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ブラックヒーロー  作者: 華原梓
17/18

一方、その頃 3


「初めまして、暗夜行、団長。

冬月玄士です。」


思わぬ来客に日比谷は驚きを隠せなかった。


「こ、この男が・・・、」


冬月玄士、暗夜行の団長。

その姿は一言で言ってしまえば、変わっている。

髪にしかり服装にしかり、どこか逸脱していた。不気味とはまた違う異様な雰囲気は、闇ブローカーの毒島に負けず劣らずだった。


「身構えなくても大丈夫だよ。ここで何かする気はないから。それに、用があるのは日比谷くん、君じゃない。」


なぜ、自分の名前を・・・?

純粋な疑問を日比谷が抱いているところで、

冬月の目は、彼を捉えてはいなかった。



「へぇ、かの有名な暗夜行団長様が、こんな僕に用事だなんて。光栄だねぇ・・・。」


どこか棘のある言い草だったが、日比谷にとっても冬月の登場は謎でしかなかった。

素性の知れない相手に対して、わざわざ単身で、それも団長自ら出向くなんて。

余程の事情があるのだろう。


「・・・やってくれたね。」


一言そう言って頭をかく冬月。

なんのこと言っているのか日比谷には大方想像はできた。

が、なぜそのことをこの男は知っているのか理解できなかった。

いや頭が回らなかったと言うべきか。

普通に考えれば簡単なことである。

ついさっきまでの出来事で、このタイミングで出てきたということは、どこかで見ていたということだ。

そんな普遍的な考えが盲点になってしまうのは、多分毒島という男の異常さがそうさせているのだろう。


「とぼけても無駄だよ。呼んだんだろ?唐沢くんのところにフィクサーを。」


温和だった目が鋭くなる。

それに応じて毒島の顔からも笑みが消える。


「それがあんたに何か関係が?」

「大アリだね。唐沢くんはうちの団員だよ。」


その言葉に日比谷が反応した。


「おい、いつあいつが暗夜行に入るって言ったんだよ。」


その口調には怒気が含まれ、怒りの矛先は冬月に向けたものだった。


「鉄平はフィクサー社に」

「ないね。」


言葉を言い終える前に遮る冬月。


「確かにわずかな望みはあったかもしれない。が、それももう無くなったよ。」


チラリと毒島の方を見やる。

それは少なからず日比谷にもわかっていたことだった。

しかし、冬月と日比谷には、唐沢がフィクサー社に入らない理由について、大いなる考えの違いがあった。


「だから君には少し感謝してるんだよ。毒島くん。これで唐沢くんの暗夜行団員の道は揺るぎないものとなった。」


ニヤリと笑い、甚平の裾をガサゴソと漁る。

取り出したのは煙草だった。

そのまま口に加え、ライターで着火しようとした矢先、ふっと風で吹き込み火が消える。


「感謝だと・・・?!」


風の発生元には、怒りに震える日比谷がいた。


「ふざけるな!フィクサー社のおかげで団員になる?その前に殺されるかもしれないんだぞ!」


何が感謝だ!と叫ぶ。


改めて煙草に火を着けた冬月が、紫煙を巻いて口を開いた。


「君は根本的に勘違いしているようだけど、唐沢くんは死なない。」


まるで納得できないといった様子でなおも日比谷は煙草をふかす冬月を睨んだ。


「・・・まさか、ここまで見越して配置させていたとはね。」


押し黙っていた毒島が、静かにそう言った。


「まぁ、君の目的はわからないが君の存在は知っていたからね。何か仕掛けて来るならここだろうと予想していただけさ。」


ふぅと煙を吐く。

状況の理解が出来ていない日比谷には、二人の会話はさっぱりだった。


「ただねぇ、これ以上俺たちの周りをチョロチョロされるのもシャクなんだよねぇ。」


即座に日比谷は一歩下がる。

怒りのボルテージがみるみる下がり、

腕を見やると鳥肌が立っていた。

身体が咄嗟に動いてしまったのは、どうやら彼だけじゃなかったようだ。


「・・・」


毒島は元いた塀の上に飛び乗っていた。


そして冬月は視線を日比谷に切り替え、少し笑った。


「まぁ、今日は日比谷くんもいることだし、見逃すとしようか。」


先ほどまでの殺気はもはや跡形もなく消え、まるで狐にでも化かされたかのように気が抜けていた。


「ふっ、少し甘く見ていたよ。」


タンッと塀の上から地面に着地し、白いスーツの襟を直した。


「もう後は大した混乱も期待出来そうにないから、僕はこれでお(いとま)しよう。

ただ、全てがあんたの思い通りになったとは考えない方がいい。」


ハットをとり軽く会釈したところでその場から立ち去ろうとする毒島。


「・・・まぁ、それはわかってはいるさ。だからこそやってくれたね、と言ったんだ。」


ポリポリと罰が悪そうに冬月は頭をかく。

お互いから言葉が消え、三者三様このまま解散しそうになったところで、咄嗟に日比谷は毒島を呼び止めた。


「おい、ちょっと待てよ!」


呼び止められた毒島は背中を向けたまま、足を止めた。


「この際だから冬月さん、あんたにも言っといてやる。鉄平はフィクサー社に引き入れる。何年かかろうが、俺がそうさせてみせる。」


言われた当の本人、冬月は肩を少しすくめ、吸い殻を携帯灰皿にグリグリと押し付けていた。

その顔は、どこか嬉しそうにも見えた。



「それに、毒島。お前の話しを聞く限り、大したことはわからないが、どうやら鉄平を使って何か企んでるのはわかった。

目的はなんだ?!」



ここでようやく毒島が振り返る。

ハットのツバを少し下げ、笑いを堪えるのを我慢してるような表情を隠した。


「あはは、そこまで愚直に聞かれたのも久しぶりだなぁ。

・・・いいね、君の友達思いの熱意に応えて、懇切丁寧に答えてあげるよ。」


そう言って頭からハットをとり、両手を広げて毒島が笑う。



「僕は黒の英伝という本を探している。

そして、それを使って革命を起こす。」



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