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Episode3



 あの日、私とアランは本についてたくさんのことを語った。でも、それだけだった。それから何度あの場所を訪れても、町に足を踏み入れても彼に会うことはできなかった。何故か裏切られたような気分だった。

 それ以降の本にはアランのことがたくさん記された。



『もう一度アランに会いたい』

『アランの声が聞きたい』

『アランと仲良くなりたい』

『アランに好かれたい』



 気がつけば私の頭の中も、本の中身もアランのことばかりになっていた。

 もちろん本に記したように、彼に会うこともできたし、たくさん話もできたし、仲良くなった。そして、彼はだんだんと私に向けて好意を見せてくれるようにもなった。そう、全ては私の思うがままに。何もかもが上手くいっていた。


「セシア!」


 今日もいつものように彼と待ち合わせをする。初めて会ったあの木の下で。

 そういえば、いつからか小鳥たちの姿を見なくなった。どうしたんだろう?まあ、今の私にはアランがいるから大丈夫。


「セシア、君は僕の噂について知っているか?」

「噂って?何のこと?」


 噂といえば、彼が婚約者を探していることだろう。私はあえて知らないふりをして彼に尋ねた。


「やはり僕は君に決めたよ。今まで僕の噂を知らずに仲良くしてくれた女性なんていなかったからね。」

「君に決めた?噂を知らない?待って、どういうことなの?」


 そう言いながら彼の肩に手を伸ばす。そんな私の手を彼は両手で優しく握り締めた。


「セシア、僕と結婚しよう」


 大きく目を見開き、ひどく驚いた表情を作る。顔がにやけてしまっていないかどうか、それだけが心配だ。


「アラン……」

「出会ってそんなに時間は経っていないけどこれほど運命を感じる人は初めてだ。」

「本当に私でいいの?」

「もちろんだ。」


 私は彼に思いきり抱きつく。彼の温もりを体全体で感じながら、込み上げる笑いをおさえることはできなかった。こんな顔、アランには見せられない。今の私は、きっと酷く醜い顔をしているから。

 あの本は、私の人生を変えた。あの本さえあれば、私のこれからの人生は思い通りなのよ。

 そんなことを考えながら、私は今朝あの本に記した願いを思い返していた。






『アランと結婚したい』






***




 それから私たちは結婚の準備で大忙しだった。私と彼はそれぞれの家を出て、二人で暮らすことになったので、今は荷物の整理で時間が過ぎていく日々だ。


 コンコン。


「はい」


 ノックの音の後、いつものように祖母が部屋に入ってくる。


「大分部屋の中が片付いたわね」

「もともと物が多かった訳でもないからね」

「セシア、あなた本当に綺麗になったわ」


 祖母はしみじみとそう呟く。

 あれ……?何か祖母の体が以前よりもほっそりとして見えるような?


「ありがとう。おばあちゃん」

「セシアが出ていくと私も寂しくなるわね。時々は帰ってきてもいいのよ」

「そうね、そうするわ」


 それだけ話をすると、部屋を出ていく祖母。足音が離れたと思うと、遠くから聞こえる咳き込む音。

 体調よくないのかな……?

 少しの不安がよぎりながらも、準備を進める手は止めようとはしなかった。


 ふと、窓の外を見るとあの小鳥たちが飛んでいる。相変わらず元気そうね。声をかけようと思ったが、話が長くなりそうなので止めておいた。


 この家を出ていけば、きっと小鳥たちにももう会うことはないだろう。




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