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○○取の翁、その三でござる

 さて、意気込んだものの、今日一日はダンジョンの外を見てみたいと言った小菊ちゃんの希望にこたえるために街へと出向くことにした。

 小菊ちゃんはにぎやかな街の様子に全身を使って驚いている。


「わ、わ、人がいっぱいなの」

「昨日は食事処から家に直帰したからな。それに夕方だったし。ダンジョンのなかとは全然違うだろ」

「全然違うの! でもちょっと目が回りそうなの」

「迷わぬよう手をつないでおこう。この街では少ないが、人さらいがおらぬとも限らんでござるからな」

「うん、ニンちゃんありがとう。でも小菊、悪い人が近づいて来たら自分でわかるよ?」


 そう言いつつきちんと手をつなぐ小菊ちゃん。えへへ~と笑うとまた可愛らしい。

 ニンゾーももうあきらめたらしく、ニンちゃんでござるな、とあいまいな顔で返していた。まあいいじゃないか。ニンちゃん。おっと手裏剣が危ない。


「しかしどこら辺を回ればいいんだろうな? 俺、あんまり小菊ちゃんが喜びそうなものとか知らないんだが」

「小菊、お兄さんとニンちゃんと一緒にいるだけで楽しいよ?」

「ふむ、では歩きながら考えるでござるよ。何かはあるでござろう」 

「そうだな」


 昼の街は活気に満ちている。

 俺はあまり遊ばない性質だったから詳しくないが、なにか小さい子の興味を引くものがあるだろう。そう思い、まずは中心街の方へ向け、足を運ぶのだった。


     *


 漬物屋で売っていた冷やしきゅうりをかじりながら街を行く。俺もこの世界に来てからはダンジョンばかりに行っているし、また前世でも夜の仕事のために昼間は家でおとなしくしていることが多かったので実はこの昼間のこの辺りに来たことは数えるほどしかない。

 道の両端には反物屋、傘屋、ちょっと変わったところでは杖屋などが立ち並び、そこそこ繁盛しているようだった。ちなみに、俺の傘もあの傘屋で購入した。


「あれなに?」


 小菊ちゃんが指を指したのは、ちょうどその傘屋だった。


「傘でござるよ。小菊ちゃんは持ってないでござるか?」

「うん、持ってないの。あれ、何をする道具なの?」

「雨が降った時とかにこう、上に向けて雨をはじくんだ。まあ確かにダンジョンの中に職人はいないだろうからな」


 へえ~と店先に並べられた傘の周りをくるくる回るように観察する小菊ちゃん。

 無闇に突っついたりしないのはなかなか行儀がいい。


「小菊、他に人間は姉上しか知らないの。でも傘ってすごいね、あれがあれば雨の日でもおうちの外に出られるの。あ、でも雨の日は滑るから出ちゃダメなんだったの」

「森の中じゃ足場が悪いでござるからな。でも、せっかくだし一本くらいは持っててもいいのではござらんか?」

「そうだな、せっかくだし仲良くなった記念ってことで贈ろう」

「え! いいの?」

「遠慮することはござらん。拙者たちはダンジョンで充分稼がせてもらってるでござるからな。さあ、好きなのを一つ選ぶと言いでござる」


 そう言って店内に入ると、顔を覚えていたらしい店長のおやじがにこやかに迎えてくれる。頬にでかい傷があってなかなか厳めしいのだが、本人はそれを気にしているらしく、怖がられないようにいつも笑顔を絶やさないのだと言っていた。

 そんな彼が、小菊ちゃんを見て少しためらっている。

 小さい子は多少笑顔でも怖いと思いそうだからな。

 だが小菊ちゃんは何のためらいもなくおやじに近づきぺこっと頭を下げた。


「こんにちは! 傘を見せてほしいの!」


 この無邪気な笑顔に、むしろおやじのほうが驚く。


「おじさんが怖くないのかい?」

「? なんで? おじさんはとってもいい人なの! 小菊にはわかるの! だからちっともこわくないよ?」


 あ、おやじがちょっと涙ぐんでる。


「……うう、みんなお嬢ちゃんみたいだったらいいのによう。おし、好きなだけ見てきな!」


 なかなか気のいい人だ。

 小菊ちゃんは鼻歌交じりに傘を見て回り、そのなかで気に入った一本を見つけたらしく、少し離れたところで別々に見ていた俺を呼びに来た。


「あのねお兄さん、これがいいの」

「これは……」


 小菊ちゃんが指さしたのは花の柄があしらわれた小さな傘だった。

 見たことがある、というか。


「おお、拙者の色違いでござるか」

「そうなの? えへへ、おそろいだねニンちゃん」

「いやはや、小菊もなかなかにして趣味がいいでござる」


 ニンゾーが満足げだ。

 おやじに頼み記されていた通りのコインを渡すと丁寧に包んでくれた。


「もし壊れた時はいつでもきなよ。おじさんがすぐに直してやるからな」

「大丈夫なの! 絶対に壊したりしないの! 大事に大事に使うの!」

「そうかそうか、はっはっは」


 よしよしと傘を両手に抱える小菊ちゃんの頭をなでるおやじ。

 もしかしたら小菊ちゃんは天性の人たらしなのかもしれなかった。


     *


 またしばらく歩いたところで、俺たちは人形劇の一座ののぼりが掲げられた小さな劇場を発見した。ちらほらと中へ入っていく人々も見られ、演目を見てみると俺でも知っているような有名な童話のようだった。


「ほう、人形劇でござるか。なかなかいいんではござらんか?」

「にんぎょーげき?」

「人形を糸でつるして操って、それでいろんな劇をしてくれるんだよ……って説明になってないか? まあ、一度みてみるといいだろ」


 俺達はそろって中へ入る。靴を脱ぎ、区切られた座敷の一角に座ると、まるで見計らったように黒子が出てきて人形劇を始めた。


 それは鬼にも人間にもいじめられる、半人半鬼の物語だった。半人半鬼の少年は一人、森の奥で暮らしている。両親はそれぞれ人間と鬼で、お互いの種族の事情のためにばらばらとなり、少年はその間に一人取り残されていたのだ。

 人里に買い物をしに行けば豆を投げつけられ、鬼の住む山に狩りに出かければ金棒で追い立てられる。少年は木のみを食べて、こっそり涙を流す。


 小菊ちゃんはそれを見て、かわいそう、と小さくもらした。劇は続く。


 ある日、そんな少年の元に一羽の小鳥が飛んでくる。森の動物だけは、彼の味方だった。その小鳥が言うには、なんでも山のふもとで人間と鬼が喧嘩を始めたのだそうだ。もう長らく、両者の間ではいさかいはなかった。久しぶりの大喧嘩、少年は家を飛び出した。

 おめえが悪い、いんやおめえが悪い。

 人と鬼はにらみ合い、お互い相手を責める。

 そんなところに少年は飛び出した。

 喧嘩ばっかりしないでおくれ。

 少年が言っても聞きやしない。

 人と鬼はお互い口角泡を飛ばして喧嘩を続ける。

 とうとう少年は泣き出してしまう。やめてくれよう、父ちゃん母ちゃん!

 そう、その人と鬼は少年の父と母だった。二人は泣き声を聞いて初めて、それが自分の息子であることに気づく。

 それから二人は反省し、そっと三人で抱き合う。そしてそれから家族は森の少年の家に行き、三人で静かに幸せに暮らしました。めでたしめでたし、である。


 これは子供向けではなく、大人向けの物語だ。つまるところ、夫婦げんかで一番つらいのはお前らの子供だぞと、そう言っているのだ。劇場のどこかから、父ちゃんと母ちゃんもあんまり喧嘩しちゃだめだよ、という子供の声が聞こえ、くすくすと幾人かが笑った。


「お兄さんとニンちゃんは大丈夫だね」


 いや、俺達は夫婦じゃないんだが、と思うが、まあ別段夫婦に限ったことでもない。

 俺は、まあな、と適当に相槌を打っておいた。


 と、そんな話をしていると一度はけた黒子が再び戻ってきた。


「続きまして、『竹姫と翁』を演じさせていただきます」


 どこからかそんな声が聞こえた。

 俺は思わずげっという顔になる。このタイミングでその話かよと。

 しかし知らぬが仏か、小菊ちゃんは終わったと思った人形劇がまた見られるというのでわくわく顔だ。ニンゾーには竹姫のことを説明したはずなのに、こいつも楽しそうに前方を見ている。


 まあ、いいか。


 俺はそう思い直し、そのままの体勢で人形が動き出すのを待つのだった。


     *


 青年は信心深く、また正直であった。しかし人に恵まれず、村の者たちが結婚して家族を作る中、ただ一人だけ独身を貫いていた。何も寂しいことはない。それもまた、私の運命なのだと青年はどこかあきらめ、しかし神を恨むこともなく毎日仕事に励んでいた。

 そんなさなか、神がその青年の夢に出てきてお告げをする。


 お前が本当に私を信じるなら、光る竹を探しなさい。


 青年の実家は布屋であったが、しかしそのお告げを聞いた途端、布を織るのをやめて竹林へ出かけるようになった。村人たちは青年がなにかよからぬものに憑りつかれてるのではないか、だから突然仕事を放りだしたのではないかと心配したが、しかし青年は神さまを信じるのですと周りの言葉を聞かず竹を切り続けた。


 青年は来る日も来る日も、その夢を信じた。

 光る竹はどこかにあるのだと、それが信仰なのだと。

 青年は布の代わりに山で取れる竹でざるを編んだりし始めたが、しかし糸とは勝手が違う。上手には出来ずに、それを買っていく人もほとんどいなかった。

 青年は次第に貧乏になっていく。

 食べることも厳しくなり頬はこけ、また着物も擦れて襤褸同前となっていった。


 それを見て、笑うものが一人。

 (あやかし)であった。

 なんてことはない。村人たちが心配した通り、彼は神でも何でもないその妖にそそのかされて不幸になって行っただけなのだった。妖にとって人の不幸は蜜の味。怪しく笑ってその男がいつ倒れるかと様子を見ていた。


 それを今度こそ正真正銘、本物の神があわれに思う。


 神は妖を退け、誰にも気づかれぬように竹林の中に一つ、光る竹を混ぜた。

 その頃には青年はすでに年老いて、指は節くれだち腰は曲がってしまっていた。

 しかし彼はまだ竹を切るのをやめない。今日も、止める村人たちを説得して竹林へ向かう。

 そしてついに、見つける。彼が思わず見とれてしまうほど、その竹は美しい光を放っていた。

 彼は涙を流し、祈りをささげ、そして竹を切る。

 するとどうだろう。切った竹が光を放ち、美しい姫になったではないか。


 彼女は自らを竹と名乗り、そして皆から竹姫と呼ばれた。

 村の若い男たちはその美しさに惚れ、そんなおいぼれよりも俺をと名乗りを上げだすが、竹姫は静かに首を振り、月の光にも似た、光る竹が放っていたような柔らかな光を放ち、すっかり老いてしまった正直な竹取の老人を若かりし頃の青年の姿に戻した。そして言う。


 この人がこの村で一番、正直な心を持っているのです。

 この人がこの村で一番、怠けることをしません。

 だから私はこの人をこの村で一番、愛しているのです。


 そしてそれから二人は仲睦まじく、ともに老いて行ったという。

 彼は死後、最も幸せな正直者として“竹取の翁”と呼ばれた。


     *


「ここの馬を前に出すと、ほら、ニンゾーはなんにもできなくなるだろ?」

「ん~……あ、そういうことなの! えへへ、あともうちょっとで勝てるの」

「主殿、そんなに助言しては小菊が対局してることにならんでござる……」

「いいじゃねえか、駒の動かし方も知らなかったんだから。最初は誰でもこんなもんだろ」

「そうなの! 小菊とお兄さんはチームなの!」


 昼食を食べてからは家でショーギをすることになった。今は駒の動かし方だけを教えて、定石と言うか定番の動かし方をデモンストレーションしていると言ったところか。早速手が詰まり始めているニンゾーはむむむと頭を抱え始める。

 ちなみにニンゾーには俺が使う現代の戦術も教えてある。ので、条件としてはイーブンになったはずだが、しかしそれでも俺には勝てないようだった。まあ、経験の差と言うのもあるだろう。一番大きいのは好みの戦術を俺に知られていることかもしれないが。


 ニンゾーは定番からほんの少し外したからめ手をよく使う。それは定石を知り尽くした相手からしたら意表をつけるものだがしかし、その分守りに弱い。攻めのケが強いと言おうか、だからこそこちらが同じように定石を外していくと途端に崩れる。

 強力な手ごまをあらかた取られ、ニンゾーの王将は丸裸だ。


 ニンゾーが一手進める。

 おいおい、それは致命的だぞ。

 さあ、じゃあ最後の一手と行きますかと小菊ちゃんにアドバイスしようとして、言う前に小菊ちゃんが非常に理想的な一手を打つ。

 子供は本当に呑み込みが早い。ニンゾーが、あ、と声を出す。


「これで勝ちなの!」

「くう……こっちを、いや、まだ……」

「あきらめろ、詰みだ」


 手駒を置こうとして意味がないのを悟りひっこめるというのを繰り返すニンゾーにそう告げる。ニンゾーはあきらめ、からんと駒を落としがっくりとうなだれた。


 小菊ちゃんはわーいと小さな両手を掲げて喜んだあと、小さくあくびをした。


「ふわぁ……ちょっと眠くなってきたの……」

「ううむ、じゃあ昼寝でもするでござるか」

「うん……」


 盤を片付け、二階の寝室へと上がる。布団を敷いて、寝転がる小菊ちゃんに薄い布団をお腹の辺りにかけてやった。


「夕食前には起こすから、ぐっすりおやすみ」

「うん……おやすみなの……」


 俺とニンゾーもそれを囲むように横になりながら、それを見守る。

 しばらくして、すーすーというかわいらしい寝息が聞こえてきたところで、俺達は静かに、体を起こした。


 ニンゾーと目配せする。俺たちは黙って部屋を出て、後ろ手にふすまを閉めた。


「……じゃあ、行くでござるか」

「おう。いつも通り、ダンジョンにな」


 小菊ちゃんが起きた時、俺達がいなかったら心配になるだろう。夕方までに戻ってこなくちゃいけない。出来るだけ急いだ方がいいだろう。俺達は忍び足でポータルへと向かった。


     *


 第六のダンジョン“花妖精の茶会”。

 その森を奥へと続く一本道、いわゆるダンジョンと呼ばれる順路を外れ、俺達は鬱蒼と生い茂る木々の中へと滑り込む。

 小菊ちゃんの家へは、俺の家へと来る前に着替えなどを取りに行ったときに立ち寄ったので行き方を完全に覚えていた。迷うことなく、木から木へと飛び移りながら俺達は進む。途中、ダンジョン順路に出現するのとは一風違う獣たちが出るので、出来るだけ躱し、やむをえない場合は一撃のうちに屠った。

 そして、ダンジョンに入ってから十分もたたないうちに、小菊ちゃんの家へと到着する。


 小菊ちゃんの家はまさしく妖精の住処とでもいうようなファンタジーな造りをしている。巨大なデフォルメした茸にたくさんの丸窓が付いている、と言えば一番わかりやすいだろうか。内装も、机やイスまで茸でできていて何とも可愛らしかった。花妖精なら花にするべきだろ、とも思ったが、しかし実際に中で荷造りのためにちょこちょこと動き回る小菊ちゃんを見た後なら、こちらの方が似合っている気がした。


 まあそれはともかく、小菊ちゃんの家なのだが。

 予想した通りと言おうか、その前には二人がいた。


「……小菊ちゃんがおらんようじゃが、知らんかのう」


 オキナは網を肩に担ぎ、妙にぎらぎらとした目でこちらを見た。


「……お前らが怖いっていうからうちにかくまってるよ」

「な!? おぬしまさか、わしにはあんなことを言っておいて小菊ちゃんのエンジェルボディに!?」

「何もしねえよ」


 俺はロリコンじゃねえ。

 ニンゾーは相変わらず汚いものを見るようにオキナを見る。隣の竹姫はというと、昨日とは違いそわそわと俺達の会話を心配そうに見ていた。俺と目が合うとびくっと肩を震わせ、オキナの後ろに隠れる。昨日のが嫌な思い出になってるのかもしれない。


「……しかしおぬしの家にいるのが事実なら、どうやらわしは小菊ちゃんを手に入れるためにおぬしを越えてゆかねばならんようじゃな」

「あのさ、昨日から言おうと思ってたんだがな」


 網で捕まえようとしたり、相手が泣いてるのも無視したり。


「この世界のキャラクターにもそれぞれ人格があるだろ。お前らはそれを無視してまで小菊ちゃんに近づきたいのか?」


ペロリストもそうだけどな。

 そう言う奴等って別に相手に嫌われたいわけじゃないだろう。なのにこういう突拍子もない行動に出るのはどうしてなのか。なんだか全部自分の都合のいいように行くと思い込んでるというか、相手のことを度外視してるというか、俺にはそう言う気がしてならない。

前回は問答無用で斬りかかられたから聞けんかったが、しかしこいつらはキャラクターやスキル的にも俺達に攻撃を届かせることはできない。

 そのため、せっかくなので聞いてみた。

 本当になんとなくの、ただの思い付きである。

 すると、オキナはぽかんと、本当にぽかんという風に固まった。


「……人格」

「そこの竹姫も立派な人じゃねえか。なんでもかんでも言うこと聞いてくれるロボットじゃないだろ?」

「た……しかに……。それはそうじゃ……そうじゃな……」


 呆然と、と言ってもいいかもしれない。

 いつの間にかオキナの目からはぎらぎらとした謎の輝きは薄れ、何となく冷静になっていくのが傍目に見て分かった。

 竹姫を見る。オキナは理解が追いついていなかっただけかもしれないが、こいつはそれをきちんと理解してたはずじゃないのか。なんてったって自分自身がキャラクターなんだから。自分だって嫌なことがあるように、小菊ちゃんにだって嫌なことはあるだろ、普通。

 竹姫はバツが悪そうに視線を逸らした。


「……ハトリと言ったか」

「おう」

「……すまんが一晩、ゆっくりと考えさせてくれんか。どうもわしの理解が追いついていない、というか、うまく呑みこめないというかのう……自分が途方もない阿呆になったような気分なんじゃ」

「少しでも冷静になってくれたなら何よりだ」

「よければまた明日、ここで会うことは出来んか。わしなりの答えを探してみようと思う」


 おお、以外と常識人らしくなってきたじゃないか。

 俺は頷く。


「ああ、じゃあまた明日、ここで」


     *


「……何やら言っておったが、あいつらを信用してもいいんでござるか?」


 ニンゾーは相変わらず嫌そうだな。

 俺はふむ、と腕を組んでオキナが先程までいた場所を見る。


「物は試しで言ってみたんだがな。思いのほか話が通じたし、ありゃもしかすると大丈夫なんじゃないかね」

「あやつは変態ではなかったということでござるか?」

「いや、変態(ロリコン)変態(ロリコン)だろうな」


 掲示板であんだけ騒いでたし。

 むしろ他の追随を許さないようなド級の変態かもしれない。


「むう……まあ、どうにかなるなら拙者は構わんが」


 何とかなれば、それがいいけどな。

 もしも奴の根底が本当に下衆ならば、その時は迷わずに。

 俺はもう一度、オキナと竹姫のいた場所を見返しながら、そんな風に思った。





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