表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

***

指定された日は、のほほんと明るい好天で、のんびりカラスがかあかあと鳴いていた。


幸先いいんだか悪いんだかわからないけど、今日のこの日まで何度も封を開けて眺めた写真の顔を思い浮かべながら、悟は見合いの席に臨んだ。


かぽーんとししおどしに竹の打ち付ける音ものどかで、仲人があれこれ言ってる言葉も上の空、机を挟んだ悟は、うつむいたきりの見合い相手を眺めていた。


うん。やっぱり、そうだ。


あの時の彼女だ。


今日の席に合わせてすっかりめかし込んで、見合いに出るには早すぎる年齢の彼女は、板についていないお化粧も初々しい。


少し、大人になったんですかね。


名前は……水流添つるぞえ、道代さん……。


可憐だ。


痛々しかった姿の印象が強くて、目の前の彼女との落差に、ほう、と悟はため息を飲み込んだ。


席に通されて顔を合わせた瞬間の彼女の顔が忘れられない。


悟が誰か、気づいている風だった。


ふたりきりで残されて、しばらく、竹の音と時折遠くで鳴くカラスの声以外聞こえない室内で、身じろぎもせずうつむく道代を前に、悟は


「まあ、楽にして下さい」


と、言ってよっこいしょと脚を崩し、あぐらを組んだ。


「失礼しますよ」


「……いえ」


小さく応える彼女は一度も顔を上げない。


「ありがとうございました」


蚊の鳴くような声で道代は続けた。


「ああー」


……やっぱり、気づいていたんだ。


悟は頭の後ろを無意識のうちにかく。


尚も言葉を継ごうとする道代へ、手で制して。


「僕は未来の嫁さんを助けたんですねえ」


悟は無意識のうちにそう言っていた。


道代の顔に初めて、血の気が通い、表情が揺れる。


「はい」と言ったきり再びうつむいた彼女の姿がか弱く、小さく見えて、悟の心にさざ波のように暖かい思いが広がっていく。


彼女を、守りたい。


それまでの人生で、愛や恋など考えたこともなかった彼にとって、初めて異性を意識した瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ