○○取の翁、その二でござる
基本プレイ無料スマホゲーム、タップ&ブレイバーズ。
安易にインフレを起こさない、多彩なプレイスタイルを認めたそのゲームには、ある一つの要素があった。
いわゆる、隠しキャラクターと呼ばれる存在である。
サービス開始から半年間の間、誰もその存在を知らなかった。それはある時一人のプレイヤーによって発見される。
“花の妖精 小菊”
金色の髪に白いワンピース。上から見るときっとまさしく白い小菊のように見えるだろうその幼い女の子のキャラクターは、正しく誰もが見たことがないキャラクターだった。保護欲をあおるあどけない笑顔、それは数々のロリコンたちを魅了した。
しかし、伊達に隠しキャラクターとは言われない。
その入手方法は超難易度であった。情報のあった第六のダンジョンを数万回プレイしても、ゲットできるとは限らないどころか遭遇すらできない可能性が高い、まごうことなき超々レアキャラクター。
課金し続ければ入手できるガチャのレアキャラクターよりもずっと労力を必要とするため、それをゲットすることはロリコンにとって一つの勲章であった。
ロリコンたちの本気の証。
そしてそんな中、あがめられる存在がいた。
事前情報がない、存在の可能性すら見えないような状況から、ロリがいるという『直感』で第六のダンジョンめぐりという意味不明な行動を続け、まるで必然とでもいうようにタップ&ブレイバーズ唯一の隠しキャラクターを発見したその男。発見にとどまらずさらに周回を重ね、一体では足りんとでもいうように幼女の乱獲を続ける狂人。
試行回数は百万回を超え、総入手小菊数が五十を上回る猛者。
掲示板に定期的に上がるスクリーンショットでいつもリーダーが“月夜の竹姫”に設定されていたこと、そして何よりそのアカウント名から彼はこう呼ばれる。
幼女取の翁、と。
*
「……主殿が昨日あんなことを言うからでござる」
ジト目でにらみつつ、案の定俺を盾にするニンゾー。
だからなぜ主を盾にする。
「あらおじいさん、あちらにまた新たに可憐な少女が来ましたよ……はあ、はあ……いいですねえ、あのすべすべのほっぺた……」
しかし件のオキナはもちろんとして、竹姫の方もヤバいんだが。
緑の髪を乱し、虫取り網を素振りしながらニンゾーをロックオンするその様子はとても美麗イラストにあった深窓の令嬢と同一人物だとは思えない。
そんな興奮状態の竹姫の肩に、そっとオキナが手をのせた。
「タケよ、おぬしはそんなんじゃから二流なんじゃ」
そう言い、すんすんとオキナの鼻が動く。
「この臭い、服部忍三は……十八じゃな。少女のような見た目をしておってもBBAはBBA、キチンと見極めるんじゃ」
「な!? それは本当ですかおじいさん! あんなに可愛いのに……」
「ロリとは見た目ではない……心の在り方じゃ! 十二歳までが至高、異論は認めん!」
やだキモイ。
しかし、ニンゾーは心底ほっとしている。
「どうやら今回は拙者は対象外でござるな……」
「ばばあ呼ばわりでもいいのか」
「若さを主張して奴らの食指が動くよりは」
さようか。お前もいろいろ大変だな。
「くっ! では仕方がありません。やはりここは小菊ちゃんを抱きしめて肩車して高い高いしてあーんしてあーんされて一緒にお風呂に入って背中を流し流されするしかありません……!」
やべえよ、この人。
「見ろよニンゾー、変態なのはプレイヤーだけじゃなかったぞ」
「うええええええん」
小菊ちゃんがまた泣き出してしまった。そりゃそうだ。あんなん怖いわ。
「何を言っとるんじゃタケ」
またポン、と竹姫の肩をたたくオキナ。
「やはりまずはあの柔らかそうなあんよで踏んでもらわねば! 小菊ちゃん! わしは平均台じゃ! さあ一緒に体力測定を! 出来れば背中側じゃなく腹側で頼むんじゃ! はあ……はあ……」
「うわ……」
「うええええええん、姉上ええええええ」
「主殿、確かにプレイヤーだけだと言ったのは謝るでござるが、変態を収容する施設が必要なことに変わりないでござるよ」
「そうだな……」
しかし竹姫ならまだしも、武蔵丸系の武闘派キャラなら難なく脱走できそうで管理が大変そうだ。どうか厄介な変態キャラクターが現れませんように。
「……そうじゃ、それでそこのプレイヤー」
「ハトリだ」
「ハトリか、どうか小菊ちゃんをわしらに渡してもらえんじゃろうか」
「いや渡せるか」
そんなん聞いてから幼女をはいどうぞって、どこの外道畜生だ。
さすがにいくら敵キャラ扱いだとしても幼女の未来を闇に染めるのはためらわれる。
「ほう。だが本当にいいんじゃな? おぬしもここに来るくらいのプレイヤーなら、まさかタケのスキルを知らんわけでもないじゃろ」
「おじいさん、ためらうことはありません! 小菊ちゃんと私の仲を引き裂く奴は殺すべきです!」
「物騒でござるな……」
俺の中でどんどん竹姫の印象が悪くなる。
ああ、もう、弓まで取り出して。そういえば伝承の中の竹姫が弓を使う描写はなかった。ゲームとして攻撃手段がないといけないから弓を持つことになったんだろうか。
「ふう、しかしタケがこういうのも、まあ仕方ないんじゃ。小菊ちゃんイズ幼女、幼女イズ天使、つまり小菊ちゃんイズ天使なんじゃ!」
「いきます! “時の月光”!」
きらりと、昼間にもかかわらず起こった白銀の光はまさしく月明かりだった。
かざした手からその光はまっすぐ注ぎ、ニンゾーを包む。なんというか、非常にゲームらしい、ファンタジックなその様子に俺は思わず感心する。
ニンゾーが突然の光を遮るように顔の前に手を出す。
「な、なんでござるか!?」
「大丈夫、あなたには手出ししません。ちょっと止まっていてもらうだけですので」
「な、主殿、これは……」
これは、の続きは発せられない。
ニンゾーは「あ」音の口の形のまま、完全にその動きを止めていた。
やはり、竹姫のスキルをこの世界に当てはめるとこういった効果になるか。
「五ターン、いや、“五分間対象一体の動きを完全に止める”スキルか」
「その通り、たよりのキャラクターがいなくなって不安でしょう? だけどもう後悔しても遅いです。あなたにはここで死んで、いえ、元の世界に帰ってもらいましょう。大丈夫、あなたがいなくなってからも相方さんには手を出さないと誓いますので、安心して帰ってください」
「お、お兄さん……」
「ふふ、大丈夫ですよ小菊ちゃん。もちろん、小菊ちゃんには危ないことはしませんからね。ただちょっと、なでなでしたりぎゅうっとしたりすりすりしたりするだけですから」
「うええええええん」
竹姫は弓を引き、矢の先をまっすぐ俺に向ける。
「なんじゃ、ずいぶん落ち着いておるの。仮にとはいえ、一度死ぬというのに」
「強がりですよおじいさん。さあ、さよならです!」
ひゅん、と矢が放たれる。
さすがレアキャラクター、専門外でもその弓の腕はなかなかで、まっすぐ俺の額めがけてそれは飛ぶ。寸分たがわず、相応の速さで。
だからこそ、俺はそれを簡単につかむことが出来た。
「「な!?」」
「確かに、ゲームのボスみたいに相手が一体だけの時は竹姫のスキルはめちゃくちゃ強力だ。だけど二人以上いる相手にはあんまり過信しすぎない方がいいと思うぞ。あくまであんたのスキルは“一体を止める”ものだから」
俺は矢をへし折り、牽制に昨日買ったばかりの手裏剣を投げる。
もともと当てるつもりがなかったが、驚いた竹姫が変なよけ方をしようとしたせいで肩のところをかすり、すっぱりと裂ける。ゆったりとした和装だったから肌にまでは届かなかったみたいだ。
先程までの態度もどこへやら、竹姫の顔は青い。
「はえ!? そ、そんな、プレイヤーはみんな戦闘力皆無なんじゃなかったんですか!? 私あんなに余裕の台詞吐いちゃったんですけど!?」
「わ、わしに言われても知らんわい! くう……」
オキナは俺と小菊ちゃん、そして動きを止めたままのニンゾーを見比べる。
俺が腰から忍者刀を抜き放ち構えると、奴は後ろへさがった。
竹姫は元々、直接戦闘を得意とするタイプではない。主力キャラクターを十全に生かす、縁の下の力持ち。使い慣れているだけあって、その特性をよく理解しているのだろう。
それに、止まっているとはいえニンゾーの存在も大きい。人気投票で一位を取れるだけのことはあり、その顔を知らないものはこの世界のプレイヤーの中にはいない。五分後を想像し、撤退の選択を取るのだったら賢明だ。
奴は知っている。ニンゾーは強い。直接戦闘では竹姫に勝ち目はない、と。
しかしその表情は最後まで悔しそうに歪んでいた。
「……ここは一度引くべきじゃ。“ダンジョンをリタイアする”!」
「そんな、ああ、小菊ちゃんが、小菊ちゃんが目の前にいるのに……小菊ちゃああああん」
名残惜しそうな声を響かせながら竹姫とオキナの体は一瞬で、瞬きをする間にその場から跡形もなく消えた。
俺は忍者刀をしまい、とりあえず去った一難に息をつくのだった。
*
「……何の光でござ……む? 奴らはどこでござるか?」
スキルの使用者が消えたからか、ニンゾーが動き出す。どうやら止まっている間は思考まで止められているらしく、状況がわからず目を白黒させていた。
「あいつらは逃げてったよ」
「……ちょっと待ってほしいでござる。認識が追いついてないでござる」
俺は簡単にさっきまでのニンゾーの状態を説明しながら、投げた手裏剣を回収した。こうやって手近に投げるだけなら回収できて節約になる。
理解したニンゾーが、うなった。
「……動きを止める、でござるか。超能力でござるな」
「そうだよな。お前のスキルがすごくしょぼく見えるほど」
「速度三倍でござるよ! 充分拙者もすごいでござろう!」
「でも向こうは時間を止められるようなもんだぞ。三倍じゃ比較対象にもならんだろ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
本気で悔しそうなニンゾー。
だからちょっとフォローしてやる。
「でもあっちは再使用に一時間かかるからな。一度の戦闘で出せて一回の必殺技、お前の方が小回りが利く分、使い勝手はいいだろ」
「え、でも拙者も“瞬身”を連発なんてしたくないでござるが」
「そこはお前次第だろ。理論上可能なんだから、我慢すりゃいいだけだ」
悔しいならがんばれよ。ちょっと疲れるだけだろ。
「あの、えっと」
おおそうだ、小菊ちゃんのことを忘れていた。
小菊ちゃんはまだ少しべそをかきながら、ぺこっと頭を下げた。
「あ、ありがとうなの。本当にこわかったの」
「別に構わんでござるよ。拙者もああいった輩に付きまとわれる怖さは理解しているでござる」
ニンゾーの目が遠くを見ている。
「しかし、ええと、小菊でござったか。おぬし、拙者たちのことは怖くないでござるか?」
「うん、小菊、悪い人はわかるの」
「心が読めるのか?」
「うーん、たぶん、違うと思う。でもね、なんとなくわかるんだよ?」
妖精の力とやらだろうか。
悪意を察知するとか、そう言うの。それで善人の前に現れるとかだとなんとなく妖精っぽい気がするけど。
「あの男の人たち、とってもこわかったの。なんかね、最近ね、一本道の外までいろいろ歩き回る人たちがいてね、だから小菊、何してるのか気になって見に行ったら、あの男の人がずっと遠くから小菊を見つけて追いかけてきたの」
「一本道ってダンジョンのことか」
「うん、うんえーさんはダンジョンって言ってた」
運営とつながりがあるのか。
「すごかったんだよ。あのね、女の人はまだ気づいてなかったのにね、男の人だけ首がぐりんって、ぐりんって回ってあみ持って走ってきたの」
ホラーすぎる。
「大変でござったな」
ニンゾーが本当に同情するように頭を撫でた。小菊ちゃんはくすぐったそうに体をよじる。が、その表情はまたすぐに暗くなった。
「……でも小菊、逃げる時に一回おうちの前を通っちゃってね、だからきっとあの人、また明日も小菊のおうちまで来ると思うの」
「家でござるか。一人で暮らしてるでござるか?」
「ううん、姉上と一緒。でも姉上、今はちょっとうんえーさんのところまでお出かけしてるの。一か月くらいは帰れないって言ってた。なんかちょーせーがあるって」
小菊、姉上、調整。
いや、今は聞かないでおこう。その姉上に当たる人物に少し心当たりがあったが、ゲーム上でも語られなかった設定だ。出来るなら、サプライズで楽しみたい。
まさか、“あいつ”が小菊ちゃんのお姉さんだったなんて!
うん、やはり今は触れないでおこう。
「しかし、家がばれてるというのは厄介でござるな」
「確かにな。あいつ等なら小菊ちゃんが出てくるまで家の前に居座り続けかねん」
「それはこわいの」
また涙がこぼれそうになる大きな瞳。ニンゾーににらまれて俺は頬をかく。
「だったら拙者たちの家にくるでござるか?」
ニンゾーがよしよしと小菊ちゃんの頭をなでる。
「まあ、小菊ちゃんがいいなら俺は構わない……って駄目だ、あの家、もう人が入れないじゃないか」
パーティ編成条件、第十のダンジョンまでクリアしなくては、俺を除く二人目以降を家に招くことはできない。今は第六のダンジョン。まだ折り返したところだ。
「あと四つ、ダンジョンをクリアすればいいだけでござろう。それくらい、今日中にして見せるでござるよ」
「どうしたニンゾー、熱でもあるのか」
いっつもあんなに面倒くさがりなのに。
「……主殿には変態に追われる恐怖がわからぬでござるよ」
「あー……」
仲間意識が芽生えているようだった。
どうでござるか? とニンゾーが小菊ちゃんに聞く。小菊ちゃんは迷っているようだった。
「姉上に知らない人についてっちゃだめって言われてるの。でもね、多分、お兄さんが言うみたいにあの男の人と女の人は明日も来ると思うの……だから、うーん」
「大丈夫でござる。主殿が何か変なことをしたら拙者が仕留めるでござるよ」
「おい」
ニンゾーの頭にチョップする。
小菊ちゃんがそんな俺達を見て吹き出した。その後、恥ずかしそうにもじもじする。
「……うん、やっぱりこわいから、ついて行ってもいい?」
「もちろんでござる。おっと自己紹介がまだでござったな、拙者は服部忍三でござる」
「ハトリだ」
「うん、よろしくね。ハトリお兄さん、ニンちゃん!」
ニンちゃん。
おそらく悪意はないのだろう。子供らしい、素直な感性で、ニンゾーの様相から年が近いと感じたと。
あわれ、ニンゾーよ。
俺は雨のように降る手裏剣を捌きながら、心のなかで大爆笑するのだった。
何が起こってるのかわからず、首を傾げる小菊ちゃん。
素直とは時に残酷なものよな。
「おいおい、こんなところで体力を使ってていいのか? あと四つも攻略するんだろ?」
「ダンジョンのことでござるか。大丈夫でござるよ。主殿が手伝ってくれるんでござるからな」
「は?」
「だって拙者だけじゃきっと息切れしてしまうでござるよ。拙者はもしや、小菊を家の前で立ち往生させるつもりでもあるまい?」
小菊ちゃんがこちらを見る。その大きな目で見つめられると、なんだか知らないが悪いことをしているような気がしてくるから不思議だ。
「……まあ、今回はいいだろう。ほら、そうと決まればさっさと行くぞ。まずはここをクリアしなくちゃな」
「そうでござるな。では、小菊は拙者の背中に乗るでござるよ。拙者と主殿は並の獣よりもずっと速いでござるからな」
小菊ちゃんを背中に乗せ、俺達は第六のダンジョンを駆ける。
それから第七、第八、第九、と順調にクリアし、第十のダンジョンをクリアしたのはちょうど太陽が沈もうとしている最中であった。
*
食事処の机に、いつもとは違い三人で着く。
小菊ちゃんは問題なくこちらの世界へ連れてくることが出来た。こちらの世界はずいぶん面白いらしく、書き入れ時でにぎわう店内を面白そうにきょろきょろと観察している。店員のお姉さんが定食ののった盆を手に、こちらの席へとやってきた。
「ありがとうでござる。はあ、今日は特に腹が減ったでござるよ」
「後半ほとんど俺が処理してたじゃねえか」
「うん、お兄さんすごかったの! ずばって、しゅんって、すごい速かったの!」
「ありがとうな小菊ちゃん、好きなだけおかわりしていいぞ」
「拙者もいいでござるか?」
「漬物なら好きなだけ」
「はあ、それは残念でござる。主殿の天ぷらを分けてもらうしかないでござるな」
「あ、おい、ししとうはやめろ」
伸びてくる手を叩き落とす。行儀が悪いことこの上ない。小さい子もいるのに、真似したらどうするんだ。
仕方ない、とばかりにニンゾーは肩をすくめた後、マンガみたいに盛られた茶碗を持ちあげ、クジラの竜田揚げとともに食べ始めた。ちなみに小菊ちゃんはニンゾーと同じ、クジラの竜田揚げを選んだ。むこうでは近くに海がないから、ニンゾーから説明され興味を持ったのか即決していた。
「小菊ちゃんは普段どんなものを食べてたんだ?」
「あのね、小菊は動物のお肉とか川魚とか食べてるよ。あとは山菜とか、きのこなの。あのね、黒くって太くって、ちょっと歯ごたえがあるきのこがあってね、それが大好きなの!」
「そのことは昼間の男の前で言っちゃだめだぞ」
彼のはしめじかもしれないが。
いややめよう、食事時に。考えるだけでも気持ち悪くなる。
小菊ちゃんは言われて首を傾げて、すぐに竜田揚げに取り掛かった。小さいこと言うのは直ぐに興味の対象が変わる。それが今日は幸いしたか。
「おいしい~!」
「そうでござろう? クジラは栄養価が高いでござるからな。明日も元気いっぱいでござるよ」
「じゃあ明日もダンジョン五つ攻略できるな」
「ただ拙者は宇宙人なので小菊と同じような効果はないでござる」
「そうなの!?」
「適当なことを言うな。さすがに俺も疲れたから安心しろ」
「じゃあ一日ゆっくり銭湯に」
「いつも通りで勘弁してやるから」
再び俺の皿の上に伸びてきた箸を叩き落とし、食われないうちに口の中へと頬りこんだ。レンコンの天ぷらっていいよな。
「明日も頑張るには栄養がいるでござる」
「体がちっちゃいんだからそれだけでも過剰だ。あんまり食いすぎても体に悪い、それくらいにしとけって」
「むう」
「お兄さんとニンちゃんってすっごく仲よしさんなの」
「「それほどでもない」でござるよ」
思わず声をそろえてしまい、俺達はまた小菊ちゃんに笑われてしまうのだった。
食事の後は風呂だ。今日の当番もニンゾーだったが、小菊ちゃんがいるということで変わってやった。案の定、風呂焚き御苦労でござるな、とか調子に乗ったことを言っていたので俺の心のメモ帳に書き残しておく。いつか必ず、これをネタに仕返ししてやろう。
そういえば、第十のダンジョンをクリアしたことで小菊ちゃんは問題なく家に入ることが出来た。やはり、システムが関係していたらしい。しかもほんの少しだけ家の内装が広くなっていたのも驚きだ。外観は何の変化もないのに、摩訶不思議だ。
「あったか~い!」
「ちゃんと百数えるでござるよ、そして主殿、もう少し火を強めて欲しいでござる」
こんにゃろう。
しかし幼女と(見た目)少女が一緒に入浴とか、あのロリコンズからしたらさぞ天国だろう。いや、オキナの方は見た目ロリでも中身が違えば認めないんだったか。と言うことはマンガやアニメでよくあるロリババアは無理、と。真性だ。
その後、俺も交代で風呂に入り、その日は直ぐに寝てしまうことにした。
何より、小さな小菊ちゃんが夜更かしできないようで、俺が風呂を上がったころにはすでに目がほとんど閉じかけていた。ニンゾーが抱っこして二階の寝室まで運ぶ。
そして俺とニンゾーの布団の間に客用布団を敷き、明かりを消した。
*
朝の四時くらいだったと思う。
俺とニンゾーがいつも起きる時間より少し前、隣で動く気配があったので細く眼を開くと小菊ちゃんが体を起こして眼をすっていた。ニンゾーも今ので起きたような気配を感じる。しかし二度寝でもする気なのか、体を起こすことはなかった。俺もそうしようとそのまま眼を閉じかけた時だった。
小菊ちゃんがぽつりともらした。
「そっか、おうちじゃないんだ」
誰に言ったわけでもないのだろう。
だからこそその言葉は少し、さびしそうに思えた。
ニンゾーも同じことを考えてるだろうか。それはわからないが、俺はできるだけ早くあのロリコン野郎どものことを解決してやろうと、そうひっそりと思うのだった。




