ことの始まり、普通の終わり
初投稿です。誤字脱字、読みにくさ等
指摘頂けたら幸いです。
是非一度目を通してやって下さい。
今からほんの少し未来の話、俺たちが住んでる地球に未知のウイルスが襲った。
今だからこうして冷静に話せるが、当時は世界規模での問題で各国が混乱と不安のドン底に突き落とされていた。
言うなれば、あれは人類滅亡の危機だったんじゃないかと思う。
なにせ全世界での死者の割合がおよそ15%にまで及んだのだから。
それでも人類はすごかった。
そんな混沌とした状況の中でも誰一人として、「生」を諦めなかった。多分歴史上初めて全世界が一つになったんじゃないだろうか。
ーーそして、抗体を持つ者が現れた。
まさに、一筋の光が混沌とする世界に指したのだ。すぐさまその者の身体を調べウイルスへの抗体を摂取しようとした。
ーーーが、
何一つとして、その者の身体に特異な点は見つからなかった。
ウイルス感染してしまった人間は、信じられないかもしれないが、人間でなくなってしまうのだ。
具体的に言えば、身体は黒と言うより闇そのもののようにくすみ、異形の者となって灰なる。
そのあとはサラサラと風に乗って風化してしまうのだ。それ故にウイルスに感染した者を調べることができず無差別に起こる、その常軌を逸した事態にただ怯えるしかなかった。そしてようやく抗体を持つ者
つまり闇に染まってはいるが風化しない者が現れたのだ。
その者は八十歳過ぎの男性だった。
もう動くこともままならない状態でウイルスに感染してしまったのだという。
なので、
この身体で少しでもわかることがあるなら、
と研究に身を捧げたそうだ。
そして学者たちは来る日も来る日も研究に没頭した。
学者たは頭を抱え、特異な点がなくとも、なんとかウイルスの尻尾をつかもうと毎日必死に老人の身体を研究した。
そんなある日、一人の学者が言った。
「脳を調べてみませんか?」と。
そんなもの今までだって幾度も調べてきた。
何故今になって、この学者はそんなことを言い出したのか?
実は研究対象の老人は研究を重ねていく日々のなかで老衰で亡くなっていたのだ。
故に脳をもっと中枢まで調べられる、という意見だったのだが、当然死者を冒涜するなと反対意見も多かった。
なんだかんだ大掛かりな多数決までやって、結局調べてみることにした。
これが人類がウイルスに勝利した瞬間である
抗体は頭の中にあったのだ。
決して老人が生きてるうちには診れない場所にあった。
そして、ようやくウイルス感染の魔の手から人類は逃れた。
人々は歓喜し、生き延びたことを心から祝った。
ところがウイルス感染が無くなるほぼ同時に
日本で奇妙なことが起きていた。
ウイルスの抗体を持った者の中に、特異な力を持つ者が現れた。
決して生まれもっての力ではないと
いうことで、すぐさま脳を調べたところ、驚くべき結果がでた。
ある者は物体を浮かし、ある者は別の場所にワープしたりと、その特異な力を使ってる時に限り、
脳が100%活動しているのだった。
人の脳というのは約1%程しか使われないと言われている。
なので、100%など異常であり、決してあり得てはいけないことなのだ。
現段階で何故このような結果になったのかは原因不明。
こういう特異な力を持った者が他にもいるのかも不明。
ただ一つ言えるのは今後の日本は、良くも悪くもこれらの特異な力によって左右されるだろう。
全く憶測のきかない事態、学者たちはそういった意味も踏まえて“彼ら”をこう呼んだ。
ーーイディオムと。
「コラ!起きろ、唐沢!」
俺の名前が呼ばれている気がした。
だが気のせいだろう。
俺は今イタリアの喫茶店で本場のピザを食べているのだから。
こんな優雅な昼下がりのランチにそんな無粋な怒鳴り声を浴びせてくる奴なんてこのイタリアにはいない。
そもそもこの俺、唐沢鉄平の名前を知ってるも奴もいないだろう。
なんとも落ち着いた空気、心が洗われるかのようだ。
平凡な日常にあるちょっとしたご褒美ほど甘美で充実したものはない。俺はこれでいい。これ以上は望まない。
このピザのような食べたらなくなってしまう儚い存在で充分だ。
あぁ、イタリア。その長靴のような形にどれほどの魅力がつまーー
「バシッ!」
「痛ぇっ!」
後頭部に重い衝撃が走った。
咄嗟に顔を上げると、見慣れた風景に見慣れた担任教師の顔があった。
「俺の授業で寝るなんざ、良い根性してるじゃねぇか、えぇ?唐沢よぉ、」
お世辞にも教職員とは思えない歪んだ笑顔で俺の顔を覗き込んでくる。この人、職間違えたんじゃないか?
「やだなぁ、俺寝てませんよ?目をつむって話聞いてた方が頭に入りやすいんですよ。
ホラ、あのスピードなんとかも寝てる間に
覚えてる!なんて言ってるじゃないですか?」
「おもっきり寝てんじゃねぇか、しかも俺イタリアの授業なんてしてねぇし。」
俺、寝言までイタリアって言ってたのか、どんだけ行きたいんだよ。
クラスの皆がクスクスと小さく笑うなか担当教師だけが「はぁ」と深いため息をついていた。
「これでお前がイディオムだったら先生どれだけ楽だったか・・・」
しみじみとそうボヤいた。
確かに俺がイディオムであれば、この教師は今のように、居眠りをしていた俺を怒る必要もなかっただろう。
というのも、イディオムは自分が望めば好きな職業に就ける。
そして、大体のイディオムが国に登録をする。そうすることによって、
国直属の組織に入り軽犯罪からテロまで、この国の秩序を守るために日々活躍する。
いわばヒーローのような存在なのだ。
国に登録すると言うのは、いわば国直属の組織に入る履歴書みたいなもので、これが逆に登録する前に組織から“スカウト”されることもあるらしい。
まぁ、滅多にないらしいんだが。
そして、そこに入れば、もちろんそれ相応の給料もでるしメディアなんかに出てる人は国民の人気者だ。
最近は犯罪もめっきり減ったため、アイドルや歌手という副業で見かける方が多い。まぁ犯罪が減ってるのは喜ばしいことなんだろうけど。
「先生、唐沢には無理ですよ。」
凛々しい声がクラスに響いた。
眼鏡をクイッと上げるとそいつは俺の方へとツカツカと歩いて来た。
見るからに優等生、そのくせ真面目過ぎず女子にも人気の高いイケメンいわゆるリア充男、日比谷京介は、
俺を一瞥してフッと鼻で笑った。
「唐沢のようななんの取り柄のないやつが、イディオムになれるわけがありません。
イディオムは一種の才能なんですよ。選ばれた者だけがその力を使える。僕のようにね。」
そう言って日比谷はパチンと指を鳴らした。
その瞬間、俺の周りに風が巻き起こりフワッとイスごと宙に浮いた。
おぉー!っとクラスの皆が拍手をする。
まるでマジシャンのアシスタントをしてるような気分だ。
力のあるものが己の力を誇示し、力のないものが力のあるものを讃える。
俺にはその光景が酷く滑稽に見えた。
「もういいだろ。さっさと降ろせキザ野郎」
俺の言葉な日比谷はまたもフッと鼻で笑う。
「なぁ唐沢。俺たちももう、高校三年生だ。もう進路は決まったのかよ?お前のことだ、大学にも行かず働くんだろ?」
まるで親か教師だ。
「うるせぇな、お前には関係ないだろ!」
「ちなみに僕はフィクサー社からすでにオファーがかかっている。高校卒業後、すぐにウチで働いてくれとな。」
おぉーー!とまたもクラス中が湧いた。
それもそのはずフィクサー社というのは、さっき言った国直属の組織のことだ。
イディオムは将来このフィクサー社という組織に入ることを約束されてると言ったが、十代でオファーがかかるというのは正直聞いたことがない。
まして、すぐ現場で働くとなると余計に前代未聞だ。
「ハッ、俺だって就職先のアテくらいあるっつうの。」
言ったあとでものすごく後悔した。
「就職先ってまさか、お前のバイト先のあのいかにももうすぐ潰れますって感じのコンビニじゃないだろうな?」
図星だった。言わなきゃ良かった。
「お前には関係ないだろ!」
「図星じゃないか!」
クラスが大爆笑の渦に包まれた。
恥ずかしさとやるせなさでなんだか悲しくなった。
どれだけごく普通の平凡な生活がありがたいか、こいつらはわかってなさすぎる。
普通に生きて普通に生活することの何がいけないんだ?
イディオム?そりゃカッコいいだろうよ。
でもな、俺たち平凡がいてこそお前ら特殊な奴らが際立つんだろ!助けてもらう人がいて、初めて助ける奴がでてくるんだろ!世の中失敗しないやつなんかいない。
誰かの助けが必要な時なんて山ほどある。
助ける側の奴だって、助けてもらう側にまわることだってあるはずだ。
それが普通なんだよ。
助けたことへの自己満足しかない奴は力に溺れてる証拠で、そういう奴はだいたい身を滅ぼす。
「力があるってのはそんな単純なもんじゃないんだよ」
か細く言い放った俺の言葉は笑いの渦に飲まれ、誰の耳に届くこともなかった。
今にして思えばなんでこんなコンビニのバイトをしてるのか謎である。
客入りの少なそうなところを選んで自分が楽をしたいと思ったのは間違いないが、それにしても客が来なさすぎる。
自分で自分の首を絞めるとは言うが俺は高校一年の春に戻って自分の首を絞めてやりたい気分だよ。
少なくとも大手チェーンにしとけと。
そう俺は今バイト中である。
レジの前で来もしない客をただひたすら待つだけのバイトだ。
無論客が来ないと言うことは、給料もそれ相応というわけなので、正直もう辞めたいというのが本音。
日比谷の前では張り合ってここの正社員になるとか言ってしまったが、これだと正社員もクソもない。泥舟に乗ったタヌキだ。
しかし、辞めるに辞められない理由といのもあって、、、
「おい、鉄平。てめぇ便所掃除したのかよ?」
このチンピラみたいな言葉遣い、驚くことなかれ女の人です。それも三十路をこえたアラフォーのいい大人なのです。そして、この店の店長なのです。
「だれがアラフォーだって?私はまだ三十五だ!」
在庫部屋の奥から出て来たのは詐欺並みに若作りした綺麗な女性だ。
いつ見てもアラフォーとは思えない。
というか俺アラフォーなんて一言もしゃべってないのだけど。
「さっき掃除したばっかりですよ?」
「じゃあなんでゴキブリがいるんだよっ!」
知らねぇよ。
トイレ綺麗にしたところでゴキブリがでないとは限らないっつうの。
「まぁまぁ、そんな怒らないで下さいよ、またシワが増えちゃいますよオゴパぁっ!」
ぶっ飛ばされた。
バキッ!と一撃いいのをレジ越しにもらって俺は奥の棚に吹っ飛んだ。
「余計なこと言ってねぇで仕事しやがれ!」
ツカツカと在庫部屋へと戻って行く店長。
仕事っていったって、客が来ないのに仕事もクソもねぇじゃねぇか。
これらからわかるように、俺がこのバイトを辞められない理由の一つとしてここの店長が大きく要因している。
まぁ、色々とお世話にもなってはいるのだが。
というのも俺はこのコンビニに居候になっている。
コンビニといっても大手チェーンではなく、個人経営なので家とも繋がっているのだ。
だからこの店の店長、霧咲飛鳥と同じ屋根の下で面倒みてもらっているというわけ。
家賃はここでのバイトと炊事洗濯身の回りの整理整頓。
いささか割りに合わないような気もしないことはないが、住ませてもらっている以上文句は言えないし、バイトも辞められないのだ。俺は五歳の時から飛鳥さんに育ててもらっている。
父親は俺が物心つく前から死んでて、母親は行方不明。
実際何をやってるのかは知らないし聞いたこともない。
ただ、だいたいの見当はつく。
飛鳥さんには小さい時からお世話になっているから、なんとかしてお店を繁盛させようとはしているものの、ここは壊滅的に人通りが少ない。少な過ぎる。
いや、人がいない。
店の移動を仄めかしてはいるが、あの人もなかなか頑固で今まで続けてきたこの店を私の代で変えたくはないのだと。
まぁ気持ちはわからなくもないが、なんとも昔の人ならではの考え方だなと思う。
「あの、すいません。」
と、俺が物思いにふけっていたところで女の人の声が聞こえた。
顔を向けると同じくらいの年齢の女性がレジの前に立っていた。
念願の客である。
腰くらいまである長い髪を後ろで三つ編みにしているその女性は、よく見ると女性というより、同じくらいの年齢の少女だった。
なんとも端整な顔立ちをしていたがその目はどこか冷たさを感じさせた。
「いらっしゃいませ!何かお探しですか?」
目一杯声を高くして愛想笑いをする。
ニコニコと笑ってるうちに気づいてしまった。
同じ学校の制服ということに。
顔ばかり見ていて全然気づかなかったが、その瞬間妙な気恥ずかしさが増し、たちまち目が合わせられなくなった。
なぜ、よりにもよって同じ高校のしかも女子がこんなところに・・・。
するとその女子の口から、さらに混乱する言葉が出てきた。
「この辺りで黒いかげのようなモノを見ませんでしたか?」
「・・・は?」
ひょっとするとこの人は客なんかではなく、かなり痛い人なのではないか?
とそんなことを思ってると俺の顔に出てしまったのか、
その女子は「どうも」と
一言だけ挨拶をして店の外へと出てしまった。
なんだったのだろう?十中八九冷やかしだとは思うが本人はいかにも真剣だったような。それに、
「可愛かったなぁ・・・」
おっと、いかんいかん。
惚けていたら飛鳥さんの鉄拳をお見舞いさせられてしまう。
俺はパチンと両手で頬叩き、来る可能性の低い客を待つことに専念した。
「ごちそうさまでした」
夕食を食べ終え、俺は洗いもの飛鳥さん風呂へと向かった。
やってることが逆のような気がするが、まぁ今に始まったことではない。
そういえば今日好きなドラマが最終回だったはずだ。
それを見て今日はもう寝てしまおう。
日比谷の憎まれ口もドラマの最終回とともにおさらばだ。
カチャカチャと手際良くお皿を洗っていき、全ての食器類を棚へと戻す。
あとは店の戸締りさえすれば今日の俺の仕事は終了だ。
じっくりドラマを見て風呂で疲れを癒そう。風呂だけが俺の苦労を知っていてくれる。
そして、そぎ落としてくれるのだ。
「考えがもうオッサンじゃねぇか。」
「わぁっ!?」
すぐ後ろに飛鳥さんがいた。全然気配がなかったので必要以上に驚いてしまった。
「びっくりしたー。もう、その気配消すのやめて下さいよ。心臓に悪いですって」
「アハハ。悪い悪い。風呂空いたからって言いに来たんだが、どうもお前が物思いにふけってるもんだから、ちょっとおどかしてやったのさ。」
アハハと気分良く笑っている飛鳥さん。本当になんというか、この人は無邪気だ。
「そうですか。じゃあ店の戸締り済んだら入らせてもらいますよ。」
そう言って階段を降りていった。夜の店はハッキリ言って不気味だ。
人の気配がしない上に店の外には街灯少ない。
それ故に店の灯りをつけたままでないと何も見えなくなってしまうのだ。
俺は店の灯りを頼りに全ての鍵をチェックして廻った。こればかりは毎日やってても慣れないもので、怖い。
お化けや幽霊を信じてる訳じゃあないんだが、野良猫のちょっとした動きででる物音にビックリさせられる。
肝が小さいのだろうか?
いや、誰だって暗くて無音の場所は怖いに決まってる。
それが例え大人だとしても、
「イディオムだとしても・・・」
言ってみて笑う。
なんの自虐ネタだこれは。
心のどこかで俺はイディオムを憧れているのだろう。
口では興味ないようなことを言っておきながら、その実うらやましいのだろう。
なんとも気持ちの悪い嫉妬心だ。
ヘドが出る。
「さぁーてと、ここで終了、、、ん?」
店の外の数少ない街灯の下で何かが動いたような気がした。
それも、人影らしきものが。
こんな時間に客、ってことはまずないだろう警察ならあんなところにいないでもっと堂々としてるはずだし。
「あのー、そこで何してるんですか?」
そう言った途端フッと消えた。
あれ?と思うもつかの間、今度は少し離れた街灯の下が微かに揺れた。
なんなんだ?一体、、、
後追いかけながらその現象は続き、俺はかなり店から離れてしまった。
しかし、もうこの付近で残る街灯は今目の前の一本しかない。
追いつめたという表現があってるかはわからないが、ともかくこれで最後だ。
「あなた一体なにやってるんですか?」
俺の問いにとうとう姿を現したモノは街灯にあてられハッキリと俺の目に映った。
「な、なんだこいつは、、、!」
一言で言うなれば、黒い影だった。
人らしきものに纏わり付いている黒い影は禍々しく、街灯の灯りを飲み込むようにユラユラと揺れていた。
「ほう、お前この影が見えるのか。やっぱり思った通りだ。」
ゾクッと寒気を感じた。
今まで感じたことのない、およそ人には出せない圧倒的悪意をその人物から放たれていた。
下手をすれば殺されるとまで思えてきた。
「なぁ、お前のその力、イディオムではないその悪魔の力をコチラ側で使ってみないか?今日はそのためにお前に会いにきたんだ。」
なにを言ってるんだこいつは。
コチラ側ってなんだ?それに・・・なんで俺の力まで知ってるんだ?!
「いやぁ、お誘い頂いたのはありがたいんですが俺にはそんな才能、皆無なんで。」
なるだけ相手を刺激しないように徹した。
わけのわからない、危ない奴が目の前にいてここまで冷静になれるのかと、自分が少し信じられない気分だった。
本当に今日はロクなことがない。
「なぁに、大丈夫さ。お前は俺たちと同じ匂いがする。才能云々ではなく、人間の本質的にお前はコチラ側だよ。」
「違う!お前らなんかと一緒にするんじゃねぇ!」
瞬間、取り乱したことに気づいた。
なにを言ってるんだ、俺は。なぜ今冷静さを欠いた?
惑わされるな。
得体の知れないものを前にして真面に話なんかするんじゃねぇ!
俺はなんとか逃げる機会を伺うが、どうもそう簡単なことではないらしい。
さっきから身体が動かなくなっている。
コイツ、イディオムだ。
「なぁ、イディオムが人を助けるのは当たり前なのか?なぜ自分の力を他人のためにつかわなくちゃいけない?なぜ自分のために使っちゃいけない?そう思うだろ?なぜ国のトップは俺たちイディオムが反乱を起こさないと思ってるだ?」
まさかコイツ、テロリストか?
今の言い方だとどうも一人じゃなさそうだ。今この場にも仲間はいるのか?
クソッ、どうすりゃいい?
「力を持たざるものは力を持ってるものにどうやったって勝てないというのに、分を弁えてない奴が多すぎて困る。」
「分を弁えてないのはどっちだ?」
あぁ?と低い声でソイツは威嚇し俺の胸ぐらをつかんだ。
グイッと上げられなお身体が動かない状況だったが俺は我慢できなかった。
「お前らみたいに力に溺れてるやつなんかと俺は違う。人は人に助けられなが生きていくもんなんだよ!お前の考えはクソだ!力を自分のためだけに使う?それじゃただのバケモノじゃねぇか!」
バキッ!
腹部に強烈な一撃をもらった。
飛鳥さんの比じゃないくらい、痛かった。愛のない拳がこれ程痛いとは。
ゴフッと咳こめば真っ赤な綺麗な血が吹き出した。
あぁ、ここで俺は終わってしまうのかと思うとなんだか泣けてきた。
もっとやりたかったこと一杯あったのに、結婚もせず、童貞のまま、こんなワケの分からない奴に殺されるのか。
「最期に言いたいことはあるか?」
いっそ命乞いでもしてみるか?
今からでも一緒について行きますって言えばなんとかなるんじゃないか?
いや、無いな。俺的に考えて口が裂けても言えないよ。
「ぐだばれ、ねぐら」
そう言って俺は目を閉じたーーー。
「あなた、死にたがりなの?」
突然聞こえてきた声に顔上げた。
そこに映ったのは見覚えのある女性、今日のお客第一号だった。
「お前、な、なにやっでんだ!早く逃げ」
「終わったわ」
へ?と間の抜けた声を出して、その女性の後ろを見ると、さっきまで俺を殺そうとしていた奴が仰向けに倒れていた。
そして、その数秒後サラサラと黒い砂のようなものになって、跡形もなく消えてしまった。
「なんなんだ?一体・・・」
よろめきながら俺は上体を起こしその女性をまじまじと見た。
確かに夕方うちのコンビニに来た客だ。確か俺と同じ高校だったよな?
それがどうしてこんな状況に、頭がこんがらがって収集がつかない中、その女性は俺に手を差し出してきた。
「・・私、日南楓。」
いきなりの自己紹介になに考えてだコイツ?と思いつつも俺は手を握り返した。
「俺は唐沢鉄平。」
ぎこちない挨拶を交わす。
この日のこの出会いから俺の普通じゃない人生の全てが始まったーーー。