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ブラックヒーロー  作者: 華原梓
7/18

過去の事、謎の男

生きている証が欲しかった。

ただ、最初はそれだけだったんだ。

影を持って生まれた意味がわからなかった俺に、母親すら目の前からいなくなってしまうほど不気味な俺に、

飛鳥さんは教えてくれた。


これが人を守る力なんだと。


それでも俺は納得できなかった。

そりゃそうだろう?

たかだか10歳そこらの子供に、人を守ることの何が理解できるというんだ。

しかし、この疑問や不安はすぐに無くなる。俺は取り敢えず飛鳥さんに言われた通り、やるだけのことはやってみた。

最初は老人の荷物持ちから始まり、その次に町内の雪かき、引越しの手伝い、災害後の復旧作業、その他諸々のまぁ、一口に言えば力仕事だ。

こんなことやって何の意味があるのか?

ただのボランティアに費やしてる時間が勿体無い、そんなことばかり思っていたが、当時の自分にできることは全てやった。

やった結果、人から感謝されるようになった。

それが何とも嬉しく思えた。

今まで自分の身体から出て行って欲しいと思っていた影が、こんなにも人を喜ばすことができるなんて思ってもみなかった。

これも人を守っていることなのだと、飛鳥さんがそう言って俺の頭を撫でてくれたのは今でも覚えている。

あの時から、俺は俺が生きる意味を知り、生きる証を手に入れた。

なんてことないことだ、ただ人が喜ぶ姿がこの影のお陰で見れる。

ただそれだけだった。

そして、それだけで良かった。

俺の影が人の役に立つ。


そう、本当に最初はこれだけで良かったはずなんだ。



「鉄平、もう普通に暮らしてもいいんじゃないか?」

俺が15歳を迎えた時、飛鳥さんは突然そう言ってきた。

最初は何を言われているのか理解できなかった。

俺は普通に高校にも行って、今まで通り人助けを続けている。

今まさに普通に過ごしていると思っていた俺には、飛鳥さんの意図が読めなかった。


「今のお前は、自分を見失っているよ。人を守ることに執着しすぎてな。もう、この辺にしときな。帰って来れなくなるぜ?」


余計に頭がこんがらがった。

帰って来れなくなる?

どこに?

疑問はたくさんあったが、

とにかく俺は飛鳥さんの言うことを聞かなかった。

聞けば、俺の影がまた忌み嫌われる存在になってしまうと思ったからだ。


そこから俺の人助けは変わってしまう。


いま自分にできることを全てやる、そこは昔も一緒なのだが、幼かった頃の自分と成長した自分とじゃあ、できることの大きさが大幅に変わったのだ。

影は身体の成長とともに、みるみる大きくなっていった。

ひとたび出せば、俺の身体を覆い尽くすほどにまで成長していた。

何でもできる。そんな気が湧き出てとまらなかった。

しかし、その頃から周りが俺を見る目が少しづつ変わってくる。

今まで感謝され、頼りにされてきたにも関わらず、今じゃ俺と目を合わす人もいない。

それどころか、助けを求めなくなってきた。なぜ?

なぜ俺は必要とされない?

いや、わかっている。

皆が言いたいことは俺に対しての態度ですぐわかった。

俺に力が足りないから、頼らないのだ。

いわばこの影が、中途半端なんだ。

中途半端な力は、不安を煽る。

不満が募る。

もっと、もっと強力な力が必要なんだ。

圧倒的力の前では全てが無力になる。

だが、それでいい。

俺が全てを救ってやれば、それでいいんだ。そのために俺は、この影を背負って生まれてきたんだから。


この世に必要なのはイディオムなんかじゃない。


ーーこの俺だ。


影が俺の全てを包み込んだ。

そして、強力な力を手に入れた。

今までの善意を、行為を、影とともに人を守ってきた過去を手放して。

それからはとても気持ちのいい日々だった。

誰も何も言わない。

自分のしたいことをできる、まるで俺のための世界のようだった。


“ブラックヒーロー”。


そんな名前まで付けられ、どんな意味がこもってるかも知ろうともせず、ひたすら俺は浮かれた。


「あなた、人間なの?」


ひょんなことでストーカーに追われている少女を助けた時に、そんなことを言われた。

同じくらいの年齢だったので、少女と呼ぶには少し年齢が上なような気もするが、取り敢えず失礼な奴だと思った。

ただ、言っている意味がイマイチ理解できなかったので、何を言うこともなくその場を去った。

俺はどこからどう見ても人間だろう。

多分素直にお礼を言うのが恥ずかしかったに違いない。

俺が言うのもなんだが、15歳というのは気難しい年頃なのだ。

とかなんとか無理矢理こじつけながら一人でブツブツ言いながら、結局帰りにそのことをずっと考えていた。

そして横断歩道にさしかかった、

その時だった。


突然、事件はやってきた。


雨が降りそうだったので、急いで帰ろうと思ってたところに、一台のトラックが蛇行しているのが視界に入った。

恐らく、居眠り運転だろう。

俺のスピードでトラックに着いていくのは容易い。

このまま追いかけて無理矢理止めよう、そう思い後を追いかけた。

しかし、蛇行したトラックは思わぬ方向に走り出す。


目の前にいたのは、小学生の集団だった。


マズイ。

後ろから引っ張るにしろ、前から抑えるにしろ、どの道間に合わない。

どうする?!

考えた結果、トラックに軽く衝撃を与え、進路を変えてから止めに入ろう、その結論に至った。

俺は瞬時にトラックの横につき、右拳を繰り出した。

この時はこんなことになるとは思わなかった。

まさか、トラックが二転三転しながら吹き飛ぶなんて。

本当に軽く衝撃を与えるつもりだったんだ。誰に言うでもなく、一人頭の中で言い訳をする。

助けた小学生は怯え、周りの大人たちは俺から子供たちを遠ざける。


「悪魔付き・・・」


そんな声が聞こえた。


悪魔付きだと?


じゃあ、この影は悪魔そのものってことか?

人を助けたこの俺が、なんでそんなことを言われなきゃならないんだ・・・、

なんで、そんな目で俺を見てくるんだ・・・

こんな扱いされるなんて、

俺は一体何を守ってきたんだ?

ポツポツと次第にザーと降ってきた雨は何も答えてはくれなかった。

しばらくして、救急車が来て、警察が来て、俺は連行された。

人を、小学生を助けただけだ。

トラックの運転手は居眠りをしていた。

周りで見てた人もいる。

ただ、俺を擁護する声は何一つなかった。

事情聴取の際、俺はこの影をイディオムだと嘘をついた。

それからはスムーズに話が進み、すぐに釈放された。

迎えに来てくれた飛鳥さんは何も言わず俺に傘を渡し、二歩先を歩いている。

俺も何も言えなかった。

わざとかさを差さずに頭から雨に濡れた。

なんとも表現し難い虚無感に襲われて、やるせなくなって、自然に出てきた涙を隠すために。

俺は何をやっていたんだろう?

あれだけ人のために頑張って、色んな人を守って、最後は裏切られ、挙句の果てに苦し紛れについた嘘が、俺がイディオムだと?

逆に笑えてくるよ。


俺はなんなんだ?生きる意味?証?力?


結局、そんなものただの言葉じゃないか、俺

は人なんか守っちゃいない。

俺は自分だけを守ってたんだ。

自分しか守れなかったんだ。


「鉄平・・・私は・・・」


「飛鳥さん」


俺は飛鳥さんの言葉を遮った。


「俺、人助けはもう辞めるよ。これから、この影はもう出さない。」


何かを言い出そうとして、

飛鳥さんは、「そうか、」と、

どこか悲しそうな声でそう言って、俺のすぶ濡れになった頭に手を置く。

顔を見られまいとして顔を背けながら、俺の頭を乱暴に撫でた。




「やぁ、お目覚めかな?」


目を開けると知らないおっさんが隣にいた。


懐かしい夢から覚めたところで、取り敢えずここはどこだと思いながらあたりを見回す。

腹部の痛みでさっきまでの出来事が夢でないのは確かだと確信したところで、ここが病院だと気づく。

そうか、俺はあの後無事病院に運ばれたのか


・・・前例があるだけに、また警察に連れて行かれてもおかしくはなかった。

あの状況ならむしろそっちの方が妥当だろう、よく俺は病院に運ばれたなぁ。

なんて、まるで他人事のように思う。


「・・・」


それにしてもこのおっさんは、なんで俺の病室でスポーツ新聞を読んでるんだ?

この人はあれか?

この病院の入院歴が一番長い人で新入りが来るたびに

「この病院に入院しに来て俺になんの一言もないとはけしからん」

とか言っちゃうような人で、

挨拶の一言もない俺に対してまさにイビリに来てるんじゃないか?

仮にそうだとしたら今この“間”は俺の一言を待ってるんじゃないか?

そういうことか?


「・・・あの、」


恐る恐る俺はおっさんに対して話しかけた。


「この度入院してきました、唐沢鉄平です。

よろしくお願いします。」


めちゃくちゃポカンとされた。

どうやら、俺の考えは間違っていたらしい。

まぁ、見るからにそんなこと言うには若すぎる。

飛鳥さんと同じくらいか、またはそれより少し上くらいか。

ただ、普通の人ではないということは確実に言える。

まず髪が銀色でそれをヘアバンドでかきあげえいる。

そして両耳にピアス、首にネックレス、指にリングと・・・

まぁなんというか、アクセサリーだらけな奴だ。

それだけで病院に不釣り合いとして異様なのに、俺が最も感じたのは、

「なんだい、まだ寝ぼけてんのかい?」


この不気味なオーラ。

只者ではないことはそれだけでわかる。

対峙するだけで、これほどまでに気圧される存在はそういないだろう。

と、そこで重要なこのとに気づく。

いや、もっと早く気づくべきだった。

俺はベッドから飛びおり、出口に向かった。


「おいおい、どうしたんだい?急に。」


そう言って俺の肩に手を置く。

それを強引に振り払った。

多分今俺の顔は相当慌てているんだと思う。


「あんたには関係ねぇ!日南、日比谷、あいつらは無事なのか・・・うぐぅっ!」


腹部から激痛が走り、その場に座り込む。

あいつらは、こんな俺の擦り傷程度の怪我じゃないはずだ・・・

そう、それも俺のせいで。

何を俺は呑気にこんなとこで寝てんだ!

俺は地べたを這いつくばりながら出口へと手を伸ばす。

が、その手も遮られる。

俺はおっさんの方をギロリと睨んだ。

おっさんは、ふざけるように両手の平を胸の横に上げた。

俺はそのふざけた態度が頭にきて、立ち上がり掴みかかろうとした。

が、さすがに思うように動けず、ヨロリとよろけながら、掴みかかるどころか、おっさんの懐でキャッチされる。

そして、ニヤニヤと笑いながら俺を見下ろす。


「すごい執念だね。ハハハ。けど、さっきの発言、関係ないと言ったねぇ?ハッ、それが関係ないことはないのさ。だって君や楓ちゃん、それにあの壊れメガネくん、はまぁ、フィクサーが面倒見たんだけど、一応俺が保護したんだからね。心配しなくても二人とも無事だよ。」


ハハハ、と俺をベッドに連れ戻す。

そして、俺は呆気に取られていた。

なんでこいつ、日南や日比谷のことを、無事ってのは本当のことなのか?

それに保護って、あのフィクサーからか?

そんなこと・・・できるのか?

いや普通ならできない。

あいつらから見れば、俺はエヴィル扱い。

一般人にも見えるほどの影を宿しているというのもあって、むしろエヴィルより扱いはひどいかもしれない。

まぁ、だからこそその場で発砲されたんだが、今はそれはいい。


つまりそれをこのおっさんは・・・。


俺は生唾を飲んだ。

ここで、俺に嘘をつく理由なんかない。

それに嘘をついてるようには見えない。

今はこいつを信じるしかないというわけか・・・。

にしても、聞きたいことだらけだ、何から聞けば、いや、最も聞きたいことを聞くんだ。それは・・・


絞り出した言葉は至極単純だった。


「あんた・・・何者?」


男はニヤリと笑ってこちらを見る。

窓から風が吹き、耳のピアスが微かに揺れた。

それを合図かのように男は、ゆっくりと口を開く。


「俺の名前は冬月玄士(ふゆつきげんし)。まぁ一応、暗夜行の創設者だよ。」


ーーよろしく。ブラックヒーロー、唐沢鉄平くん。

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