#014「八月十九日金曜日」
――昨夜の十八時から二十四時に入っているニュースは、と。
この企業は、激安価格と幅広い品揃えを武器に、訪日外国人客の消費を取り込んで、着実に利益を上げているんだ。
仕入れ先を買い叩いたり、人手を出させたりと、安売りのために手段を選ばない体制が取り沙汰されたこともあったけど、改善されたのかしら?
それから、福島第一原発の事後処理は、まだ続いているのね。
汚染水漏れを防ぐための凍土壁は、まだ完全に凍り切ってないんだ。
どうも、この電力会社は、対応が後手に回ってる気がしてならないわねぇ。
あと、被害者の溺死の遠因となった虐めの加害者に、遺族への計千四百万円の支払いと、毎月謝罪の手紙を書かせることで和解したというニュースもあるわね。
金額の多寡は置いとくとして、和解が成立したことは喜ばしいことだわ。
そうだ。課長に、あのことを伝えておかないと。
*
「おはよう、小川くん」
「おはようございます、清水課長。お召し物が、いつもと違いますね」
「実家の兄が、置きっ放しにしてた僕の私物を送って来たんだ。近々、二人目が生まれるから、上の子のために、いよいよ僕の部屋を片付けてることになってね」
「おめでとうございますと、お伝えください」
「ありがとう。伝えておくよ。――それじゃあ、昨夜のニュースの報告を」
「はい。かの有名な大手ディスカウント・ストアが、消耗品から高級品まで幅広く取り扱っていることを活かし、売れている商品を強化することで、インバウンド需要の購入対象の変化に柔軟に適応することで、堅調に増収増益を重ねていることがわかりました。爆買い客の消滅による影響は無いとされ、総合スーパーなど、他社の閉店物件へ居抜き出店を、今後も進めていく方針なのだそうです」
「陳列方法を巡って、消防署から注意されたり、販売方法を巡って、化粧品会社と揉めたりしていたが、解消したのだろうか?」
「どういう風に解決されたか、よく分からないまま、有耶無耶のまま立ち消えになった印象が強いですね。それから、福島第一原発事故の事後処理として進められていた凍土壁の建設で、未だに一部が完全に凍り切らないままであることから、有識者のあいだでは、計画が破綻しているとの指摘が浮上している模様です」
「行き当たりばったりというか、誠実さに欠けるというか。自社の問題を、あたかも他人事のように捉えている感じがしてならないね。真剣に解決する気があるのだろうか?」
「対応の遅さには、疑問を挟みたくなりますね。あと、川に突き落とされて溺死した十六歳の少年を巡って、毎月の謝罪信書の提出を条件に、虐め加害者二人と被害者遺族のあいだで和解が成立したというニュースもありました」
「二、三年ほど前のニュースだね。そうか。あの裁判に、ようやく決着が付いたのか。しかし、この手のニュースは、どうしてもモヤモヤが残るね」
「和解が成立したからといって、亡くなった少年が生き返る訳ではありませんからねぇ」
「無念が晴れたかどうか。冥福を祈るしかないね」
「そうですね。報告は以上ですが、私事で一点、課長にお願いがありまして」
「何だい?」
「できれば、今日は三十分ほど早く退社したいのですが」
「構わないよ。理由は、聞かないほうが良いかい?」
「いえ。その、明日の昼に、お見合いすることになったので、今晩から実家に戻ることに決まりまして」
「そういうことか。何かと段取りについて打ち合わせたいことがあるものだからね。まぁ、会うことになったのなら、海原くんが一体どういう人間なのか、よく見極めることだ」
「はい。ありがとうございます」