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魂の色  作者: 天野 みなも
3/3

悲哀ED

 薄れ逝く意識で、彼女がみたモノノケの姿は…


  モノノケの正体は人のようだった 



    魂の色:悲哀編



 彼女の声に答えるように、闇より現れたのは人の形をしたアヤカシだった。

 それは崩れ逝く彼女の体を抱きしめ、アヤカシは彼女を抱え込んだ。

 「ダメだ!!お前は……そんなものになってはいけない。」

 かすれた声で、だが力強く、そのアヤカシは彼女の耳元で呟いた。

 嗚咽を含むその声に、彼女は驚いて言った。


 「何故だ?お前は、私の魂が欲しかったのだろう?喰らいたかったのだろう?」

 「そうだ……だが、お前の魂が憎しみと恨みに染まるのは……見たくない。」

 その時、己の中の恨みの感情に支配され、魂さえも朽ち果てようとしていたことに気づいた。


 「お前はいつも強かった。だが、人の脆さも悲しさも知っていた。だから…そんな輝きを放つ魂を持つのだろう?」


 彼女は人ではない存在や死したものの思念を鎮める事を生業としていた。

 彼女自身、人ならざる力を持つがゆえに、孤独で、だから孤独と悲しみを抱えた思念を眠りにつかせたいと思っていた。

 それが、彼女の生きる意味であり、彼女の誇りでもあった。


 だが、その一方で今まで彼女を理解してくれる人間はいなかった

 彼女の能力は畏怖と侮蔑で迎えられるものであったからだ。

 だからずっと一人だった。

 一人であるがゆえに強くなければならなかった。

 たとえ誰からも理解されなくとも、、人とアヤカシの世界の間で生きるしかなかった。


 それが、死に際して最後の最後に彼女を理解してくれたのは、一匹のアヤカシ。

 

 「お前が……それを言ってくれるのか。」


 自分の魂を喰おうとしていたアヤカシが、最も自分を理解してくれたとは、なんと皮肉だろう。

 彼女は、かすれた声で、自嘲気味に笑った。


 彼女を覗き込むように見つめるアヤカシの瞳から、一滴の涙がこぼれ、彼女の頬に落ちた。

 銀色の長い髪に、銀の瞳。

 肌は白く、白装束を身にまとうそのアヤカシは月明かりを集めた月の精霊のように思えた。

 どうして魂を食べる化け物なのに、こんなに美しいのだろうか。

 月読命のようだと彼女は思った。


 「死なないでくれ……。」


 ぽつり、懇願するようにアヤカシは言った。

 彼女の負った傷は致命傷。

 だが、最後のわがままを言うように、アヤカシはその望みを口にした。


 「なぁ、私の魂は……少しは憎しみや恨みから解放された色をしているか?」

 「あぁ。まだ落ちていない。いつもと変わらない、輝きを放っている。」

 「そうか……。良かっ……た……。」

 アヤカシの言葉を聞いて、安心したような表情を浮かべた。

 その次の瞬間彼女の魂は、輝きを増したかと思うと、一瞬にして昼間のような明るさを放った。

 花火のように弾け、辺りは再び闇へ戻った。


 アヤカシはその日、初めて涙を流した。

 そして、この魂の輝きは、一生忘れないだろうと思った

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