浅ましい欲が溢れるなんて、まったく予想外だ。

頬に触れていたはずの掌はいつのまにか、八重の髪や肩に触れていた。

八重の髪の滑らかな絹のような手触りと、初夏に合わせて調合されたし香の新緑めいた匂いが鼻腔をくすぐり、蕩けるような甘い刺激を与える。

ふたりの間で吐息が交じりあい、空気の濃度がぐんと増した。

「う……」

「『う』?」

つう、と深山の人差し指が、八重の『う』に開いた唇を淫らに伝う。

はて、八重はなにを言うつもりか。

その声の続きが聴こえるよりも早く、深山は思い切りに突き飛ばされて尻餅をついた。

「薄桜っっ!!」

「はいはい。もう懲りましたか?」

咄嗟に深山を突き飛ばして逃げ口を確保した八重は、自身がそばに置いてもっとも安心する世話係の背中を盾にする。その世話係もなんだか微笑ましそうな、しかしほんの僅かに困ったような表情を見せていた。

薄桜の背後で、ふしゃー!と野良猫のように髪を逆立てて威嚇する様は、良く言えばいじらしいが、悪く言えば子供っぽい。

「い、いまに見てなさいよ!?あんたなんてとっとと追い出して、路頭に迷わせてやるんだからねっ!!」

なんて脅しを受けても、特段に不安や恐怖を覚えるほどではない。

「俺が路頭に迷ったら困る奴は、果たして誰なのかな?」

嗜虐心と、余裕がたっぷり含有された深山の笑み。そして尊大な態度で歌うように言い返したところ、八重はすっかり深山の調子に巻き込まれたようだ。

「ここここ困んない……もん!!」

「嘘だな」と深山。

「嘘ですね」と薄桜が深山の意見に同調して、すかさず即断即答。

さらに深山が追い討ちをかけ始め、普段からいつも一緒にいる世話係の薄桜でさえ楽しげに乗じだした。

「言葉が濁った、瞳が右上に泳いだ、唇が尖る、足の親指が立った。君が嘘ついてるときは、いつもそうなる」

「おや深山さま。よくご存知でいらっしゃいますね」

「そりゃあ五日も始終一緒にいれば気づきますよ、かなりわかりやすい」

「ではこれは気づいていらっしゃいます?深山さまが側にいると」

「あああああああああ言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

余程に聴かれたくないことだったのか。

八重は聴いている側の耳がキンキンするほど喧しく叫ぶことで、薄桜の暴露を必死に遮った。顔から耳までがすっかり火照って、いまにも湯気が噴き出そうだ。

「とにかく!!ウチにいる限り、あんたはわたしの小間使い!わたしが主人!」

ぜえはあと荒くなった息を早々と整え、薄い胸を思い切りに張り、肩をいからせて偉そうに宣言する。

これに深山はため息混じりで反論。

「だから俺は大久保公に仕える藩士で」

「るっさい黙れ!そんなちまっこい御託はいらないわ!」

「八重さま。お口を慎むように」

薄桜にぴしゃりと叱られた八重は今度こそ黙りこくり、口惜しげに深山をどろどろと睨めつけている。

「八重」

と呼んでやると不満そうに唇を尖らせて視線を向け、一応は聴く素振りを見せる。

それがまた可愛くて、ついつい揶揄うことばかり考えるのは、どうにも悪い癖になったものだ。

「俺の心配してくれるなんて、随分とお人好しだな」

などと含みのある笑顔で、態とらしく怒らせるようなことを言って、八重の反応を内心で楽しむ。

「っふん!」

八重は明らかに不満で鼻を鳴らし、不味い不味いと散々に酷評して騒いでいた新茶を飲むことで、気まずさを誤魔化していた。

「しっかしあれから平和ね。やっぱりあんた、要らないんじゃない?」

あれから半刻くらいだらだらと干菓子を貪っていた八重が暇そうに漏らしたのは、実に平和呆けした一言だった。

「君はつくづく世の中……ことに戦事を舐め腐っているな」

本日で一番盛大なため息とともに半分以上は本気の嫌味で返す深山に、八重はムッとした顔で「なんですって?」といきり立つ。

しかし薄桜が鋭く目を光らせており、八重の浮いた腰もすぐに落ちこんだ。

「相手だって能無しじゃない、此方の出方を待っているんだ」

そう言いながら茶菓子に手を出す深山もまた、周囲への警戒を怠らない。この屋敷のなかであろうと危険があるのは、先日はっきりと証明されたことだ。

しかし茶菓子へ伸ばした手が八重によって阻まれることは、どうも予測できなかったらしい。

深山の手から奪い取った煎餅を片手に、肘をついて寝転がりはじめた。

「るっさいわね……わたしは祝詞を舞う戦巫女よ?知るわけないじゃない」

「ションベンガキ」と溜め息と一緒に吐いた悪態を、八重が聴き逃すはずはない。

「あんたはわたしへの敬意ってもんを知りなさい!」

「八重さまはお行儀をお知りになってくださいませ」

ぺしん、と寝転ぶ尻を薄桜にはたかれて、八重は見た目だけならお上品に座り直した。

ずっとそうしていれば、お人形みたいに可憐なのに。

……とは、口が裂けても言えまい。

「相手はたぶん、奴らにとって『新顔』の俺に関する情報を集めだしたところだろう。それまでは下手に手出しできないはずだ」

手酌で注いだ熱い茶で喉を潤し、深山は厳しい視線を空に向ける。

深山はこの小田原藩に所属してもう五年になるが、今回のように『守護役』を仰せつかったのは初めてのことだ。

向こうの立場にもよるが『例のこと』も含めると、深山に関する情報はあまり無いとみていい。

なにせ深山のこの五年は、客観的に見て噂ばかりが独り歩きしている状態。しかもその噂を鵜呑みにする連中の根回しで、ろくに戦場へ出ていない。

事情を知らぬ者からすれば、本当に『殿の不公平な寵愛を受けたうつけ者』と評されるだろう。

先日の一件は殿に報告済みで、今頃は相手へ探りを入れて情報を集めたところか。

それまでは此方側も相手同様に、下手な手出しはするべきじゃあない。

深山の見越した通りであれば、いまの時点で不安を煽るような言動はとるべきではない。

言えるのはこれくらいか。

「だが油断はするな。俺の側を離れないように」

「……あんたがいれば大丈夫だっての?」

なにかを探るような八重の視線に、しかし隣にいる深山は、落ち着いた微笑みで返して誤魔化した。

「俺が胡散臭いことはわかってるさ。だから今すぐ全面で信用しろ、なんて無理は言わない」

彼女が感じている不安のすべてを取り除いてあげられたら、どんなによかっただろう。

どんな言葉の限りを尽くしてでも、君の心まで守ってあげられたら、と。

さらりと栗色の髪を撫でれば、あの頃に感じた想いが、情景が蘇る。

大ぶりの桜が色づいていた色鮮やかな春の土手で、指切りをしたときの温かさ。幼い君はいまよりもっと可愛くて、いまの君はあの頃よりも切なさを帯びている。

君の屈託のない太陽みたいな微笑みは、いまでも俺の支えになっているんだ。

陽光を翳らす雲は、切り払いたい。いつだってその光、曇らせたくないんだ。

約束した以上に、君のことを守りたいという気持ちが溢れる。

深山の手が八重の手を取り、唇を寄せた。

八重は以前読んだことのある、異国の御伽草子を思い出した。そこに出てくる『騎士』が姫に忠誠を誓う、そんな場景だ。

指切りげんまんの代わりになる、その優美な行為。目の前の『騎士』の真意は、八重にはわからない。

だけど。

「君は自分の身をなにより案じるんだ」

深山がもつ翠緑の瞳から、目を逸らすことができなかった。

自分の頬が、耳が、深山と繋いだ手が。強い熱を帯びて、擽ったいような恥ずかしいような感覚が全身を駆け巡る。

『俺が死んでも』なんて言葉。

大袈裟じゃなくて本気で思っているから、これだけでも伝えたかったんだ。

————そう訴えている気がして。

「……ふ、ふん」

照れ隠しか、はたまた反抗か。

深山の手を無理矢理に振り払い、踵を返す八重の背に薄桜が問いかけた。

「八重さま、どちらへ」

「湯浴み!日差し強くて汗かいたのよ」

ツンケンして立ち去った八重の背を見送ったあと、薄桜が「うちのお嬢様が、お世話かけます」と深山に詫びる。

「いえ、あくまで仕事ですので」

そう返して薄桜の頭を上げさせようとした、その瞬間だった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!」

とまさに耳を劈くような悲鳴は、間違いなく八重のもの。方角はもちろん、湯殿の方だ。

迂闊にも先日の一件を再現してしまったようで、思わず歯噛みしそうな思いをいまだけは我慢。兎に角、可能な限りに急いで湯殿へ。

「八重!?」

断りもなく開け放した戸の先には————

「むむむむ虫っっっっっっちょ、気持ち悪いのよその動きぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

素っ裸の八重が上質な檜で組まれた薫り高い湯場で、妙ちきりんな舞を披露していた。

どうやら八重が苦手としている虫が侵入していたらしく、追い出そうと指で摘みたいのに身体が拒否している……という状態らしい。

うねる緑の虫も、呆然として八重の情けない舞を呆然と見守っているように、深山には見えた。

ここで深山も直ぐに湯殿を出ればよかったと、我ながら判断力の鈍さに呆れてしまう。

ばち、と。

「「あ」」

深山と八重の視線が衝突した。

八重の瞳は框で立ち尽くす深山と、自身の一糸纏わぬ白い裸体を行ったり来たり。

遅れて首から上の紅潮が進み、大きな瞳には怒りで涙が滲む。

ぱぁぁぁぁぁん!!!!!!

と屋敷中に高らかな音が響いたのと、深山の「いった!!!」という地味な悲鳴が聴こえたのは、それから直ぐのことだった。


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