第8話 (実はさぁ、この話って……うわ、なにするやめ(ry )
というわけで久しぶりに交信……もとい更新した気がします。
例によってサブタイの()の中の言葉に深い意味はありません。というかもはや完全に遊んでますので(笑)
サバイバルゲームが始まった。
戦闘開始の合図と共に秘境部の人たちは誰よりも速く、音を立てずに部室を出て行った。
「じゃあ健闘を祈るよ。」
続いて小金井さんがスナイパーライフルを片手に部室から出て行く。
「よし、行くか、桜木。」
「うん、出撃~!」
ややハイテンション気味な桜木と共に部室を出る。俺たちに割り当てられた初期配置は二つある階段のうち部室に近いほうを上がった四階の廊下だ。指定ポイントについた俺たちは指示通り無線で報告する。
「もしもし、代々木です。いま初期配置ポイントに着きました。」
『了解です、では健闘を祈ります。』
籠原先輩の話し方もいつものようではなくどこか事務的だ。
「桜木、敵は見えないよな……桜木?」
「きっ……きゃああああああ! でたぁああああ!」
バババババッ、と銃声が響き渡る。
「なっ! 落ち着け! 何が出たんだ?」
「いっ……今そこになんかいた……」
「……? 何もいないぞ?」
「え? でも今確かにオバケみたいなのが……」
「……学校の怪談、ってヤツか? トイレの花子さんとか理科室で笑う骸骨とか、音楽室でひとりでに鳴るピアノとか……」
「やっ……やめて~!」
「……もしかして、桜木ってそういうのダメ系?」
「…………………………………………………………うん……」
「……そうだったのか、意外だな。つーか何で今まで言わなかったんだ? 言ってたら籠原先輩と一緒に部室に居れたかもしれないのに。」
「……だって……そんなの言うの恥ずかしいんだもん……」
「…………女なんだし別にいいと思うんだが……」
「そ……そう? でも代々木君だったらそんな子は嫌じゃない?」
「……そんなことは無い。」
もちろん怖がりな女の子のほうが男としてはなんつーか守りたくなるというか、そそる、ということは口が裂けても言わないが。
「そう、なの? それだったらもっと早く言っておけばよかった……」
「別に桜木一人でいる訳じゃないんだし、そんな怯えることはないって。」
「……うん、ありがと……」
『もしもし、こちら司令室です、聞こえますか?』
「あ、はい。聞こえてます。」
『四階の廊下、北側より敵が接近中。至急応戦してください。』
「聞こえてたな? 桜木。」
「うん、大丈夫。」
廊下の反対側に目を凝らすと確かに人影のようなものが動いている。だが暗いせいで距離が上手くつかめない。
「桜木、敵がいるのは見えるよな?」
「うん、見える。」
「ここで待ち伏せするか?」
「そのほうがいいと思うよ。」
「よし、そうするか。」
物陰に隠れて待ち伏せをする。二十メートルほどの距離まで近づいてきた敵の姿はなんと甲冑に身を包んだ人間だった。
「籠原さん……相手が甲冑なんですけど……」
『心配しないで、それはハリボテの甲冑だから強度は無いわ。安心して撃っちゃって。』
「分かりました。」
そして甲冑の騎士に狙いを定める。
「桜木、一斉射撃で仕留めるぞ。」
「うん。」
向こうはまだこちらに気づいていない。
「撃てっ!」
トリガーを引く。弾の嵐で相手がよろけ、倒れる。
「やったか……?」
そっと相手に近づいていく。すると倒れていた相手が起き上がり、手にしていた剣でこちらに攻撃を加えてきた。
「うわっ!」
「覚悟っ!」
とそのとき、突然相手がまるで頭に何かが当たったかのように倒れ、今度こそ動かなくなった。
「な……何が起きたんだ……?」
『代々木君、春香ちゃん、大丈夫?』
「ええ、大丈夫です。」
『うろたえなくても弾の主は小金井くんよ。窓の外、体育館の屋根の上にいるわ。』
言われるままに窓の外を見ると、確かに体育館の屋根の上に人がいる。おまけにこっちに向かって軽く手を振っているんだが……そういえば窓って開けてあったんだ。
「……あれ、小金井さんだよな……」
「……うん、わたしもそう思う……」
『わかった? あと敵を撃つ時はなるべく頭を狙うこと。それでは引き続き警戒を怠らないように。』
「了解です。」
「わかりました~。」
そして俺と桜木は薄暗い廊下を進んでゆく。
その頃部室前……
「神田君、敵は見えるか?」
「いえ、見えないっス。」
「了解した。片岡、今のうちにイモを込めておけ。」
「アイアイサー。」
片岡先輩が弾を込める。まだ敵が見えていないのでポテトキャノンとやらの威力は未知数である。
『重装部隊へ、二階廊下を敵兵が二人進撃中。迎撃用意をお願いします。』
「了解した。片岡、圧縮空気の用意はできているな?」
「はっ。既にいつでも撃てる状態です。」
「よし、では暗視スコープで目標を捕捉してくれ。」
「はっ!」
「神田君は我々がぶっ放した後に弾込めの時間を稼いでくれ。」
「了解っス。」
「敵捕捉しました!」
「よし、発射!」
ボシュっと音がして砲身に込められていたジャガイモが飛んでいく。その先で『ぐわっ!』っと声がして何かが倒れる音がした。
「弾込め開始! 頼んだぞ、神田君!」
この裏科学部特製のポテトキャノンは一発撃ってから次の弾を撃つ準備が整うまで三十秒ほどかかる。その時間を稼ぐのが今回のオレの役目である。そのためにオレが持っている銃は連射速度を上げ、代わりに威力と命中精度を下げてあるらしい。
「うおおおお!」
銃を正面に向けて撃ち続ける。敵に当たらなくてもいいから牽制の役目が果たせればそれでいい、というのは結構気楽なもので、要はとりあえず前に向かって闇雲に撃てばいいのだ。
「……よし、準備完了! 神田君、銃撃やめ!」
岡本先輩の声で銃撃を止めて後ろへ下がる。
「……敵捕捉完了、発射!」
再びボシュっと音がしてイモが飛んでいく。一撃必殺級の威力を持つこの兵器、当たれば即座にジ・エンドなのだ。こんなモノを作ってしまうとは……
「あのー、岡本先輩? この兵器を思いついた人って誰なんスか?」
「うむ? ポテトキャノン自体は前から我々も知っていたがエグゾーストキャノンをくっつける、というアイデアは小金井が言い出した。」
「あの人って……何者なんスか……」
「うむむ……まぁバカだな。」
「……そうっスか……」
「そういえば先程聞こえた悲鳴は何だったのだろうな……」
「……オレには桜木さんの声に聞こえたっス。」
四階の廊下の中程……
「敵、いないな……」
「うん、いないね……秋乃先輩、敵いないんですか?」
『ええ、今のところ四階廊下にはいないわ。でも警戒は緩めないこと。』
「わかりました~。」
さて……ここでこのまま時間を潰してもいいのだがさすがにそれは退屈だ。
「籠原先輩、進撃許可をもらえませんか。」
『残念だけれども今はまだ出せないわ。三時を過ぎたら攻撃に移るからそれまでは四階経由の敵の進撃を防いで、それが今のあなたたちの任務よ。』
今現在午前十二時三一分、まだ二時間半もある……
「……わかりました。」
『では引き続き警戒を怠らないように。それと地形を生かすこと。』
籠原先輩との交信終了。さて……
「桜木、お前俺たちが上がってきた階段のところで一人で見張りってできるか?」
「え……ダ……ダイジョウブ、ダイジョウブダヨ……」
「……そういえばオバケが駄目だったな……しょうがないか。」
「ご……ごめんなさい……」
「気にすんなって。」
「う……うん、ごめんなさい……」
「だから何で謝るんだよ? 気にすんなって言っただろ?」
「えへへ……そうだね……ありがと……」
「はいはい、どういたしまして。」
その時どこかから『うおぎょあああぁああぁあぁあ!!!!!!』という絶叫が響いてきた。
「なんだ?」
「……まさか……オバケ!?」
「……んなわけないだろ。」
ということで正解は無線機で聞いてみることにした。
「もしもし、籠原先輩?」
『はい、どうかしましたか?』
「さっきものすごい叫び声が聞こえたんですけど、なんなんですか?」
『……裏科学部の人が『多分誰かが理科室に入ったんじゃないか?』って言ってたけど……』
「そうなんですか?」
『ちょっと待ってて、いま岡本君に繋ぐから。』
『もしもし? 代々木君とやらに繋がっているのか?』
「あ、はい、えーっと……岡本さん?」
『そうだ、で、用件はなんだね?』
「えーっとですね、さっきの絶叫は理科室に誰かが入ったからだっていう話を聞いたんですけど?」
『ああ、おそらくそうだと思われる。なんせ裏科学部員が好き勝手なトラップを個人単位で多数仕掛けたからな、正直なところこちらも正確なトラップの数は把握していない。』
「……例えばどんな感じのものを?」
『手前が仕掛けた物は個人所有の人体骨格模型にちょっと細工を施して骸骨がうすぼんやりと光りつつアゴをカタカタ鳴らしながら追いかけてくるような物を仕掛けた。』
「……なんというオモシロ兵器!」
『この程度ならまだまだヌルいぞ? 加減を知らない一年の部員はなんだったかな……ああ、そうだ、DOZAEMON噴霧装置かなんかを仕掛けていた気がするな。』
「……してそのドザエモンとは?」
『詳しくは色々とアレなので言えないが、まぁ読んで字の如くだ。』
「はぁ……」
『ちなみに暗闇での敵の検出には赤外線センサーを使っている。まぁ、仮にネズミか何かが出て装置が誤作動したらそれまでだがな。一応作動条件を床面ぎりぎりに設置したセンサーと床上二十センチに設置したセンサーの同時反応に設定したから問題ないとは思うが……』
「……とりあえず法律に触れてはいないですよね……?」
『うーむ、さりげなくDOZAEMONはアウト気味だった気がするが、まぁバレなければ問題は無いだろう?』
「その発想はマズいでしょう!?」
『バレない犯罪は犯罪に非ず、だ。まぁ我々もその辺はちゃんと弁えているつもりだから心配御無用。法律を犯したらそれはマッドサイエンティストではなくただの犯罪者でしかないしな。』
「……色々と問題を抱えまくってません!?」
『どうでもいいがあんまりギャーギャーと騒いでいると敵に居場所を捕捉されて襲われるぞ?』
「……先に注意してほしかったです!」
『自分の命ぐらい自分で守りなさい。それでは通信を切るぞ。』
裏科学部の岡本さんとの通信が切れると、籠原先輩がやや呆れ気味の声で敵が接近していることを伝えてきた。
『……廊下の反対側より敵が接近中、応戦用意されたし……代々木君、少しうるさいわよ?』
「……すいません。」
それから三十分ほど過ぎただろうか? 籠原先輩からの指令で俺と桜木は廊下の巡回をしていた。
「やれやれ……まだ始まってから一時間ぐらいしか経ってないんだよなぁ……」
「うん、なんだか時間が経つのがすごく遅く感じない?」
「敵はちょこちょこ来るのにな……」
その直後、突然桜木が立ち止まった。
「……ね、ねぇ、代々木君……何か聞こえない?」
「何が? 敵の足音でもしたのか?」
「ううん、そうじゃなくって……なんだろう……」
「どれどれ?」
耳をすませてみると……
「……ピアノの音?」
「……やっぱり?」
「……なんでだ?」
「ま……まさか夜中にひとりでに鳴る音楽室のピアノ!?」
「ちょっ! 声でかいって!」
「はわわわわ! 出た~!?」
「んなわけあるか!」
だが音の聞こえてくる方向を考えると、確かに音楽室から聞こえてきているようだ……
「……よし、調べてみるか……」
「えぇ~っ! 行くの~!?」
「だから声でかいって!」
「……ほんとに行くの?」
「……確認しなきゃ本当に学校の怪談になっちまうしな……」
「も……もしも本当に誰もいなかったら……」
「考えるな! 考えるから出るんだ!」
とは言ったものの、本当にピアノの音が聞こえるのだからシャレにならない。階段を上って音楽室に近づくほどはっきりと聞こえてくるので、まず間違いなく誰かが弾いているに違いない……
音楽室のドアの前に立つ。……確かにピアノの音が聞こえてくる……しかもなんだか不気味な曲だし……なんかの冗談だよ……な?
「……確かに鳴ってるな、ピアノ……」
「やっぱりオバケだよ~……」
「いーや、そんなはずはない、いくぞ!」
桜木にものを言わせる暇を与えずに、一気にドアを開けると……
灯りがついていない音楽室は、ガランとしていて誰もいない。が、ピアノは確かに鳴っている。だが、入り口近くの窓以外にカーテンが引いてあるせいで、ピアノの周囲は完全に暗闇に包まれている。
「……誰かいるか?」
「……わかんないよ……」
「……よし……」
そして俺が音楽室の中に足を踏み入れた次の瞬間、何かが俺の首に回されていた。
「騒ぐな、騒げば即座におねんねしてもらう。」
「なっ!?」
その「何か」は低く唸るような声で警告を発してくる。
「ここに迷い込んだのが間違いだったな。さぁ、観念してもらおう。」
「桜木、逃げろ!」
しかし、桜木は逃げようとはしなかった。
「え? この人、秘境部の人?」
「うむ? ……なんだ、味方か。すまなかったな。」
そして俺の首に回されていた手が離れた。
「お~い、小金井さん! あなたの後輩が迷い込んできました!」
『あ~、そうしたらカーテン開けつつこっちに連れてきて。』
秘境部の人に連れられて、ピアノの方に歩いてゆく。カーテンが開けられるに従って、ピアノの前に誰かが座っているのが見えてきた。
「……小金井さん……なにやってるんですか……」
「ん~? ちょっとしたイタズラ?」
「なんでまた……」
「いやー、深夜の学校でピアノの音が聞こえてきたら誰でも気になるでしょ? だからそうやって怖いもの見たさにやってきた哀れな子羊たちを秘境部の助っ人に殺ってもらってた。案外みんな来るもんなんだね~。」
「……いや、本気で怖かったんですけど……」
「まぁそこんとこはご愛嬌♪」
「……そういえばさっき弾いてた曲は何なんですか?」
「あ~、あれはリストの『鬼火』ってやつ。」
「……名前からホラーですね……」
「そう? 名前はそんなじゃないけどこっちのほうがもっとヤバイと思うけど?」
そういうなり小金井さんは一曲弾きだした。
……この曲は本気でやばい!
「……こっちのほうがはるかに怖いんですけど……」
「曲名は『調のないバガテル』っていうんだけどね~」
「……これで後ろから脅かされたらやばいですね……」
「ヒーッヒッヒッヒッ!」
いつのまにか俺たちの背後に回っていた秘境部の人が脅かしてきた!!
「うわっ!?」
「×○△□○▽×!?!」
「……すまない、ちょっとした出来心だ。」
「や……やめてください…… 心臓にめちゃくちゃ悪いです……」
「まぁこれぐらいに慣れておけば大概のことには驚かなくなるだろう?」
「そんなのに慣れたくないです……」
「うむ、確かに。女性には止めておこう。」
「男には!?」
「何をためらう必要がある?」
「……助けてください、小金井さん。」
「ムリ。」
「なんで即答なんですか……」
「見てる分には、楽しいから。」
「……ひどいですね。」
「まぁ気にしない気にしない。それよりなんか聞きたい曲ある?」
「俺は特には。……桜木はなんかあるか?」
「……じゃあベタなんですけど、『月光』とかは?」
「ベートーベンの月光かな? いけるよ。そうそう、ちなみにベートーベンといえばアレ。」
小金井さんが指差した方向にはおなじみの顔写真が……!?
「きゃあぁぁぁ!! 目が光ってる!?!!」
「ゴメン、アレもイタズラだから。」
「……ほんともう勘弁してください……」
「うん、さすがにもうこれ以上は何もないから。じゃあいくよ?」
そして小金井さんは、ベートーベンの『月光』とやらを弾き始めた。
その一時間半ほど後部室にて
『こちら代々木です。敵を一人仕留めました。』
「わかりました。後三十分程で進撃するからそろそろ準備をしておいて。」
『……すいません、補給用の弾の場所ってどこですか?』
「四階でいま代々木君がいる位置なら廊下の端の消火器ボックスの中が一番近いわ。」
『了解です。ありがとうございます。』
あらかじめ決めた突撃開始時刻が迫っている。そろそろ小金井くんを呼び戻さなきゃ……
『もしもし? 岡本だが小金井につないでもらえるか?』
「待ってて、今つなぐわ。」
パソコンで小金井くんと岡本君の無線機を会話ができるようにする。
「つながったわよ。」
『ありがたい。おーい、小金井、聞こえてるか?』
『聞こえてるよ~、そっちはどう?』
『幸いポテトキャノンなら絶好調だ。』
『そうか~、ならあんまり心配しなくても大丈夫そうだね。』
『ああ、時に小金井、この会話は籠原さんも聞いているのか?』
『ん~、どうだったっけ? こういうときは聞こえないようなプログラムだったと思うんだけど……忘れた。』
自分が組んだプログラムのことも覚えてないの? でもこういう時は大体本当に忘れてることが多いし、確かにこのプログラムを組んでいた時はかなり疲れてたけど、本当に覚えてないのかしら……全部筒抜けよ……
『そうか……お前らしいな。じゃあ聞こえていないと仮定して話そう。』
『何を?』
『正直暇でな、折角だから裏科学部特製ENGACHO弾でも撃とうかと思ってな。』
『やめてよ、後で突撃する時に味方が糞死するよ?』
『む……そうか、盲点だったな。』
『……撃つ前でよかったよ……』
『うーむ、それが駄目ならお前と喋って時間を潰すか。』
『なんかおもしろい話でもあるのかい?』
『小金井、ぶっちゃけた話、お前の好みの女の子ってどんな感じだ?』
『人にそういうのを聞く時は自分から言ったら?』
『我々裏科学部にはロリコンが多いが?』
『岡本もその一人ってことかい?』
『そういうことだ。で、どうなんだ?』
『そうだね~、髪の長さは特にこだわりは無いけどあえて言うなら長い方がいいかな~。』
『ほう、他には?』
『ん~、僕を気遣ってくれるってのは大きいかもね。』
『ほうほう、で?』
『え~、まだ言うのかよ~……そうだなぁ……騒がしいのはあんまり好きじゃないなぁ……』
『そうか、ところで結婚相手には何を求める? 俺は若さだが。』
『……さいでっかい、ずいぶん唐突に話題を変えるね……僕の場合は料理が上手いっていうのは外せないな~。』
『なぜだ?』
『だってまずい飯は食べたくないから。』
『何を言う、嫁の飯がマズい、といったネタもあるだろう?』
『そんなネタはいらないから毎日おいしいご飯が食べたい。』
『ささやかな願いだな。』
『後は、そうだね……やっぱり僕のことを深く知って支えてくれる人がいいな……』
『自分の全てを預けてもいい人、という訳か? 意外にロマンチストだな。』
『全ては預けないよ~、そんなことしたら相手にとって重荷じゃないか~。』
『ふ……肝心な事は全部背負い込む癖、まだ直ってなかったのか。』
『……そうだね、いつまでも自分の中に溜め込んじゃうのは良くない、とは思ってるんだけどね……まぁいいんだ、そうやって溜め込んだのものは音楽に乗せて吐き出せばいいんだからさ。』
『そうか。……ついでにだが、実際のところどう思ってるんだ?』
『ん? 何を?』
『何って、籠原さんのことだ。お前の本心が聞いておきたい。』
『籠原さんか……そうだね、籠原さんは……』
「小金井くん、突撃開始時刻が迫っているから部室まで戻ってきて。あなたが戻ってこないと重装部隊が出撃できないわ。」
『あ、ゴメン、すっかり忘れてた。今からいくから。』
……一瞬小金井くんの答えを聞くのが怖くなった。だから無理矢理会話を中断させてしまったけれど、私の本当の気持ちはどうなんだろう………………いまさら考える必要もない、そんなものはとっくの昔に答えを出しているのだから……
「重装部隊、突撃準備を始めてください。あと十五分で突撃を開始します。」
『了解した。それと小金井との通信はもう終わったから切断しておいてくれ。』
「了解しました。代々木君、春香ちゃん、突撃開始十五分前です。突撃配置についてください。」
四階の部室から遠い方の階段付近
「わかりました。」
籠原先輩から突撃配置に着くように指示が出る。俺たちの突撃配置とは四階の部室から遠い方の階段である。そこから突撃開始の合図と共に階段を降りて敵の本拠地を叩く、という作戦だ。
「桜木、準備はいいか?」
「うん、弾もちゃんと装填してあるよ。」
「わかった、じゃあ後は突撃開始時刻が来るのを待つだけだな。」
ほとんど真っ暗な廊下の中で静かに時を待っていると、まるで全身の神経が研ぎ澄まされていくように、今まで聞こえなかった様々なものが聞こえてくる。虫たちの鳴き声に混じって誰かが廊下を移動しているような物音が階下から聞こえてくる。
「……こうやってると結構いろんな音が聞こえるもんだな……」
そのとき、桜木が俺の服の少し引っ張った。
「ん? どうした?」
「い……今廊下を誰かが歩いてて……窓の外に出て行った……」
「は? ここ四階だぞ?」
「……で、でも本当に今……」
「そ……そんなバカな……つーか廊下に人なんていなかったはずだぞ?」
「……だって向こうから歩いてきたわけじゃないんだもん……いつの間にかいて窓の外にいっちゃったんだよ……や、やっぱりもしかして……」
「や……やめてくれ、絶対にありえないから……」
「で……でも本当に見たんだもん……」
『突撃開始十分前です。小金井くんが部室に到着しましたので重装部隊が配置につきます。皆さん、指定位置に着きましたか?』
「あの、籠原先輩、ちょっといいですか?」
『なに? どうかしたの?』
「さっき四階の廊下って誰かいました?」
『え? 誰もいなかったと思うけど、あんまりよくは見てなかったわ。』
「……そ、そうですか。」
『……? 何かあった?』
「いえ、なんでもないんです……」
『そう? それならいいけど……』
「……ねぇ、代々木君……さっきのってやっぱり……」
「いや、決してそんなことはない、ないはずだ!」
「……こわい……」
ち、近い! 桜木、もう少しでいいから離れてくれ! ……でもこれはこれで悪くないと思ってしまうのは男の悲しい性なのか……
「……もし今オバケがでたら……代々木君はどうするの?」
「……そうだな、とりあえず叫んでみるか?」
「……あはは、代々木君らしいね。」
「そうか?」
「……ありがと、もう大丈夫だから……」
「……それならもうちょっと離れてくれると助かるんだが……」
「えっ? ……ひゃっ! ご……ごめんなさい!」
「い、いや、別に気にしてないって……」
「はわわわわ!!! わたしなにやってるの!?」
「いや、まて、落ち着け! そんなにパニクることはないだろう!」
「あわわわわわわ……」
なぜそんなにパニックになってるんだ!? そこまで取り乱されるとこっちが困るわ!
「落ち着けって! 何そんなに慌ててるんだよ?」
「ふぇ!? わたしなにやってるの!?」
「とりあえず落ち着けって……」
二回続けて似たようなことを言うな! どれだけこっちがそういうことにならないように気を配ってると思ってんだよ、まったく……はっ! もしや大事なことだから二度言ったのか!? ……ってんなわけあるか!
「う……うん……す~は~、す~は~……も……もう大丈夫……」
「ホントかよ……」
とりあえず落ち着いてから突撃に備えるか……そう思った矢先に突然籠原さんから指令が入った。
『みんな! 三階廊下にて多数の敵が出現! 四階に向かっています! 至急応戦して!』
「な……なんだって!?」
するとその言葉を裏付けるかのように階下から足音と雄叫びが響いてきた。
「マジかよ! いくぞ、桜木!」
「うん、わかった!」
階段下に向かって銃を構える。駆け上がってきた人影に向かって撃つ。
「ぐわぁあああっ!!!!」
不意を撃たれたのか、あっけなく倒れる。
「やった!」
「気を抜くな、桜木! まだ来るぞ!」
続いて二人、三人と敵が現れる。
「くそっ! 数が多いな!」
倒しきれない……やばっ、弾が切れただと!? ……しまった! 替えの弾を込めておくのを忘れてた! なんてアホなんだ、俺……
「桜木、少しの間でいいから時間を稼いでくれ!」
「わかった、やってみる!」
幸いなことに弾の詰め替えは数秒で終わるようになっている。桜木が敵を抑えている間に弾の詰め替えを終わらせて戦闘に復帰する。
「よっしゃ、いくぞ!」
と銃を構えるのと同時にさらに四人ほど増援がやってきた。
「いや、待て、これはムリゲー……」
さすがにヤバイ、と覚悟を決めた瞬間、階下から迷彩服の男が現れ、瞬く間にその場にいた敵全員を仕留めてしまった。
「……ありえねぇ……」
「す……すごーい……」
「おお、君たち、怪我はないか?」
「ええ、おかげさまで……」
「そうか、それではこの先も気をつけて進むように。それではまた後で。」
突如として現れた秘境部からの助っ人は俺たちの横を通って窓から階下へ降りていった。
「……なぁ、桜木、もしかしてさっきお前が見たって言うオバケの正体って……」
「も、もしかしたら秘境部の人だったのかな~、あはははは……」
「……とりあえず三階へ行こう。」
そして三階に下りる。そこでは廊下の中ほどに陣取ってどっかから湧いてくる敵を撃ち続ける。そして三十分ほどが経った。
「ふぅ……やっと敵の攻撃が収まってきたな……」
「うん……そうだね、これでちょっとは休めるかなぁ?」
「……気を抜くなよ。」
しかし、この時桜木以上に俺が気を抜いていた、ということには気づくことができなかった。なのでこっちに向かっていた桜木の背後から敵が忍び寄っていたことを知るよしもなかった。
『代々木君! 春香ちゃん! 敵が接近してるわよ!』
「え!?」
気づいた時には黒いフードをかぶった魔法使い風の男がすぐそこまで迫っていた。しかもその手にはボウガンが構えられている。なぜ魔法使いの格好をしておきながらボウガン? ……っと、そんなことを考えている場合じゃない、桜木が危ない!
「桜木、危ない!」
とっさに桜木の前に出る。
「ぐっ!!!!!!」
運悪くボウガンから撃ち出された矢が頭に命中する。……幸い先端にはゴム球が取り付けられていたようだが、衝撃で意識が遠くなる…………だ……めだ……ここで……意識……を……失っては……
「!? 代々木君!」
桜木の驚いた顔が薄れていく意識の中で最後に見たものだった。
「……木くん……代々木くん……」
なんだろう、誰かが俺の名前を呼んでいる……?
「……代々木くん……ひっく……ひっく……」
なんだ? 泣いてるのか……?
「う……ん?」
「代々木くん! 大丈夫!?」
徐々に意識が戻ってくる……そうだ……たしかあの時ボウガン野郎に撃たれて意識を失って……
「お……俺はどうなってたんだ?」
「代々木は気を失ってたんだよ。しっかりしろい。」
この声……神田?
目を開けると目の前には目を泣き腫らしている桜木の顔と心配そうに覗き込んでいる神田の顔があった。
「よかった……ほんとによかった……ひっく……」
「ったく、桜木さんに世話かけんなよ。つーか代々木、お前今の状況把握してるのか?」
「へ?」
今の状況? え~と、桜木と神田が俺の顔を覗き込んでて、俺は横になってて、頭の下に何かがあって……ん? 何があるんだ? 温かくて、柔らかいが……
「ちくしょおおお! 無意識のうちに膝枕体験だとぉ! 許せん、断じて許せん、何でお前ばっかりそんなオイシイ体験してるんだぁぁぁ!」
神田の蹴りが俺に炸裂する!
「なっ!?」
いてぇ! ってか膝枕だと!? ……慌てて身を起こすと確かに俺の頭があったところには桜木の足があった。にわかには信じられない、というか信じたくない……
「………………マジ?」
「……もしかして代々木くん、イヤだった……?」
「桜木さん、心配ご無用。男で膝枕を嫌がるヤツはいない! 特に代々木はムッツリだから間違いなく心の中では喜びのあまりのた打ち回ってるに違いない! うらやましいぞコンチクショー!!」
そう言いつつ神田は全力で蹴りを繰り出してきた。
「いてぇ! 何なんだいきなり! しかも俺を勝手にムッツリにするな! それと桜木、あの後ボウガン野郎はどうなった? 俺はどうなってたんだ?」
「あ、うん。あのね、秘境部の人が窓から入ってきてやっつけちゃった。それと代々木くんは一時間半ぐらい気絶してたんだよ。」
「……そうか、とにかく桜木は無事だったんだな?」
「うん、その……ありがと、守ってくれて……」
「あ、いや、別に体が勝手に動いただけだから。」
「ちくしょおおお! さり気にポイントを稼ぐなぁああ! それに気を失ってたんじゃなくってただ単に寝てただけなんじゃないのかよぉぉおおお!」
「お前はさっきから何が言いたいんだよ! ……それより戦局はどうなってんだ?」
「戦局ならばだな、敵は今現在本陣に立て籠もっている。そこで一時的に戦闘休止状態だ。」
なぜかそこには白衣に身を包んだ裏科学部の……岡本さんと片岡さんだっけな? がいた。
「あれ? なんで裏科学部の人がここに?」
「何言ってんだ? オレと裏科学部の人はセットで動いてるんだぞ? 忘れたか?」
「……そういやそうだったっけ……」
「まぁ、無事でなによりだ。早速籠原さんと小金井に連絡してやらなければな。……もしもし、こちら岡本だ。たった今代々木君が意識を取り戻したぞ。……ふむ、了解した、そう伝えておく。……というわけで籠原さんからの伝言だが、戦闘に参加できるなら一階まで降りて秘境部の連中と合流すること。無理ならば部室へ戻って来いとのことだが、どうする?」
「大丈夫です、一階に行けばいいんですね?」
「ああ、えーっと、桜木さんだったかな? 代々木君をしっかり見てやってくれ。少しでも異常があったら即座に連絡を入れてくれ、我々はちょっと取りに行かなければならないものがあってな。遅れて駆けつける。」
「わかりました、代々木くん、行こう?」
「ああ、わかった。」
立ち上がる。一瞬クラっときたが問題なさそうだ。
「よし、行こう。」
そして一階へ降りていくと、階段下で秘境部の人の内の一人が待っていた。
「代々木君だね? 怪我は大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫です。」
「そうか、ならば良いんだ。」
「ところでこの後何をやるんですか?」
「ん、なに、ちょっと敵を炙り出すだけだ。今その準備をしに裏科学部の方たちが準備をしている。」
「そうですか……」
『もしもし? 代々木君?』
「あ、はい、代々木です。」
『大丈夫? 特に身体に異常はないわね?』
「ええ、問題ないです。」
『じゃあこれからやることを簡単に説明するわ。まず裏科学部の片岡君が外から敵本陣に○涙弾を撃ちこむの。それに耐え切れなくなった敵が本陣から出てくるはずだから、それを今から裏科学部の人たちが持っていくガトリングガンで殲滅してもらうわ。』
「……いいんですか? そんなモン使って?」
『問題かもしれないけど……でも裏科学部の人たちは一応越えてはいけない一線をしっかり弁えてるから大丈夫なんじゃないかしら? それに日ごろの恨みを晴らすいい機会だし。』
「なんか物騒なワードが聞こえてくるんですけど……」
『だってあの人たちは日ごろから私に『コスプレしてくれ』ってことあるたびに言ってくるのよ? 鬱陶しいことこの上ないわ!』
籠原先輩、こえぇ……
『いずれにしても戦闘はもうすぐ終わるから。』
「そうなんですか?」
『戦闘は日の出と共に終了よ。だから五時半ぐらいには終わると思ったんだけど。』
「そういえば俺って一時間半ぐらい気を失ってたんでしたね。」
『ええ、だからあと一時間ぐらいで終わりだから頑張ってちょうだい。』
「わかりました。」
そして俺が籠原先輩との交信を終えた直後に神田と裏科学部員の人がガトリングガンを持ってきた。
「よし、じゃあコイツをやつらの本陣のドア前に設置するぞ。片岡は校庭に回っててくれ。」
「了解です。」
片岡さんがミニバズーカのようなものを持って校庭へと出て行った。
「……あれ、なんですか?」
「あれ? あれとはなんだ?」
「いま片岡さんが持ってったヤツなんですけど。」
「ああ、あれは小型のエグゾーストキャノンだ。あれで○涙弾を撃ち込むのだよ。」
「……そうですか。」
「うむ、ではコイツを設置しよう。弾もたっぷり持ってきてあるから楽しい楽しいジェノサイドが楽しめるぞ。」
そして敵の本陣のドア前にガトリングガンを設置する。 ……っていうかこの人さりげなくジェノサイドとか言った!
「……そういえば結局敵ってどれぐらいいたんですか?」
「うーむ、我々の情報ではどこからか助っ人を雇って六十人ぐらいだったらしいが。」
「ろ……六十人……」
「場合によってはさらに増えるかもしれん。ただ、いずれにしても我々に下っているのは皆殺しの指令だけだからな、一人残らず殺るまでよ。……さて、秘境部の方々、準備はよろしいかな?」
「ええ、いつでも構いません。」
「了解……籠原さん、こちらは準備が整ったから片岡に発射指令を出してほしい。」
『総員、戦闘準備をしてください。催○弾発射三秒前……二……一……発射。』
校庭の方から発射音がする。そして弾が敵陣内に到達してから数秒としないうちに中から何人もの敵がのた打ち回りながら出てきた。
「うぎょぉぉぁぁあああああ!!!!! 目が! 目がぁあああああ!!!!!!」
「はい、いらっしゃ~い♪」
岡本さんがガトリングガンで敵陣から転がり出てきた人を片っ端から仕留めていく。……なんというか、すごく楽しそうだ……若干クレイジーな笑みを浮かべているのは気のせい……だよな!?
「突撃!」
さらにガスマスク(おそらくは裏科学部員がつけていたもの)を装着した秘境部の人たちが弾幕の合間を縫って敵陣へと突入していく。
「……なぁ、神田、桜木。なんか相手が哀れになってこないか?」
「……そうだな……さすがにここまで来るとやりすぎ感も否めないが……」
「……でもあれの攻撃目標がわたしたちじゃなくってよかったな~、っていうのが正直な感想かな~。」
「…………だな……」
○涙弾が打ち込まれてから五分と経たない内に敵陣は完全に制圧された。
「制圧完了。」
秘境部の人たちが敵陣から出てくる。
「あ、ドア閉めといてもらえるかな? ○涙剤が漏れてくると困るから。」
「……そんなにヤバいんスか?」
「うーむ、一応そこまでの量を投下したわけではないが念のためにな。」
「○涙剤っていったい何を投下したんですか?」
「昼間に川原で合成していたものだ。」
「あの2‐ナントカカントカってやつですか?」
「そのとおり。まあ詳しい説明はしても理解できんと思うので省略させてもらう。」
『敵陣の制圧ご苦労さまでした。それでは残兵の掃討に移行してください。』
籠原さんより再度指令が下る。
「よし、それでは校舎内の敗残兵狩りに出かけようではないか。」
「敗残兵って……あっちの負け確定ですか……」
「だろう? たしかにまだ決着がついたわけではないが。」
『重装部隊は一階と二階、代々木君と春香ちゃんは三階と四階の敵を探し出して倒すこと。秘境部の人たちは好きなように動いて構いません。それではあと一時間弱ですから頑張ってください。』
「それでは神田君、敵を虐めに行こうではないか!」
「イエッサー!」
神田……だいぶ毒されてるな……
「代々木くん、大丈夫だったら行こう?」
「ああ、心配ないから、行くぞ!」
残兵探しは意外と難航した。とにかくヤツらは本陣が陥落した、ということを知らないので抵抗する気満々なのである。しかしさっきの経験と秘境部の人の助けを借りて確実に残兵を仕留めていく。意外なところでは掃除用具入れの中に隠れていた敵もいた。ちなみに秘境部の人が手早く掃除用具入れを縛り上げてさらに向きを変えて扉が壁を向くように置いていたが、無事に発見されるのだろうか?
そして日の出が間近に近づいている。
『みなさん、まもなく戦闘終了となります。終了の合図の笛が鳴ったら指示通り校庭に集合してください。』
「……もうすぐ終わりだな。」
「うん、結構おもしろかったよね?」
「……そうだな、だけどボウガン野郎のせいで素直には頷けないが……」
「あははは、そうだね。」
「……笑うなよ……俺は本当にへこんでんだよ……」
「…………ね、ねぇ、代々木くん、これが終わったら……」
「おっ、見ろよ、桜木、日の出だぜ。」
家々にさえぎられて地平線は見えないが、太陽が顔を出し始めていた。朝日に町が染まってゆく光景は、なんとなく心に染み入ってくる。
「……こうやって見るとやっぱり日の出っていいよな。」
「……うん、そうだね。」
「そういえば桜木、今なんか言いかけてなかったか?」
「ううん、なんでもないよ。なんでも……」
そのとき戦闘終了を告げる笛の音が学校に響き渡った。
「……やっと終わったか、こうやって終わってみると長かったような短かったような……」
「それよりも早く校庭に行こうよ。きっとみんな待ってるよ?」
「そうだな、行くか。」
朝日に照らされはじめた校庭に出てくると、裏科学部と秘境部の人と神田は既に集合していた。
「お疲れ様です。」
「やあ、お疲れさま。」
「おうよ、おつかれさん。」
「そういえば小金井さんと籠原先輩はどうしたんですか?」
「小金井達なら今来るぞ。」
「お~い、おつかれさま~。」
校舎から出てきた小金井さんがこちらに向かって手を振りながら近づいてくる。その後ろには籠原先輩もいる。
「みんな~、おつかれさまでした~。」
「おつかれさま。」
「さて、敵は出てきてないね?」
「ああ、誰一人としてな。」
「そういえば用務員さんがまだ出てきてないね。」
「なに、すぐ来るだろう。」
「え? 用務員のオジサン来るんスか?」
「うん、開始と終了の笛を吹いたのは用務員さんだよ?」
「……そうだったんスか。」
「あ、ほら、出てきたよ。」
用務員さんが眠そうな足取りでこちらにやってくる。
「おはようございます。じゃあ判定をお願いします。」
「うん? 今年もアニ研の子たちには生き残りがいないのか?」
「ええ、そうですね。」
「そうかい、それじゃあコンピ研の勝ち。おつかれさん。なかなか楽しませてもらったよ。ときに少年、ずいぶんと楽しい体験をしてたじゃないか?」
「……あれは不可抗力なんですけど……」
「なーに、人生長くってもあんなことはなかなか体験できないぞ?」
「いや……だからその……」
「がっはっは! まあ頑張れや!」
そう言って俺の背中をバンバン叩くと用務員さんは校舎へ戻っていった。何を頑張れっってんだ……
「さて、では小金井、我々はもう帰るぞ。」
「うん、ごくろうさん、それとサンキューな。」
「なに、こっちも楽しませてもらったからな。礼は要らん。」
「では小金井さん、我々もそろそろお暇させて頂きます。」
「うん、おつかれさま。あ、それと貸した武器は返して、こっちで手入れして保管するから。」
「はっ、かしこまりました。」
「はい、それじゃあまたね。」
「それでは。」
そして裏科学部の人と秘境部の人たちは帰っていった。
「さーて、じゃあ部室に戻って銃の手入れをしようか。」
部室に戻って銃の手入れをする。手入れと言っても汚れを拭き取るぐらいだが、小金井さんは嬉々としてバラバラにしていた。
「あのー、小金井さん、そこまで分解する必要ってあるんスか?」
「ないよ。」
「じゃあなんでそこまで分解するんスか?」
「だって楽しいじゃないか~♪」
「……そうっスか……」
「みんな、もっと手を動かして。じゃないと終わるのが遅くなるわよ?」
「はいはい、ゴメンナサイ。」
「小金井くん、誠意というものがまったく見えてこないんだけど?」
「少なくとも僕の手は休み無く動いてるよ?」
「必要のない事をしないの!」
「……よし、ここはみんなでバラバラにしよう! そうすれば籠原さんも文句が言えないはずだから!」
「申し訳ないんですけど俺はそんな器用じゃないので遠慮させていただきます。」
「オレも同じくっス。」
「わたしも遠慮しておきます。」
「み……みんなひどいなぁ……」
「ほら、小金井くんもちゃんと手入れをして!」
「手入れはしてるよ……」
そんなこんなで戦闘終了から二時間後、後片付けが終了した。
「さーて、それじゃ朝ごはんでも食べに行こうか!」
「賛成っス、オレはもう腹が空き過ぎて死にそうっスよ……」
「そうね、小金井くんのおごりで行きましょうか。」
「なっ! また!?」
「そうしてくれると嬉しいなって思ってみたり?」
「もうその手は止めてくれると嬉しいなって思ってみたり……もう! わかったよ!! 奢るよ!!!」
「みんな聞いたわね? 小金井くんが朝ごはんをおごってくれるって。」
「聞きました。」
「確かに聞いたっス。」
「わたしも~!」
「……ええい! ここはもう大奮発! 駅前のカフェで朝の一杯としゃれ込もうじゃないか! 好きなものを選んでいいから!」
「うふふ、それじゃあお言葉に甘えて。」
「よ~し、それじゃあ行くぞ~!」
「……みんな少しは遠慮してくれるんだよね?」
「遠慮? なにそれ? おいしいの?」
「……ひ、ひどい……あぁ……旅の資金が……」
ともあれ夏の「お楽しみ」はこうして終わりを告げた。次なるイベントは八月三日から六日にかけての「お泊り会」だ。