正義と悪と 1
「やってくれたもんだな、御堂。」
先頭に立つ白いロングコートを着た男が、後ろの軍隊に砲撃の止めを指示したと同時に口を開いた。
顎髭の毛並みを揃えるように顎を撫で、深くため息を一つつく。
年齢は三十くらいだろうか、纏っている風格と言うべきかオーラと言うべきか。
それが、見た目以上に年齢を重ねているように感じさせた。
「・・・私の行為に、何か問題でも?」
御堂はフィクサーの方へは一瞥もくれず、ひたすらに俺を見つめている。
今ある状況が心底どうでもいいのか、表情は至極げんなりしている。
さしづめ、俺との勝負に水を差されたのが、どうも気に食わないと言ったところか。
「大アリだ。
貴様、自分がフィクサー社からのお咎めを免除されている身分であるのをいいことに好き勝手してからに。
一体、“悪魔付き”をどうするつもりだ?」
そこで初めて俺と男の目線があった。
強い。
瞬間でそう確信した。
確か聞いたことがある。
黒いロングコートはフィクサー社の隊長格かそれ以上が着るのだと。
なるほど、道理で出で立ちが違うわけだ。
「どうもこうも、ただ若者とじゃれていただけですが?」
ーーブゥォンッ!!
御堂の言葉が言い終わるうちに、何かが視界の端をものすごいスピードで横切った。
ーーパァァッンッ!!
次の瞬間には後方で何かが砕け散る音が響く。見やると御堂の音壁が作動していた。
あのフィクサー社の男、今の一瞬で攻撃したって言うのか?!
「・・・さすがに小石程度じゃ威嚇にもならないですよ。」
と言いつつも、御堂の立ち位置は半歩下がっていた。
小石だったのか?
今の衝撃がか?
というか、そもそもどうやってノーフォームで小石を投げつけたんだ?
俺の身体は自然とそのフィクサーの男から距離をとっていく。
「貴様がフィクサー社から“黒の英伝”を盗み見たことはわかっている。
それで知ったのだろう?
お前の目的には“悪魔付き”が必要なのだと。だからこうしてここにいるのだろう?
唐沢恵子の息子、唐沢鉄平と。」
思いもよらない名前が出てきた。
さすがに驚きを隠せない。
この男もお袋を知っているのか・・・!
「えぇ、まぁその通りですよ。あなた方と同じ目的でね。」
その言葉で男の目の色が変わる。
やはり・・・。
フィクサー社の目的も、御堂の言っていた通り“影の力”なのか。
しかし・・・、疑問が残る。
「この男を捕まえた後、唐沢鉄平。
“悪魔付き”である君にも同行してもらう。」
そう言って俺を見やる。
・・・どう言うことだ?
あの暗夜行、団長の冬月曰く、
俺はお咎めなしになったんじゃなかったのか?
あいつが嘘をついているとも思えない。
じゃあ、何故俺が今更フィクサー社に目をつけられてる?
というより言い方にどこか不自然さを感じる。
何故“俺”ではなく、“悪魔付き”が必要と言うのだ?
それに連行、ではなく、同行と言っている。
御堂に対しての事情聴取、とは考えにくい。
あのフィクサー社の人間用の口振りからして、御堂のことは俺なんかに聞く必要がないくらい、マークしているようだった。
じゃあ、なんの同行だ?
これではまるで、エヴィルと同じ誘い方ではないか・・・?
「ほう、等々フィクサー社も動き出しましたか・・・。」
ニヤリと御堂が笑う。
それを鋭い眼光でフィクサー社の男が睨みつけた。
俺には何がなんだか状況が理解出来ない。
ただ、一つだけわかることがある。
身体の限界、思考の低下、周りは敵。
この状態は非常にマズイ。
「ふん、度の道貴様ら二人にはフィクサー社に同行してもらう。
何を勘繰ろうが勝手にするがいい。」
男は右手を軽くあげた。
同時に背後にいたフィクサー社の軍隊が銃口をこちらに構える。
多勢に無勢、御堂の顔に陰りが見える。
銃口には嫌な思い入れしかないのだが、今はそんな感慨に耽っている暇はない。
これじゃあ、御堂が捕まるのも時間の問題だ。
その後俺は・・・?
大人しく同行するか?それとも・・・。
「フィクサー社四番隊隊長、勝 晋作。御堂、貴様に正義を執行する。」