流麗乙女
しゃんしゃん、鈴の音。
とんとん、小鼓。
さらさら、榊の葉擦れ。
神楽笛の甲高くどこまでも透き通った音色。
箏の慎ましやか、かつ流麗、そして奥深い響き。
天から差し込む光を表現する笙と、雄大なる龍笛の調べ。地上にどこまでも広く木霊する篳篥の、深い音色。
それらの音色に合わせて舞う清き乙女の姿は、荘厳かつ美麗。
龍がその身に舞い降りたかのような身のこなしは、実に優雅なものだった。
爪先から髪の先まで、隙のない整った美しさ。
舞うその脚運びに迷いはなく、舞台の上で華麗に踊る。
まだあどけない幼さが残る『少女』の顔つきだが、瞳の色に曇りもなく凛とした輝きを放っている。
しかし時折見える妖しい光は、不思議なことに『少年』の強さと無邪気さを併せ持っているように感じられた。
《艶》と《強さ》を同時に表現するだけの力をもつ戦巫女は、何処を探してもなかなかいないだろう。
ここに大人でも難しい、完成された『究極の美』が咲き誇っているようだ。
長く艶やかで、宝石のように不思議な煌めきを放つ黒髪が揺れる。髪に飾られた豪奢な金の簪が、しゃらんしゃらんと可憐な音を響かせる。
朱と純白、金糸で彩られた目にも鮮やかな衣装が、乙女の動きに合わせて広がり舞う。
戦場が混乱の絶頂にあってもなお、この空間だけは別の色を纏っているような、そんな気さえする。
戦のために急拵えた簡易的な舞台のはずなのに、さながら立派な神社のような静謐さ。
満身創痍の武士も思わず見惚れ、その疲れを癒されていく。
乙女の舞に見惚れていた武士たちは、再びその手に刀を構えて、荒々しく戦場へ駆け抜けていった。
戦乙女の舞は、戦とともに苛烈を極める。
まるでほんとうに命を削るかのように、激しく、しかし凄絶で流麗に。
武士とはまた違う戦いに、清き乙女は身を投じているのだ。
戦の勝利を祈り、武士の無事と平和、そして安寧を願う————神への供物、それが戦乙女の舞。
心癒されよ、守るべき命を慈しめ。
敵の命を奪取せよ、この手に勝利を。
血で血を洗う、それが命を守ることならば。
猛々しい武士よ、命を賭して白刃を振るえ。
戦巫女よ、その清らかな身を神へ捧げよ。
戦え、戦え、舞い踊れ。すべては守るべきもののために、大切なもののために。
己が信ずるものへ、その身のすべてを供物とせよ。
美しく花開いた桜たちよ。雨風に散り落ちるその日まで、狂おしく咲き誇れ。