こんぴけん SS2 (祭りだから食い意地張ってもいいんじゃない?)
SS第2弾です。
サブタイの()の中の言葉には深い意味はありません。
ではどうぞ。
「はるか~! は~や~く~!」
「ちょっと待ってよ~!」
「早くしないとアレ無くなっちゃうよ~!」
「わかってるってば~!」
水川市立第一中学校、文化祭二日目、ちなみに最終日なのだ!
急いでいる目的は昨日買い損ねた三年C組の出展、喫茶店の一日五十個限定のとってもおいしいと評判のケーキを食べに行くためだ。朝の十時から販売開始、今は十時三十分、まだきっと間に合うはず……
「いよっしゃあああ!! 間に合ったあぁぁぁ!!!」
「せーふ、ギリギリせーふ!」
「……えーと、とりあえずいらっしゃいませ。何をお求めで?」
「おいしいってうわさのケーキを二つ!」
「……そんなに慌てなくてもまだ残ってるよ。はい、どうぞ。二つで三百円。」
「やた~!! ゲットオォォォオ!! ありがとう! 榎戸先輩!」
「はいはい、どういたしまして。ほら、次の人が待ってるから早くどいてちょうだい。」
「やったよ春香~! うわさのケーキゲット!」
「やった~! さすが美紀ちゃん!」
「はっはっは~、今日からウチを神と呼びなさ~い!」
そうして目的のケーキをゲットしてわたしたち二年B組のクラス出展場所の教室に戻る。
「みんな~、やったぜ~! 例のブツ手に入れたよ!」
『えっ、ホントに!?』
『ちょっとちょうだいよ~』
「ちょっとだけなら春香が譲ってくれるかもよ~。」
「え? 美紀ちゃんはみんなに分けてあげないの?」
「ウチは全部自分で食べる!」
そう言った後、間髪いれずに買ってきたケーキに喰らいつく美紀ちゃん……
『あ~! 食べちゃった!』
『こうなったら……春香、そのケーキを一口だけ……一口だけあたしに……』
「え~っと…………ぱくっ。」
『うぁっ! 春香まで食べちゃった!?』
「うーん、おいしいなぁ♪」
『美紀……あんたねぇ……』
「あ、まだケーキ残ってたよ?」
『春香…………それを早く言ってよ! よっしゃ~、突撃~!!!!!』
全力で教室を飛び出してゆくクラスメイトたち、ちなみに男の子たちはそんな様子を呆気に取られたように見ていた。
「そういえばさぁ、春香、」
「ん? どうしたの?」
「あんた籠原さんって人を文化祭に呼んだんだって?」
「秋乃先輩のこと? なんで美紀ちゃんが知ってるの?」
「やっぱり呼んだんだ! うぉ~! これはキタ~!」
「どうしたの?」
「あんたねぇ、この辺りの中学生で二中の籠原さんって人を知らない人はいないよ?」
「そうなの?」
「そうだよ、この辺りじゃ結構有名だからね。二中のプリンセスってあだ名?もついてるし、容姿端麗、頭脳明晰っていう話だし。それと二中の男子はほぼ全員撃沈済みらしいし。」
「へ~! 初めて知ったよ~!」
「……春香、不思議とそういう情報には疎いんだよね……」
「でも来れるかどうか分からないって言ってたよ?」
「……それはこのタイミングで言うことじゃないんじゃない?」
「どうして?」
「……人の期待を微妙に裏切りかねないからなんだけどなぁ……まぁいいや、春香がそのへん抜けてるのは今に始まったことじゃないし。」
「あ~っ、ひど~い!」
「だってホントのことじゃん。」
「うぅぅ……なんかくやしい……」
「ま、口でウチに勝つには十年早い!」
「で、何でいきなりそんなことを聞いたの?」
「まぁ折角だしさ、ウチもその人がどんな人だか見ておこうと思ったんだよ。……つーかそもそもどうして春香がそんな人と知り合いなんだ?」
「小学校の時に同じ学校だったんだよ?」
「……で、さんざん迷惑かけまくってて顔を覚えられたってとこ?」
「あはは~……せいか~い……」
「はぁ……あんた小学生の時から今みたいに抜けてたわけ?」
「いっ……今はもっとましだもん!」
「それはつまり昔はもっと酷かったと?」
「はうぅっ……」
「……あんたそのうち籠原さんって人にちゃんとお礼を言っといた方がいいんじゃない?」
「あはははは~、そうだね~……」
そして美紀ちゃんと受付当番をしながらしゃべっていると、いつの間にかお昼ぐらいになっていた。
「おっつっかれ~。美紀、春香。今度はうちらが当番だから昼でも食べてきなよ?」
「おっ、絵梨じゃん、オッケー、それじゃあ後は任せた!」
「後は引き受けた!」
なぜか敬礼を交わして交代する美紀ちゃんと絵梨ちゃん。
「春香ちゃん、今度は私が見てるから春香ちゃんもお昼食べてきたら?」
「あっ、綾香ちゃん! うん、じゃあよろしく! 美紀ちゃ~ん、お昼食べに行こ~!」
そして校庭に出ている食べ物屋さんで何かを食べに廊下を歩いてゆく。
「おっと。」
美紀ちゃんがすれ違う人とぶつかりそうになり、すんでのところで避ける。
「はにゃあ!」
わたしは思いっきりぶつかってしまった。
「あいたたた……」
「ったく……なんだよ! 痛てーじゃねーか!」
「はわわわわ……ごめんなさい。」
「ゴメンで済むと思ってんのか!」
ぶつかってしまったどう見ても不良みたいな人たちの向こうで、美紀ちゃんが口パクで『ヤバイから早く逃げろ』と言っているのが見える。
「だって、ごめんなさいしたらみんな許してくれるんだよ?」
「だからゴメンで済むと思ってるのかって言ってんだよ!」
「思ってるよ?」
向こうで美紀ちゃんが頭を抱え込んでいるのが見える。きっと口パクで『バカ~!』って言ってるのかな?
「テメェ……ナメてんのか!」
ドゴッ! と音をたてて不良がロッカーを殴る。
「はうぅぅぅ……」
「落とし前つけろや、コラァ!」
『うるせーな、謝ってんだから許してやったっていいだろ?』
野次馬の中から一人の男の子が出てきてわたしと不良の間に立った。
「んだテメーは? ァア?」
「誰だっていいだろ、もう終わりにしろよ、みんなの邪魔だ。」
「テメェには関係ねぇ! 引っ込んでろ!」
野次馬の中から今度はポッチャリした男の子が出てきてさっきの男の子の後ろでなにやら囁いている。
(代々木、やべーよ、とっとと逃げようぜ、な?)
(どう見たって状況ヤバイだろ? いまさら逃げられる空気じゃねぇって。)
(そこをなんとか。)
(もう無理だ。)
(うわ~ん、代々木のバカぁ!)
……この人たち、コントでもやってるのかな?
「なにゴチャゴチャやってんだ、ゴラァ!」
「だから許してやれよ、お前が許せば無事に解決するんだからよ?」
「ッ……この野郎!」
不良の内の一人が男の子に殴りかかろうとしたその時、
『邪魔だよ!』
向こう側から誰かが叫んだ。
「今度はなんだ、誰だ、テメェ?」
『知る必要はないし教える気もない。正直言って君達が邪魔で廊下が通れないからどいてくれ。』
「んだとぉ?」
「……!! やべぇ! 兄貴、アイツ二中の小金井だ!」
「……ッ! マジか!?」
「ヤバイって、兄貴! アイツにたてついたら冗談じゃ済まねぇ! 殺される!」
「クソッ! 覚えてろ!」
不良たちが慌ててその場を去ると、滞っていた人の流れが再び流れ出す。
「春香、大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ?」
「はぁ……ホントに良かった……それにしてもあんたもう少し考えてものを言いなさいよ……」
「あはははは……だってホントのことだもん。」
「それがマズいの! ったくもう、今回は無事で済んだけど、もしかしたら大変なことになってたかもしれないんだよ?」
「ところでさっきの人だれ?」
「ん? さっきの不良? えーっとねぇ、たしか四中の……」
「そっちじゃなくって……」
「二中の小金井さん? あの人は不良じゃないよ?」
「そうなの?」
「うん、あの人は……まぁ一言で言っちゃえば変な人?」
「変な人?」
「う~ん、なんでもムチャクチャ頭が良いらしいんだけど、それ以上に頭のネジが飛んじゃってるらしいんだよね……奇妙奇天烈、天才奇人? みたいな感じらしいよ。一説ではものすごい裏ネットワークを持ってるとか、中一の頃喧嘩を売ってきたヤツをどっかの精神病院送りにしたとか……」
「って、そうじゃなくって!」
「なに? 最初に出てきた人?」
「そう、その人!」
「うーん、ウチは知らないなぁ……たぶんどっかの中学生じゃない?」
「……そのまんまだね。」
「まぁいいや、とりあえずお昼食べに行こう! 景気よく食べて嫌な空気を吹っ飛ばすぞ~、お~!」
そしてその一年半ほど後……
『新入生諸君は自分のクラスのところに並んでくださ~い!』
「じゃあ春香、ウチはこっちだから入学式が終わった後ね。」
「うん、それじゃあまた後で、美紀ちゃん。」
今日は高校の入学式の日、わたしのクラスはC組なのだが……
「……ここってどこのクラス?」
……さっそく迷子になってしまった。さっき別れ際に美紀ちゃんが言っていた言葉を思い出す。
『春香、迷子になっちゃだめだよ?』
……美紀ちゃんの心配は的中したみたいだ……
「どどど、どうしよう!」
もうすぐ体育館に移動する時間なのに……
必死に一年C組のプラカードを探すわたしの視界の隅に、どこかで見たことのある感じの人の姿が入った。
「あの人って……!」
素早く振り向いてその人の姿を探す。
「ひでぶっ!!」
「あ、ごめんなさい!」
振り向いた時に肘が当たってしまったらしい。とりあえず謝って、あの人影が見えた方向に行く。
人込みの中をかきわけて進んでいくと、その人はそこに立っていた。
「……見つけた……」
そこにいたのは紛れも無く一年半前に、わたしと不良の間に立ちふさがってくれたあの男の子だった。
「……すーはーすーはーすーはー……よし!」
意を決して話しかける。
「あっ……あの、い、い、い、一年し、し、C組のば、ば、ば、ば、場所は、ど、どこですか?」
「……し、C組ならここだけど?」
「ここ!?」
「だからここだって、うちのクラス。」
「よかった~、このまま間に合わないかと思った~……」
『お前は桜木か? お前さんはこっちに並んでくれい。』
担任の先生と思しき人がわたしの名前を確認する。
「あ、は~い!」
そして整列が終わると体育館へ移動してゆく……
……キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪
『……~い…………お~い、桜木~、起きろ~。』
「はにゃ!?」
「起きろって、テスト終わったから。」
「えっ!? テスト終わった!?」
「だから終わったって言ってるだろ? 答案回収するから起きろ。」
『桜木~、ゆっくりお休みになってたみたいだから成績は期待してるぞ?』
「登戸先生、ごめんなさい!」
「……分かった、とりあえず今のところは許してやる。」
答案の回収が終わると、先生が話し出す。
「よし、これで期末試験も終わりだ。お疲れさん。それじゃあこの後は配布物なんかを配るから級長と副級長、学級委員は俺についてきてくれ。その他のやつらは教室の中でテキトーに羽目を外しておくように、以上!」
先生が教室を出て行くと、神田君が代々木君の方を向いて、頭を抱えて絶叫した。
「終わった~! ……そしてオワタ!」
「はいはい、それ中間の時も聞いたぞ?」
「代々木は余裕だな!?」
「いまさら騒いでももう変わらねぇって……」
「そうか、代々木もオワタか……」
「そんなところだ……」
「で、ぐっすりお休みしてらっしゃった桜木さんはどんな感じで?」
「わたし? あはははは……ちょっと危ないかも……」
「先程寝てた世界史は?」
「あ、あれは大丈夫、全部終わってたから!」
「な、なんですとっ!?」
「桜木、本当に全部終わってたのか!?」
「うん、だって世界史は秋乃先輩に教わったもん!」
「な……なんというチート!!」
そうしているうちに級長たちが戻ってきて配布物を配り始める。そして先生もやってきて、夏休みの注意などを話す。
「おし、伝達事項は以上! 次は終業式だから忘れんなよ! そして夏休みは全力で楽しむように、別に家に引き篭もって××ゲーやる! って言うんだったら止めないがな。まぁ、お巡りさんのお世話にならないように節度を持って遊ぶなり何なりやってくれ。以上、おしまい!」
「起立、気をつけ、礼!」
『さようなら~』
そして終礼が終わると、代々木君、神田君と一緒にコンピューター研究部の部室へ向かう。廊下はテストが終わったという開放感でハイテンションになった生徒たちがたくさんいて、雰囲気もどことなくウキウキした感じになっている。
「は~るか~♪」
廊下でこんな風に声をかけてくる人は一人しかいない。
「あ、美紀ちゃん! な~に?」
「今度さぁ、おいしいって評判のケーキ屋さんに行くんだけど、春香も来る?」
「行く行く!」
「おっしゃあ! 了解! いま春香で五人目だから、もっと集めてみんなで楽しく行こう! ところでテストどうだった?」
「あはは……それは聞かない約束だよ~……」
「ふっ、ウチはもう壊滅だぜ~!」
「大丈夫、次のテストがあるよ!」
「春香~、勉強教えてよ~!」
「それはわたしより秋乃先輩に頼んだ方がいいと思うよ?」
「……そうか、じゃあ春香、よろしく頼んどいて!」
「えっ!? わたしが頼むの?」
「冗談だよ、それぐらい自分で頼むから。それじゃまたね!」
「うん、じゃあまたね~!」
美紀ちゃんと別れて部室の方向へ再び歩き出す。部室に着くと、秋乃先輩と小金井さんはもう来ていた。
「お疲れさまでーす。」
「ちわわーっす。」
「おつかれさまです~。」
「お疲れ~、試験の出来はどうだった?」
「……聞かないでください……」
「そうか~、それじゃあ期待することにしようかな~」
「そういう小金井さんたちはどうだったんですか?」
「ん? 聞くだけ野暮ってもんじゃない?」
「……今回は小金井くんと同意見ね。」
「…………代々木、聞いたオレがバカだった……」
「お前のバカは今に始まったことじゃないだろ?」
「うわ~ん、お姉さま~! 代々木がオレをバカにしてきます~!」
「とりあえず私たちから見たら二人とも大差は無い、とだけ言っておくわ。」
「籠原先輩……さりげなく心にグサッと刺さる言葉を言いますね……つーか、目が怖いです……」
「その原因を作ったのは神田君よ?」
「はいはい、そこまで。それじゃあ先に夏休みの予定をパパッと説明しちゃうから適当に腰掛けて話を聞いたね?」
「……まだ何も聞いてないんスけど……?」
「訂正、腰掛けて話を聞いてね?」
「どうして普通に修正しないのよ……」
「それで、夏休みの予定ってどんな感じなんですか?」
「桜木さん、それを今から説明するからはやらない。」
「は~い!」
「それじゃあ説明を始めましょう。」
そしてコンピューター研究部の夏休みが始まった。
ではまた。