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こんぴけん  作者: ホワイト
第2章 (夏休みはやっぱり『ふりーだむ』!)
10/12

第7話 (夏休み、それは宿題がなければ最高である)

例によってサブタイの()の中の言葉に深い意味はありません。


ではどうぞ




 夏休み。


 学生にとっては天国であり地獄である夏の長期休暇をさす。仲間とつるんでどこかへ出かけたり、夏休みの終わり頃宿題に追われて死にかけたり、と人によって様々な過ごし方がある。

 しかしわれらがコンピ研はそんなものどこ吹く風、といった風に一学期と大して変わらない(?)活動を続けていた。夏休みの始まりとともになぜか備え付けの冷蔵庫の中には大量の飲み物やアイスが出現し、冷房をガンガン効かせた部屋で持ち込んだ携帯ゲーム機やなんやで遊んでいる様はとても部活動とは思えない……

 そんな夏休みのある日、七月二十九日の朝、携帯宛に一つのメールが届いていた。

『午前十時、制服で部室に来られたし。持ち物は特になし。』

いつもの呼び出しメールだ。この書き方は小金井さんだな……このメールが来たということは今日は部活があることを意味する。……ん? 何かが頭の隅に引っかかっている気がするな……七月二十九日……なんだっけ?

 とりあえず制服に着替えて出かける支度をする。今は九時半、今から出ればちょうど十時前には着くだろう。

 そしていつもの通学路を歩いていく。普段なら神田や桜木に出会うわけだが今日に限って誰とも出会わなかった。

 十時五分前、学校到着。玄関を抜けて二階の南端の部室へと向かう。

「おはようございまーす。」

部室に入ったその瞬間……

「動くな! 手を挙げろ!」

なぜか四つの銃口がこちらを向いていた。

「はいっ!?」

反射的に手を挙げて固まる、すると突然笑いの渦が巻き起こった。

「あっははは~、やっぱり反応した。」

「やっぱりみんな引っかかるのね……」

「わはははは! 代々木、なんつー顔してんだ!」

「あははー、代々木君も引っかかった!」

「な……なんなんだ、これ……」

銃を構えていたのはコンピ研部員だった。というか何でそんなもんがここにあるんだ?

「あのー、いったいどういうことなんですか?」

「あれ? 年間予定表見てないの?」

「へ?」

その瞬間ピンときた。そうだ、七月二十九日、『お楽しみ』の日だ。

「つーかそもそもその銃はヤバいんじゃないんですか?」

「あーコレなら大丈夫。いわゆるモデルガンってやつ? 弾は撃てるけど人は死なない程度になってるから大丈夫だよ。」

死なない『程度』という表現が非常に気になるところだが、ツッこむだけ無駄な気がするので止めて置こう。

「……それで『お楽しみ』って結局なんなんですか?」

「んー、早い話がちょっとしたケンカと言うかサバゲーと言うか……まあそれも含めてこれから説明するからとりあえず座ってよ。」

「はぁ……」

言われるままに席に着く。全員が小金井さんの方を向いたところで小金井さんがしゃべり始めた。

「さーてと、んじゃとりあえずざっくり説明するけど、この戦闘は絶対に勝たなくちゃいけない。さもなければ来年度の活動資金が大幅に減っちゃうから頑張ろう。で、基本的には武器は自由のサバイバルゲーム。相手はアニメ研究会だ。」

「アニメ研究会ってなんですか? 初耳ですよ?」

「細かいことは後で説明するから。それで、戦闘場所は学校、時間は深夜十二時に開戦、夜明けとともに終了の殲滅戦。生き残りがいた場合は人数の多い方が勝ち。人数的にはこっちが圧倒的に不利なんだけど、そこは助っ人を手配してあるから心配しないでも大丈夫。さて、それじゃあ細かい質問を受け付けるからなんでもどうぞ。」

「えーと、とりあえず深夜に学校でそんなことしちゃあまずいと思うんスけど……」

「そこは問題ない。ちゃんと策を講じてある。」

「じゃあ、相手と銃撃戦をやるんですか?」

「んー、どっちかって言うとある意味こっちからの一方的なジェノサイドになると思うよ。相手はコスプレで戦う気だから、銃器は使わないと思うし、たぶん。」

「コ……コスプレ?」

「うん、まぁその辺は実際に戦う時に解るよ。」

「あのー、さっき代々木君も聞いてたんですけど、アニメ研究会ってなんですか?」

「だから今回の相手、というか毎年戦ってるんだけどね……手っ取り早く説明すると僕らが勝てばウチにあるハイエンドマシンを貸し出す時に金を取る。負けたらタダで貸し出す。そんな感じ。あ、これだとアニ研の説明になってないな、まあ一言で言えば愛すべきアニメオタクの集まりだよ。あっちだって銃器を使ってもいいのに敢えてコスプレ+自作武器で挑んでくるんだよ。なんかこうすがすがしいよね。」

「……そもそもそんな部活があったんですか……」

「うん、活動場所は一階の北の端だからあんまり目立たないけどね。……さて、質問はもうないかな? 無ければとっとと戦闘訓練を始めたいんだけど?」

「せ……戦闘訓練ですか?」

「うん、と言っても銃の撃ち方を軽ーくレクチャーするだけだからすぐ終わるよ。」

小金井さんがしゃべり終わるのと同時に何の前触れも無く部室のドアが開いた。

「ういーっす、小金井はいるか?」

「ぎゃあ! なんかでた~!」

白衣にガスマスクをつけた怪しさ全開の人が二人現れた! 勇○はどうする! じゃなくって……な、何が起きてるんだ!?

「あ、いらっしゃい。……岡本と片岡か?」

「ご名答、流石だな、小金井。」

「お……岡本君に片岡君? いったい何しに来たのよ? ……とりあえずそのガスマスクを外してもらえるかしら?」

「おや、籠原さん、これは失礼。今日は小金井に用があってきたんだ。で、本題だが小金井、例のブツが完成したから見に来いと伝えたかったんだが、あいにく取り込み中のようだな。」

「あのー、小金井さん……この人たちだれっスか?」

「あー、こいつらはね、裏科学部のやつらだよ。」

「はじめまして、後輩諸君、裏科学部副部長で二年の岡本(おかもと)だ。こっちは同じく裏科学部員で二年の片岡(かたおか)。以後お見知りおきを。」

「あ、はぁ……よろしくお願いします……」

「うむ、では我々は一旦撤収するとするか。」

「あ、ちょっと待って。せっかくだから戦闘訓練をやってほしいんだけど。」

「なんだ? 彼らに戦闘訓練を付けろと?」

「そ、折角だから頼むよ。校舎裏に特訓用の設備はセットしてあるから。」

「うーむ……分かった。では後輩諸君、銃を持ってついてきたまえ。」

「はい、これがみんなの分の銃だよ。」

小金井さんがニコニコしながら銃を手渡してくる。

「それじゃあ行ってらっしゃ~い。」

怪しげな裏科学部員の人について校舎を出て校舎裏へと歩いていく。すると校舎裏には簡易的ながらそれなりにちゃんとしたトレーニング設備のようなものができていた。 ……誰が作ったんだ? こんなもん……

「さて、ではやることの説明だが、訓練と言ってもやることは二つだけだ。正しい銃の構え方と狙ったところに打つ訓練の二つ。だが二つしかない代わりにみっちりと鍛えるから気を引き締めるように。分かったな?」

「はい……」

それから二時間、鬼のようにしごかれた俺たちはヘロヘロになって部室へ戻ってきた。

「やー、お疲れさま。どうだった?」

「鬼のようにしごかれました……」

「あら……それは大変だったわね……ご苦労さま。」

「さて、小金井、そろそろ昼時だがお前たちはどうするんだ?」

「んー、特に決めてないな。籠原さん、何かいいアイデアある?」

「私も特に無いけど……」

「うむ、それなら橋の向こうの『すかいらいく』に行ってはどうだ? そのついでに例のブツを見ていってくれればありがたい。」

「んじゃそうしようか、みんな、それでいいよね?」

「私は構わないわ。」

「オレもそれでいいっス。」

「わたしも~!」

「俺もそれでいいや……」



そして昼食を食べに水川大橋の向こう側にあるすかいらいくまで行くことになった。ちなみに水川大橋とは水川市内を流れる豊野川にかかっている橋の一つで幹線道路が通っている。この橋を越えると一気に建物が減って緑が多くなる。そして豊野川の川原はとても広く、グラウンドが多数あるため、たまにウチの野球部やサッカー部なんかも練習に来るらしい。

「……こうやって歩くと結構距離あるのね……」

「うーん、そうかなぁ? 僕はなんとも思わないけど?」

「オレには十分遠いっス……」

「神田、もうちょっと速く歩けよ。」

「無理だ……」

「おや、そこのもうへばってるキミ、我が裏科学部特製の気付け薬でも飲むかい? もれなく強力すぎてラリラリハッピィになれるかもしれんが。」

「い……いや、もう大丈夫っス!」

さすがに怪しげな薬を飲むよりは気合で歩いた方がいいと悟ったようで、神田の歩く速さがかなり上がった。ただしいかにも無理矢理歩いてます! みたいな感じなのだが……

「さて、裏科学部は橋のあちら側の下で待機しているはずだから、一旦土手から河川敷に下りてもらおう。」

「はいはい、みんなOK?」

「そういえば小金井くん、今更なんだけど『例のブツ』っていったい何なの?」

「それは見てのお楽しみ~♪」

裏科学部員に導かれるままに土手の下に下りると橋の下には白衣を着た人たちが何人もいた。ガスマスクをつけている人が多いのはなぜなのか非常に気になるところだが、理由を聞いたら不吉な答えが返ってきそうなので止めておこう……

「さて、では新型兵器のお披露目と洒落込もうではないか! ……見よ! これが新型兵器『エグゾーストポテトキャノン量産型』だ!」

白衣の人たちが持ってきたモノはどう贔屓目に見てもちょっとしたバズーカにしか見えないシロモノだった。ついでに言うなら一番後ろにくっついているアレ、消火器じゃないのか? ……なんとなく頭をよぎる川原での射撃の場面……デジャヴか?

「おおー、本当にやっちゃったんだ~!」

「ああ、小金井のアイデアが非常に役に立った。お前が言っていた通りにポテトキャノンのガス室の代わりにエグゾーストキャノンを取り付けてみた。おかげでいちいち燃料の混合に気を使う必要も無く、おまけに空気圧を調節することで威力調節も可能になった。それと今から試し撃ちをするからそこで見ててくれ。」

「りょーかい。」

「あのー、小金井さん。これ一体なんなんスか?」

「んーとね、ポテトキャノンって言うオモチャ?の改良版。」

「……全然わかんないんスけど……」

「おっ、今から撃つみたいだから見てみなよ。」

「発射よーい! 三……二……一……撃てーい!」

構えている人がトリガーを引くと『ボシュッ』という音とともに何かが撃ち出されて対岸の岸に置いてあった工事現場でよく見かけるようなパイロンを思いっきり吹っ飛ばした。

「……あのー、何を撃ち出してんスか?」

「ジャガイモだよ、半切りのヤツだけど。」

「あの威力ってやばくないですか?」

「大丈夫だよ、怪我しない程度には威力を抑えてあるはずだから。」

「あれで抑えてあるんですか?」

「うん、たしか最大出力で撃つと骨が折れるかもって言ってたし。」

「小金井くん……まさかアレを今日使うつもり?」

「そうだよ。一応彼らに使ってもらう予定だけど。素人が撃つのは危ないからね。」

「……………………」

「さて、小金井、こんな感じでどうだ? 我々的には十分実戦に耐えうるように作ってあるのだが? ちなみに空気の供給は自転車用のエアポンプを使って機動性を上げてある。」

「うん、いいんじゃない? ところで今日は午前中はいったい何をやってたんだい?」

「うん? 午前中か? そうだな、一応エグゾーストポテトキャノンの最終調整と2‐×××○○○××××の合成をしていたが。」

「……一応聞いとくけどまさか今日使うわけじゃないよね?」

「使ってもいいんだがもれなく我々まで被害を受けそうでな。」

「ガスマスクはその名残って訳ね……」

「あのー、小金井さん。さっきの2‐ナントカカントカって何ですか?」

「んー、いわゆるところの○○剤ってヤツなんだけど、わかるよね?」

「……そんなモン作ってどうするんですか……」

「特に目的は無い! だが作る、それが我々裏科学部だ!」

「それはいいけどあんまりヤバいもん作って捕まるなよ?」

「そこは問題ない。作るとヤバいものは基本的に理論だけで留めておくようにしている。まぁうっかり合成しちゃったりとかは誤差の範囲内だがな。」

「……さいでっかい……基本的に?……まあいいか。さて、じゃあそろそろお昼にしようか。それじゃあ今度は夜にな。」

「了解した。」

そして俺たちは川原を後にしてファミレスへと向かった。

 「さーて、何頼んでもいいけど五百円を越えた分は自分で払ってね。」

「えー、マジっスかー。」

「全部払わなくってもいいだけありがたいと思うべし。さーて、僕は何にしようかな~。」

ちなみに席順は俺の右隣に神田、左隣に桜木、向かって右に小金井さん、向かって左に籠原先輩である。自然と二つあるメニューを俺と神田と桜木で一つ、小金井さんと籠原先輩で一つづつ見ることになる。

「神田は何にするんだ?」

「オレ? そうだな……個人的にはトンカツかハンバーグなんだが値段の問題があってな……。」

「そうかい……桜木は?」

「わたし? うーん、あんまりカロリー高いのはちょっと……かな?」

「へぇー、やっぱりそういうの気にするんだな。……神田も少しは見習ったらどうだ?」

「うるさい! 余計なお世話だ! オレは食べたいものを心置きなく食べられるんだったら体重とか体形なんてものは気にしない! カロリーなんか気にしてたらおいしいもんは食えん!」

「……そこまで熱弁振るうことかよ……」

「秋乃先輩もカロリーとか気にしますよね?」

「え? うーん……私はあんまり気にしない方かな。」

「え~! 気にしないんですか~!」

「うん、私の場合は食べても全然体重増えないから。」

「うらやましいな~、そういう体質……」

「そんなこといったら小金井くんもそうでしょ?」

「うん、だね。高校に入ってから全然体重増えてないから。」

「そういえば小金井さんって体重何キロなんスか?」

「僕? 53キロだけど?」

「……ついでに身長は何センチっスか?」

「んー、172センチぐらいだったかな。」

「かるっ! 代々木はどうだったっけ?」

「俺? 身長は170の体重が57だったと思う。」

「くそー、何でみんなそんなにやせてんだよ~! オレばっかポッチャリかよ~!」

「神田君はどうなんだい?」

「オレっスか? 156の66キロですよ……」

「へぇー、でもそこまでってわけでもないんじゃない?」

「とりあえず励ましてくれて嬉しいんスけど逆にヘコむっス……」

「あ、そう。そういえば籠原さんは?」

「私? えーっとね、身長が164センチで体重が……って言うわけないじゃない! 何聞いてるのよ!」

「別に体重を言えだなんて一言も言ってないよ? そもそも女性に体重を聞くなんて失礼なことをするわけないじゃないか~☆」

「誘導尋問に乗っけて喋らせる、とかじゃなくて?」

「それもあるかもね~。勝手にしゃべった事に関しては僕に責任は無いからね~。」

「そんなに私の体重を知りたいの? 別に人に言えない程重くはないけど?」

「いや、もう知ってるから別にいいよ?」

小金井さんが籠原先輩に耳打ちをする。すると籠原先輩が一瞬で耳まで真っ赤になった。

「えっ!……どっ……どうして知ってるの!?」

「ふっふっふっ、僕の情報網を甘く見ないでくれよ。全校の生徒と先生方の年齢・誕生日・身長・体重・住所・学歴・本籍地・年齢・家族構成・趣味・友人関係などなどなんかはその気になればほとんどのことはわかる情報網があるんだから。」

「じゃあ俺たちのこともほとんど知ってるんですか?」

「いや、知らない。調べてないから。そうだな……例えば神田君が駅前の三風堂ってラーメン屋でその食いっぷりから『魔王』って呼ばれて恐れられてるとか、代々木君が実は散歩という趣味を持ってるとか、意外と掃除が得意だなんてことは全然知らないから。」

「……思いっきり知ってるじゃないですか!」

「ありゃ? 口が滑っちゃったかな♪ でも大丈夫、ウソもつき通せば真実に成ってしまう! というわけで何にも知らないからね♪」

「……絶対に確信犯ね……でもお願いだからその情報網を悪用しないでね……」

「大丈夫だって、それぐらいの分別はわきまえてるよ。カチンときたヤツの住所を調べあげて裏科学部に渡して暗黒生物を大量に送り込むとか、最臭兵器ENGACHOとかDOZAEMONなんかを投入するなんてことは絶対にしないから。」

「そういう発想がある時点でかなり悪用する可能性が高いと思うんだけれど……」

個人的には最臭兵器とやらが一番気になるのだが……つーか暗黒生物って……

「あのー、さすがにそろそろ注文しないといけないと思うんですけど……」

「おっと、いけない。そうだね、じゃあみんな早めに注文するもの決めて。桜木さん、そこのボタン押しちゃって。」

「はーい! とりゃぁぁっ!」

なぜにそこまで渾身の力を込めて叩くんだよ……しかもクイズ番組なんかの速押し風に……

「はい、ご注文をどうぞ。」

早速ウエイターさんがやってきて注文をとり始める。

「オレはカツ丼で。」

「僕はマグロ丼。」

「私はスパゲッティナポリタンでお願いします。」

「俺はビーフシチューで。」

「わたしはハンバーグで。」

「かしこまりました。しばらくお待ちください。」

ウエイターさんがテーブルを離れていくと料理が来るまではヒマである。

「そういえば籠原さん、新曲入ってるけど後で聴く?」

「新曲って言われても……今度は何?」

「んーっとね、シューマンの『序奏と協奏的アレグロ』とかリストの『パガ超』とか、あとアレだ。ドヴォルザークの『ピアノ協奏曲』とかかな。」

「そうね、ドヴォルザークのピアノ協奏曲は聴いてみたいわね……他のはまた今度でいいわ。なんでもいいけど最近小金井くんが探してくる物がだんだんマニアックになってない?」

「そんなことは無いと…………? 言い切れないなぁ?」

「…………」

「そういえば、小金井さん。今日の夜戦うって言ってたっスよね? それって学校側にバレたらヤバいんじゃないんですか?」

「あー、それに関しては問題ない。後で君達に活躍してもらうから。」

「あのー、先生の説教を喰らうことになるのだけは勘弁してほしいんですけど……」

「そんなことはないから大丈夫。去年僕らもやったから。」

「そうなんスか?」

「うん、これは毎年ウチの新入生が担当することになってるらしいから仕方ないんだ。」

「秋乃先輩、いったい何をするんですか?」

「え? ……まあ一言で言っちゃえば用務員さんを買収して見逃してもらう、ってことなんだけど……」

「ば……買収……」

「……響きは悪いけどそんなたいしたことをするわけじゃないから安心してちょうだい。」

「は……はぁ……」

「おっ、料理がきたよ。」

先ほど注文した料理が次々とテーブルの上に並べられていく。

「それでは……いただきます。」

小金井さんの合図で料理を食べ始める。

「……そうだ、みんな七月の三十一日はあいてるかい?」

「ふぁい? ひひふぁふふぉふぁんふゅうひひひひふぇふふぁ?」

「神田……しゃべるときは口の中に入ってるものを呑み込んでからにしろよ……」

「……そもそもそこまで詰め込まなくてもいいと思うけどね……」

「いずれにしても下品よ。そういうマナーはちゃんとしなきゃ。」

「それに神田君、口の中に物が入ってる時にしゃべるんだったら口に手を当てなきゃだめだよ~」

素晴らしき連携プレーのよる神田叩き……

「……んぐっ……すいません……」

「なーに、次から気をつければいいんだから、気を落とさない。」

「んで、三十一日に何かあるんスか?」

「うん、折角だからみんなで隅田川の花火大会を見に行かない? って思ってさ、どう?」

「花火大会っスかー、いいっスねー。出店、食べ歩き、浴衣……むふふふふ……」

「神田君、あんまり変な想像してるとあなたの人間性を疑うわよ?」

「ひぇっ! なんで解ったんスか!」

「いや、お前思いっきり口に出てたから……」

「まっ、マジか!?」

「ああ……さすがにそこまであからさまにやってると俺もヒクわ……」

「まあまあ、頭の中で考えてる分には問題ないじゃないか、どうせ代々木君も似たようなこと考えてたんじゃないの?」

「…………」

「やっぱりね~、まあ健全な男の反応だと思うよ?」

「まさか小金井くんまでそんなことを考えてたの?」

「まさかぁ、むふふふふまでは考えてないよ。でも籠原さん、どうせ浴衣で来るんでしょ?」

「……たぶんそうなると思うけど……」

「でしょ? 籠原さんってそういうお祭りの時はいっつも浴衣じゃない?」

「……そうね、たしかに浴衣以外を着て行った記憶が無いわ……」

「そうなんスか? ……桜木さんは?」

「えー? わたしは……ちょっと着て行こうかなって思ったけどどうしよう……」

「だいじょうぶよ、春香ちゃん。何かあったら私が鉄拳制裁を下すから、安心して着てきて。……さすがに私だけだと寂しいし……」

「うーん、考えておきます……」

「そうだ、食べながら聞いてくれて構わないんだけど、今夜の戦闘の時は基本的に誰かと一緒に動いてもらうんだけど、今その組み合わせを言うから覚えといて。まず籠原さんは部室で管制塔役、みんなからの位置報告と敵の位置に関する情報を聞いて作戦を随時修正して。」

「……去年と同じような役ね……」

「それだけ籠原さんの分析力に期待してるってこと。というより籠原さんに逆らおうなんて考える人はいないと思うし。で、次、神田君は裏科学部の人たちと一緒に動いてもらうから。」

「マジっスか? めっちゃ怖いんですけど……」

「大丈夫だって。それに神田君、激しい運動は嫌でしょ? 彼らは武器の特性上そんなに動かないから、そっちの方が駱駝と思う。」

「駱駝?」

「あ、ごめん。楽だ、の間違いだから直しといて。」

「……普通に修正しといて下さいよ……」

「さて、気を取り直して次行こうか!」

「……あくまで普通に修正する気はない、と……」

「退かぬ媚びぬ省みぬ! というわけで代々木君と桜木さんは一緒に遊撃部隊やってね。」

退かぬ媚びぬ省みぬって……って待て!? 俺と桜木だって!?

「……!? ふぇ!? 今なんて言いました!?」

「だから代々木君と桜木さんで遊撃部隊やってくれって言ったじゃないか。僕は狙撃だから単独行動、以上、おしまい。」

「な…………」

「ええ~っ!」

「何をそんなに驚いてるのさ? それともそんなに嫌? でも人数の都合上仕方ないんだから文句は言わないでよ。それと代々木君、一応大丈夫だとは思うけどあんまり変な気はおこさないようにね? 桜木さんも身の危険を感じたらぶっ放しちゃって構わないから。」

「なっ……俺が何かするとでも!?」

「一応って言ったじゃん。まぁナニしても勝手だけど自己責任でよろしく。」

「ナニって……」

「? 何言ってんの? 僕は何しても勝手だけど、って言ったんだけど?」

「へ? いやでも今確かに……」

「……やっぱり代々木君も人間性を疑っておいた方がいいかしら?」

「そ……そんなに俺は信用されてないんですか……」

「それと小金井くんもあんまり紛らわしいことは言わないこと。」

「僕が何か言った?」

「……自覚はあるんでしょ? とぼけないで。」

「だから何を?」

「……まさかさっきのは単なる誤植……?」

「? 籠原さんまでどうしたのさ?」

……意図的ではなかったのか? なんとなく微妙な悪意を感じたんだが、気のせいだったのか……?

「ほら、みんな口が止まってるよ。」

「え? あ、いけない。みんなもちゃんと食べて。」

なんとなく嫌な空気が漂っていたが食事をしているうちにどこかへ飛んでいってくれた。

「そういえば聞いてなかったけど、みんな期末試験は大丈夫だった?」

「ぶほっ!!!」

「ぐはぁっ!!! いまさら聞かないで下さい!」

「……みんなそんなに悪かったの……?」

「……そういう小金井さんと籠原先輩はどうだったんですか……」

「私たち?」

「うーん、知らない。たいして見てないから。」

「な……そんなわけないじゃないですか。自分の成績ぐらい見ません?」

「見ない。僕が見るのは出席日数のとこだけだし。」

「…………なんかもう別の意味で神っス……」

「だめよ、小金井くん。ちゃんと成績も見ないと。ちなみに私の成績は学年で5番よ。」

「……籠原先輩、めっちゃ頭いいじゃないっスか……」

「そうかしら?」

「で、小金井さんはどうだったんですか?」

「だから知らないって、見てないって言ったじゃないか。」

「……小金井くんの成績は学年で1番よ……」

「!!!!!?????!?!?!??」

「ま……マジっスか……」

「うそ~!」

「あれ? そうだったんだ。」

「……ホントに見てなかったんですか……」

「本当に不思議よ……あれだけしょっちゅう学校をサボってるのにどうしてそんな成績が取れるのよ? 不公平だわ。」

「どうしてって……取れるものは取れるんだからどうしてもこうしてもないと思うけど? それにしょっちゅうって言ったって進級には引っかからない程度に抑えてるよ。」

「……そう……聞いた私が馬鹿だったわ……」

「…………」

「それで、あなたたちはどうだったの?」

「……わたしは75番です……」

「…………俺は103番です……」

「……オレなんか152番だよ……」

「…………みんな、ちゃんと勉強したの?」

「……恥ずかしながら……」

「ちゃんとやらなきゃだめじゃない。そんなんじゃ試験前は特別補習をするわよ? もちろんパソコンはお預けで。」

「……勘弁してほしいっス……」

「そんなこと言っても成績不振じゃ部活にこれなくなっちゃうけど?」

「……努力します……」

「小金井くんも何か言ってあげて。」

「よく遊べ、青春は二度と戻ってこないぞ?」

「…………どうしてこうなることが予測できなかったのかしら……」

「それから一応勉強もしようね。周りから文句が来ない程度に、一応。」

「……それぐらいならオレでもなんとかなりそうっス。」

「そ、無理は禁物。」

「……それでいいんですか?」

「ダメだと思ったら自分でさらにやればいいってこと。」

「微妙に深いっスね……」

なんか微妙にお説教を食らってしまったが、そうこうしているうちにみんなの皿は空になった。

「さーて、それじゃあ勘定してくるから先に外出てて。」

「あれ? 超過分は払わなくっていいんスか?」

「うん、全部部費から出すから。」

「……だったら最初っからそう言ってほしかったっス……」

「だってああ言っとかないとみんな遠慮しないんだもん。」

「……たしかにそうかもしれないっスけど……」

「それじゃあ先に行って舞ってて。」

「!? 何を舞うんスか!?」

「ごめん間違い。それともソーラン節でもやる?」

「無理っス。」

「即答かい……じゃあ先に行って待ってて。」

「はぁ……」

小金井さんが会計をしている間に外に出る。夏の真っ昼間にエアコンの効いた店内から外に出ると暑くて仕方がない。

「……あちぃ……」

「……言うな……代々木……余計に暑くなる……」

「……スマン……」

「も~う! 代々木君も神田君もだらしな~い! 男の子なんだからもっと爽やかじゃないと!」

「……余談ですが桜木さん……オレは爽やかさからはかなり遠いと自覚してるからそれは代々木にだけ言ってもらえると助かるっス……」

「……神田……お前自分だけ逃げようとしてるな……」

「……オレは見た目通り寒いのは平気だが暑いのはダメなんだ……」

「……俺だって暑いのはだめだ……」

「……そういえば籠原先輩は平気なんスか?」

「……どんな時でも平然としているように、っていうのを心がけてるから。」

「……それは小金井さんにからかわれた時も含まれるんスよね?」

「…………あれ……は……例……外…………」

どう見ても意地を張っているようにしか見えません、籠原先輩……

 そんな感じで俺と神田がダレていると会計を済ませた小金井さんが店の中から出てきた。

「おーい、二人ともなにダレてるんだい? コンビニ寄ってアイスでも買ってく?」

「賛成っス! 早速行きましょう!」

突然の神田復活。

「……お前は何者だ……」

「こんな暑い日にアイスが食える! そのためなら火にだってオレは飛び込むぞ!」

「……そのアイスは間違いなく溶けてると思うがな……」

「ぬおっ! イタいとこ突くな!」

……だめだ、神田は暑さで頭をやられたらしい……むしろこんなくだらないことにいちいちツッこむ俺も気がおかしくなってるのか?

「えーっ! 神田君と代々木君だけずるーい!」

「……わかったよ、桜木さんにも買ってあげるよ……籠原さん、なに?」

「私もアイスを買ってもらえると嬉しいかなって思ってみたり。」

「……わかりました……負けましたよ……奢りますよ……」

結局小金井さんは全員分のアイスを奢る羽目になった。



 そして部室に帰還。

「ふーっ、やっぱり部室は快適だね~。」

「同感っス。じゃあ早速アイスを食べましょう!」

「……そうかい、好きにすればいいさ……」

「ではありがたく、いっただっきまーす!」

「神田……そんなにガキっぽく食べるなよ……てかこぼすな。」

「うまーい。」

「…………」

神田には全く聞こえていないようだ……

「ぷっ……神田君、かわいーい!」

「……そうかしら?」

個人的には籠原先輩の意見に賛成です……

「みんなも早めに食べたら? 溶けちゃうよ?」

「あ、それじゃあいただきまーす!」

そしてしばしの間アイスタイム。

「あ、それ食べ終わったら早速用務員さんの買収をやってもらうから。」

「結局買収って何をするんですか?」

「んーとね、要はちょっとした雑用係。」

「雑用係?」

「まあ用務員さんのとこに行って『コンピューター研究部の者です』って言えば色々と指示が出ると思うから。そしたらその指示に従って。『もういいよ』って言われたらそこで任務終了、帰ってきていいよ。」

「言われるまで帰っちゃだめなんですね?」

「うん、でも一時間ちょっとで終わると思うから。心配しなくても大丈夫。終わったらお昼寝タイムだから。」

「お昼寝タイム?」

「そ、戦闘は徹夜でやるから今のうちに寝ておいてってこと。」

「はぁ……」

そしてアイスを食べ終わった俺たちは用務員室へと向かっていた。

「すいませーん! コンピューター研究部の物でーす!」

「あいよ、ごくろうさん。それじゃあさっそく仕事をやってもらうよ。」

用務員さんと思しき六十ぐらいのおじさんがもっそりと出てきた。

「さーて、それじゃあだな、とりあえずそこの嬢ちゃんは流しにたまってる洗いもんを片付けてくれい。背の高い方の兄ちゃんは全部の教室を回ってゴミ箱の中身を捨てといてくれ、ポッチャリ君は俺の肩たたきでもやってもらおうか。」

「はーい!」

「了解っス。」

「はぁ……わかりました。」

そういうわけで俺は全ての教室のゴミ箱の中身を捨てることになった。そして教室を回っている途中、廊下で小金井さんと籠原先輩に出くわした。

「おや、頑張ってるね。」

「おつかれさま。」

「あ、どうも……ところで先輩たちはなにやってるんですか?」

「カメラを設置してるんだよ。」

「カメラ? なんに使うんですか?」

「まあいろいろとね、ところで代々木君は何をやらされてるんだい?」

「俺ですか? 全部の教室のゴミ箱の中身を捨ててるんです。」

「あちゃー、そりゃまた面倒な仕事だね。」

「はぁ……そうですね……」

「じゃあ非常に非効率的なやり方をしている代々木君にアドバイス、それぞれの教室のゴミをどれか一つのゴミ箱にまとめてから捨てに行けば効率アップ。」

「……なんでその方法に気づかなかったんだ、俺……」

「まぁ良かったじゃないか、早めに気がついて。……どうでもいいけどさぁ、夏休みの時の教室のゴミ箱ってたま~に『発酵』してなかなか『スバラシイ』臭いを撒き散らしてることがあるんだよね~」

「小金井くん、もうちょっと手を動かしてもらえるととっても助かるんだけど?」

「おっと、ごめんごめん。……それじゃあ代々木君、頑張って。」

「……ではまた後で。ついでに普通にやる気が無くなるようなことを言わないでほしかったです……」

そして全てのゴミ箱を処理し終わった俺は用務員室へと戻った。

「ゴミは全部捨ててきました。」

「おう、おつかれさん。そうしたら次はどうするかな……そうだな、もうすぐ嬢ちゃんの皿洗いが終わるだろうから二人でそこの机の上に置いてある金持って買い物リストに書いてあるモンを買ってきてくれ。」

神田に肩たたきをさせながら悠然と指示を出す用務員さん。……あ、肩揉みに変わった。疲れたんだな、神田。

「桜木、皿洗いはいつまでかかりそうだ?」

「すぐに終わるよ。後はお皿を拭くだけだから。」

「そうか、手伝おうか?」

「じゃあお言葉に甘えちゃおうかな~。」

洗い終わって積み上げられた皿を布巾を使って拭いていく。この量を見るからにはおそらくここ三日は洗ってないな……

「なぁ、桜木……」

「ん? なぁに?」

「この皿の山、洗う前は異臭を発してなかったか?」

「え? ぜんぜんそんなことなかったけど?」

「そうか……一応水で流すぐらいのことはしてあったのか……?」

「……よーし! これで終わり! じゃあ代々木君、買い物に行こう!」

「わかった、ちょっと待ってくれ。」

机の上に置いてあるメモ用紙と現金を持って外に出る。外は相変わらず暑い、こんな中買い物に行かされるなんてついてないな……

「ところでどこに買いに行くんだ?」

「うーん、とりあえず学校前のコンビニじゃないかな~? ところでその買い物リストには何が書いてあるの?」

「うん? えーっとだな……柿ピー、さきいか、メンマ、ハム、塩せんべい、お~い○茶、な○ちゃん、そんなもんだな……」

「……なんかおつまみ系が多いね……」

「……やっぱそう思うよな……」

学校前のコンビニは校門を出て道路の向かい側にあり、うちの学生御用達のコンビニである。昼食を買い損ねた生徒が昼休みになるとよく弁当を買いに来るらしい。この店の売り上げの七割はうちが関わってるとか何とか、そんな噂もあるが、本当なのか……?

「さて、これで全部か?」

「うん、買い物リストに書いてあるものはこれで全部だよ。」

「よし、じゃあレジにいくか。」

そしてレジに行こうとしたとき、なんとなく見覚えのある人物がコンビニに入ってきた。……誰だっけ?

「桜木、今入ってきたやつ、なんとなく見覚えないか?」

「え? あれって級長じゃないの?」

「あ! それだ。」

しかしなぜ級長がここに私服で?

こちらが声をかけるよりも先に級長がこちらに気づいた。

「おや、代々木君に桜木さん。こんな所で会うとは奇遇だね。」

「あ……ああ、つーかなんでメガネがここに?」

「……その呼び方は止めてほしいと何度も言ってる筈なのだが……まさか未だに君は僕の名前を覚えていないのか?」

「えーと、まて、今思い出すから…………桜木、なんて言ったっけ?」

「えーっとね……………………あれ?」

「……僕の名前を覚えていないのはクラスの七割に上ると聞いたから別に気にしないが、僕の名前はメガネじゃない、浜野(はまの)博之(ひろゆき)だ。」

「……分かった、なるべく覚えとく……」

「まぁあまり期待はしていないから、無理に覚えなくても構わない。中学校時代からずっと同じ『メガネ』というあだ名だからな。」

「そうだったのか……」

こいつは絶対にメガネが顔の一部なのではなく、顔がメガネの一部に違いない……

「ところで君たちは何で制服でここにいるんだ?」

「あー、それはだな……部活でちょっとしたお使いってとこだ。」

「部活? 何部だ?」

「……コンピューター研究部、だ。」

「コンピ研か、それなら小金井先輩によろしく頼む。」

「へ? お前小金井さん知ってんのか?」

「ああ、あの人は僕の中学の先輩だ。サボり癖と頭のよさ、ピアノの神がかった腕前で有名だった。」

「……なんか小金井さんらしいな……ってことはお前もしかして籠原先輩のことも知ってるのか?」

「なに!? 籠原先輩までコンピ研にいるのか!?」

「ああ、そうだけど。」

「うーん、なかなか面白いことになってそうだな……」

「え? 何かあったのか?」

「籠原先輩の伝説を知ってるか?」

「いや、知らん。なんだそれ?」

「いや、ここに入ってからも変わってなかったみたいなんだが、籠原先輩に告白しても絶対にフラれる、という伝説があるんだ。」

「……初耳だよ……」

「なんせあの人はあの美貌と落ち着いた物腰、冴え渡る頭脳で中学校一モテる人だったからな、当然恋の病に侵されて告白する人間が後を絶たなかったんだ、しかしほぼ全校の生徒が告白しても誰一人として思いが届かなかった。でだな、ここからがミソなんだが籠原先輩に告白しなかった男子生徒は数人、その中には小金井先輩が含まれている。」

「……その流れでいくとお前も籠原先輩にコクったのか?」

「ああ、そして見事に撃沈したがな。で、話を戻すがその告白しなかった生徒は小金井さんを除くといわゆるネクラってやつでな、消去法で籠原先輩が好きなのは小金井先輩ではないか、といううわさがまことしとやかに囁かれていたんだ。もっとも当の小金井先輩は知らなかったみたいだがな。」

「……で、それがどう関わってくるわけだ?」

「まあそうあせるな、僕に喋らせてくれ。さて、小金井先輩は成績はしょっちゅう学校をサボるのにもかかわらず学年トップの天才、さらに人格者でもあるから意外とモテるんだな、これが。」

「……人格者……には見えないんだが……」

「確かに普段の行動からは想像できないかもしれんが、何か困っている人を見ると自分から進んで力になってくれる人なんだ、あの人は。……まぁ九割方は気分で決まるが。」

「……そうだったのか……」

「で、籠原先輩の話に戻るが籠原先輩は普段は何に対してもクールに振舞っているんだが、小金井先輩にからかわれた時だけはそのクールさがどこかへ行ってしまうんだ。おまけに小金井先輩が学校にいない日はメールで連絡を取っている、という噂もあってだな……」

「それなら本当だぞ、コンピ研に入ったばっかりの頃に見た。」

「おおっ! やはり本当だったか! これは一大ニュースだ、早く同志に知らせてやらなければ!」

「同志って……」

「『籠原先輩の本当の気持ちを探る会』の同志のことだ。メンバーになるには籠原先輩に告白してフラれることが条件だ。」

「……ストーカー集団じゃないよな……?」

「失礼な、皆木っ端微塵に玉砕した者達だ。もう再起するほどの元気は残っていない…………話がそれすぎたな。長々と話して済まない。要は籠原先輩は小金井先輩が好きだから誰の告白にも応じない、といった話なんだ。」

「……マジかよ……」

「ああ、だが肝心の籠原先輩に対してそんなことを聞く勇気のある者はいないからあくまで一説でしかないがな。」

「一説って……他にも何かあるのか?」

「ああ、おそらくはモテモテの籠原先輩に嫉妬した女子の誰かがが流したうわさだと我々は推測しているんだが、籠原先輩が実はレズだという説だ。」

「……嘘だよな?」

「ああ、これに関しては実際に本人に聞いてみた勇者がいてな、『あなたは私をなんだと思っているの?』と恐ろしく冷ややかな目とともに言われたそうだ。」

「…………聞いたのか……」

「聞いたから分かるのだが、ちなみにその勇者はあまりの恐ろしさに三日間寝込んだそうだ……まあ、それから特に大きな動きがあったわけではないから我々としても行動が取れずに困っていたところだ。」

「お前らの中に逆恨みして小金井さんにケンカを売ろうってやつはいなかったのか?」

「馬鹿を言うな! あの人に喧嘩を売って無事で済む訳がないんだ! 聞いた話だが、かつて小金井先輩が中学に入学したばかりの頃、喧嘩を売ったやつがいたらしいんだが、その日を境に学校へ来なくなったらしい。噂では怪しげなブツを投与されて重病にかかりどこかへ療養に行ったとか、精神が崩壊して精神病院送りにされたとか……そのほかにも……ああ、想像するだけで身の毛がよだつ……」

「……こ……怖いな……」

「ああ……それと小金井先輩に関しては誰が好きだとかそういった噂が全く流れてこないんだ。もともとあの人はあまり掴み所がない上にそういう質問をしてもさらっと流されてしまうんで仕方がないとは思うのだが……まあいずれにしても二人とも心のうちを探るのはほとんど不可能に近い。我々としては早めに決着がついてほしいところなのだが……」

「……そうか、他になんかおもしろ情報はないのか?」

「そうだな……例えば小金井先輩に告白すると『君は僕のことを何にも知らないよ』と言われて断られるとか、か? むしろ代々木君の方が色々と面白い事を知ってるんじゃないのか?」

「あー、そうだな……籠原先輩、胸のサイズのことを気にしてる、とか?」

「? そんなことはないはずだが? 似たようなことを言ったやつがいたらしいが、キッパリと『それが何か?』と言われたそうだ。」

「あれ? じゃあおかしいな。小金井さんが似たようなことを言った時はメチャクチャへこんでたぞ。」

「うーむ、だとするとそれは籠原先輩が小金井先輩に対してだけとる特殊行動の一つだな。……そうだな、例えば小金井先輩と籠原先輩が一緒にどっかの花火大会に行った、という噂に関しては何か知ってるか?」

「そうだな……そういや今日の昼メシの時に小金井さんが祭りの時はいつも籠原先輩が浴衣だとか言ってたな。あとお前は小金井さんと籠原先輩の家が隣同士ってのは知ってるか?」

「浴衣の情報は貴重だな、それと小金井先輩と籠原先輩が隣同士というのは有名だぞ。さらに言わせて貰えば家族ぐるみで付き合いがあり仲がいいらしい。」

「……お前らはそういう情報をどこから仕入れてくるんだ?」

「なに、小金井先輩の情報網には劣るがこちらは人数勝負だ。人が多ければ自然と情報も集まる。」

「……そうかい……っと、いけね、俺らそろそろ会計して帰るわ。」

「そうか、長々と済まなかったな。そういえば今日は早めに学校から帰った方がいいぞ。」

「ん? 何でだ?」

「十年ぐらい前からだったか、毎年七月の最後の週の何曜日かの夜には学校から不思議な声がするんだ。」

「不思議な声?」

「ああ、どうも戦争でもしているかのような声なんだが、なんでも戦時中の兵士の亡霊が甦って戦争をしている、なんて噂だ。」

……ものすごい心当たりがあるがきっと言わない方がいいだろう……

「そ……そうか。でもなんでそんなことを知ってるんだ?」

「なに、僕の家は学校の目の前だからな。ちなみにこのコンビニの上だ。」

「……そうだったのか……」

買い物を済ませて用務員室に戻る途中、桜木からある提案があった。

「ねぇ、代々木君、わたしたちで小金井先輩と秋乃先輩にカマかけてみない?」

「はい? なんだそりゃ?」

「だから! 好きな人いますか? って聞いてみるの、小金井先輩に。」

「それはそれでおもしろそうだけど上手くいくか?」

「だめだったらしょうがないから諦めよ、ね?」

「……分かった、やってみるか。」

そしてだいぶ遅くなったが用務員室に到着。

「すいません、遅くなりました。」

「おう、おつかれ、気にすんなって。さて、んじゃあお釣りをくれい。それとお前さんたちが買ってきたな○ちゃんは飲んでいいぞ。」

「え? いいんですか?」

「おうよ、はなっからそのつもりだよ。ほら、飲んだ飲んだ。」

「じゃあありがたく、いただきます。」

「……プハーッ! 一仕事した後のジュースはうめぇ!」

「何気に神田が一番大変だったんじゃないのか?」

「おう、代々木たちが遅いから辛かったぜ。」

「……スマン、なんかスマン……」

「そんなに怒っちゃいないぞ?」

「そういえば用務員さん、やっぱり校内でちょっとした戦闘なんかされたらやっぱり迷惑ですよね?」

「んー、後始末はアニ研の人が手伝ってくれるし、カメラを通して君たちが戦ってるのを見てるのもなかなか面白いから五分五分ってとこかねぇ……」

「あのカメラってそのためだったんですか?」

「いんや、本当はコンピ研の人たちが使ってるものなんだけど折角だからってことであれを通じて見させてもらってるんだ。」

「そうなんですか……」

「さて、それじゃあこの辺でもう仕事はおしまい。ご苦労さん。」

やっと雑用係から解放された俺たちは部室へと戻った。

「戻りました。」

「おっ、おつかれさま~。」

「おつかれさま、大変だった?」

「ええ、まあ。」

先輩たちはパソコンに向かってなんだか知らないが作業をしている。

「あのー、小金井先輩!」

「ん? 何?」

「小金井先輩、好きな人っていますか?」

桜木がそう言った瞬間、確かに籠原先輩の動きが一瞬固まった。その後も聞き耳を立てているからなのか手が止まっている。

「んー、そうだねぇ……よく分からないや。」

「え? よく分からないんですか?」

「うん、自分でも自分のことが良く分からないから、そういうことも分からない。そういう桜木さんは誰かいるのかな?」

「わたしですか? ……秘密です。」

籠原先輩の手が再び動き始めた。……やっぱりクロなのか?

(ねぇ、代々木君、やっぱり怪しいよね?)

桜木が耳打ちをしてくる。

(……だな。)

「さぁて、籠原さん、そっちの具合はどう?」

「……大丈夫、全部のカメラが問題なく動作してるわ。」

「了解、じゃあこっちも仕上げに入ろう。あ、みんなもう寝てていいよ。」

「あのー、寝るって言ってもどこで寝るんスか?」

「椅子の上に決まってるじゃない。仮眠なんだから。」

「マジっすか……」

「そんなに布団で寝たかったら保健室に行ったら? ベッド空いてると思うよ?」

……なぜか妙にからかわれているような気がするんだよな……

「いや、疲れたからもうどうでもいいっス……」

「そう? じゃあお休み。」

「みんな、おつかれさま。ゆっくり休んでちょうだい。」

そしてしばしの間仮眠タイム。その後俺たちが目を覚ましたのはなんと夜の七時だった。

「うわっ! 寝すぎた!」

「ぬぉっ! 今何時だ?」

「そんなに慌てなくても平気だよ、それより桜木さんを起こしてもらえるかな?」

俺たちは慌てて飛び起きたが、桜木は眠り続けている。……けっこうかわいい寝顔を見て一瞬ドキッとしたが、このまま見蕩れていると何を言われるかたまったもんじゃない。

「おーい、桜木、起きろー。」

「ふぇ? もう朝?」

「いや、まだ夜にもなってないぞ。」

「あれ? そういえばお楽しみがまだだもんね。」

「あのー、桜木さんもいいんですけど籠原先輩は起こさなくていいんスか?」

「うん、籠原さんは六時ぐらいまでずっと作業を続けてたからさっき寝たばっかりなんだ。」

「……それを知ってる小金井さんは寝たんですか?」

「寝てないよ、僕はそんな必要はないから。」

「……大丈夫なんですよね?」

「問題ないよ、たまーに徹夜するから。」

「……そういう問題じゃないと思うっス……」

「まあ、それはさておき、晩ご飯はどうする?」

「あの、それよりもパパとママに連絡しないといけないと思うんですけど……」

「その心配ならないよ。君たちが寝た後に僕と籠原さんで連絡しておいたから。」

「……そうっスか。」

「で、晩ご飯はどうするの? コンビニ弁当でもよければそれが一番ありがたいんだけど。」

「それでいいです。」

「はい、決定。じゃあ当分の間は好きなことをしてていいから。」

「了解っス。」

そして気ままに自由時間を過ごし、小金井さんが籠原先輩を起こしたのは夜の九時になってからだった。

「籠原さん、起きて。」

「……あれ……今何時……?」

「もう九時だよ。」

「……いけない……そんなに寝てたのね……」

「晩ご飯買いに行くから、準備して。」

「わかったわ。みんな、疲れはとれた?」

「ええ、おかげさまで。」

「じゃあ行きましょう。」

本日三度目のコンビニへ。

「僕は冷やし中華にでもしようかな~、でもそばも捨てがたいな~。」

「オレは断然冷やし中華っス!」

「うーん、じゃあ僕はそばにでもするかな。」

「私もそばにしようかしら?」

「わたしは冷やし中華にします!」

「俺もそうしようかな……」

結局先輩方はそば、俺たちは冷やし中華、ときれいに分かれた。

「さーて、じゃあ戻って早く食べよう。」

「おや、小金井じゃないか。」

裏科学部再び。例の……岡本さんと片岡さん?

「岡本に片岡か、何やってんの?」

「お前たちと同じように夕飯の買出しだ。……そういえば秘境部の連中がお前を探していたぞ。」

「あっ、いっけね! そういえばあいつらが来るのを忘れてた! サンキューな、岡本。みんな、急いで戻ろう。」

足早に、というかもはや一般人の小走りレベルの速さでコンビニを出て行く小金井さん。当然誰も追いかけなかった。

「相変わらずメチャクチャ速いっスね……」

「……あれも一種の才能なのかしら……?」

「さぁ……?」

とりあえず急いで部室に向かう。そして部室のドアを開けると、そこには小金井さんと共に迷彩服のムキムキマッチョな男が三人いた。

「うぉっ!? 自○隊!?」

「違うよ、彼らが秘境部の人たち。今夜の戦闘に参加してくれる最高の助っ人だよ。右から巌根(いわね)君、軍畑(いくさばた)君、御嶽(みたけ)君。」

「先に御紹介に預かりました秘境部の者です。以後お見知りおきを。」

「あ……はい……」

名前までいかつい人たちだ……無論口には出さないが……

「今夜は頼むよ。君たちには期待してるから。」

「こちらこそ、『ボス』や『皇帝』の通り名をもつ小金井さんにお招きいただき光栄の極み、必ずやご期待に応えましょう。」

「そんな硬くならなくってもいいのにさ~。……そういえば倉賀野(くらがの)はどうしたの?」

「はっ! 部長でしたら只今単独富士登山に挑戦しております。」

「そうなんだ、確かにアイツならそれぐらいやりそうだね……まあ今夜はよろしく。十一時半にここに集合だから。」

「はっ! それでは失礼させていただきます。」

そう言って秘境部の人たちは部室から去っていった。つーか『ボス』はまだ分かるんだが『皇帝』って何なんだよ……ついでに言えば秘境部にしろ裏科学部にしろ変な言葉遣いする人が多い気がするな……

「さーて、じゃあ晩ご飯にしよう!」

晩ご飯は昼に比べればあっという間に終わってしまった。その後は作戦の細かい内容をずっと話し込み、気がつけば十一時二十分になっていた。

「よーし、これで作戦の説明はおしまい。みんな、頑張ってくれよ?」

「イエッサー!」

「わかりました~!」

「わかったわ。」

「了解です。」

「さて、そろそろ助っ人たちがやってくるはずだからみんなそこら辺をチャチャっと片付けちゃって。」

そして十一時半を回る頃、ヤバめな助っ人たちが続々とやってきた。

「いらっしゃい、これでみんな出揃ったかな?」

「裏科学部は揃っている。」

「秘境部も同じく。」

「よーし、じゃあ作戦の最終確認をやろう。人の組み合わせに関してはあらかじめ伝えてあったはずだから省略、で、基本的には敵を見つけたら即撃っちゃって構わない。ただし籠原さんの指示はよく聞くこと。弾はできるだけ大切にしてほしいんだけど、無くなっちゃったら籠原さんに報告して。そうしたら籠原さんが弾の備蓄ポイントまで誘導してくれるから。あとは部室は絶対死守、ここを乗っ取られたら指示系統が壊滅するからね。……そんなもんかな? 質問はある?」

「質問だが我々重装部隊は攻撃には出れないのか?」

「それは籠原さんが判断して前線に投入する。だけど開始直後は部室を守ってて。」

「了解した。」

「ついでになんか塩素臭いんだけど?」

「なに、気にするな。ちょっと混ぜるな危険をやっていただけだ。あと我々からの注意だが決して理科室には入らないように。」

「? なんかあったっけ?」

「理科室には我々が多数の罠を仕掛けた。うかつに立ち入ったのならどうなっても責任は取れん。ぶっちゃけ誰かがついうっかり理科室に入ってトラップが作動するまで我々も入れなくなってしまったというわけだ。」

「……そうかい……みんな聞いたね? ……他に質問ははない? ないなら小型無線機を配るから。」

小金井さんは机の上に置いてあった小さな機械を次々と手渡していく。

「持ったらイヤホンを耳に入れて、これから通信テストをするから。準備はいい?」

「大丈夫です。」

「よし……あー、あー、聞こえてる?」

「聞こえてます。」

「籠原さん、位置情報はちゃんと表示されてる?」

「……ええ、問題ないわ。」

部室にあったパソコンのモニターは一ヶ所に集められ、画面には一台だけ学校の見取り図、そのほかにはカメラからのものと思われる校舎内の映像が映し出されていた。

「よし、戦闘開始まであと五分……みんな、気を引き締めていくよ!」

「はい。」

刻々と開戦の時が迫る。

「……五……四……三……二……一……零!」

小金井さんのゼロカウントと共に開戦を伝える笛の音が響き渡った。……誰が吹いてんだ?


七月三十日、午前零時、戦闘開始……




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