#009「八月十二日金曜日」
――昨夜の十八時から二十四時に入っているニュースは、と。
フム。襲撃のあった障害者施設は、改修か建て替えられることに決まったようだな。事件の爪痕を消さないと、フラッシュ・バックしかねないものなぁ。
日航機墜落事故から三十一年か。当時は、まだ小学生だったな。何度も報道されてたものだ。テレビは、まだブラウン管が現役だったし、録画といえばビデオだった。
日記に、呟きに、写真。公開したことで問題にされるだけでなく、更新を休んでいることでも問題になるんだなぁ。有名人は大変だ。
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「おはようございます、清水課長」
「おはよう、小川くん。残暑見舞いが届くようになったけど、まだまだ暑いものだね」
「そうですね。立秋を過ぎたとはいえ、ちっとも涼しくなりませんね」
「昨年は割合に涼しかったが、今年は猛暑が続くから敵わないよ――それでは昨夜のニュースを報告するね。群馬の神流川では、日航機墜落事故の被害者の冥福と、航空の安全を祈る灯籠流しが行われたそうだ。小川くんは、まだ生まれる前のことだから知らないだろうが、事故発生当時は、連日にわたって一大ニュースとして報道されていたんだよ。それから、首相は十五日の靖国参拝を見送り、私費での玉串料の奉納を行なった模様だ。アジア諸国、特に中国と韓国に配慮した形だね。僕からの報告は以上とするよ」
「戦争は、良いこと無しですね」
「本当にね。嫌なしこりや、厄介な蟠りを残すだけだ」
「ご近所付き合いは、難しいものですね。――日航機墜落は、三十年ほど前ですよね?」
「そう。事故を巡っては、調査委員会が原因や経緯について公式に報告しているが、証言や証拠品の隠蔽が行なわれたのではないかという意見もあって、真相は藪の中なんだ」
「今なら、バッシングの嵐になるところですね」
「まぁ、この年の九月にプラザ合意があって、日本はバブル経済に突入したことで、目先の華々しさに眩んで、忘れてしまったのかもしれないね」
「土地や株の値段が高騰して、ブランド品を買い漁る人がいた時代ですね」
「海外旅行が一般化して、航空業界も大いに潤ったことだろうね」
「エコノミック・アニマルと揶揄されながら、ジャパン・アズ・ナンバー・ワンと浮かれていたんですよね」
「フワフワと舞い上がって、パチンと弾けた訳だ」