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夢をつなぐ  作者: キッド
3/9

ルームメイトはチームメイト



               ―――渡会春奈―――




 この白鴎女学院は私の家から十分のところ、この当摩市の中心に位置する女学院。

 特に進学校であるわけでもなく、学校が大きいというわけでもない、変わった授業、校風があるわけでも、スポーツ特待があるわけでもない。

 男子と一緒にいるのがいやだからとか、女学院に興味を持っていたからだとか、親が過保護で家から近いところしか許してくれないとか、女学院とはいっても何の変哲もない生徒が入ってくる普通の中学。 サッカーが有名であること以外は。


 うーん、サッカーで有名ってところ以外は普通な女学院だし、校舎も歩き回っては見たものの大して小学校とかわらなそうな構造。

 まぁ、トレーニングルームあったりとかグラウンドが芝にはなってるけど広くないし見た限りだと、フルコート一面がぎりぎりなんだよね。

 古豪ってお父さんには聞いてたけど……そこが強さの秘密なのかなぁ?



                 → ↓ ← ↑


 始業式の終った私は、あることを考えながら、窓側一番後ろの席に座り、校庭を眺めていた。

 教室に戻って来るときの話だ、ある女の子達が噂話でこんなことを言っていた。


『この学校、白鴎女学院のサッカー部は一年前の夏に起こした、ある事件がもとで今は廃部状態になっている』


 その場で声をあげそうだったものの、なんとかこらえ私は教室に戻ってきた。

 嘘でしょ?廃部状態なんて。 私はサッカーのためにこの白鴎に入ったっていうのに、これでは何の意味もない。

 こんなことでは今までと同じ、一人で練習して三年間過ごすことになっちゃうよ。

そしたら私、世界一どころか試合さえ出られないんじゃ。


 ……だめだよね、こんな悲観的じゃ。

 中学まだ始まったばっかり、廃部とはいってもただの噂話でしかないのかもしれないし、もしそうでも部員を集めてまた作り直せばいいだけの話だ。

 監督だってもとは有名なサッカー名門校、前任監督だってまだいらっしゃるかもしれないし、いなくてもきっと学校が支援してくれるよね。


 一気に希望であふれて、やる気満々のあたしは、自分の机で右手を掲げ、燃えていた。

 そんなときだった。



「……」


 急に肩をトントンと指で突かれた気がした。

 その方を向いてみると、どうやらその犯人は私の隣の席に座っていた女の子だったようだ。

 その子はちょっと泣きそうな目をうるうるさせながら、私の眼を見つめている。


「えっと……どうしたの?」


 あれ? 私何かした?

 何でこの子、泣きそうなんだろう。


「……松井彩香まついあやか。 これからよろしく」


 松井彩香という名前を言うと同時に右手を広げてすっと、私の方に勢いよく突き出す。


「ああ!! 自己紹介! びっくりしたよ、私が何かしたのかと思っちゃった。

ヨロシクね、松井さん。 私は渡会春奈、ハルでいいよ」


 その右手を握り返し、ともに握手をする。

 手を握り返されてうれしかったのか、松井さんの顔はぱぁあ、と明るく笑顔になる

 手を握っても感じたけど、この子かなり小さい。

 座っている状態だからそこまで詳しくは解らないけど体型も手も小さいし、見たところ頭一つ分違うじゃないかな


「……ヨロシク、ハル。

私も、アヤでいい」


「うん、わかったよアヤ」


「よかった、ハルみたいな女の子が隣で。 仲良くやっていけそう」


「私も同じだよ。 アヤと知り合えてよかった」 


 結構片言でしゃべってたからとっつきにくい子かと思ったけど、純粋でいい子だなと、私は思った。

 ヤッター、中学で初めてお友達がデキタヨー!!

 中学生活がこれから始まるんだなぁと思っていると、教室の前の扉がガラガラと開いて、男の先生が教壇まで歩いていく。


「ねぇねぇ、ここって男の先生いないんじゃなかったっけ? なんで男の先生がいるの?」


「解んない、でもちょっとかっこよくない?」


「解る、解る」


 周りの女の子達がキャーキャーと騒ぎ立てる。

 そして男の先生はチョークで黒板に名前を書いていく。


「あぁ~、俺の名前は神堂祐志。 今年が教師一年目で、とりあえずこのクラスの担任になったぁ。

担当教科は体育だ、ヨロシクたのむわぁ」


 頭をポリポリとかきながら、何処となくめんどくさそうに自己紹介を済ませる。

 茶色い髪の毛がつんつんとんがっていて、周りの女の子から言わせるとかっこいいらしい。



「キャー、体育教師だって! これ、ヤバいよね」


「男の先生とってことでしょ?」


「でも私、祐志先生になら手取り足取り教えてもらいたい!」


「あんた、なにいってんのよ。 私が最初よ」


 いやいや、あなたがなにを言ってるんですか?

 体育の授業程度なんだからそんなに密接することなんかないでしょ。

 そもそも、顔がかっこよければ、あんたたちは何でもいいのか!?

 さっきはアヤと知り合えてこのクラスでよかったと思ったけど、今のを聞いてしまうとどうやらはずれなのではないのかという気もする。

 確かにカッコイイんだけど、私としては気になるのはそこではない。

 顔がカッコいいどうこうとかそれ以前にあの人、何処かで。

 

 どこでだろう、この神堂祐志という先生に出会ったことがあるのは。

 いや、出会ったことはないのかもしれない、似ているというだけで。

 そうだ、誰かに似ているんだ。

 あの髪型、顔立ち、雰囲気、私の知っている人に似ている。


「(……ハル)」


 あと少しで思い出せそうだったところを肩にとんとんと、指でつつかれ、はっとわれに返る。

 どうやらアヤは人にものを尋ねるときに指で肩をつつく癖があるようだ。

 アヤは私が気がつくのを確認し、小さな声で私に尋ねてくる。


「(ハルも、ああいう先生がいいの?)」


「(えっ!? 私は別に)」


 どうやら恋愛感情はあるのかという質問だったらしい。

 うーん、生まれてこのかた、恋というものを私はしたことがない。

 強いて言うならば、サッカーの試合を見に行った時に助けてもらった、私の目標となっているお兄ちゃんではないだろうか。

 でもあれは、憧れという意味で恋とか愛とかとは違う気がする。

 好みとかもよくわからない、先生は私から見てもかっこいいと思うし、細いけどそれでいてなよなよしいという感じでなく芯がしっかりしていてがっちりしてそうだし、身長も日本人にしては大きい長身。

 女の子からしたら理想的なんだろうけど、それだけでは私は好きの対象にならない気がする。


「あ~、今日は特別何かやるわけじゃなくて、配布物配ったら終わりになるが。

サッカー部入部希望者は着替えを持ってるやつは着替えてグラウンド集合、ないやつはそのまま集合だそうだ」


 よかった、練習に無理やり参加しようと思って着替えを持ってきていて。

 ほら、やっぱり廃部中なんて噂でしょ。

 さすがはサッカー有名校だよね、入学式から練習だなんて、気合入ってるなぁ。

 よし、それじゃアヤもサッカー部に誘おう、見学だけでも。

 そう思い、隣の席、アヤの机を見たそのときだった。


「(あれ?)」


 アヤの机の横、かばんさげには有名なブランドのマークの入ったサッカー用のエナメルバッグが下がっている。

 女の子であるなら、もっと鮮やかで、派手な色のバッグやかばんで登校するもの。

 にもかかわらず、アヤが持っているのは青一色のエナメルバッグ。


「アヤ、もしかして」


「……うん、私も、サッカー部希望」


 私の初めてできた友達は、ルームメイトであると同時に、チームメイトでもあったようだ。

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