#002「八月三日水曜日」
――昨夜の十八時から二十四時に入っているニュースは、と。
フゥン。障害者施設襲撃の容疑者は、生活保護を受給していたのね。
貧乏人がみんな犯罪に走る訳では無いけど、経済的困窮は犯罪に走る動機の一つよねぇ。
それから、青森ではねぶた祭が始まったのか。
青森市がねぶたで、弘前市がねぷたなのね。ヘェ。
*
「おはよう、小川くん」
「おはようございます、清水課長。何か良いことでもあったんですか?」
「分かるかい? 息子が十歳にしてようやく、プールで泳げるようになってね。まだ平泳ぎだけだが、成長したものだと喜ばしくて――それでは、昨夜のニュースの報告を」
「はい。昨夜は障害者施設襲撃の続報で、容疑者が生活保護を受給していたことが明らかになりました。預貯金などはなく、金銭的に追い詰められていたのではないかとの見かたが浮上してきた模様です。他人に、それも障害者を狙って犯行に及んだことは許されざることですが、社会保障制度のありかたを検め、改善していく必要があると思います。第三次改造内閣が発足したことですし、こうしたことも刷新されてほしいものです。以上で、わたしからの報告を終わります」
「どうも、ありがとう。昨日の話ではないが、省庁の枠に囚われない、広域的な社会保障が整備されることを望むところだね」
「いくら稼いでいるかとか、家族が何人いるかとか、そういうことで場合分けするのは、変化の激しい現代社会にはマッチしなくなってきてると思います。どういう人間かに関係なく、生きていくために必要な費用があるはずですもの」
「そうだね。仕事があろうが無かろうが、服は着なきゃいけないし、食事もしなきゃいけないし、住むところも必要だ」
「現行の生活保護費だけでは、そこまでカバーできませんよね」
「憲法で生存権が認められているはずなのに。僕としては、朝日訴訟から抜本的な改善がなされないまま、六十年近く経ってしまった感じがするね」
「生活を保護ための費用なんですけどねぇ」