第5話 (88は何の数でしょう?)
やっと第5話……
例によってサブタイトルの( )の中の言葉には深い意味はありません。
それではどうぞ~
そして次の日……
「神田、一時間目って何だったっけ?」
「一時間目? 現社じゃないのか?」
朝、全く覚えていない時間割を思い出せないので授業の準備のために科目を聞く。
「現社だったっけ?」
「だったと思うんだが……メガネ~! 一時間目ってなんだっけ?」
神田が自席の前に座っている級長に声をかける。
「……とりあえず現代社会であっているがせめて『級長』だとか普通に呼べないのか?」
「いやー、だってお前の名前覚えてないし。」
「ならこの機会に覚えてくれ、浜野博之だ。」
「ふーん、……よし、覚えたぞ! メガネ浜野だな!」
「……微妙にあっているが違うな。お笑い芸人のような名前になっている。」
「よし、メガネハマコーだな?」
「僕は決して政治家ではないぞ!?」
「あ~! もういい! やっぱメガネだ!」
「……ふざけているのか本気なのか知らないがもういい。それより早く現社の準備をしたらどうだ? あと五分で始まるぞ。」
「おっと、いけない!」
そして矢川先生がやってきて授業が始まる。
個人的にいちいち授業の様子を伝えるのもめんどくさいのでかなりきわどいネタが連発されていたことだけ記しておく。
二時間目、科目は地理。すなわち我らが登戸先生の授業だ。
「ういーす、授業始めるぞ~、席に着け~い。」
いつものようにやる気ないオーラを発しながら登戸先生が入ってくる。
「起立! 気をつけ! 礼!」
級長が型通りの号令をかけて授業が始まる。
「さて、授業を始める前に一つ大事な話をせにゃならん……」
先生はいつになく真面目な顔をする。普段は絶対にそんな顔をしないので、自然とクラス中が緊張に包まれる。
「昨日だな……」
……そしてクラスの緊張が最高潮に達したその時、不意に先生はいつものニヤリとした笑いを浮かべて続きを語る。
「校庭の隅で野グソたれたバカがいた。」
あまりに真面目からかけ離れたその内容にクラス中が大爆笑に包まれる。何人かの矢川先生とやたら仲良くなっている生徒は笑いのあまり椅子から転げ落ちそうだ。
「でだ、もし『そいつ見ました』ってやつがいたらちょっと教えてくれ。それと『実はボクでしゅ~』とかいうヤツは即刻申し出ること。罰として昨日ソレを片付けた用務員さんの代わりに学校中のトイレを掃除してもらうからな。そいじゃ始めっか。」
そして授業が始まる。しばらく経って授業の中程……
「……なぁ、代々木?」
「どうした?」
「実はさぁ、オレ昨日ソレっぽいヤツ見ちゃったんだよなぁ……」
「……マジで?」
「なんか校庭の隅の草陰でしゃがみこんでたからたぶんそうだと思う……」
「えっ? 神田君その人見たの?」
「らしいぞ。だよな、神田?」
「多分な、今んとこは何とも言えないが。」
「え~っ! だったらそのこと言った方がいいよ~!」
「ちょっ! 桜木! 声がでかい!」
「はわっ!」
こちらに気づいた先生が振り向く。
「おーい、そこの漫才コンビ+α、ちょっとうるさいぞ。」
「すいません。」
「ひそひそ話はしてもいいがうるさくするな。で、何をしゃべってたんだ?
「いや、そのですねぇ……」
「神田君が昨日校庭の隅にいる怪しげな人を見たって言ってました~。」
……桜木、こういうときはそれを言っちゃうと色々と面倒なことになるから適当にごまかせよ……
「マジか? 神田、どうなんだ?」
「……たぶんそうだったと思います、はい。」
「で、どんな感じのヤツだった?」
「遠くてよく見えませんでした。」
「……そうかい、本当に『見た』だけかよ。それじゃあ野グソ野郎を捕まえる手がかりにはなんねえじゃねーか。」
「なんかスイマセン……」
「別にお前が謝ることじゃないだろう? ……さて、なんかめんどくさくなったしキリもいいからこの後は雑談でもするか。」
『うっしゃ~!』
何人かが歓声をあげる。
「さて、この中で二中から来たヤツはどんぐらい居るんだ?」
クラスの四分の一ほどの生徒が手を挙げる。神田の隣の級長も二中出身らしい。
「お前ら二年の小金井ってヤツを知ってるか?」
俺と神田と桜木は三人揃って吹き出しそうになった。
「まぁアイツもある意味で有名人だからそのほかのヤツでも知ってるかもしれないな。でよ、アイツがまた伝説を創りやがった。なんだと思う?」
誰も答えないのを見て、先生は後を続ける。
「アイツよう、駅弁の牛タン弁当買うためだけに学校サボって、しかも行きも帰りも鈍行で仙台まで日帰りで行ってきやがった。ご丁寧にその次の日は昼メシにその弁当を食ってたらしい。」
……クラス中が静まり返る。おそらく大半の生徒が何を言っているのかか理解し切れていないだろう。
「……せんせ~い、それマジですか~?」
神田が意を決して質問を投げかける。
「マジだよ。まあ小金井だしな、何やっても許されるようなもんだし。」
別の生徒が恐る恐るしゃべりだす。
「……先生、どうしてその人は何やっても許されるんですか?」
「なに、簡単だよ。アイツがムチャクチャ頭良いからだ。」
「……なんスか……それ……」
一番前でいつも寝ている生徒が珍しく起き上がって呻く。先生はそいつが寝ていたことを気に留める様子も無く話し続ける。
「ん~、アイツ全国模試であっさり一桁をたたき出すようなヤツだからな~、別に単位さえ足りてれば進級させといて損はないだろ? っていう話だ。それにどうせ籠原にこっぴどく怒られるのは分かってるし、こっちが一々説教たれても全く効果無いしな、まぁほっといていいんじゃね? 面倒だし。 ……っていうのが教師側の見解だ。あ、お前ら籠原って言って分かるか?」
先程二中出身だと手を挙げた生徒のうち、男子生徒が全員頭を抱え込む。なぜか女子生徒が数名混じっているのが気がかりだが……
「あ? なんだ、二中出身の男は全員撃沈済みか?」
撃沈済み? それでいくと今頭を抱え込んでいる女子って…………ま……さか……
「あのー、今度はいったい何が?」
「あー、詳しいことは二中出身者に聞いてみてくれ。それと俺もいろんな方向で名を上げたい!ってやつは頑張れよ。ま、あんまりアレな方向は勘弁してくれよな? お前らがなんかやらかすと文句言われるのは俺だから。……そういえばよう、こないだ出た新作ゲームで……」
とやってるうちに雑談タイム(ではなく授業)が終了する。
「よーし、次は化学だったっけな?」
神田が伸びをしながら聞いてくる。
「だな、確か今日は実験だったはずだぞ。」
「実験か……揺れるフラスコ泡立つ液体謎の装置に爆発フィーバー! ボンバイエ! ア~フ~ロ~!」
「それをやったらお巡りさんが飛んで来るぞ?」
「気にしたら負けだ! 1・2・3ダァ~!」
「微妙に古い! そして商標登録済みだ!」
「2・2・3ダァ~!」
「それは多分登録されてない!?」
「2・2・3ダァ~ルキメ○デス!」
「新商品創造だと!? しかも元ネタもう売ってないぞ!」
「3・2・3ダァ~!」
「さらに数字が増えただと!?」
「4・2・3ダァ~フ~ロ~!」
「……俺ではもう止められん! 桜木、なんか言ってやってくれ!」
「いえ~い! あ~ふ~ろ~!」
「お前もか!?」
「ア~フ~ロ~!」
「あ~ふ~ろ~!」
「落ち着けお前ら!」
『低燃費~低燃費~低燃ぴっっぴっぴ~、低燃費~低燃費~低燃ぴっぴっぴ~』
「新たなネタが始まっているだと!?」
「は○じ~!」
「く○ら~!」
「ク○ラが立った~! ……じゃない! くそっ! 俺まで巻き込まれるとこだった!」
「は○じ~、おじいさんのハゲ抜いてあげなかったの~?」
「禿げは抜くもんじゃない!」
「は○じ~、おじいさんのハ○毛抜いてあげなかったの~?」
「ちゃっかり言い直しただと!?」
「抜いてあげなかったかも~」
「お前らもうア○ムの山に帰れ!!」
「おじいさ~ん!」
「感動の再開じゃないんだよ!!」
「ハ○毛抜いてあげられなくてごめんね~」
「一気に台無しだと!?」
「ペ~○~!」
「新たにペー○ー登場かよ! ……これは俺が落ち着かなきゃダメだ! 落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺……」
「手のひらに人人人って書いて飲み込むといいらしいよ、ペー○ー。」
「よし、ひとひとひと……違う! しかも俺はペー○ーじゃない! とにかく早く実験室に行くぞ!」
テンションがすごいことになっている神田と桜木を連れて実験室へと向かう。しかし、実験室の入り口の所でなにやら人だかりが出来ていた。
「おい、メガネ、何が起きてるんだ?」
「……まずは名字だけでいいから覚えてくれ。で、何が起きているかについてだが、どうも実験室に入れないらしい。」
「なんでだよ?」
「先生がそろそろ説明してくれるらしいから聞けば分かるだろう。」
「はぁ……」
化学の目黒先生が生徒の群れの前に出てきて説明をする。
「え~、諸君、実は今化学実験室内にどこの誰が送り込んだのか大体の想像はつくんだが大量のゴキブリが居る。というわけで今日の実験は次回行う。ゴキの駆除が終わるまでは勇気ある者も含めて立ち入り禁止だ。ただし我こそは、という者は名乗り出ろ。もれなく全部のゴキブリを駆除し終わるまで実験室内に幽閉してやる。まぁその間の授業は出席したことにしておいてやるからな。」
どこかの誰かが送り込んだって……なんじゃそりゃ?
…………
「よーし、今日はここまで! 宿題忘れんなよー、もし忘れたら~……そん時に思いついたことをやらせるからな~。」
四時間目の上野先生の数学の授業が終わった。
「やれやれ、なんかかなり退屈だったな……」
「うぉ~! メッチャ眠かったぞ!」
「ふぇ? 授業終わったの?」
「……寝てたのかよ……桜木……」
「あはは~、だって眠かったんだもん。」
「話聞いてないとテストの時に地獄を見るぞ?」
「大丈夫! そのときは秋乃先輩に頼んで教えてもらうから!」
「なっ……なんだと!」
「ならば代々木、オレたちは小金井さんに泣きついてみよう!」
「……教えてくれるのかよ……」
「おっ、そうだ、代々木、桜木さん、先輩たちとメシ食いに行かないか?」
「メシ? 神田、弁当持ちだろ?」
「だから弁当持って行くぞ。」
「へいへい……」
そして俺たちは小金井さんと籠原先輩のいる二年A組の教室に向かった。
教室の外から軽く中を窺ってみるが、二人とも姿が見えない。仕方ないので通りがかった先輩に聞いてみる。
「すいません。」
「ん? なんだい?」
「あのー、小金井さんっていますか?」
「小金井? 今日は朝から来てたはずだけど、ちょっと待っててくれ…………おーい、小金井! ……スマン、アイツ今寝てるわ。」
「……そうですか、ありがとうございました。」
「あれ? みんなどうしたの?」
「はい?」
ちょうど籠原先輩が教室に戻ってきたようだ。
「えーとですね、神田がせっかくなんでみんなでお昼を食べようと言い出したんで来てみたんですけど。」
「そう? それならちょうどいいわ。そうしましょうか。ところで小金井くんは?」
「あー、……さっき聞いてみたら寝てるって言われまして……」
「……そう、わかったわ。起こしてくるからちょっと待ってて。」
そう言うと籠原先輩は教室の中へ入って行き、ちょうど窓際の後ろから二番目の席で寝ていた小金井さんの方へ歩いていった。
「……小金井くん、起きて。」
「ぐーぐーすーすーぐーすかぴー。」
「……起きなさい!!」
籠原先輩はすばやく小金井さんの隣の席に置いてあった参考書のような青い本で小金井さんの頭を引っぱたいた。パンッ! と乾いた、しかし芯のある音が廊下にまで響く。
「痛いっ! なにするのさ!」
小金井さん、即座に反応。
「代々木君たちが来てるのよ。一緒にお昼を食べたいって言ってるから来て。」
「そうなの? 了解、すぐ行く。」
小金井さんはすばやく席を立つとあっという間に弁当袋を持って廊下に出てきた。
「やっほー、ゴメンゴメン、なんか春先って眠くってさ~。」
……アレ、痛くなかったのか?
「あなたはいつも眠い眠い言ってるじゃない。」
続けて籠原先輩もこちらにやってくる。
「それじゃあ屋上ででも食べようか~♪」
先に歩き出した小金井さんたちに続いて俺たちが教室の前から立ち去ろうとした時、教室の中にいる先輩たちの会話が耳に飛び込んできた。
『あちゃー、またか。』
『籠原さんって小金井君に対してはけっこう過激だよね……』
『小金井もよくあれで怒らないよな……』
『まあ小金井だしな……アイツ全然怒らないし、不機嫌なのは見たことあるけどキレたとこは見たことねぇ。』
『籠原さん、今回は青チャートか……そのうち広辞苑になるんじゃないか?』
『ありえそうなところが怖いな……』
『だがああいう籠原さんも萌えだ!』
『あれっ? おまえってこないだコクって撃沈したんじゃなかったっけ?』
『そうだよ! 悪いか!?』
『いや、スマン、ちょっと思い出してな。』
『え~! 笠幡君、籠原さんに告白したの!?』
『マジで!? マジで!?』
『ちくしょ~! なんでみんな寄ってくるんだ!?』
……とりあえずなんか色々とあるらしいことは分かったので、急いで小金井さんたちの後を追うことにする。
屋上は誰も居らず、春の陽気をたっぷりと含んだ風が頬を撫でる。周囲一帯が住宅地であるこの学校は屋上からの見晴らしが抜群である。少し遠くに駅前のビル群が見え、遙か彼方には幽かに東京の高層ビル群も見ることが出来る。こんないい場所に先客が全くいないのが不思議でもあるが。
「メチャクチャ眺めがいいっスね!」
「うーん、そうだけど春だから遠くは霞んでるね。冬はもっと遠くまで、それこそ富士山も見えるよ?」
「でも冬にこんなところに来るんですか?」
「来るよ?」
「小金井くんだけよ、そんな季節にこんなところに来るのは、しかも授業をサボって。」
「う~ん、でも冬の眺めは凄いんだよ?」
「それを連れ戻しに来るのは私なんだから自重してね?」
「……放っといてくれてもいいのに……」
「なにか?」
「いや別に。でもさ、北風に身を任せながらきれいな景色を見てるといろんな疲れがとれるよ?」
「それはコートに身を包んでるあなたはいいかもしれないけれど私は良くないわ。」
「冬になったら籠原さんも毎日コート着て来てるんだから呼び戻す時も着てくればいいじゃない?」
「……それをやると私まで戻って来れなくなっちゃうからやらないのよ。」
「……あのー、そろそろ食べません?」
「あ、そうね。…………いただきます。」
『いただきま~す』
全員弁当持参、そして始まるおかずの交換会、もはや定番なのか?
「秋乃先輩、その玉子焼きくださ~い!」
「そんな慌てなくてもあげるわよ。 ……はい、どうぞ。」
「わーい、それじゃあお礼にタコさんウィンナーあげま~す!」
「はい、ありがとう。」
「そういえばさぁ、化学実験室に大量のゴキが送り込まれたらしいね。」
「……食事中よ、小金井くん。」
「……だね、で、この話を続けるのが嫌な人いる? いないね。」
「…………もう少し話題を選べないのかしら?」
「でさぁ、それで一年生の実験が全部潰れちゃったらしいんだよね~」
「それ俺らのクラスもですよ。」
「そうなの? そりゃまたご愁傷様、でね、そのゴキの駆除方法なんだけどさぁ、換気扇から殺虫剤を送り込んで一網打尽にするんだってさ。」
「……それはいいんですけど、結局ゴキブリを送り込んだのって誰なんスか?」
「んー、たぶん、というか間違いなく裏科学部だね。最近ゴキの育成してるって言ってたから。」
「……裏科学部ですか……」
「うん、なんでも実験室を貸してもらえなかったから、ちょうど増やしたはいいものの使い道が無くって困りまくってたゴキを仕返し代わりに送り込んでやれ~! ……ってなったって言ってた。」
「……そもそも実験室で何をしようとしてたの?」
「えーっとね、新人教育を兼ねて手始めにTNTを合成しようとしてたんだって。」
「……それで、作った後はどうするつもりだったのかしら?」
「いつも通り川原でアフロ~、じゃないの?」
「すいません、アフロ~、ってどういう意味ですか?」
「あはははは、もれなく詳しいことは言えないけど簡単に言っちゃえば『チュド~ン』だとか『ドッカ~ン』みたいな感じ?」
「……ヤバイっスよね……それ……」
「気にしたら負けだよ?」
「普通気にしますって!」
「Kr,I,Nb,Ir,Sr,Hf,I,Tc,Al,Rn,Au,Mn,Ag,K,Eu!」
「はい?」
「……一見ただの元素記号の羅列だけど、大文字だけ読んでみれば意味が分かると思うわ……」
「KINISHITARAMAKE? ……気にしたら負け!?」
「正解! そしてさすが籠原さん、一発で読み解くとは!」
「……この間も同じことをやってたけど?」
「あれ? そうだったっけ? 覚えてないや。」
「やってました。……それにしてもHにハフニウムをもってくるなんて……小金井くんらしいわね。」
「それは褒めてるのかな?」
「ひねくれてるって言ってるのよ。」
「ひどいなぁ! 別に水素とかヘリウムでも良かったんだけどそれだと面白くないじゃん?」
「そのままでも十分面白くないわ。」
「なんかもうちょっと気の利いたことは言えないの?」
「その台詞をそっくりそのままお返しするわ。」
「利子は5%です!」
「…………怒らせたいの?」
「ごめんなさい。ちょっと調子に乗ってました。」
「……あのー、秋乃先輩、何がなんだかさっぱり分からないんですけど……」
「えっ? 元素記号って習わなかった?」
「……きれいさっぱり忘れちゃいました~!」
「……一応聞いておくわね? 春香ちゃんは文系? 理系?」
「……考えてないです……」
「……神田君は?」
「……何にも考えてなかったっス~!」
「……代々木君?」
「……神田に同じくです。」
「…………まだ焦って決める必要はないけれど、来年までには決めておいた方がいいわよ?」
「で、籠原先輩はどっちなんですか?」
「理系よ。」
「……なんかイメージでは文系って感じなんですけどね……」
「そうかしら?」
「小金井さんはどっちなんスか?」
「小金井さんは見るからに理系じゃないか? どうなんですか、小金井さん? ……あれ?」
『あはは~、ちょうちょ~、ちょうちょ~』
みると小金井さんはいつの間にか席を離れて向こうで蝶々と戯れている。
「…………籠原先輩、小金井さんっていつもあんな感じなんですか?」
「そうね、かなりアレに近いものがあるわね……」
「……秋乃先輩、そろそろお昼休みが終わっちゃうんですけど……」
「ほんとだ……小金井くん! お弁当片付けなさい! もうすぐお昼休み終わるわよ!」
『そのままにしといて~、五時間目はサボるから~』
「……なんですって! いいからこっちに来なさい!!」
籠原先輩は素早く立ち上がると小金井さんの方へ歩いてゆく。
「……籠原先輩、こえぇ……」
「……同感だな……」
『ちょうちょ~、ちょう……いたいいたいいたい! 耳を引っ張らないで!!』
『いいから早くお弁当を片付けて! 授業に遅れるわよ?』
『間に合わせる気は毛頭なーい!』
『……いいかげんにしなさい!!!!』
……籠原先輩が完全に噴火モードになったので、小金井さんは渋々戻ってきた。
「あーあ……せっかく蝶々と遊んでたのに……」
「片付けたら早く教室に戻るわよ、そういえば春香ちゃんたち次の授業は?」
「えーっと、たしか音楽です。」
「教室移動があるなら急いだ方がいいわ。まぁ十分もあれば十分だと思うけれど。」
「十分あったら十分なのは当然だと思うんですけど……?」
「? それは時と場合にもよるでしょ? 例えばここから大阪へはどう頑張っても十分じゃ足りないわ。」
「え? 何言ってるんですか?」
「えっ?」
「あっはっは~、読み間違いだね。籠原さんは『じゅっぷん』と『じゅうぶん』、桜木さんはどっちも『じゅっぷん』って読めばさっきからの会話が意味を持つよ?」
「とっ……とにかく早く行きましょ!」
やや顔を赤らめてみんなに先立って校舎内へ戻ってゆく。
「音楽か~、辻堂先生面白いでしょ?」
「……まぁそうですね、たまによくわからないことを言ってますけど……」
「ふふふ、それはあの先生が『バイ』だっていうのを知っておけば色々と解ると思うよ?」
「バイ?」
「バイセクシャルのこと。手っ取り早く言っちゃうと『男でも女でもどっちでもイケるぜい!』っていう人のこと。」
「…………神田、お前は知ってたか?」
「あの先生がそれっぽいっていうのには薄々気づいてたぞ?」
念のために補足、音楽の辻堂先生は女性である。初回の授業で言った『このクラスにはおいしそうな子が多いわね~♪』という言葉は長らく謎の言葉として扱われてきたが、今日やっと意味が分かった……なぜか背筋に悪寒が走る……
そして音楽室、辻堂先生がやってきて授業が始まる。
「やっほー、みんな元気だった? そして今日はビッグニュースがあるのよ~!」
相変わらず変なテンションで授業を始めるこの先生、授業自体は面白いのだ、が、もう少しでいいから電波な言動を何とかして欲しいところである。
「ななんとなんと、やっとピアニストの調達に成功しました~! やったね、つっちゃん!」
補足、つっちゃんとは辻堂先生のニックネームである。本人がそう呼んで欲しいと言っているので、その名前で呼ぶ生徒は多い。しかし自分で自分を呼ぶときに使うのは如何なものかと思うのだが……
「と、いうわけで今日は生演奏で鑑賞授業で~す。でも困ったことにまだ本日のゲストが来てないのよねん……」
ちょうどその時、音楽室のドアが開いて、誰かが入ってきた。誰だろうと思ってそちらを見た先には……
「すいませーん、辻堂センセ、何の御用でしょう?」
……小金井さん登場!
「あ~、やっときた~。もう、遅いじゃな~い。」
「……これでも急いできたんですけどねぇ、それより何の用事ですか?」
「ああ、それそれ! 一年生の鑑賞授業をやるからピアノを弾いてちょうだい。」
「……何を弾けと?」
「何でもいいけど~、さすらい人はダメよ~」
「何故?」
「さすらい人は長いから~、他のをお願い~」
「……じゃあ英雄ポロネーズでいいですか?」
「グッジョブよ~、じゃあ後は好きなようにやっていいわよ~」
「……それじゃあみんな適当にピアノの周りに集まってもらえるかな? 椅子は好きなようにすればいいけどピアノには寄りかからないでね?」
とりあえず手ぶらで奏者用のイスの斜め後ろに立つことにする。
「あれ? そういえば代々木たちのクラスだったっけ。」
こちらに気づいた小金井さんがしゃべりかけてくる。
「そうですけど、それより自分の席で座って聴くんじゃないんですか?」
「だってそれをやると寝る人が出てくるでしょ? それに今回は『見て楽しむ』が一番大事だし。」
「『見て』楽しむんですか?」
「そ、だから英雄ポロネーズを弾くんだけど、……まあ見てればどうしてだか分かると思うよ?」
それだけいうと、小金井さんはイスに座る。俺の横には神田が椅子を持ってやってきた。こっそり背もたれに体を預けさせて貰おう。
「ねぇ、代々木君、確か秋乃先輩が小金井さんがピアノ上手いって言ってたよね?」
「そういえばそうだったっけ?」
「んじゃ始めるよ~、静かにしててね~。」
音楽室が沈黙に包まれ、緊張が最高に達したその時を見計らって小金井さんが演奏を始める。ピアノの鍵盤の上を小金井さんの両手が滑るように動いたり、飛び跳ねていたりと忙しく動き回っている。なんとなく『見て楽しむ』といった意味が分かった気がした。なんというか……
「……すげぇ……」
隣で神田が呟く。先程から似たような声がちらほら聞こえてくるが、みんなも同じようなことを考えているのだろう。んでもって、迫力が凄く、何よりも格好いい。思わず『こんな風に弾けたらな……』などと思ってしまう。
演奏が終わると、誰とも無く拍手が始まった。それが収まると、辻堂先生が口を開く。
「ブラボ~! やっぱり上手いわね、そして小金井くん、この後の授業で弾くものは覚えてるかしら?」
「……今日は籠原さんの番じゃありませんでした?」
「違うわよ~、本当ならここで『よっしゃ~! 罰ゲ~ム! さぁて何をしてもらおうかしら~』 ……って言いたいところなんだけど、残念ながらあなたのレパートリーに入ってるのよね~」
「……で、何を弾くんでしたっけ?」
「『木枯らしのエチュード』よ。」
「……またそんな無茶をおっしゃる。」
「去年の授業の締めに『さすらい人幻想曲』を弾いてみんなを驚愕させたあなたに逃げ場はないわよ~。特にあの終楽章、あんなテンポで弾くとは思ってなかったわ~、よく指と腕が壊れなかったわね~」
「……はぁ……」
「じゃあその調子でおいしそうな……じゃなくてかわいい一年生たちに『木枯らし』も聞かせてあげてね~」
今さりげなく『おいしそう』とか言ったぞ! この先生!
「……今弾くんですか……」
「そのと~り! なんて言ってもやらせるわよ~」
「はぁ……ほれじゃま『木枯らしのエチュード』逝きますか~」
……字が逝っている……
再び演奏を始める。さっきの曲とはうって変わって暗く静かに始まる。このまま続いていくのか? と思った直後に猛烈な曲が始まった。左手はポンポン跳ぶし、右手に至っては何でこんなに指が回るのか聞いてみたいほど鍵盤の上を駆け巡っている。
最後も壮絶な終わり方で締めくくると、先生が解説を始めた。
「え~、さっきの曲はですね~、『ピアノの詩人』と呼ばれたショパンの~」
先生が解説をしている間、小金井さんは勝手に何かの曲を弾いている。 ……あれ? どっかで聞いたことがあるような……
「小金井く~ん、ちゃっかりCM始めないでもらえるかしら~?」
「あ、やっぱり気づきました?」
CM? そういえばそんな気が……
「ありがとう、いい薬です!」
クラスの誰かが叫んでピンと来た、そうだ、アレだ!
「せいか~い、ちなみにショパン・Prelude Op.28-7・胃腸調……もといイ長調でした。」
「小金井さん、ダジャレですか……?」
「ん~、ダジャレだと思うし実際にイ長調と胃腸をかけて使われたらしいよ?」
「……どこでそんな知識を……」
「雑学は素晴らしい! 覚えようと思わなくても脳みそが勝手に覚えてくれる!」
「……さいでっかい……」
「あら? えーっと……ゴメン、そこの君、名前なんだっけ?」
「……代々木です。」
「そうそう、代々木君。キミ、小金井くんと知り合いなのかしらん?」
「まあ一応先輩ですから……」
「それならちょうどいいわ~、今度から小金井くんに来てもらう日は連れてきてちょうだい~、ほっとくと多分来ないから~。」
「……はぁ、わかりました……?」
「は~い、それじゃあ授業再開よ~」
そして授業が終わった時、挨拶が済むのと同時に教室に入ってきた人がいた。
「……お……お姉さま~!」
神田が速攻で反応する。
「神田君、その呼び方は止めてほしいって何度言ったら分かるのかしら?」
「……籠原先輩、まだ五時間目の終わりのチャイム鳴ってませんよね?」
「ええ、ちょうど授業の終わりに小テストがあったから手早く終わらせてきたの。だから心配しなくても大丈夫よ。」
「手早くって、どのぐらいですか~?」
桜木もやってきた。
「試験時間十五分のところを十分で、よ。」
「……早いんですか? それ?」
「さぁ、小金井くんなら五分ぐらいで終わらせるんじゃないかしら?」
そういうと籠原先輩はまだピアノの前に座っている小金井さんの方へ歩いていった。
「結局用事ってなんだったの?」
「ん~、鑑賞授業をするからピアノ弾いて~、ってそんな感じ。」
「あらま、籠原さん、早いわね。」
「あ、こんにちは、辻堂先生。」
「ちょうどいいから今のうちに伝えちゃうわね。来週のこの時間、今度はあなたがピアノを弾いてちょうだい?」
「えっ? 私がですか?」
「そうよ~、曲は何でもいいけどお得意のスケルツォ第二番は後々のためにとっておくといいかもね~。」
「……わかりました。曲は考えておきます。」
「あぁん……籠原さんがピアノを弾いてる姿を想像しただけでロマンティックが止まらないわ~!」
……辻堂先生はよく解らないことを言いながらクネクネと身悶えている………… それを見て小金井さんも籠原先輩も見るからにヒいている……まぁアレは誰でもヒくな、うん。
「そういえば籠原先輩もピアノ弾けるんスよね?」
神田が雰囲気を変えようとしたのか、会話の口火を切る。
「えぇ、一応ね。」
「あらん? 一応だなんて謙遜する必要はないわよ?」
とりあえず正常に戻ったらしい辻堂先生。
「折角だから何か弾く?」
「……いいえ、遠慮しておくわ。」
「オレ籠原先輩の弾くピアノ聴いてみたいっス!」
「わたしもわたしも~!」
……これは籠原先輩が弾かなきゃいけない空気にしようとしてるな……
「ね、代々木君も聴いてみたいよね~?」
「……だな。」
「と、いうわけで籠原さん、弾いてくれるよね?」
「……分かったわ、弾くわよ…………でも何を弾けばいいのかしら?」
「『マゼッパ』なんてどう?」
「……それなら小金井くんが弾けばいいじゃない?」
「無理だよ~、聴いたことしかないし、かなり難しいし。」
「……小金井くんが弾けないものをどうして私が弾けるのよ……それにあなたに大概の曲を『難しい』って切り捨てる権利はないわ。」
「なんかひどいなぁ……というかなんでさ?」
「キーワードは『アルカン』ね。」
「……そうきたか……」
「納得した? それで、結局私は何を弾けばいいのかしら?」
「『黒鍵のエチュード』なんてどう?」
「それじゃあそうするわ。」
『お~い、籠原さまがピアノを弾くぞ~』
どこかの誰かが突如そんなことを叫ぶ。すると音楽室中に雄叫びがこだました。
「……籠原先輩、コレはいったい……」
「気にしないで始めるわよ。」
冒頭から右手が凄いことになっている気がするが、明るい、楽しげな曲だ。籠原先輩も楽しげなほほえみをうかべて弾いている。
あっという間に終わってしまったが、それでも籠原先輩が上手い、というのは分かった。まぁ、鳴り響く拍手に混じって『ぞっこんじゃ~』だの『ほほえんで~』だのという声が混じっているのが気がかりだが……
「ああん、やっぱりピアノ弾いてる時の籠原さんはとってもキレイよ~、もう食べちゃいたいぐらい~!」
「…………」
一番暴走している人が近くにいたよ……籠原先輩も返事に困ってるし……
「さぁ、私は一曲弾いたんだから小金井くんも一曲弾いて?」
「え? 僕も弾くの? でも何を?」
「マゼッパ」
「……さりげなく怒ってない?」
「そんなことはないと思うわ。」
「……いや、絶対怒ってるでしょ! 神田、どう思う?」
「お姉さま~!」
「神田君、いいかげんにしなさい。」
「……小金井さん、お姉さまメチャクチャ怒ってますよ……」
「今のは九割方君が原因だと思うよ?」
「そうっスか……」
「小金井くん、それじゃあ『さすらい人幻想曲』の終楽章を弾いてちょうだい。」
「……絶対にいじめる気満々だよね? 僕このあと『木枯らし』弾かなきゃいけないんだけど?」
「さぁ、何のことかしら?」
「……さっき『英雄ポロネーズ』と『木枯らし』弾いたんだけど?」
「『さすらい人』が全楽章通して弾けたんだからそれぐらい余裕でしょ?」
「…………はぁ、わかったよ、弾くよ、弾けば機嫌を直してくれるんだよね?」
「さぁ、何のことかしら?」
「……とことんいじめる気だなぁ……」
文句を言いながらもピアノに向かう小金井さん、そしてその曲を弾き始めた。
「……すげぇ……」
「いったい手はどうなってんだ?」
「ね、だから去年みんなを驚愕させたっていったでしょ~?」
確かにこれは驚くだろう、両手が両手ともなんだか凄いことになっていた。個人的には最後の辺りがとってもクレイジー。
「オレには残像が見えた……」
「わたしも……」
「さぁ、小金井くん、その調子で『幻想ポロネーズ』もいってみましょ?」
「……ごめんなさい、もう許して……それにそんな時間ないし……」
ふっと時計に目をやるともうすぐ休み時間が終わる時間だった。気がつけば上級生、おそらくは小金井さんたちのクラスメートが来ている。
「やべっ! 神田、桜木、戻ろうぜ!」
「ぬおっ! ヤバイ!」
「ホントだ~、急ごうよ!」
俺たちは慌てて音楽室を後にした。
その日の放課後……
「いやー、それにしても小金井さんが来るとは思ってなかったっス!」
「僕も予想外だよ、上野チャンに『辻堂先生が呼んでるぞ~』って言われて行ったらいきなり『ピアノを弾け!』だなんてさ~、前もって知らせててくれればいいのにね。」
「でも小金井さんメッチャかっこよかったっスよ! あんなに上手いだなんて知らなかったっス!」
「そういえば籠原先輩はどうしたんですか?」
「ん~、たしか今日は掃除当番だったかな?」
「そういえば小金井さんが掃除当番で遅れたことってありましたっけ?」
「どうだろう? 無いかも。」
「……なぜ?」
「掃除当番の日に居なかったりだとか、あとは宿題の答えを教える代わりに当番を代わってもらったりしてるから。」
「……それって先生は何も言わないんですか?」
「なんか言ってたような気もするけど気にしない。」
「…………そうですか。」
『みんな、遅れてごめんなさい。』
ちょうど籠原先輩がやってきた。
「今日は掃除当番だったから遅れたわ。」
「おつかれさまです。」
「それと小金井くん、平塚君が呼んでたわ、教室で待ってるから来てほしいそうよ。」
「ん? 平塚が? わかった、ちょっと行ってくるからヨロシク。」
「行ってらっしゃい。」
小金井さんが部室を出て行くと、籠原先輩が話し始めた。
「ふぅ、それにしても私までピアノを弾く羽目になるなんて思ってもみなかったわ…………」
「でもあの時弾いてた……えーっと、コッカンのナントカでしたっけ? メッチャ上手かったっスよ?」
「……神田、さりげなくヒワイだ。」
「そう言いつつ『卑猥』をカタカナにする代々木も中々のものだな!」
「ぐぉっ! こんな時に変換ミスかよ! イメージ低下確定フラグが!!」
「……最低ね……まぁ変換ミスってことにしておいてあげるわ…… でも小金井くんの演奏を聴いた後だとちょっと聴き劣りがしたんじゃないかしら?」
「そんなことないですよ~!」
「春香ちゃん、素直に答えてみて?」
「う~、それは確かに小金井先輩の方が上手かったんですけど……それとは違ってなんていうか……こう、秋乃先輩は包み込むみたいな感じ? で、小金井先輩はどっちかっていうとなんとなく無表情というか……」
「そう……なんかこう言ったら悪いけど、意外とちゃんと聴いてたのね。」
「う~ん、そんなのじゃなくって本当に聴いたそのまんまを言っただけなんですけど……」
「そんなことないわ、それと小金井くんの演奏は無表情に思えるけど、そうじゃなくてあれはいろんな感情を表に出さないからああなってるのよ。」
「……普通ピアノ弾く人ってなんか気持ちを込めてだのなんだの言ってる気がするんですけど?」
「……まぁ小金井くんはひねくれ者だし、あんまり声高に自己主張されてもね……っていうのはあるけどね……」
「……いいんですか? そんなこと言っちゃって?」
「小金井くんがひねくれ者なのは本当でしょ?」
「……否定できないですね……」
「それに感情をあんまり表に出さないのは小金井くんの性格みたいなものだし。」
「……どっちかって言うと感情のままに行動してる気がするんですけど……?」
「そう見えても裏で何を考えてるのかは全然分からないわよ? だから行動が全く読めなくて困ってるんだけど……」
「そうっスか? オレはなんとなく読めるっスよ?」
「……神田君にもひねくれ者になる素質があるのかしら?」
「さりげなく酷いことを言いますね……それって暗に神田が変人だって言ってるようなもんじゃないですか……」
「そうね、少なくとも神田君がたまにでも私のことを『お姉さま』だなんて呼ぶうちはそう見ておくわ。」
「酷いっス! お姉さま!」
「……神田、お前はバカか?」
「……! しまった! ついつい言ってしまったっス、お姉さま!」
「……確信犯だな、これは……」
「……神田君? あんまりふざけてると大変なことになるわよ?」
「ごめんなさいお姉さま!」
「……いいかげんにしなさい!」
「ぎゃー、お姉さまが怒った~!」
「神田! 籠原先輩がヤバイから止めろ!」
「お姉さま~!」
「や・ば・い! 桜木! 全力で神田を止めろ!」
「わ~い、秋乃お姉さま~!」
「お前ら状況を考えろ! 冗談抜きでヤバイ!」
「秋乃お姉さま~、ケーキ食べたいで~す!」
「……春香ちゃん? あなたも止めてもらえるかしら?」
「ご……ごめんなさい……」
「お姉さま~」
「神田! お前は本格的にバカだ!」
「お姉さま~」
「……もういいわ、好きにしなさい。ただし私は神田君のことを聞き分けの無いお子様だって見ることにするから。」
「そっ……そんな目でオレを見ないでください!」
「そうやって身悶えてるお前が一番不気味だ!」
「どうやらオレにはマゾの素質があるようだ!」
「なぜそっちに話が飛ぶんだ!?」
「代々木までそんな目でオレを見るのか!?」
「そんなお前を見たら誰でもそんな目でお前を見るに決まってるだろ!」
「いやんばかんあほん!」
「……桜木……いや、待て俺、ここで桜木に振っちゃいかん……」
「神田君……さすがにちょっと気持ち悪いかも……」
「ぐはぁっ! 会心の一撃だとぉぉぉお!」
「勇者は倒れた……じゃない! どこぞの国民的RPGだよ!」
「ド○クエじゃないか?」
「だろうがな!」
「勇者よ、死んでしまうとは情けない!」
「俺が勇者になってるのか!?」
「お前に世界の半分をやろう、どうだ?」
「いらん! とにかくエンドレスフラグが立ちはじめてるからもう止めろ!」
『君はこれ以上話を続けてもいいし、話をするのを止めてこの場を立ち去ってもいい。』
立ち去りますか?
YES/NO
「NO! ……ってか小金井さん!? そしてそれは一部の人にしか元ネタがわからないですよ!?」
「君は遊んでみてもいいし、遊ぶことを断念して引き返してもいい。」
「世界○の迷宮! あれは名作! ……暴走が大変なことになりかけてる!?」
「ちなみに今僕が想定してるのはⅡだよ?」
「そうですかい!」
「……もう終わりにしなさい。それで、小金井くん、いったいどんな用事だったの?」
「んとね、シューベルトの『ます』やるからピアノやってくれない? っていう感じ。」
「……そのほかの楽器は集まったの?」
「だから最後にピアニストを呼んだんだってさ。ちゃんとコントラバスも見つけたらしいよ?」
「……執念、ね。確か平塚君はチェロやってるんだったかしら?」
「そうそう、で、それはおいといて何であんなことになってたの?」
「……引き金を引いたのは神田です。」
「神田、何を言ったんだい?」
「お姉さまと呼んでみました。」
「……そうかい、で、籠原さんはどうして怒ったの?」
「……それよりもどうして小金井くんは私が怒ってたことを知ってるの?」
「簡単だよ。学校中に籠原さんの怒り声と代々木と神田の漫才が響き渡ってたから。」
「……マジっすか?」
「うん、もうすぐ先生が『お前らうるさい!』って説教しに来るよ?」
「……なんとかならないんスか、小金井さん?」
「よーし、じゃあさっさと脱走しよう!」
「本当はその発想に対してコメントするべきなんでしょうけど、事態が事態だから私もそうするわ……」
そして先生が来るよりも先に俺たちは部室を脱出した。
ただし籠原先輩の一存で、生贄になった神田を置き去りにして……
というわけで今はここまでで筆を置かせて頂きます。
近々続きも(といってもまだ以前書いたもののストック)UPしますので乞うご期待!
……期待してくれるとうれしいです、とっても
ではまた