第一話
近未来。科学の発達と偶然の発見によって誰もが霊を認識出来るようになった世界。一時パニックに陥った世界は、時間の経過とともに落ち着きを取り戻していった。そしそれに伴い、霊に対処する組織が必要になり、各自治体の役所に新部署が設立されることになった。
そしてその新部署が設立されてから約半年後、特定の霊に対抗するために、ある特殊部隊が編成されることになる。
「おい! 何かこの霊様子がおかしくないか?」
「ん? そうですか? 普通に甲種でしょ? ちょっと危険ってだけだから普通に処理して封印しましょうよ」
公務で霊の対処をしていた市役所職員の男と思われる二人が会話を交わす。
現在、霊の種別で危険とされている『甲種』と言われる霊の対処をしている所だ。
処理に使うのはスマートフォン。世代交代を繰り返す中で、とあるきっかけでカメラのレンズで霊が写るようになり、それを改良したものだ。
「いや、確かに霊判アプリで写し出されてる情報から見ても甲種なんだよ。でもなんていうか、周囲の温度が高いというか……甲種は周りの温度が零度に近いはずだろ?」
「そういえばそうですね。何だか熱いですし、今何度くらいなんだろう?」
周囲の温度を測った男性職員は驚く。
「三十度を超えてます!」
「三十度!? 今10月だぞ?」
スマートフォンのカメラを持ちながら霊を補足していた男性職員は霊の方をスマートフォンのカメラで写す。
「おいちょっと待て! こっちに近づいてくる! しかも早い!」
「え? なんで!? うわっなんか体が!? うぁああああああああああああ」
甲種と判断されていたその霊に襲われたその二人は、その後病院に送られることになった。
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「木下君。ちょっと君に話があるんだけど」
「はい?」
上司である高田から呼び出された木下。
フルネームは木下幹鷹。年齢は23歳で、今年新卒で区役所に就職した男性職員だ。何の用だろうと高田のデスクに向かう。
ここは区役所に新設された部署である、『不可視物管理課』の事務所。世代交代を繰り返したスマートフォンで霊が見えるようになり、今やスマートフォンのレンズ越しに誰もが霊を見ることが出来るようになった現代。霊に関する案件を対処するために設立された部署だ。
「今霊に関する不可視物管理課以外の新しい部署が出来るという話があってね。それで君さえよければ、その部署に君を推薦したいと思ってるんだけどどうかな? 話を聞いてみる気はない?」
「えっと……どうして僕なんですか?」
「募集要項が、若くて体力がある、霊に関する仕事に従事したことがある者ってことだったんだよね。確か木下君は野球とかもやってて体力には自信があるでしょ?」
「はい。趣味で野球もやってて、あともう一つサバイバルゲームっていうエアガンで撃ちあうチームに入ったりして遊んでたりもします」
「そうなんだ! それは良い! やっぱりうってつけだよ! そのサバイバルゲームの趣味も今回の仕事に生かせると思うから」
(サバイバルゲームの経験が生かせる仕事ってなんだ!?)
木下は急に不安になり眉をひそめる。自分に声がかかったこと自体は嬉しいが、事前情報を聞く限りでは嫌な予感がした。
「スミマセン。話だけは聞いてみようとは思うのですが、どんな事をする部署なんですか?」
「えっと……新しく見つかった種別の霊を対処するための部署らしいよ?」
「新しい種別の霊?」
「うん。私も詳しくは聞かされていないんだけど、その霊は通常の不可視物管理課の機材では対処しきれない霊らしくて、それでその霊を対処する専門部署を作る予定なんだって」
「そうなんですか……」
思ったよりもまともそうな仕事に木下は胸を撫で下ろす。もう少し詳しい話を聞いてからでも判断をするのは遅くないかもしれないと思い、高田に返事をする。
「分かりました課長。詳しい話、聞きに行ってみます」
「そうか良かった。もしかしたら不可視物管理課の皆とお別れになるかもしれないから、良く考えた上で最終的な返事をしてね? まだ半年ぐらいしか一緒に仕事をしていないけれど、木下君と離れるのは寂しいからさ」
「課長……」
高田からの別れを惜しむ言葉に、少し感動を覚える木下。だがその感動は長くは続かなかった。
「もし新しい部署で、可愛い子いたら紹介してね?」
「課長……」
木下の高田を見る目はさっきとは打って変わって、路地裏に捨ててあるような生ゴミを見る目に変わっていた。
~数日後~
「新しく編成されることになった部隊の説明会に来ていただき、ありがとうございます」
(部隊って何!? 新しい部署って話で聞いてたんだけど!? あれ? でもあの人見たことあるな……)
説明をしている者は確か加納良子と言う名前だったはずだ。不可視物管理課での新技術説明会で話をしているのを見たことがある。ただそれよりも木下は説明会の雰囲気を見て戸惑っていた。説明会を聞きに集まっていた者はあまり普通ではなさそうな者達が揃っていたのだ。
軍服のようなものを着ているものから、あきらかにカタギではなさそうな者。筋骨隆々の屈強な男性や、気の強そうな女上司といった感じの女性。ここに集まっている女性は体が引き締まっているものが殆んどで、明らかに日頃から体を鍛えているように見える。
(コレ僕場違い過ぎない? 大丈夫これ? っていうか何の部署なの新しい部署って!?)
「ねぇあんた」
木下が挙動不審に周りを見渡していると、隣に座っていたボーイッシュな女の子から声をかけられた。
「はい! なんでしょう!?」
「キョロキョロしてどうしたの? もう説明始まってるよ?」
「あっはいそうですね。ちょっと落ち着かなくて」
「ふーん。でもこれから霊と戦う部隊に編制されるかもしれないんだから、このくらいで落ち着かないとか言ってられなくなるんじゃない? 頑張らないと」
(今霊と戦うって言った……?)
高田からそんな話は微塵も聞かされていなかった木下は、帰ったら高田の娘である実貫に連絡してあることないこと吹き込もうと決めた。
そして説明会は続く。
「今回編制される部隊は、新しく分類された霊を対処するための組織です。
今まで、甲種として分類されていた霊の中に、より危険で、より生きている人間に害を及ぼす霊が確認されました。
数自体は少ないのですが、今までの不可視物管理課の機材では対処しきれないこと。そしてこの霊に対処するには、訓練された部隊でないと難しいと判断されたことから、この組織が新設されることになりました」
研究者である加納良子の話はしばらく続く。木下は今回自分がどんな仕事に関わる可能性があるのかをようやく理解し始めた。
「新しく分類された霊は、今までの甲乙丙の種別に加え、丁種と命名し、今後この部隊で対処していくことになります」
頷きながら話を真剣に聞いていた木下に、隣にいたボーイッシュな女の子が問いかける。
「あんたもしかして今回説明される概要少しも知らなかったの? 大丈夫?」
「大丈夫です! 今把握したんで!」
「そ、そう。で、あんたはこの仕事受けるの? 間違いなく危険な仕事になると思うけど」
「もちろん受けますよ? 当り前じゃないですか」
考える素振りもなく即答する木下に女の子は意外そうな顔をする。
「へぇ。最初きょどってた割には肝が据わってるんだね」
「そうですか? ありがとうございます」
屈託のない笑顔を向けてくる木下に、少しひるみながらも女の子は返事を返す。
「僕もこの仕事受けるつもりだから、何かあったらまた会うことになるかもね。その時はよろしく」
「はい! その時はよろしくお願いします! あっ僕は木下幹鷹っていいます」
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は深見料っていうんだ。男っぽい名前かもしれないけど、一応女だから」
「そうですか? 可愛いと思うけど」
「別に可愛かないでしょ。じゃまぁ何かあったらまた」
説明会が終わり、不可視物管理課の事務所に戻るために、借りてきていた公用車に乗り込む木下。
「こんな仕事。受けないわけないじゃないか」
胸に秘めた決意を口にしながら。