#013「八月十八日木曜日」
――昨夜の十八時から二十四時に入っているニュースは、と。
台風は北海道あたりで温帯低気圧に変わったのか。
おっ。視覚障害者転落死の続報も入ってる。一日の利用者が十万人を超える駅で、ホーム・ドアが設置されているのは三割程度なのか。東京五輪までに、主要駅で改修工事が進められると良いのだが、果たして?
卓球女子チームの一人は、旧来の慣習に囚われない革命児のようだな。
銅メダル獲得という実績を上げるだけのことはある。卓球界のこれからに期待したいところだ。
高齢者が情報通信機器に対して無知なのをいいことに、不必要なサービスを組み込んだ料金プランを契約させるとはなぁ。阿漕な商売をするものだ。
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「おはようございます、清水課長」
「おはよう、小川くん。木曜日というのは、どうにも憂鬱なものだね」
「金曜日以外は、翌日も仕事ですからね。それより、これを見てください」
「お! 早速、買って来たんだね」
「はい。スタイリッシュなカバーでしょう?」
「どこかニュー・ヨークを連想させるような、ビビットな色使いだね。――それでは、昨夜のニュースを報告するよ。高齢者が情報機器に対して無知なのをいいことに、不必要なサービスを組み込んだ高額の料金プランを契約させたとして、槍玉に挙がっていた通信サービス会社が謝罪し、今後は七十五歳以上の契約解除を無償にする方針であることを発表したよ」
「情報の非対称性から生じた問題ですね」
「医療の現場でも、患者が病気に対して知識不足なのを出汁に、不要な薬や無意味な治療を処方して暴利を貪っているしているのではないかと言われたことがあったが、情報通信でも取り沙汰されるようになったね」
「悪いことを考える人にとっては、絶好の鴨なんでしょうね」
「よく知りもしない癖に、妙にプライドが高かったり、迷惑を掛けたくないと思ったりして、周囲と相談しない傾向が強いからね」
「ただ、こういうとき、加害者でも被害者でもない第三者が、執拗に事件について追及する姿勢が気になります」
「やったことが褒められた行動でないことは事実だが、自分の溜飲が下がるまで攻撃の手を止めないところは、賛同できない点だね。加害者が謝るべきは被害者に対してであるし、被害者がそれを納得すれば、それ以上に口を挟む必要は無いはずだし、下手すると両者にトラウマを植え付けかねないからね」
「匿名になった途端に、歯止めが効かなくなるんでしょうか?」
「個人を特定されなければ、何をしても許される訳ではないのにねぇ。――今日は会議があるから、報告は、この辺にしておくよ」
「今日は珍しく、午前中に会議なんですよね?」
「そうなんだ。ダラダラと続けないために、昼休みまでという時間制限を設けることになってね」
「良い傾向ですね。開始時間は厳守させるのに、終了時間を平気で引き伸ばす慣行が改まったようで」
「これを機に、呑みニケーションも全面撤廃されたら助かるんだけどね」