○○取の翁、その一でござる
本日二つ目のダンジョン、第五のダンジョン“水鳥の舞”をクリアし、俺達はポータルに帰還するまでのしばらくの間、ダンジョン内を流れる沢に足をつけたりして各々涼んでいた。
「しかし主殿よ、このダンジョンとはいったいどういう絡繰りなのでござろうな?」
「絡繰りと言うと?」
水の中では小さな魚の群れが一生懸命流れに逆らい泳いでいる。
ニンゾーがぱちゃん、と波を立てると魚たちは我先にと方々へ散らばった。魚なのに、蜘蛛の子を散らすよう。
「ダンジョンはどれも一本道のような構造をしておるが、しかしその外にも大地は続いているでござろう? “火花道”のような洞窟ではあまりわからなかったでござるが、ここのようなひらけた場所ではそれは火を見るよりも明らかでござる」
「まあ、そりゃそうだわな。この水だってダンジョンの終着点より向こうから流れてきてるわけだし」
「となると、このダンジョンというのはどこなのでござろう?」
ふむ。それはもっともな疑問だ。
「あくまで予想だが、ここは俺が住んでいた世界とも、ニンゾーたちが住む世界とも違う、さらにもう一つ異なる世界なんだろう」
「違う世界、でござるか」
「ここで出てくるモンスターってありえないほどでかい動物とか見たことのない化け物だろ? 大ガエルとかスライムとか。そういうのって、ニンゾーの世界には住んでないし、だったらやっぱり、あの世界とも違う世界なんだろう」
「まあ確かに、あんなのがうじゃうじゃいたら大騒ぎでござるな」
「だろ? だから俺がニンゾーの世界に来たみたいに、ニンゾーもポータルでこの世界に一時的に送られてるってこった」
おお、拙者も異世界に来てたでござるか! と少しだけはしゃぐニンゾー。
「だったらもう少し探索してくるでござるよ。別にダンジョンの終着より向こうに行ってはいけない道理もないでござろう?」
「まあいいんじゃねえの? どうせもう少ししたら勝手にポータルに転送されるわけだし」
「じゃあちょっと行ってくるでござるよ!」
「おう、でもあんまり遠くに行きすぎんなよ」
「わかってるでござるー」
しゅたたたと割と本気の走りでニンゾーは去って行った。
元気だねえ、とその若々しさを少しまぶしく思いながら、俺は水の中で足を揺らし、その冷たさを楽しむ。そういえば、とここでは晴れているが、ダンジョンに入る前にはぽつぽつと雨が降り出していたのを思いだす。昨日の我流天気予報は見事的中したわけだ。
「気温も上がってきたし、さぞ蒸すだろうな」
雨の後のじめじめとした気持ちの悪い暑さを想像し、少しだけ萎える。
俺は今のうちに少しでも涼んどくか、と気持ちのいい沢の水を両手ですくい、ばしゃっと思い切り顔を洗ってみるのだった。
しばらくして。
いつもの不思議な感覚で、瞬きをする間に元のポータルの上へと戻ってきた。座った状態だと座ったまま転送されるのか、と少し感心する。と、同時にわずかに濡れていた地面に辟易した。尻のところがわずかにしめる。うえ、ずぶぬれではないのが救いか。まだ雨はぱらぱらと降るだけの小雨だった。
「ニンゾー、傘とってくれないか」
雨だとわかっていたから、ダンジョンのポータル横に傘を立てかけておいた。
ちなみに、今日の朝一番で買ったもので、現代ではさぞ高価であろう見事な和傘だ。
「ちょっと無理でござる」
「は? 無理?」
しかし無理と言われ、俺は振り向く。
そして、理解した。なんてことないニンゾーの両手はふさがっていたのだ。
ふわふわの茶色い毛並みに、背中には独特の縞模様。
短い四本の脚。愛嬌のあるくりくりとした目。
「……お前、それ」
「イノシシの子供、いわゆる“うり坊”でござるな。少し大きいがかわいいでござろう? さっきの沢をもう少し行ったところで水を飲んでいたでござる。心配になるほど警戒心がなくて、ほら、もう拙者になついているでござるよ。主殿、ぜひこいつをうちで飼」
「帰してきなさい」
ぷぎ? とニンゾーの腕の中で小さく鳴き声をあげるうり坊。
俺達は出て早々、“水鳥の舞”へととんぼ返りする羽目になるのだった。
*
「もう合言葉はいらんだろ」
「こっぱずかしいだけだしな、かまわねえよ」
路地を進んだ先にある看板無き武器屋。
先日の武蔵丸戦で思い知らされた武器不足を憂い、俺は一日遅れで武器屋へ来ることになった。というか、昨日も来たのだがこの男が不在だったのだ。
まあ、何か理由があるのだろう。
別に深い付き合いがしたいわけでもないので聞かないが。
「それで、今日は何をお求めで?」
「まずは手裏剣だな。棒じゃなくて卍か十字の奴がいい。あと煙玉か」
「毒はいらんかね。死ぬやつも死なんやつもあるが」
俺は少し考える。確かに、武蔵丸に刺さった一発にもし毒が塗ってあればもっと楽に倒せただろう、とは振り返る度に思っていた。
しかし。
「いや、今回はいい。そのうちもっと上質なのが手に入るかもしれないからな」
「当てがあるんで?」
「まあ、確立としては半々ってとこか」
「ぜひ仕入れ先として紹介してもらいたいねえ」
「紹介するだけならな。交渉するのは勝手だから、もし会ったら連れてこよう。多分、断られると思うがね」
「そりゃありがてえ。何事も、試して何ぼでさ。っと、でこちらがお待ちの手裏剣と煙玉だ。それにしても、忍三はどうしたんだね」
俺は男にコインを渡しながら、後ろでさっきからぶつぶつ言っているニンゾーを見る。
「うう、うり助……無力な拙者を恨まないでほしいでござるよ……」
「まだ言ってんのか。また会いに行きゃいいだろうに。どうせダンジョンはいつでも入れるし、リタイアだって自由なんだからよ」
ダンジョンは攻略完了しているかどうかを問わずリタイヤ可能だ。いつでも、“リタイアする”という旨を声に出せばペナルティなしで元のポータルへと戻ってくることが出来る。これはタップ&ブレイバーズの仕様と同じかどうか試した時、明らかになったことだ。
以前、五人集まっていなくてもボスの顔くらいは見える、と言ったが、それはこのリタイア機能があるからこそだ。ちょっとボスダンジョンに入り、すぐにリタイアしてしまえば姿だけ確認して戦うことなく戻ってこれるというわけ。
それはともかく。
ニンゾーはうり坊のうり助(ニンゾー命名)を“水鳥の舞”に帰してからと言うもの、ずっとこんな調子だった。
まあうり坊可愛いけどさ。俺もわかるけどさ。
でも生き物を飼うってのは重大な責任を負うし、それに野生のうり坊なら近くに親もいるだろう。それとわざわざ引き離すってのもまた、かわいそうな話だ。
「……そうでござるな。いや、わかってはいるのでござるが」
「やっと本来の予定に追いついたし、明日はダンジョン攻略は一つでいい。その帰りに寄ってやるからよ」
「ほんとでござるか!」
「ああ、だから今日は団子でも食べて機嫌直せ」
「わかったでござるよ」
そう言うとニンゾーは鼻歌交じりで先に武器屋を出て行った。
男が笑う。
「最近忍三の奴、ずいぶん明るくなったじゃねえか」
「そうなのか?」
「ああ、前まではほんと、幽鬼みてえだったぜ。それかまさしく忍者とでもいうべきか。まだちこまいのに、こんなきたねえ奴の集まる場所に来てよ。いやはや、あんな笑う忍三は初めて見るがあっちの方がずっと“らしい”と思えてくるのが不思議だぜ。いい傾向だろうさ」
男はちゃりんと俺から受け取ったコインを鳴らしながら、けけけと笑う。
「……あんた、意外とイイヤツだったんだな」
「よせやい。俺は今も昔も、ただのきたねえ死の商人さ」
そう言って男はまた、けけけと笑った。
*
昼はさっぱりと冷やしうどんなどを食べ、慣れた調子でゲリラも終えた。それから少しショーギで時間をつぶし腹に余裕ができたころを見計らって約束の茶屋へ向かう。といっても、家の目と鼻の先だが。
ちなみに、ショーギはいつものように俺が勝った。コテンパンである。
ニンゾーがむむむとうなった。
「どうして拙者は勝てんのでござろう」
「まだまだ修行が足りんのだ。精進したまえ」
「……さては主殿の世界の知識でござるな」
お、半分は正解。今日のニンゾーはさえている。
「あ、図星でござろう! ずるいでござる!」
「ずるいとは何だ。じゃあ後で教えてやるよ。といってもニンゾーも知ってるのを改良してできたやつばっかりだから、さして変わらんがな」
「しかしそのちょっとの改良が重要でござろう。ふふん、主殿の強さの秘訣、見破ったりでござる。拙者も身につければもう負けぬでござる」
それはどうだろうな。
こちとら前世も含めれば六十年近く生きてんだ。そうそう負けるわけにもいかんよ。
なんてちょっと話していると、あっという間に向かいの茶屋に到着する。
ニンゾーは和傘を閉じ、その戸を開けた。ニンゾーは小柄だから普通のサイズだと大きすぎて邪魔になるらしく、持つ和傘もひと回り小さい特注品だ。そしてさりげなくではあるが、花の柄なんかが付いている。前世俺なら選ばないような傘だった。
「お、かき氷始まってるでござる」
「早いな」
「まあ最近は暑い日もあるでござるからな。気の早い人なら食いつくでござろう」
「今日も雨のせいで蒸してるしな。せっかくだから俺もそれにするか」
「じゃあ拙者もそれで。今日は団子はやめるでござる」
椅子に座って店員さんを呼ぶ。
「「宇治金時で」頼むでござる」
店員さんが示し合わせたような俺達を見て、きょとんとしたのは言うまでもない。
*
「それにしてもダンジョンの生き物って連れてこれるんだな」
「それは拙者も驚いたでござる。試しに、と抱いていただけが、まさか本当に連れてこられるとは」
「あそこで狩りでもしたら食費が……あ、死んだら光になるのか。そいつは無理だったな」
「まあ銭が余るほど出るからわざわざ自分で血抜きやらなんやらをする必要もないでござろうよ」
「それもそうだな。儲けはいいんだよなあ、ダンジョン」
「拙者の今までの苦労が阿呆みたいでござる」
忍者ってあんまり稼げないからな。
どうしても身分的に足元見られるし。まあ依頼主しだいというのが安定しない一番の理由でもあるが。
「しかしこの有り余る金で何をするかね」
「富くじでも買うでござるか?」
「これ以上増やしてどうする。というか賭け事とは縁遠い生活だったからいまいち興味がわかんし」
タップ&ブレイバーズでもガチャをほとんどひかなかったしね。あのギャンブル性が怖くてあまりする気にならなかったのだ。ニンゾーという強いキャラクターはすでに持ってたし。俺はひたすら課金してもゲーム内スタミナを回復して周回に周回を重ねる性質だった。
まあ廃人の中にも種類がいるってことだな。育成廃人、収集廃人、ガチャ廃人、速さを求める俺みたいな周回廃人に、あとは……縛りプレイ廃人?
いたなあ、とふと一人の廃人を思いだす。タップ&ブレイバーズのプレイ動画、実況動画で一番広く名前が売れているのはおそらくわくわく動画のケースケだろう。小学生らしい可愛らしい見た目と、似合わないが独特の毒を含んだ言い回し。好きな人も嫌いな人もいたが、メディアへの露出なども頻繁にあり、最も有名なプレイヤーだったと言える。
そう、彼は表舞台に立つタップ&ブレイバーズプレイヤーだった。
だがその裏に、もう一人の動画王、実況王がいることを忘れてはいけない。
その名も縛り王“ザコネ”。そう、彼こそ縛りプレイ界の貴公子だった。
彼はひたすら、超難易度を誇るタップ&ブレイバーズのボスにより“弱い”パーティで挑むことに執着していた。
たとえばニンゾーなどのスーパーレアキャラクターは強い。しかしそのニンゾーをレベルマックスまで育ててもタップ&ブレイバーズのボス相手では平気で負け得る。
その強大な相手にだ。
縛り王“ザコネ”は“火花道”などの一般ダンジョンに住むいわゆる“ザコモンスター”を使って挑むのだ。ステータスは十分の一、スキルだって持っていないような奴までいる始末。
だというのに、彼はそいつらを喜々として使う。英雄たちが挑むべき相手に、猿、カメ、像、タヌキ、鷲なんていうどこのサファリパークだと言わんばかりのメンバーで挑み、勝利をつかんでくるのだ。
“多分これが一番弱いと思います。”
その一言こそ、彼の追い求めるところだった。
その動画はいつも、最終的に人を感動の渦に巻き込む。彼にかかればどれだけ弱くても努力次第で強大な敵でも倒せると、そう思わされる。
俺も昔、彼に憧れて同じことをしようとして、余計にそのすごさに気づかされた人間だ。彼と同じ動物たちを使っても、彼のようには強くなれないのだ。彼の持つ、相手の動きを誘導し的確に対処していく能力がなければ、あのスーパープレイは成り立たない。
彼はきっと、廃人の中の廃人だったのだろう。
だからこそすごさがわかる同じ廃人の中で輝き、そして裏のトッププレイヤーとうたわれたのだ。
「……あの人なら、ダンジョンの動物を連れて帰ってそうだな」
「何の話でござるか?」
「ああ、いやなんでもない」
なんでもないと言った後、ダンジョンのことで一つ思いだした。
もう一人だけ、ダンジョンに出現する“ザコキャラクター”で有名になった人物がいたことを。
こちらはプレイ動画ではなく掲示板で。
ただ一種類のキャラクターを集め続けるという狂気の行動にでて有名になった人物だ。
あれはどちらかと言うとペロリストユウト寄りの変態だったか。
奴もこの世界に来ているのか。
多分、来てるんだろうな。
しかも出会うとしたら……。
「……ニンゾー。明日のダンジョンなんだが、もしかしたら“人”がいるかもしれない」
「ダンジョンに人でござるか? それは他のプレイヤーという意味でござるか?」
俺はいまだにダンジョンでプレイヤーと遭遇していない。
多分、みんな俺なんかよりずっと速い速度で攻略しているからだと思う。ダンジョン内に時々、人が通った後があることから転送先は共通であると予想していた。
「そうとも言えるし、違うともいえる。ゲームの中の六番目のダンジョンには超々低確率で人型の敵が出ることがあったからそれに注意ってのと、その人型の敵を追い求める変態プレイヤーがいるかもしれないから間違って触らないようにってこった」
「その人型の敵とやらは倒してはいかんでござるか?」
「……ちっちゃい女の子の姿をしてるんだ。一応、花の精って扱いらしいんだがな。お前もそんな子を殺したくはないだろ?」
あれは金髪の、それはかわいらしい女の子だった。ニンゾーが頷きつつ半眼になる。
「そりゃあそうでござるな。……して、そのプレイヤーとやらは幼女を追いかけまわしていると」
「……ロリコン、いわゆる幼女趣味なんだ」
「……プレイヤーには変態しかおらんのでござるか?」
「いや俺は違うだろ。まあ、そういうわけだから触るな、だ。客観的に見てお前は小柄だからな。さすがに幼女はないだろうが、少女にだったら見えるだろうし」
「まさか……」
「またぺろぺろかもな」
「……はぁ~……勘弁してほしいでござるよ」
ニンゾーは深く深くため息を吐いた。
ほんとにトラウマと化してるよ、ペロリストが。
と、そこに待ちわびた宇治金時が運ばれてくる。
「いや、今はただ宇治金時を楽しむことに集中するでござるよ」
「そうだな、それがいい」
「主殿、最後に一つ。さっきの金の使い道の話でござるが」
「おう、なんだ?」
「……変態どもを収容する施設を作るのはどうでござろう」
「……まあ、その、なんだ。選択肢の一つとして考えておこう」
俺のせいではないとはいえ、同じ世界から来た人間が生み出したニンゾーの闇にほんの少しだけ罪悪感をいだきつつ、俺は半球状に盛られた小豆にさじを差し込んだ。
*
しかしやはり、フラグと言うのは偉大である。
昨日の俺にぜひ言って聞かせたい。そんな話するなと、それは明らかにフラグだろと。
第六のダンジョン、“花妖精の茶会”。
そのダンジョンに入ってしばらくしたところで、小さな女の子の声が聞こえた。
まさか超々低確率でしか出会えないあのキャラに会えるのか、と幼女趣味などでは断じてない俺だがほんの少しテンションが上がり、しかしその声がどうやら悲鳴であるというのに気付きニンゾーともどもテンションが奈落の底へと落ちた。
ニンゾーが特にひどい。目が死んでいる。
「主殿」
「言うな」
「拙者、帰りたいでござる」
「あの悲鳴を聞いてもそれを言うか」
「……我ながら難儀な性格でござる」
「同情はするよ」
その性格については俺にも間違いなく原因があるからな。
まあ、ここで見捨てるような奴よりはいいと思うぜ。
ただ、だ。
実際に悲鳴の聞こえた方へ向かうと予想したのとは少しばかり違う状況で一瞬戸惑う。
俺はてっきり、ちょっと危ない感じのお兄さん(主に性癖で)が幼女を追いかけまわしていると思ったのだが、そこにいたのは一人ではなかった。
俺より少し年上、二十代前半くらいの短髪切れ長の目をした凛々しい青年と一緒に、明らかにキャラクターであろう緑の髪をした同じくらいの年の女性がいた。
二人そろって、虫取り網を持って。
「うえええええん、姉上えええええ」
「はあ……はあ……大丈夫ですよ、お姉ちゃんですよ……はあ……はあ……」
「違うのー! コギクが呼んでるのはほんとの姉上なのー! うえええええん」
「はあ、はあ……泣き顔もめんこいのう。ふへへへへ……」
「おじいさん! ちゃんとそちらはカバーしていてくださいね!」
「おうよ、わしにまかせい。これでも高校時代は陸上部じゃったからのう。一度見つけた幼女は逃がさん!」
「この人も怖いのー! うええええん」
独特の言葉遣いで、自分のことを“わし”という青年。
その口調は文字で見たことがある。そう、ネットの掲示板で。
「はあ……はあ……む?」
その青年がこちらに気づき、一瞬だけその構えを解く。
その瞬間を金髪に白のワンピース姿の、まさに小菊と言ったカラーリングの幼女は逃さなかった。その短い脚からは想像もできないような速度でこちらへ駆けてきて後ろへ隠れる。
「お、お兄さんたすけてー!」
「むお! しまったわい!」
「もう! おじいさん!」
俺は幼女をかばうように立ち、ニンゾーも疲れた顔で幼女を慰める。
「大変でござったな、もう大丈夫でござるよ。……本当に大変でござったな」
しかし虫取り網で幼女を捕まえようとするって。
俺は半ばあきれつつ、二人を見る。
女の方は見覚えがある。俺は持っていなかったが、間違いなくガチャで手に入るスーパーレアキャラクター、“月夜の竹姫”。
「もう! 油断しないでくださいって言ったのに!」
「タケ、そう責めてくれるな。一番悔しいのはわしじゃ……くっ!」
竹姫にぽかぽかと叩かれながら頭をかく青年。
となるとこちらが。
「あんた、“オキナ”だな?」
「……いかにも、そう言うおぬしもプレイヤーじゃな」
オキナ。
昨日ニンゾーにも話した、幼女キャラクター、“花の妖精、小菊”をひたすら狩り続けるタップ&ブレイバーズ界のロリコン狩人。超々低確率でしか出会えないこの幼女と会いまみえるため、何千何万という試行を重ねた真性の変態。
またの名を“幼女取の翁”であった。