第2話 (単位のご利用は計画的に)
ということで改訂版第二話なのです。
それではお楽しみくださ~い!!
P.S. サブタイの()の中の言葉に深い意味はありません。
二日目、放課後
「こんちはー。」
「こんにちは~。」
「こんにちは。」
放課後、コンピ研の部室に来る。
先に来ていたのは籠原先輩だけだった。
「あれ? 今日はまだ小金井さんは来てないんですか?」
「……小金井くんなら今日は来ないわ。」
「え? そうなんですか?」
「ええ、だって今日は学校に来てないもの。」
「風邪でもひいたんですか?」
「違うわ、サボってるのよ。……まったく、今度はどこに行ってるのかしら……」
部長なのに学校をサボってるだって?
「あのー、サボってるって言うのは……」
「そう、いわゆるズル休み。」
「……まさか去年いた二日目からサボった生徒って言うのは……」
「そう、小金井くんのこと。他にもいろんな伝説を持っているわよ? 中学校の時から毎年出席日数はギリギリで進級してるし。」
「ギリギリ? そんなにサボってたんですか?」
「……お願いだから絶対に真似しないでね、あんなことしてて許されるのは小金井くんだけよ。」
そのとき何やら携帯の着信音のような音が鳴った。
「ごめんなさい、ちょっと待ってて、きっと小金井くんからだから。」
籠原先輩はパソコンの脇に置いてあった携帯電話を取ると、メールをチェックし始めた。
というか携帯電話って持ち込みオッケーだったっけ?
「やっぱり……今は小山駅にいるそうよ……。」
「小山? どこスかそれ?」
「うーん、口では説明しづらいわね……、そうだ、神田君、そこの小金井くんのパソコンの前に置いてある時刻表を取ってきてもらえるかしら?」
「はいよろこんで~! えーと、これですか?」
神田が持ってきたのは背表紙に赤い文字で『J○時刻表』と書かれたやたらとぶ厚い本だった。
「なんですか、この本?」
「だから時刻表。小金井くんがよく持ち歩いてる物よ。昨日あなたたちが帰った後にこれを読んでたから怪しいとは思ったんだけど……中身は列車がいつどこの駅を通るのかが書いてあるの。それで、小山駅っていうのはここ。」
籠原先輩はなにやら地図に路線図が書いてあるページを開くと、そのうちの一点を指差した。
「へぇー、こんなところにあるんスか。」
「って、もうすぐそこが宇都宮じゃないですか!」
「分かった? じゃあもう閉じるわよ。」
「……っていうか小金井さんって鉄道オタクなんですか?」
「そうなのよ……まぁ普通に接してたらあまり気づかないとは思うけれどね。」
「でも学校サボっていいんですか?」
「いいわけないでしょ。」
「あのー、小金井さんはいったいどういう人なんスか?」
「そうね……一言で言えば変な人ね。よく学校を休んではあちこちに乗りに行ってたり、かと思えば試験では学年トップクラスだし、体力に関しては下手な体育会系よりも遙かにあるし……まぁ運動神経に関しては別だけど、無駄に記憶力も良いし、いろんなことの呑み込みは異様に早いし、さりげなくピアノは上手いし……いるのよね、ああいう人って……」
「それと怪しい部活の人と交流があることについては何か関係あるんですか?」
「ないわ。それとこれとは別よ、多分……。でも確かにそれも一因かもしれないわね。時々とんでもないことを思いつくから……」
「とんでもないこと?」
「ちょっとした事からかなり危険なことまで色々。特に裏科学部の人たちが喜びそうなことが多いけれどね。」
「……かなり気になるんですけど……」
「はい、おしゃべりはいったんおしまい、早くトレーニングを始めて。 あ、そうだ、春香ちゃん、今日はちょっとあなたの面倒をあまり見てあげられないから、自分で頑張って。くれぐれも変なことはしないでね。」
「えーっ! 秋乃先輩何か仕事でもあるんですか?」
「年間予定表を打ち込んで印刷しなきゃいけないの。さすがに手書きだと見栄えがしないから。」
「そうなんですか~。それじゃあしょうがないですね。」
「ごめんね、本当は私も春香ちゃんの面倒を見ててあげたいんだけど、というより見てないと不安で仕方がないんだけど……これは早めに仕上げておかないといけないから。」
そして昨日と同じようにトレーニングが始まった。
そしてやっぱり一時間後……
「はい、おつかれさま。今日のトレーニングはもうおしまいよ。」
「へーい」
「あ、はい。」
「よ~し、終わった~!」
「じゃあもう好きなことしてていいんスよね?」
「えぇ、ご自由にどうぞ。」
「神田、何かやるのか?」
「おう! 今日はネットで拾ってきたRPGをやろうと思って持ってきたんだ。」
「桜木は?」
「うーん、わたしはまだパソコンの使い方がよく分からないから本でも読もうと思って。」
「何だ? 代々木は何も持ってきてないのか?」
「あぁ、特に思いつかなくってな。」
「じゃあオレが持ってきたRPGやるか? 面白そうだぞ?」
「そしたらそうするか。」
「あれっ? 秋乃先輩何聴いてるんですか?」
いつの間にか籠原先輩はイヤホンを耳に挿していた。
「え、なに?」
「秋乃先輩何聴いてるんですか~!」
籠原先輩はイヤホンを耳から外すとこちらを向いた。
「聴きたいの? 別にいいけど。」
「わーい、聴かせてくださ~い! …………これなんですか? たぶんクラシックですよね?」
「『きらきら星変奏曲』って言って分かるかしら?」
「きらきら星ってアレですか? 『きらきらひかる よぞらのほしよ~♪』ってヤツですよね?」
「そう、それの元になった曲ね。もともとはモーツァルトが当時のパリではやっていた歌を使って作った曲よ。なんでも弟子の教育用に書かれたそうだけどね。」
「はぁ、そうっスか……あのー、籠原先輩はJ-POPなんかは聴かないんですか?」
「んー……あんまり聞かないわね。」
「でもなんか秋乃先輩にクラシックってなんかイメージぴったりですよね。」
「そうかしら?」
「はい! お姉さまのイメージにぴったりです!」
「……神田君? 何か言った?」
「あ、いえ……なんでもなかったっス……」
「そういえば秋乃先輩ってピアノ弾けるんですよね?」
「ええ、まぁ一応ね。 ……それにしても春香ちゃん、よく覚えてたわね。 」
「ピアノ弾いてる時の秋乃先輩ってすっごくキレイなんですもん! きっとあれをみたらどんな男の子でもイチコロですよ~!」
「……そうかしら? それに私は小金井くんほど上手くはないわ。」
「そんなに小金井さんって上手いんですか?」
「えぇ、信じられないぐらい上手いわ。中学二年生ぐらいの時から『放課後のショパン』なんて異名をとってたらしいから。」
「なんかよく分からないけどかっこいいな。」
「なんなら今度小金井くんに頼んでみたら? きっと喜んで弾いてくれると思うわ。」
「オレはお姉さまの弾くピアノを聞いてみたいっス!」
「……カ ン ダ ク ン ?」
「……いや、なんでもないっス!」
「そう? ……あ、いけない、年間予定表を配っておくのを忘れるところだったわ! はい、みんな一枚づつ持ってって。」
できたてで微妙に温かい年間予定表が配られる。さて、中に目を通すと……
「あのー、この七月二十九日の『お楽しみ』ってなんですか?」
「書いてある通り『お楽しみ』よ。」
「……全然分かんないんですけど。」
「それと八月三日から六日まで『お泊り会』ってなってるのはなんスか?」
「それも文字通り『お泊り会』だけど?」
「どこ行くんですか?」
「さぁ、それは小金井くんに聞いてちょうだい。たぶん去年と同じだとは思うんだけど……そもそもこの予定を組んだのは小金井くんだから。」
「じゃあ十二月二十七日の『お楽しみ会』っていうのも……」
「ええ、詳しいことは知らないわ。」
「…………」
「ごめんなさい……小金井くん、明日は来るはずだから……」
「あ、気にしなくていいっスよ。」
「そう? 本当にごめんなさいね……」
『教員日直より連絡です。最終下校時刻十分前となりました。生徒諸君は帰り支度、教室の戸締りをして速やかに下校してください。』
「あら、いけない。みんな、早く帰り支度をして帰りましょう。」
「あ、はい。」
「へーい。」
「は~い!」
そして俺たちは部室を出て校門へと向かった。校門には先生が何人か立っている。
「さよなら~」
「はい、さようなら、気をつけて帰れよ~。」
普通に挨拶を交わして校門の外に出る。
「じゃあみんな、私はここで。」
「あれっ? 秋乃先輩、わたしたちと同じ方向じゃありませんでした?」
「ええ、そうなんだけど、これから水川駅に小金井くんを捕まえに行くから先に帰っててちょうだい。」
「小金井さんを捕まえるんですか?」
「そうよ。メールが来た時に小山駅だったから水川駅に着くのはきっと七時ぐらい、駅で捕まえて文句を言わなきゃ。本当は年間予定表を作るのは小金井くんの仕事だったんだから。」
「そ、そうっスか、じゃあオレらはもう帰るんで。さようなら~。」
「はい、それじゃあまた明日。」
「代々木! 桜木さん! 早く逃げるぞ!」
神田が小声で俺らを急かす。
「なっ、なんだよ急に……」
「なに? いったいどうしたの?」
籠原先輩の姿が見えなくなったのを確認して神田が語りだす。
「今は籠原先輩ヤバい。めちゃくちゃ怒ってるぞ、なんかこう禍々しいオーラが見える。触らぬ神に祟りなし、だ。」
「な……なんでそんなことが分かるんだ?」
「カンだ、っていうか籠原先輩目が笑ってなかったんだよ。笑顔の奥に怒りが爆発寸前の状態で蓄えられてたんだよ!」
神田のカン、か? ……惜しいな、もう少しでダジャレができそうなんだが……
さて、いかがでしょうか?
今回も読んでくださった方、本当にありがとうございます。
この話だけちょっと読んでみたという方、ぜひプロローグからどうぞ。
それではまた。