第4話 (がんばってもどうにもならないことだってある)
やっと「トレーニング」とやらが終わった……のかな?
例によってサブタイの()の中には大した意味はありませぬ!
それではお楽しみください
コンピ研の活動が始まってから二週間。ついこの間俺と神田は無事にトレーニングを終え、自由を満喫していた。……え? もう一人いただろうって? ……桜木はだな……その……
「ねぇ、籠原さん……桜木さんのこと、どうする?」
「……そうね、トレーニングはもう諦めた方がいいかも。それより変なプログラムを起動させないでパソコンが使えるような訓練をした方がよさそうね……」
こんな会話が先輩方の間で繰り広げられる理由はただ一つ、桜木のパソコンオンチの度があまりにも酷すぎたことだ。
「春香ちゃん、本当に申し訳ないんだけどしばらくパソコンをいじらないでいてもらえるかしら……」
「はい……わかりました……」
さすがの桜木もシュンとしている。まぁ、先輩たちにものすごく疲れた顔で言われたらさすがに普通はああなるだろうな……
「はぁ……どないしましょ……」
「そうね……やっぱり私が付きっ切りになるしかないのかしら……」
「それだと開発戦力が僕しかいなくなっちゃうじゃないか、今から一年生を仕込んでも間に合わないし……」
「でも開発って言ってもせいぜい数値を変えるぐらいでしょ? それなら一年生でもできると思うけど?」
「うーん、でもやっぱりプログラムをいじるなら一応基礎からしっかり習得した上でやった方がいいでしょ。いくらVBが簡単だからっていっても仕組みが分からなきゃいちいち説明していかなきゃだしさ……」
「……むしろいっそのこと代々木君と神田君に春香ちゃんの面倒を見るのを任せてみる?」
「大丈夫かな……でもそれぐらいしか手が無いか……」
「じゃあそれで決まりね。代々木君、神田君、ちょっと来て!」
「あ、はい。」
「へーい。」
「たぶん話を聞いてたと思うけど、あなたたちに春香ちゃんの面倒を見るのを任せることになったから。お願いできるかしら?」
「え……ええ、まぁ頑張ります……」
「お任せあれ!」
「お前やけに自信満々だな……」
「なに、ちょっと見栄を張りたくなっただけだから気にすんなって。」
「見栄って、お前自信があるんじゃないのかよ……」
「残念ながら桜木さんの暴走を止められる自信はない! だがいざという時にパソコンの電源を無理矢理落とす自信はある!」
「神田く~ん、自信があるのはいいことだけどできればその方法は避けてほしいな~。」
「すんません、努力はします……」
「できれば努力より結果を出してほしいんだけどな~。ま、本当にいざという時は許すから。さて、じゃあ早速頼むよ。僕らの仕事は明日からなんだけど、別に予行演習ってことでいいよね? その代わりに今度お昼奢ってあげるから、んじゃよろしく。」
「さて、んじゃ早速手伝いたいところなんだが……なぁ、桜木、お前は普段いったい何をやってるんだ?」
「えーっとね、例えばここをこうしてみるとか……」
「いや、待て! 実演しなくていいから!」
「あっ、そっかー。そうすると今度は代々木君と神田君にヘルプ出さなきゃいけないもんね。」
「なんかもうまともに教えられる自信が無くなってきたぞ……」
「はわぁぁぁ! 代々木君、へールプ!」
「実演するなぁぁぁぁぁ!」
はぁ、こんな調子じゃあ先が思いやられるな……
「なっ! おい、フリーズしてんじゃねえか!」
「あちゃー、またやっちゃった……てへ♪」
「もう勘弁してくれ……神田、バトンタッチ……」
「おうよ、引き受けた!」
その五分後……
「すまん、代々木……後は任せた……オレにはもう無理だ……」
「おい……神田、もう少しでいいから粘ってくれよ……」
「いや……もう無理だ……オレの手には追えん……」
その様子を見ていた籠原先輩から一言。
「春香ちゃん……もう少しでいいから教えてくれる人を労わってあげてね……」
「が……がんばります~……」
……むしろ頑張るほど空回りしそうで怖いから程々にしてくれ……
そしてやっとトレーニングタイムが終わる
「や……やっと終わった……」
「お疲れさま~、やっぱり大変だった?」
「……なんというか、籠原先輩の偉大さを身に染みて感じました……」
「あんなことをずっと一人でやり続けるなんてオレたちには無理です……」
「あはは~……ごめんね、代々木君、神田君……」
「いや、気にすんなって……」
「おう、オレらは全然気にしてないから……」
こんなことをしばらくやり続けなければいけないなんて……先が思いやられる……
この日は結局早めに下校することになった。
「いやー、お疲れさま。特に代々木と神田、本当にご苦労様。」
「……ありがとうございます……」
「……ありがたいっス……」
「んー、何か二人ともお疲れみたいだけど、さっきのお昼をおごってあげる約束覚えてる? それなんだけど、今日この後僕の行きつけのパン屋さんでおいしいパンを奢ってあげるってことにしていいかな?」
「あー、いいですね……」
「喜んで行かせてもらうっス……」
「よし、じゃあ決まり、行こうか。」
「あのー、わたしも行っちゃダメですか?」
「え、……さすがにお財布に厳しくなっちゃうから、ゴメン! 桜木さん!」
「……そうですか……」
「じゃあ私が春香ちゃんの分をおごってあげるわよ?」
「えっ! いいんですか?」
「ええ。頑張って、って応援の意味も込めて、ね。」
「やった~! ありがとうございます! 秋乃先輩!」
「えーっと、それじゃあ全員行くのかな?」
「そういうことになるわね。」
「はいな、それじゃあ出発!」
そしてコンピ研部員全員で小金井さんオススメのパン屋さんへ行くことになった。
校門を出て駅へ向かって歩いてゆく。水川高校から水川駅までは歩いて二十分ほどである。そして電車を使って通学している生徒はそれほど多くは無いので、駅までの道程で同じ学校の生徒を見かけることはあまり無い。
「おいしいパンか……どんなんだろうな?」
「神田、よだれが垂れかかってるぞ。」
「むぐぉっ! いかん、想像だけでよだれが出てきた!」
「……お前って本当に幸せなヤツだな……」
「ふっふーん、食は明日の元気の素~」
「……聞いちゃいないな……」
「それにしても代々木も神田もお疲れさん。明日からしばらくの間頑張ってね~。」
「小金井くん……そんな肩の荷が下りたみたいに言うとかえって代々木君と神田君の元気が無くなっちゃうと思うんだけど?」
「そうかな~? ……そうだね。それにしても桜木さん、本気で何とかしてくれないとみんな困っちゃうから本当に頑張ってよ?」
「……でっ……できるだけ頑張ってみま~す……」
「でも頑張りすぎて逆にみんなの手を煩わせないでね、お願いだから。」
「……はい……」
そして水川駅に着く。駅前はバスターミナルを中心として、その空間を取り囲むように最近できたビルが立っている。数年前に、某大手家電量販店が出店してきてから今までほとんど何も無かった駅前にビルが立ち並び始め、今では駅前だけで半日は遊んで潰せるほどになった。……よくよく考えると半日しか遊べないというのもなんだかな……
「……あー、どっか行きたいなぁ……」
「……別に行っても構わないんだけど、その前に仕事は全部片付けて行ってね?」
「…………メンドクサ~イ!」
「……怒るわよ?」
「止めてよして怒らないでメッチャ怖いから~」
「それなら自分がするべきことを見失わないでね?」
「さーて、気を取り直してパン屋に行こう!」
「切り替え速っ!」
「いつものことよ。」
「……小金井さん、なんでそんなに立ち直りが速いんスか?」
「簡単簡単、過去のことは過去のこと、今更どうこうしようったってどうにもならないからもう知らない。そう思うだけだよ。」
「……いろいろと難しそうですね……」
「そんなことはないよ。……よーし、着いた~!」
やってきたのは駅前のビル群のうちの食品関係の店が多く入った建物の七階にある、普通のパン屋にちょっとしたカフェテリアスペースが付いたような感じの店だった。社会人たちに混じってちらほらと中学生や高校生の姿も見える。
「さて、と。じゃあ好きなパンを取ってきて、僕はレジの前で待ってるから。」
「よっしゃ! 死ぬほど食うぞ!」
「……食べ過ぎて腹を壊すなよ?」
「心配ご無用! 鉄の胃袋と言われたオレがこの程度で腹を壊すわけなかろう!」
「自重してくれないと色々と君の食事に盛らなくちゃいけなくなっちゃうから自重してね? 僕の財布も破綻しちゃうし。」
「盛るって……何をですか?」
「何って、もちろん×××××××とか?」
「……何スか? それ?」
「要は○××△物質。」
「小金井さん、さっきから何を言ってるのかさっぱり読み取れないんスけど……」
「あれ? おっかしいなぁ~、……ホントだ、伏字になってる、何でだろ?」
「自主規制がかかってるのよ。あんまり物騒なことは言わないの、じゃないと×××で○を△△わよ?」
「……そういう籠原さんもなかなか過激なことを言うね……」
「そうかしら? 別にあれはわざわざ伏字にする必要はなかったんだけど?」
「まぁ、僕が言った事よりははるかに安全だね、痛いだけで死なないし……待てよ? 打ち所が悪ければアウトかな?」
「もういいから、早くパンを取ってきましょう。」
「おっと、そうだね。ほれじゃ一旦解散!」
一度話を中断して、おいしそうなパンを探しに行く。ちょうど焼きたてのパンが並んでいて、どれもこれもおいしそうだ。
「神田は何を食べるんだ?」
「んー、とりあえずコロッケパンとピザパンとツナトーストとクリーム入りメロンパンと……」
「……そんなにガッチリ食べるのかよ……」
「タダ飯が食えるんなら食いまくっとくべきだろ?」
「……あんまり買いすぎると小金井さんに葬られるぞ?」
「……そうだな、これぐらいにしておこう。」
「あくまで減らす気はないんだな……桜木は何食べるんだ?」
「ん~、わたしはねー、クロワッサンとフレンチトーストかなー。代々木君は?」
「俺はクロワッサンだけでいいや。」
そして会計を済ませ(小金井さんは飲み物まで奢ってくれた)窓際の席に着く。
「さて、それじゃあいただきます。」
「…………」
「…………」
「……へー、結構おいしいな。」
「うまいっス!」
「おいし~い! それにけっこう眺めもいいんですね~。」
「でしょ? 来てよかったと思わない? 」
ビル群の端に立つこのビルからは視界を遮る高い建物がほとんど無いおかげで遠くまでよく見ることができる。このビルのすぐ下を線路が走っていて、その向こうは西日に照らされた工場群の彼方に東京湾が見える。
「あ、列車だ!」
小金井さんがまるで子供がカブトムシでも見つけたときのような顔をして眼下を走っていく電車を見る。
「あ~、線路が僕を」
「呼んでないわ。明日もちゃんと学校に来なさい。」
「うう~、ケチだなー……」
「……ケチだとかそういう問題じゃないでしょ?」
「まだ単位は余裕だよ~。」
「……いいから来なさい。明日は六時間目に音楽よ?」
「うむむ……じゃあ六時間目までにこっちに戻ってくればいいや!」
「……いいから来なさい。小金井くんの場合はちゃんと一時間目から来てたら居眠りしてても誰も文句を言わないから。」
「あれ? 確か授業開始から二日目の時点でサボった生徒っていうのは……」
「あ、それ僕だよ。」
笑顔で親指を立てる小金井さん。
「何をそんなに誇らしげに言ってるのよ……」
「……そうだったっスね……」
「……というかそんなにサボりまくってて成績とかは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ~。」
「そうなんですか? 籠原先輩?」
「ええ、どうしてなんだかさっぱり解らないんだけど、成績は全く問題ないの、と言うより文句のつけようがないわ。そうじゃなかったら小金井くんは毎日お説教をくらう羽目になってるわよ。」
「……他の人はそのことをなんとも思っていないんですか?」
「さぁ……少なくとも私はなんとも思っていないし、他の人たちも『小金井だから』って言って全く気にしてないみたいだけど……」
「……小金井さん、あなたはいったいなんなんスか……?」
「う~ん……変な人?」
「……自分で言わないでよ……」
そしてこの日は夕方七時頃に帰途についた。
神田は自腹を切ってさらに四つほどパンを食べ、先輩たちから驚愕の目で見られていたんだよな……
どうでしたか?
楽しんでいただけましたでしょうか?
どうでもいいですけど、よく考えたら神田君はパンを8つほどたいらげてるんですね……
それではまた!