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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

忘れなければいけない。

作者: 井ノ下功

 私は、死神である。

 そして彼は、これから死ぬ人だ。


「なぁ、ユキヤ。これからも、ずっと一緒にいような。」

「・・・・・・。」


 私は答えなかった。

 答えても意味は無い。なぜなら、その願いは絶対に叶わないから。


「・・・・・・ユキヤ?具合でも、悪いのか?――――ゴメンな、こんな寒い日に連れ出しちゃって。」

「・・・ううん。大丈夫。誘ってくれて有難う。嬉しいよ。」

「そっか。良かったー。」


 どうにか頭を振り笑いかけると、彼は安心したように微笑んだ。

 その笑みに、私はまた、胸に痛みを感じた。

 私が殺すわけじゃないけど。

 私がいるから死ぬわけじゃないけど。

 分かっている“不慮の事故”による彼の死を、見届けなければならないなんて。

 俯いて黙り込む私を、彼は除き込んできた。優しい目尻が心配そうに垂れ下がっていて、なんとも情けない顔。


「ユキヤ?本当に、大丈夫なのか?無理しなくていいよ。今日は、帰ろうか。」


 なっ!帰ろう―――――と踵を返した彼の手を、私は咄嗟に掴んだ。


「?」


 彼が振り返る。私は必死に、笑顔を作った。


「心配かけてゴメン。でも・・・お願い。今日は、キミと歩いていたいんだ。“サイゴ”まで、一緒にいたいの。だから、その・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」


 きちんと言えずに、私は俯いてしまったのだが、それでも彼は分かってくれたようだ。

 ポンッ、と、頭に暖かいものが乗っかった。彼の大きな手。


「じゃあ、行こうか。」

「・・・・・・うん。」


 私たちは手を繋いで、改めて歩きだした。


 たとえ未来は無くたって、それでも良いと思った。


 彼が隣にいるこの瞬間が、何よりも大切なんだ。


 世界の最初の世界から変わることのない、絶対的な愛が、確かにここにはある。


 そう、その愛は決して変わらない。たとえ、彼の姿が、見るも無惨なカタチになったとしても。


 クリスマスのイルミネーションがキラキラと輝く中、婚約指輪の入った箱を握りしめ、血の海に沈んだ彼に微笑む。


 安心して欲しいな。


 死人となったキミを愛せるのは、死神である私だけなのだから。



 ―――――・・・だけど、私はどうしようもない痛みを感じて、その場に膝を突いた。


 果てしない喪失感。それから頭痛。私はその時、彼が死んでしまったことより、衝撃的なことに気が付いていた。






 彼の名前・・・・・・何だっけ。




 

 



 けど、きっと、名前も知らない彼のことなどすぐに忘れて、また新たな人の死に立ち会うのだろう。


 忘れることは、何も、人に限った美徳じゃない。



 

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