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【詩】五番目の戦士

作者: 普敬

よくぞ生まれてきてくれた

 我々は歓迎しよう


まだ君は

 泣き叫ぶことしか知らないが

まだ君は

 乳房を噛むことしか知らないが

まだ君は

 暗闇の揺り籠しか知らないが

まだ君は

 己の意味を知らないが


我々は歓迎しよう

 五番目の戦士として


最初の戦士は

 灼熱の上に成り立った

亡者と生者の境目が

 曖昧な中立ち上がる

己に受けた

己に刻まれた

己に染みついた

一つの事実を知らぬまま

毅然と立ち上がり

 敢然と立ち向かい

  悄然と立ちくらみ

ただ

 瞳の奥に刻まれた

 『あの』現実を起こさぬよう

忍び寄る呪いに蝕まれながら

最初の戦士は旗を立て

怒りを剥き出した瞳で

英霊となった


二番目の戦士は

 焼け跡の中で立ち上がった

正義と悪の境目が

 曖昧な中立ち上がる

己が継いだ

己が刻まれた

己が仕組まれた

一つの事実を知らされながら

毅然と立ち上がり

 敢然と立ち向かい

  悄然と立ちくらみ

ただ

 耳石の奥に刻まれた

 『あの』惨状を起こさぬよう

忍び寄る呪いに身を震わせながら

二番目の戦士は砦を築き

苦悩に満ちた瞳を持って

 炎天下に立ちはだかる


三番目の戦士は

 緑と煙の中で立ち上がった

歴史と現代との境目が

 曖昧な中立ち上がる

己が聴いた

己が刻まれた

己が教えられた

一つの事実を学びながら

毅然と立ち上がり

 敢然と立ち向かい

  悄然と立ちくらみ

ただ

 写真の中に刻まれた

 『あの』過誤を起こさぬよう

呪いの検体として観察されながら

三番目の戦士は橋を掛け

微笑みに満ちた瞳のままで

 海に山にと駆け廻る


そして四番目の戦士が私

 金満と衆愚の中で立ち上がった

虚構と現実との境目が

 曖昧な中立ち上がる

己が聞いた

己が刻まれた

己が口伝された

一つの事実を眺めながら

毅然と立ち上がり

 敢然と立ち向かい

  悄然と立ちくらみ

ただ

 年表の端に刻まれた

 『あの』歴史を起こさぬよう

呪いを空想と感じながら

四番目の戦士は後ろに付いて

困惑に満ちた瞳を湛え

 往くべき道を探している


そして

 五番目の君がいる


一瞬の劫火に始まった

呪いを受け継ぐ戦士の闘いは

未だに終わる気配無く

さらなる呪いの気配の中で

よもや虚ろな事実の中で

不安に揺れる大地の中で

人々に求められる


過酷な運命だと思う

逃れられる宿命でもある

平和の中には本来不要である


それでも

 二度描かれた地獄絵図と

 二度刻まれた人の呪いと

 二度嗤われたこの刻印を

受け継ぐ戦士として

五番目の戦士として

 君はこの地に生まれ落ちた

 君はこの世に生まれ落ちた


だからどうか

 君にも闘ってほしい

  平和の奥底に隠れた呪いと

だからどうか

 君にも闘ってほしい

  この日常を覆す怪物と

だからどうか

 君にも闘ってほしい

  君の染色体を犯した光と


我々は歓迎する

 君を被爆地の五番目の戦士として

我々は泣きながらも歓迎する

 君を五番目の戦士として


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