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苦手な方はご注意ください。

No.-

No.7 フォールダウン・ワールド

作者: 夜行 千尋

出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第七弾!

今回のお題は「銃」「塔」「神話」


10/4  お題提示

10/6  プロットの原型を作る(この時はバットエンド物でした)

10/7  体調不良ながらプロットを詰める

10/8  無理がたたって悪化

10/9  更に悪化したため一日ぐったり

10/10 体調が復活したが寝坊する

10/11 やっと提出


寝坊、ダメ、絶対

本当にすみません

 僕らが住む世界は悲惨だ。人間に階級が付けられたのは今から約15年前という話だ。それまで人間は世界中に溢れ、お互いに争って、いがみ合い殺し合いをしていたという話だ。今ではそんなことは無い。

 今から約15年前。ちょうど僕が生まれたその日。世界は変わったらしい。近所の大人が空を見上げて言う。昔は、そこに青い空が広がっていたと……。僕の見て来た空は……。黒く煌めく人工の星空だ。

 ある日現れた空からの来訪者。それは空を覆うほどの巨大なもので、そこから伸ばされた巨大な『塔』は、僕らの星の地表近くまで伸びていた。その『塔』からは翼を持つ人間が現れて、人々を攫って行った。一部の人々はその人たちの美しさから、あれが天使だと言ったらしいが、現実的には彼らは天使なんかじゃなかった。彼らは人を、星に溢れている人類を絶滅寸前まで追い込むほど……捕食していた。彼らは人の血を吸う。天使なんかじゃなく『吸血鬼』だった。人類はすさまじい勢いで数を減らすことになった。

 でも『吸血鬼』も馬鹿じゃなかった。彼らは人類を飼い馴らすことを、家畜にすることを選んだ。人間を飼育し、適正な年齢になった者は『空』に連れていかれて彼らの食糧になる。僕らは『物』だ。彼らの『食べ物』だ。



 別に僕はそれでいいと思った。それでも食料も住む場所も困らない世の中になったんだから。そう思ってた。それがつい先日のこと。事態は悪い方向へ転げてしまった。僕の人生は変わってしまった。


 その日『第121区』の酒場、いうなれば、我が家なのだけれど……そこで事件は起こった。その直前まで、僕は店の手伝いをしていた。なんてことは無い日常だった。僕も、僕の家族も『吸血鬼』に関わらずに生きてきたのだから……。


 それは突然だった。店になだれ込むように『吸血鬼ハンター』を名乗る者たちが血だらけで入ってきた。暗黙の了解、吸血鬼にたて突く者は見殺さねばならない。自分たちが目を付けられないように……もちろん僕もそうしようとした。けれど、父さんと母さんが違った。彼らを助けようとした。

 止めようとした僕の隣を妹が救急箱を持って走り抜けた。そして、周りの客がぞろぞろと退出する中、がらんどうの店に残されたのは僕ら一家。蘇生措置を試みる父と、必死に止血する母、傍で包帯を用意したりする妹。僕はそれを見守るしかしてなかった。

 そして、当然のように『ハンター』を追って『吸血鬼』がやってきて、当然のように事態は転がって、僕の一家は……僕一人になった。両親は見せしめに区内に殺された後に吊るされ、妹は連れ攫われた。僕は咄嗟に「僕は見てただけです」そう言ってしまった。そう言ったのを、僕は後悔した。

両親の遺体を遠目に見ながら、僕は区を抜け出した。家から持ち出したのは家宝の皿一枚。これで足りるとは思えない。けど……僕はかすかな希望を頼ることにした。







「それがあなたなんです。ホークさん」


 僕の一人語りをホークと呼ばれる細い男性はソファーに仰向けになりながら、顔に雑誌を乗せたまま無言で聞いていた。


「だから……その、あなたに頼みたいんです。妹を、どうか、取り戻すのを……」


 ホークさんは黙っている。


「報酬は、これを……我が家の家宝の皿です。それなりに価値があるって言ってました」


 でもホークさんは黙ったままだ。


「足りないのは分かってます。だから……だから……」


 僕は必死に考えた。考えたけれど他に出せる物なんて何にもない。だから僕は言った。


「僕、出来ることならなんでもします。協力させてください! だから、どうか妹を助けてください!」


 僕は必死に、そのソファーの上で相変わらず動かないホークさんに頼み込んだ。

 このホークという人は『吸血鬼ハンター』の中では伝説のような人だ。尾びれ背びれが付いた伝説がいくつかあると聞いたことが有る。曰く、一人で『吸血鬼の塔』から帰ってきた、とか。『吸血鬼』はその名を聞いただけで震え上がるとか。そんな話だ。尾びれ背びれを抜いて考えても火の無いところに煙は立たない。……結局非力な僕が頼れるのは、こんな噂話の人でしかないのだ。


「お願いします! どうか、妹を!」


 と僕がお願いしてもホークさんは一向に動かない。まだお願いが足りない? あるいは報酬がやっぱり足りなかったのか? いや、やぱり……


「ああ、やっぱり……」


 と背後で少女の声がした。振り返ると、そこにはかなりラフな格好をした、僕より年齢が低いであろう少女が一人。

 彼女は僕の隣を通り過ぎ、ホークさんの顔にかけられている雑誌を取り上げ鼻を摘まむ。


「う、うごご、うぐが……が、ぷは!」


 とさっきまで反応が無かった細身の男が起き上がり、少女に言う。


「お前! 殺すきか!? 呼吸が止まったら人間は死ぬんだよ!」


 少女は無言でホークさんを見つめ、その後言った。


「で、話は何処まで聞いてたの?」

「話? ……なんだっけか? 今日の晩飯ならチンジャオロースだろう? 肉の代わりに揚げさんの」


 僕は呆然とした。つまり……

 少女がため息交じりに僕へ言う。


「ごめんなさいね。予想通り、寝てたみたいなのよ……」

「そ、そんな……」


 怒りがこみ上げてきた僕へホークさんが言う。


「で、なんでもしてくれるんだっけ? そら助かる。俺ら料理音痴でな。この間なんてひどかったぞ。こいつが……ああ、こいつの名前はヴィズってんだ。で、この女の造る飯がテロのレベルでな」

「あら、失礼ね。ご飯を造れるのが女だけなんて思わないでほしいんだけど」

「ああ? んなこと言ってないだろう? だから、この厨房君に……あ、お前名前聞いてなったな。なんだっけ?」


 僕は怒りに震えながら言った。


「クレンです!」




 その後、僕は事あるごとにホークさんに妹の救出を願い出たが、一切相手にされなかった。そして、時折厨房に入ってきては、フライパンを良いモノに変えたんだと自慢したり(あれは重くて扱いにくいのに、フライパンを振り回す中華料理をオーダーしたりするのには困った)、別の時は洗濯物を干すところで干し方にケチをつけてきたり(というかそもそも洗濯物を溜めすぎだと思う。運ぶだけでも重労働だ)、またある時は事あるごとに指で丸めたゴミを僕へ指ではじいてきた(掃除中にしてくるのはまだしも、不意打ちでしてくるのはやめてほしい)。極めつけはどこから持って来たのか超旧式のドアロックだ。かなり力を入れないとドアロックが引き抜けず、しかも、引き抜いてすぐに別の鍵を差し込まないと開かないとか……この間ヴィズがうまく開けれず悪態をついていた。

 そもそもこの人は本当に妹を助けてくれるんだろうか? 僕は何度となくホークさんへ……いや、ホークに突っかかった。報酬として渡した我が家の家宝は、肉無しチンジャオロースの皿としてしか使われてないし、いっそ取り返すぞと言っても無反応だった。むしろ出ていくと言うや否や飯の為に居てくれと言われたのは一番僕としては堪えた。


 しかしそのたびに焦らず待て、としか返ってこない。

 曰く、僕の妹はすぐには殺されないだろうという話だった。吸血鬼たちは「女になる前の少女の血」が高級品らしく、すぐに殺したりしないものらしい。だから、色々準備を進めているから待て、とのことだったが……。そんな保証はどこにもないじゃないか。

 僕は一人で廃材置き場から銃を見繕い、撃てるように修理して、なんとか『吸血鬼の塔』に行く方法を考えた。やり方は汚いけど、公共の移動用ホバーをジャックするのが良いと思う。なんとか『塔』の先端まで行ければいいんだから。


 そして、僕は計画を実行に移した。公共の移動用ホバーを一番人の少ない早朝一番のを狙ってジャックして、運転手すら追い出して僕はホバーを浮かせた。正直『塔』の仕組みが分からなかったし、ホバーでどこまで行けるか分からないけれど、行くしかないと思った。行けば殺されるかもしれない。それでも……

 何の問題も無く、僕は『塔』に向かってホバーを飛ばした。でもホバーを飛ばしたことなんてなかったから『塔』に、轟音をたてて突っ込む形で停車することになった。『塔』は下から見た時よりはるかに大きく『塔』の先端部分ですら家を数件束ねたより大きいような広さが有った。

 僕は廃車になったホバーから這い出して、廃棄された銃を手に外に出た。

 どうやら、僕は『塔』の“天井”に居るらしい。“床”には大勢の『吸血鬼』が居る。動揺する者や指をさして騒ぐ者。そして、いくつかの影が僕の方へ“降りてくる”のが分かる。僕は銃を構えた。十二分に引きつけてから……僕は引き金を引いた。でも弾が出ない。


「そんな……」


 必死にリロードを試みている間に、僕は『吸血鬼』に取り押さえられた。彼らが僕を抑えながら言う。


「まったく、まさか皇帝の居城に突っ込むとは恐れ入るぜ、『ハンター』さんよ」

「おい、乱暴に扱ってやるな。……まだ子供だ」

「子供でも銃を持ってる。扱いには慣れてなかったようだが、それでも十分だ」

「いや、止めてくれ。子供が殺されるのは見たくない」

「お前……ああ、そうか」


 なんとかこいつらが揉めてる間に……。僕は袖口に仕込んでおいた隠しナイフで押さえつけてきている吸血鬼の手を切った。傷口は浅いだろう。でも今のうちに銃を取れれば……。


「痛っ……この餓鬼!」

「よせ、止めろ!」


 背後に迫る気配を他所に、僕は銃に駆け寄り銃を手に取る。

 ……いや、取るより先に僕の体が後ろに引っ張られる。そして引っ張られる力で世界が線上に伸びて、僕は叩きつけられた。頭に響くような痛みを感じて、体が動かなくなる。鼻いっぱいに血の臭いがたち込める。


「もう止めるなよ! 餓鬼だろうが容赦なしだ! 見せしめに殺すべきだ!」


 僕は痛みの中、悔しさで、自分の情けなさで、家族との思い出を思い出して、泣きはじめていた。


「……捕らえるだけじゃだめか? なんならうちで、保護観察付で引き取るとか」

「いいや駄目だ! お前だって死ぬわけにいかないだろうが! 次は撃たれるかもしれない!」


 クソ……クソ……クソ……ちくしょう……悔しい……。

 そう思いながら、僕の体は動かなかった。そうだ。あの時「僕は見てるだけでした」と答えずに、一緒に殺されていれば良かった。僕は……後悔ばっかりだ。


「良いな、殺すぞ!」

「……ああ、分かった。仕方ないな」


 あの時本当は死んでいたなら……今これからどうしても死ぬなら……。


僕は咄嗟に僕を掴んでいる『吸血鬼』の腕に噛みついた。『吸血鬼』は痛がりながら、僕を殴った。何度も何度も殴ってきた。それでも、僕は必死に噛みつき続けた。でも次第に力が抜けていき、僕は離してしまった。もう僕にはどうすることもできない。妹の顔が浮かんで、心の中であの子に謝った。


その時だ。

 『塔』の壁を穿つ閃光。割れるガラス。響く複数の悲鳴。そして、目の前に降りてくる、あの細身の男。

 男は僕を掴んでいる『吸血鬼』を殴り飛ばした。僕は“天井”に投げ出される。そして別の『吸血鬼』が反応するより早く、懐から銃を引き抜き構えた。相手の『吸血鬼』は静かに両手を上げて後ずさる。


「よう、クレン。奇遇だな。こんな辺鄙なとこで会うなんざ」


 僕はその言葉を聞きながら、意識を失った。




 気が付くと、僕はホークの家に戻されていた。近くでヴィズがリンゴをいくつか無駄にしている。ホークはすこし離れたところで、携帯で話している。電話口からはなにやら怒鳴り声が漏れている。ホークもそれに対して怒鳴り返している。

 ヴィズが僕に気が付いて言う。


「ああ、おはよう。大馬鹿者さん」

「僕は……妹を……」

「ええ、知ってる。ごめんなさいね。あいつ、不器用なのよ。でももう、四の五の言ってられないと分かったでしょうし……私たちにも余裕がないのよ。あなたにも本格的に協力してもらうから」


 そういって、ダメにしたリンゴを食べながらヴィズは去っていた。

 逆にホークは僕によって来て言う。


「よう。生きてるか? 死なれちゃ困る。お前の料理はうまいしな」

「理由……そこかよ」


 ふふっとホークは笑って言う。


「明日までに治しとけ。明日から本格的に鍛えてやるよ」






 後に知ったことだが、家事全般を押し付けつつ、しかもいくつかの作業をやりにくくしていたのは、訓練の為だったらしい。確かに、銃を持つ腕はそこまで辛くない。訓練はきつかったけど、そこまで辛くも無かった。

 更に知ったことだけど、ホークは本当に『吸血鬼の塔』へ、いやそれどころかあの『空』に住んでいたらしい。曰く、彼は『吸血鬼』と人間のハーフで、腹違いの兄と妹が居るらしい。で、ヴィズはその腹違いの妹その人だという。そして現在の状況を造ったのは父であり、維持しているのは腹違いの兄とのことだった。

 ホークは『吸血鬼』としての性質は持っておらず、人より感覚が鋭く、人より肉体的に頑丈で有る事以外は人間と変わらないらしい。けれど『吸血鬼』としての感覚は射撃の腕前に大きく貢献しており、彼の名前は『吸血鬼』の間で恐怖の象徴となっているのは事実のようだ。元々父親が『吸血鬼』としても強力で特別な存在であったのが大きいらしい。つまり、純血の『吸血鬼』であるヴィズや兄は更に特別であるらしい。ヴィズも十分『吸血鬼』としては特別というが、兄、サイアスは『不死皇帝』と言われるほどの人らしい。だが、ホークはそんな兄と過去に戦い、勝利しているらしい。

僕は、そんな伝説上の存在に教示を受け、銃の訓練を受けた。



 そんな日が何日か過ぎたころ、ホークの家に小型ホバーが降りてきた。何事かと見守る僕の前で『吸血鬼』の女性がどうどうと降りてきたのを見て、僕は咄嗟に銃を取りに戻ろうとした。だが、僕はホークに止められ、ホークは降りてきた『吸血鬼』と向き合い話をはじめた。


「よう、フェイ。相変わらずいいプロポーションだな。今日は鉛玉一ダースをお求めで?」

「あら、相変わらず減らず口ね。軽口を言えないように縫い合わせましょうか?」


 などと言い合ったあと、二人は笑いながらハグをした。なんなんだ?

 混乱する僕の隣にヴィズが来て言う。


「ホークの学友よ。向うさんは『吸血鬼』の社会で言う“警官の親玉”といったところの人。今回の一件でひたすらに協力を打診してた人よ」

「今回の一件? あ!」


 どうやら、僕の知らないところで事態は動いていたらしい。



 フェイと呼ばれた『吸血鬼』は自身のコネを使い、僕らを『空』へ連れて行ってくれるらしい。僕の妹の居場所も割り出してくれた。まだ生きて居るらしい。しかし場所は『不死皇帝』の『宝物庫』だという。僕らにそれだけ尽くしてくれたフェイは、条件を一つだけ出してきた。


「『不死皇帝』を殺してちょうだい」

「ああ、いいぜ」


 一瞬の沈黙もなく、ホークが、まるで午後のお茶の誘いを受けるように即答する。そして何事も無いように話が進んでいく。

 僕は思わずその流れを止めてしまった。


「いやいや、待ってよ! お兄さんでしょ? まして、そのお兄さんめちゃくちゃ強いんだよね? それどころか、そのお兄さんは『吸血鬼』の統治者でしょう? そんに簡単に……」

「すまないな、クレン。これは、俺個人の問題でもあるんだ……」


 そう言って、ホークは険しい顔をした。ヴィズはひそひそと事態を説明してくれた。

 ホークは過去に吸血鬼として生きようとしていた。だが、そんな中、人間の女性に恋をして人間の女性と共に生きようとしていた。けれど、サイアスはそれをよく思わずに、ホークの目の前で殺してしまった。ホークはその際、サイアスと戦うもサイアスが行動不能のレベルまでしか追い込めなかったらしい。

 ヴィズは付け加える。


「でも今回は違う。特別な弾丸があるのよ。『吸血鬼』を……『不死皇帝』を殺せる特別な……弾丸がね」

「そんなすごい物が?」

「えぇ、先日手に入ったわ。だからこそ、あなたの協力をしようという気になったのよ」


 ホークが僕に向きなおり言う。


「クレン。お前に俺秘蔵のライフルを渡したい。もう撃っても肩を傷めたりしないはずだ。頼りにしてるぜ。妹さんを……お前の手で助けないとな」

「ああ……分かった」





 そして僕らはフェイの部下が警護する『不死皇帝』の居城、あの『塔』の根本へとたどり着き、難なく『不死皇帝』と会いまみえた。

 目の前に居るその青白い男は、幾つものチューブに繋がれ、金の装束に身を包んでいる。その男は静かに口を開いた。


「ホーク……女の為に高貴なる血を流した愚か者め……今度こそ私を殺すのか?」

「ああ、もう終わろうぜ。サイアス」


 サイアスはくぐもった、痰の絡む声で笑いながら言う。


「無駄だ。たとえ私を甚振ろうと殺すことはできん。そういう血統なのだよ。そして、お前たちが生きてここを去ろうと、ここでの一部始終はすでに我が社会へ放送されている。私の不死神話を継続し、かつ君らが手配される。この演目を楽しもうではないか!」


 その声に反応するように、『不死皇帝』の、サイアスの周りで小さな塵が集まり、それが弾丸のように迫ってくる。それに反応できずにフェイの部下たちが討たれていく中、僕は咄嗟にそれを避けることができた。……あのゴミを飛ばしてくるのも訓練だったと、今分かった。きっと最初から、ホークは僕をこの場に連れてくるつもりだったんだろう。

 僕は当初の作戦通り、狙撃しやすい場所を探しながら走る。近くにある巨像の足元に滑り込み、ホークの様子をうかがう。

 更に入り口から『不死皇帝』の私兵たちがなだれ込み乱戦状態になる。僕の役割は……今は待つこと。そして、タイミングを間違わないこと!


 ホークとサイアスの戦いは見ていて理解の範疇を超えていた。サイアスはほとんど動かない。だが、体から伸びたチューブや周りの物が彼を包み込み、ホークが撃つ弾丸のほとんどを弾き返す。ホークは体を逸らすだけでサイアスが放つ塵の弾丸をかわし、銃弾を撃ち込んでいく。両者は拮抗し、終わらないように見えた。だが、確実にサイアスは押されあたりに弾丸を防ぐ物が無くなっていく。そして……


「終わりだ。サイアス」


 完全に無防備になったサイアスにホークが銃を向ける。だがその瞬間、ホークの背後から私兵の一人が彼にとびかかり、その背中を刺す。その一瞬の隙をサイアスが逃がさず、ホークを塵の弾丸で射抜く。ホークが膝をつきながらも、襲って来た私兵に弾丸を撃ち込む。撃たれた私兵は傷口から水銀の様な液体を吹きあげながら、みるみる縮んでいく。

 それを見てサイアスが言う。


「そうか、私を殺す為の弾丸を用意してきたか!」


 そう言いながら、サイアスが自身に繋がっているチューブを使ってホークの銃を弾きとばす。


「また撃たれては困るからな」

「はは、その心配はねぇよ。あの弾は一発だけだ」


 その光景にヴィズが叫び、多くの者が二人の間に入ろうとするも『不死皇帝』の私兵に止められてしまう。

 サイアスは笑いながらホークをチューブで貫き、持ち上げて言う。


「では死ね。我が一族の恥さらしめ」

「ああ、恥さらしは死ぬぜ」


 僕はその無防備な姿を逃さなかった。ライフルに込めるのは『特別な弾丸』、狙いを付けて僕は撃った。

 弾丸は吸い込まれるように『不死皇帝』の二の腕に当たる。サイアスは悲鳴を上げながらホークからチューブを引き抜こうとするが、抜けずに戸惑う。戸惑いながらも腕から上がる銀の飛沫に驚き、サイアスは自分の腕を引きちぎった。


「残念だったな! 腕ごとき、後で生やせば……」


 サイアスの言葉はそこまでだった。僕は撃った直後にはライフルをリロードしていた。あの超旧式のドアロックに比べれば軽い。サイアスが腕を引きちぎるころには、僕はすでに彼の頭に狙いをつけていた。

 サイアスは頭部から銀の飛沫を上げながら、縮こまり、消えていった。


 ホークは自身の腹部を押さえながら言った。


「見ろ! 不死などというふざけた神話は終わった。もうこれで、人間を吸血鬼が支配するなどという世界を描いた者はいなくなった。これからは……あいつの、『不死皇帝を討った者』の時代だ。これが、我が血統によって命じる最初で最後の勅命だ」


 そういって、彼は倒れながら僕を指さした。


色々消化不良だよ! ……ぐすん


いやぁ

これ本当は前後編に分けるべきボリュームを短編の大きさにカットした感が否めない

しかも一週間チャレンジではボリュームかなり大きめですし……


色々裏設定としては

クレンを取り押さえた吸血鬼の警備員は、

一方が仕事真面目の過激派。もう一方の穏健派っぽいのは、最近子供が生まれたばかりだったので、殺すことにためらいを覚えていた、という設定です。


他にも

塔を貫いた閃光はヴィズそのものです。

サイアスの手を触れずに物を動かすのもヴィズの閃光も、父親からの特別な『血統』の力です。この辺全然書く余裕なしだったのでバッサリと……

サイアスのサイコキネシスに対策をしたもので身を包めているのもホークが対策を知っていたから、って設定も地味に有ります。

更に

サイアスを殺した弾丸の材料はクレンが持ち込んだ『家宝の皿』を溶かして作ったものです。チンジャオロースを乗せるんじゃない。


ちなみに

クレンが塔に突っ込んだのはホークとしては計算外でした。なので助けに入るのが遅れ、クレンが気絶した後、フェイが来てなんとか誤魔化してもらった、その後フェイの説教は電話でも続く、と言った話もあります。


ここまでお読みいただきありがとうございました

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