#010「八月十五日月曜日」
――昨夜の十八時から二十四時に入っているニュースは、と。
台風七号が北上中なのね。週末に本州に上陸するのか。河川の増水には気を付けないと。
今日は終戦記念日。昨日は広島の原爆体験者が、自身の経験を語ったのか。第二次大戦関連は外せないわね。
それから、熊本地震の被災者に二重ローン減免の申請が始まったのね。あれから四ヶ月近く経って、ようやく制度が追い着いてきたのね。
ナイジェリアで、イスラム過激派組織のニュースもあるわね。負傷者が出ないうちに解決したら良いんだけど。
あとは、あのことも課長に伝えないといけないわね。
*
「おはよう、小川くん」
「おはようございます、清水課長。週末に帰省してきたんですけど、実家が近いというのは、面倒なものですね」
「遠いと不便だけどね。僕も、妻の実家に帰省したんだが、途中で渋滞に巻き込まれて大変だったよ――それでは、昨夜のニュースの報告を」
「はい。昨夜は、戦争関連のニュースで、学徒動員されたのちに広島で原爆の被害に遭われたかたが、その体験を語られたそうです。二度と同じような惨禍が繰り返されないためには、過去にどれほど酷いことが起こったのかを忘れないことが大切だと、改めて思いました。それから、熊本地震から四ヶ月近く経ちましたが、被災者への二重ローン減免制度が、ようやく申請開始した模様です。震災前の生活を取り戻せるようになると良いのですが、申請者が誰でも受け取れる訳ではないようで、どこまで保障されるのかが再建への鍵になりそうだと思います。国際面では、ナイジェリアでアイ・エスが女子生徒を拉致し、政府に収監されている戦闘員との交換を要求しているとのニュースがありました。女性を盾に取るとは卑怯な手口だと思います。わたしからの報告は、以上です」
「どうも、ありがとう。僕も、第二、第三の原爆被害国が現れないことを切に願っているよ。それにしても、人災にしろ天災にしろ、一度破壊されたものを元通りに再生するには、長い時間が必要なものだね。文明が高度化するに従って、再起に必要な素材が増えるのは、本当に致しかたないことであるよ」
「高等生物ほど、自己再生能力が劣るのと一緒ですね」
「ウム。単体では出来ないことが増えるから、否が応でも集団で支え合わねばならなくなる。なるべく、衝突を避けたいところだね」
「一人で生きていけないのは、重々承知してますけど、それを両親から言われると、反発したくなるものですね」
「おや? その口振りだと、週末に何か言われたようだね」
「実は、この週末に、お見合いすることになったんです」
「ほぅ。人気だね」
「からかわないでくださいよ。本気度が違うんですから。何でも両親としては、三十歳までに片付けたいらしくて」
「でも、決めるのは小川くんだよ。たとえ、どうしても会わねばならないとしても、会った上で断れば良い」
「そんなことできませんよ。百貨店に行って、試着や試食をしたり、試供品を貰ったりした挙句、何も買わずに出るようなものではありませんか」
「そうかい? 厚かましいかもしれないが、欲しい物が売っていないのに、無理して買う必要はないと思うけどなぁ」
「内心では薄々、何も買えなくなる前に、どこかで折り合いを付けないといけないとも思っているんです」
「そういうものかなぁ」
「そういうものですよ」