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こんぴけん  作者: ホワイト
プロローグ
1/12

プロローグ (桜並木を駆け抜ける風のように)

初めまして、ホワイトです。

諸般の事情により「こんぴけん!」を改めて掲載いたします。

まぁグダグダと説明だの前置きだのをやっていくのはメンドイので……


まずは読んでください!


※プロローグのあとの()の中の言葉には深い意味は全くありません。


  どこかでなにかを間違えたらしい


  四月一日、市立水川(みながわ)高等学校入学式


  この日、俺の一風変わった高校生活が始まった




「~えー、以上を持ちまして入学式を終了させていただきます。新入生諸君は速やかに各自の教室へと移動してください。」

やっと長ったらしい入学式が終わった。生徒の集団が講堂兼体育館の出口へと流れ込む。

「おーい、代々木!」

「ん? なんだ、神田か。」

「何だとは何だよー、面白くないなぁ。」

今話しかけてきたのは神田(かんだ)武彦(たけひこ)、俺の幼馴染であり親友である。まあ、細かいことは後にして……

「で、何の用だよ?」

「何言ってんだよ、お前と隣じゃなかったから校長(ハゲ)の話の間することが無くって寝るしかなかったんだよ!」

「寝てたのかよ! つーか先生に起こされなかったのか?」

「心配ご無用、先生も寝てたから。」

「マジ?」

「うん、腕組んでモロ寝てた。」

「……何やってんだよ先生は……」

「あー、話をそらすなよう! オレが聞きたかったのはそんな事じゃないんだよ。」

「じゃあなんだ? っていうかお前が勝手に話を広げてったんじゃないのか」

「そうか? まあ、それはそうと……代々木、お前さぁ、グラウンドで整列してる時になんかかわいい女の子と話してなかった?」

「ん? あー、アレはただ単に自分のクラスの場所がわかんないって聞かれただけだよ。」

「で、どこのクラスだったんだ?」

「うちのクラス。」

「きたぁぁぁ! フラグ立ったぁ!」

「何のフラグだよ……」

「いやー、間違いない、それは絶対に運命の出会いってやつだよ!」

「今時そんなベタな話があるかよ……」

無論、その子の名前なんて聞いてもいないし、名前を聞かれたわけでもない。大方ちょうどいい所に俺がいたから聞かれただけに決まってる。いやまぁ確かにかわいかったけどさぁ……

「いやー、分からんぜ。なんせ今の世の中何が起きても不思議じゃないんだからな。」

「……なんでそうなるんだ……」

「だってよう、首相はコロコロ変わるし通り魔事件はあちこちで起こるしカップラーメンは値段上がるしどっかの地方自治体の選挙啓発ポスターにゲームのキャラが出てくるしお米の袋に萌えキャラ描いたらやたらと売れたって話しだし……ふぅ、でよー、紅白○合戦にはアニメ関係の人が出てくるし池袋の○越は潰れてヤ○ダができるしアキバにもヤ○ダができるしおでん缶最近あんまり見かけないし……」

「なんかだんだん話がすごい方向に向かってる気がするんだが……つーかとっとと教室に行こうぜ。いきなり遅れて先生に怒られるのはごめんだ。」

「っとと、そうだな。急ごう。」

少し喋り過ぎたようだ。既に周囲に生徒はほとんどいない。俺と神田は教室に向かって走り出した。

 が、ここで重要な話を一つ。


1・神田武彦はいわゆるポッチャリ系であること。

2・もちろん見た目通りに運動は苦手であること。

3・そして当然のことながら体力も無いこと。


そういうわけでちょっと走っただけでも神田はすぐに息が上がってしまうのだ。

「よ……、代々……木、まって……くれぇ……」

「おい! まだ校舎にも着いてないのにそんなんでどうするんだよ! 頼むからもうちょっとがんばってくれ、じゃないと俺まで遅れちまう!」

「心配……する……な……、オレと……お前は……一蓮……托生……だ……」

「頼むからもう少し踏ん張ってくれよ! それとこんな所で俺を巻き込まないでくれ!」

ここで神田を見捨ててしまえば俺は余裕を持って教室に着ける訳だが、悲しいかな保育園来からの親友、ここで見捨てることは出来ない。正直言うと見捨てても恨まれることは絶対にないが、それは親友としてできない。

「ほら、後は階段昇って廊下を進むだけだから、頑張れ!」

「……ぜぇ……はぁ……」

もはや答える余力も残っていないらしい。階段を上るのに手間取ったせいで、もう周囲に生徒はいない。

「あれ……? 俺らの教室ってっどこだったっけ?」

よくよく考えれば自分たちの教室に行くのはこれが初めてなわけでして。

 したがって場所は当然知らないわけで。

「なぁ、神田。どこがC組の教室だ?」

「オレは……知らん……」

「どうしようか……」

「……二階じゃ……ないのか……?」

「…………」

「あー……オレもうだめだ……」

「しっかりしろ、神田! ここで寝たら死ぬぞ!!」

何が悲しくて入学式の後早々こんなコントみたいなことをやらなきゃいけないんだよ……。

 と、俺たちがあたふたやっているところに誰か人が近づいてくる気配がした。廊下の向こうから歩いてきた先輩と思しき人影に藁にもすがるような思いで救いを求める。

「あの、すいません。1年C組の教室はどこですか?」

「はい?」

近づいてきたのはいかにも優等生、といった感じの女子生徒だった。というか綺麗過ぎてちょっと気が引けてしまう。つややかな黒髪を腰まで伸ばしていて、ちょっと困ったような顔でこちらを見ている。なぜか両手でアクエ○アスのダンボール(中身は何か別のものが入っているようだが)を抱えているのだが。

「えーと、ごめんなさい、もう一度言って貰えるかしら?」

「あ……、あの……1年C組の教室ってどこですか?」

「あ、1年C組ね、それなら確か三階の、階段を背にして右側の方にあったと思うんだけど。」

「ありがとうございます。ほら、神田、行くぞ。」

「おう! 了解! お姉さま、ありがとうございました! 手前は神田武彦と申します、よろしければ記憶の片隅にでも留めて置いていただければ幸いです。では!」

そう言って神田は脱兎のごとく階段を駆け上がっていく。

「……な……そんな風に走れるんだったら最初っから走れよ!」

「何を言う! きれいなお姉さんを見たら誰だって元気が出るだろう! 特にさっきの方はロングヘアーでとっても丁寧な言葉遣い、お嬢様っぽい感じで個人的にツボだ! オレには背景に桜吹雪が見えた! あのお方にはきっと和服が似合うに違いない!」

「どうでもええわ! そんなん!」

「オレはきれい、かわいい、どちらかに該当すればOKなんだ! 胸のサイズは問わん。いや、むしろ先人の言葉を借りれば『貧乳はステータス』だ!」

「誰もお前の性癖なんかきいてねえ! つーか広すぎないか、ストライクゾーン?」

「気にするな、そして世の中にはもはやここでは語れないほど広いストライクゾーンを持ったヤツもいるんだ。例えば青髪ピ○ス様とか……」

「誰だよ!?」

「ああ、美人のお姉さん最高! 神様、ありがとうございます!」

まあ、何はともあれ、おかげでC組の教室にはなんとか着くことが出来た。

 教室のドアを開けると、既にクラスにいた生徒の視線が集中する。当たり前ながら、もう俺たちを除く全ての生徒は席に着いていた。どういう順序で座っているのか分からないので手近にいた生徒に聞いてみる。

「なぁ、いったいどういう風に座ってんだ?」

「ん? えーとね、とりあえず先生が来るまでは自由だって。」

「あ、そうなのか、サンキュ。」

「代々木……、自由だとは言ってもオレたちの席は決まってるっぽいぞ」

「は?」

……確かに今教室内で空いている席は二つしかない、当たり前だが俺と神田以外の生徒は全員席に着いているのだから。

 だが問題なのはその席の位置だ。どう贔屓目に見てもそこは教卓の真っ正面なのだが……。

「神田…………」

「なっ、そ、そんな目でオレを見るなぁっ!」

まあ、神田にどれだけ文句を言おうが誰かが席を替わってくれるわけではないだろうし、諦めて席に着く。みんなも酷いな、前から順番に座ってくれればいいものを。

「ふう……、もう俺は疲れたよ。」

「いや、オレの方が疲れたって。」

「身体じゃなくて心の方だよ……」

「何言ってんだ、心ならさっき極上の癒しを受けただろう?」

「少なくとも俺はそうは思わないがな……」

確かにさっきの先輩(?)がめちゃくちゃ綺麗だったのは認める。だがそれを極上の癒しだ、なんて言うのはどうかと思うのだが。



 そうこうしているうちに担任の先生がやってきた。

「ういーっす、みんな揃ってるな?」

教卓の前まで来ると、黒板に先生のものと思しき名前を書いていく。

「えー、先生の名前は登戸(のぼりと)(しゅん)、今年一年間お前さんたちの担任をすることになったからよろしく。一応先に言っとくが、先生はテキトー星人だからめんどくさいことが嫌いだ。で、まあ色々と話なんかもあるわけだが、そういう面倒な事は後回しにして今年一年間の運命を決めるドッキドキの席決めと行くか。」

……なんだ、この先生、初っ端からだるいオーラ全開だ……。しかも自分で自分のことを『テキトー星人』はないだろうと思うんだが。というか一年間同じ席かよ。

「方法はここに先生が用意してきたくじがあるから、これを順番に引いてくれ。全員引き終わったら改めてルールを説明するから、ほい、そこの窓際一番前のヤツ、くじ取りに来い。」

窓際の一番前にいた生徒がくじが入っているらしい業務用の茶封筒を取りに行く。そして、自分のいた席に戻ると、くじを一個引いて封筒を後ろの席の生徒に渡した。

「あ、言い忘れてたが先生がいいと言うまで開けんなよー、言うことを聞かないヤツは強制的に教卓の前送りにするからなー。」

 くじの入った封筒はどんどん回ってくる。そして俺の順番がきた。

「……よっと、」

くじを引いて封筒を神田に渡す。

「……でやっ!」

そんな気合を入れて弾かなくてもいいだろうに……。

 そして、最後の生徒にまでくじが行き渡ると、

「おーし、全員引いたな? じゃあルールを説明するぞ、しっかり聞いとけよ。えー、くじを開くと数字が書いてあるはずだ。で、基本的に席の位置は自由。ただし同じ席を二人以上のヤツが希望したら数字が若いやつに譲れ。以上、おしまい。とりあえずくじを開いてみろ。」

みんなが恐る恐るくじを開いてゆく。さて、俺の数字は……

「なあ、代々木、どうだった?」

神田が尋ねてくる。

「三番」

「なんだと!」

「お前は?」

「碁盤だ!」

「…………」

「あれっ? 間違えた、五番。」

「素でかよ!」

「なっ、別にいいじゃないか、人間だもの!」

「語尾にそれを付けるだけで何か含蓄のある言葉っぽく聞こえるから止めろ!」

「おいおい、お前らいきなりコントをおっ始めるなよ。」

突如先生が会話に割り込んできた。

「へっ? いや、別に狙ってやってる訳じゃないんですけど……」

「ん? そうなのか? まあいいや、どっちにしろ二人ともなかなかいい番号引いたな。」

「そうですね。」

「その番号を生かすなら、座る場所は窓際の後ろから二番目当たりがいいぞ。」

「そうなんですか?」

「おう、なんと言っても窓際、ここは暇な時に外を見て時間をつぶせる。そして一番後ろは意外と目立つからな。敢えて一つ前に移るんだ。」

「あの、気のせいじゃなければ授業を聞く気がない事が前提になっている気がするんですが……」

「んー、んなこと言ってもどうせお前らやる気が起きない授業ってあんだろ? 人間だもの。」

…………ここで肯定したりツッこんだりしたら負けな気がする。

「そ、そんなことはないですよ~。」

神田が説得力ゼロの笑顔で必死に取り繕う。……思いっきり顔が引きつってるな……

「んな事いうな、お前らの気持ちはよく分かる。そして俺はそんなお前らの味方だ。あ、でも俺の授業だけはちゃんと聞いとけよ。ちゃんと聞いてないとイスに縛り付けて職員室で小一時間晒し者にするぞ。」

なんかいろんな意味でこの先生、型破りすぎる……というか斬新だ……

「おーし、全員番号確認したな? じゃあ移動開始!」

先生の合図で生徒が移動を開始する。俺はあの先生に頂いたアドバイス通りに窓際の列、後ろから二番目の席に座る。

「代々木はやっぱそこか、んじゃオレここ!」

俺の一つ前の席に神田がやってきた。

「隣じゃないのか?」

「おうよ、隣同士でもいいんだが何か物のやり取りをする時に隣だと見つかりやすいからな。」

「さいでっかい……」

「さてと、代々木。」

「なんだ?」

「オレ寝るからみんなの席が決まったぐらいの時を見計らって起こしてくれ、よろしく、そしておやすみ。」

と、言うが早いか神田は机に突っ伏してしまった。

「……おいおい……」

さて、話し相手が寝てしまったからやることがない。仕方がないので席替えの様子でも観察することにしよう。やはり、というか席は後ろからうまっていく。ただ既に教卓の真ん前を陣取っているヤツがいるが、あのこの世の終わりが来たかのような顔をしていることから察するに一番ビリの番号を引いてしまったのだろう……俺じゃなくてよかった……

 神田の隣に来たやつは、眼鏡をかけた男子生徒だ。決定、こいつのあだ名はメガネくん。安直すぎるとかいうツッコミは無しだ。さて、俺の隣は……

「ふっふっふ……その席、頂いた!」

見ると先ほどまで俺の隣に座っていた生徒が新しく来たやつに立ち退き要求をされているらしい。というかなんか怪盗チックな言い方するな、どんなやつだよ……。

「あっ、朝の人? お隣もらうよ?」

……おいおい、なんで朝の女の子がそこにいるんだ? まあ同じクラスだったから別に居ても不思議ではないのだが……

「えーと、今朝グラウンドで会ったよね?」

「おお~、覚えててくれたんだ!」

まぁ、まともに舌が回らないくらい慌てた様子で話かけられたら誰でも印象に残ると思うんだが……。

「ところでお前はは何番を引いたんだ?」

「わたし? 一番だよ。」

「げっ……マジかよ!」

確かに彼女が手にしている紙には乱暴な字で「1」と書かれている。とんでもない強運の持ち主だな。

「前の人寝ちゃったね。」

「ん? 神田か。こいついつも寝不足だからな。」

「ふーん、ところであなたの名前は?」

「俺か? 代々木(よよぎ)(みのる)だ。」

「へー、代々木君かー。私は桜木(さくらぎ)春香(はるか)って言うんだ、よろしくね。」

「ああ、よろしく。」

 その後しばらくして、全員の席が決まると先生が話し始めた。

「よし、全員席は決まったな? 無論一年間変えるつもりは全くないから、メンドイし。さて、じゃあ連絡事項を伝えたいんだがその前に……おい、三番を引いたやつ、お前の相方を起こしてやれ。」

やばい、桜木と話し込んでて神田を起こすのをすっかり忘れてた。

「おい、神田、起きろ、起きろって!」

「むにゃ……まってくれ、まだらーめんをたべおわってないから……」

「神田! 何喋ってんだ!」

「ぬおっ! なっ、何が起きたんだ!」

「おーい、碁盤クン、何やら楽しそうな夢を見てるとこ悪いが連絡事項だ、起きてろ。」

先生の言葉でクラス中が大爆笑に包まれる。……これでこのクラスでの神田のキャラは決まったな。

「…………えー、以上で連絡事項は終わり。さて、他にやることもないから自己紹介でもするか? もちろんやるよな?」

おそらくみんなの本音はとっとと帰りたい、だろうがそんなことを言うやつは一人もいない。普通思ってても言えないけれども。

「反対するやつもいないみたいだし、じゃあ廊下沿いの列の一番前から始めてくれ。」

そういうわけで自己紹介が始まった。残念なことに誰も奇抜なことをやらない。そして桜木の番になった。後二人挟んで俺の番かよ、どうしたものか……

「桜木春香です。第一中学校から来ました。好きなものはおいしいお菓子とおもしろいこと、嫌いなものは特にありません。これから一年間よろしくお願いします。」

まぁ普通の部類に入るのか? それにしても嫌いなものがないって在り得ないと思うのだが……

 そしていつの間にか俺の番。

「第三中学校出身の代々木実です。これから一年間よろしくお願いします。」

結局一番無難な感じになってしまった。さて、次は神田の番だ。

「第三中学校から来ました神田武彦です。ただの人間には興味ありませ……」

「まて! 神田! そのネタは際どい!」

「むおっ! なぜ代々木がこのネタを知っているんだ!?」

「なんだか知らんが止めなきゃまずいような気がしたんだよ!」

まあ、クラスのうち何人かが必死で笑いをこらえているかのようにニヤニヤしているところを見ると、ほっといても結構おもしろいことになった気がするが。

「なんだよー、しょうがないなー、えーっと……好きなことは食べ歩きです。個人的には駅前の三風堂のラーメンがメチャクチャおいしいです。あぁ、ラーメン、それは神の食べ物。あのスープの香り……麺の食感……」

「……神田、ここで語るな。」

「なっ!? でも今時お湯を注ぐだけでいつでもどこでもラーメンが好きなだけおいしいラーメンでもやっぱり本物は麺の食感もスープの味も全然違うラーメンああとにかく食べればわかるラーメン!」

「……とりあえずお前が今ものすごくラーメンを食べたいのは解ったから、落ち着けって。」

「異議ありっ! 先生! 代々木がラーメンをバカにしましたっ!」

「……あー、お前らのコントを見てるのも中々面白いんだが、さすがに長々としゃべりすぎだ。そろそろ終わらしてくれい。ついでに鎌○先生に謝っとけ。」

「せっ……先生までラーメンをバカにするんですか!?」

「はい強制終了(シャットダウン)。次ー、始めてくれーい。」

語りたくてもこれ以上語れない神田であった。

 そして最後の生徒の自己紹介が終わると、また先生が話し始めた。

「よし、自己紹介終わり。ちなみに一番インパクトがあったのは多分碁盤クンだと思うが、それはいいとして今日はここまで、えー、級長! 号令かけてくれ!」

「起立、気をつけ、礼!」

なんと級長は神田の隣のメガネくんだった。

「じゃあ気をつけて帰るように。……お、そうだ、確か校庭で部活の勧誘をやっていたと思うから興味のあるやつは行ってみるといい。さて、昼飯でも食うかな……」

最後の一言で変なイメージを植えつけながら登戸先生は教室から出て行った。

「じゃあね、代々木君。」

「ん? あぁ、またな。」

桜木がいの一番に教室を出て行く。それに続いて他の生徒も次々と教室を出て行く。

「お~い、代々木~。」

「なんだ?」

「お前はいつの間にあの子と仲良くなってるんだよ?」

「お前が寝てる間。」

「くぅ……抜け駆けは許さんぞ!」

「何が抜け駆けだよ……そういえば神田はさっき先生が言ってたやつ、見に行くか?」

「んー、代々木が行くならオレも行くけど?」

「んじゃ行くか。」

そして俺と神田は教室を出て校庭へと向かった。



 校庭では様々な部活の先輩たちが新入生に声をかけていた。サッカー部、テニス部、バスケットボール部、吹奏楽部といった定番の部活に混じって何やら裏科学部だとか黒歴史部だとかどう見ても怪しそうな紙を持った人たちも混じっている。あれはいったいなんなんだ?

「代々木、お前なんか決めた?」

「いや、特に。神田は?」

「オレは運動系は絶対無理だからなー。」

「だな。」

「あー、何かこう動かなくっても良くて楽な部活ってないかなー。めんどくさくなければ最高なんだけどなー。」

「んな部活があるかよ……」

「あるかもしれないだろ! 夢を壊すなよ!」

「ないって……」

「あるよ。」

「えっ?」

見るといつの間にか俺たちの後ろに一人の先輩がいた。身長は俺よりわずかに高い。長方形の角が丸くなっているよくある感じのメガネをかけていて、制服の上着は着ていないが、普通の生徒なら外すであろうワイシャツのボタンを第一ボタンまで閉めている。なんかメチャメチャ真面目そうだ。

「楽で楽しい部活ならいいんでしょ? ウチに来る?」

「あのー、どんな部活なんですか?」

神田が即座に反応する。

「来れば解るよ。ついてきて。」

そういってその先輩は校舎へ向かって歩き出した。

「神田、行くのか?」

「あぁ、代々木、一緒に来るよな?」

「あー、ちょっと怪しい気もするが……まあいいか。」

「おーい、早くきなよ!」

さっきの先輩はもうだいぶ離れた所にいる。俺と神田は急いで後を追った。

 しかしこの先輩、歩くのが異様に速い。神田はもう息が上がっている。さっきから見失わないようにするので精一杯だ。

「す、すいません。もう少し遅く歩いてもらえませんか?」

「ん? あ、ごめん。大丈夫?」

「こっちは……アウトだ……」

神田はまた朝のような状態になっている。

「まぁ、もう少しで着くから頑張って。」

先輩はまた歩き出した。この人、待つ気はあまり無いらしい。

 そして、俺たちは二階の廊下の南の端にある部屋の前に来た。ドアには『コンピューター研究部』と書かれた札が下がっている。

「んじゃ入って。」

先輩がドアを開けて先に入る。その先に広がっていたのは…………

 部室と聞いてなんとなく思い浮かべる暗い・汚い・狭い、といったイメージからはかけ離れた部屋だった。意外と広々とした部屋で、窓の向こうの木々が木陰を作り、その木漏れ日で程よく照らされた室内はある程度片付けられていて、さらにエアコンまで付いている。窓に沿って置いてあるテーブルはなかなかしゃれたデザインをしていて、その上にはコンピューターのモニターがいくつか並んでいる。そのうちの一つの前には別の先輩が座っていた。

「あら、新入生? ……ってまさか、小金井君、本当に拉致してきたの?」

「失礼な! 僕は基本的に任意同行主義だよ。一応同意を取り付けてからじゃないと後味が悪いからね。」

任意同行主義? まあ確かに無理矢理連れてこられたわけじゃないが、同意したっけ?

「……まあいいけど、いらっしゃい……って、あれ?」

「あれ? 知り合い?」

「あなたたち、朝の?」

「あっ!」

「おっ……お姉さま!」

俺と神田は同時に声を上げた。間違いない、今俺たちの前にいる人は朝に教室の場所を教えてくれた人だ。よくよく見ればこの部屋の入り口の近くに置いてあった段ボール箱には見覚えがある。ばっちりアクエ○アスって書いてあるし……

「あの、朝はどうもありがとうございました。」

「別に気にしなくてもいいわ。それとお姉さまって呼ぶのはやめてもらえるとうれしいわね。とりあえず、ようこそコンピューター研究部へ。」

「先に自己紹介しとくね。僕は高二A組の小金井(こがねい)(さとし)、部長やってるからよろしく。」

「私は高二A組の籠原(かごはら)秋乃(あきの)。副部長と会計をしています。」

「あー、代々木実です。」

「神田武彦です。」

「さて、と。あの紙どこにやったかな……?」

「やっぱりね、そうなると思って作っておいたの。」

「おっ、サンキュー。……って、あれ? これじゃなくって部活の説明の紙。」

「えっ? 入部届けじゃなかったの?」

「んー、まあいいか、口頭でやれば手っ取り早いし、めんどくさいけど。とりあえずウチがどんなことをやってるのか説明するよ。ホントは説明が書いてある紙を渡すはずだったんだけどね……始めていいかい?」

「ええ。」

「どんぞ。」

「もう入り口で見たから知っていると思うけどウチはコンピューター研究部、通称コンピ研っていって、早い話がみんなで協力してコンピューターに関するスキルを上げましょう、って部活。といっても普段は結構お遊びに近いこと……というより遊び? をやってるからあんまり難しく考えなくていいよ。何か質問はあるかな?」

なんとなく説明がざっくりしすぎている気がしないでもないが、とりあえずおおよそのことは分かった……?

「えーと、活動日ってどうなってるんですか?」

「君は……神田君だっけ? 活動日はほぼ毎日。たまに日曜日もやることがある。長期休暇中は活動がある日は一応決まってるんだけど、それ以外で集まることも多いね。あ、でも来る来ないは自由だよ。何か私用があって来れない時とかは誰かに伝言を頼んでおけば問題ないから。……それと長期休暇中はイベントもあるよ。」

「へー、そうなんですか。」

「あの、ちょっといいですか?」

「代々木君だっけ? どうぞ。」

「他に部員の人っていないんですか?」

「……いたら籠原さんが副部長と会計を兼務すると思うかい? しないよね?」

「いないんですか……」

「そうなんだよねー。実はさあ、去年の時点で今の高三に当たる部員がいなくってねー、先輩たちが卒業した後部員がいなくなっちゃってさぁ、今年新入部員がいないと廃部の危機になっちゃうんだよ。そういう訳で、君たち、ウチを救うと思って入ってくれない?」

どうも地雷を踏んでしまったらしい。この人笑ってはいるが、なんとなく入ってくれなきゃ帰らせないよオーラを出しまくっている気がする……しかもちゃっかり入り口を塞ぐ位置に移動してるし。……でも、話を聞いている限りは楽そうだし、きつい練習があるとかそういうこともないだろうし、入って損は無いかもしれない……無いよな……?

「今なら部費もお安くなってるからさ、入らない?」

「ちょっと! なに勝手に部費安くしてるの!」

「いいじゃん、減った分はヤツらから巻き上げればいいし、今年は新兵器(オモチャ)を導入するし、応援も手配するから絶対に負けないって。そもそもこっちが負けたことなんて一回も無いんだしさぁ。」

「……そういう問題じゃないでしょ。」

……なにやら物騒な単語が散見されるが、なんとなく知らない方がいい気がする……というより知ったらただじゃ済まなさそうだ。

「でもさ、ここで部員を確保しておかないと後々大変なことになるよ? それぐらい分かってるでしょ?」

「……分かったわ、仕方が無いわね……」

「よし、決定。で、どうする?」

「オレ入ります!」

「んじゃ俺も入ります。」

「よっしゃ! それじゃあこの入部届けに必要事項を記入して次の活動日……授業が始まる日か……に持ってきてね。さて、君たち、今日はもう帰る? それとも活動の様子を見てく?」

「あー、俺は昼メシがまだなんで帰ります。」

「あ、じゃあオレも。代々木、三風堂に行かないか?」

「うーん、それでもいいか。よし、行こう。」

「籠原さん、お昼まだでしょ、どうする?」

「特に何も考えてないけど?」

「どっか食べに行く?」

「……そうね、久しぶりにそういうのもいいわね。」

「それじゃああのパン屋さん行かない?」

「あのクロワッサンがおいしいとこ?」

「そう、そこ。」

「じゃあ行きましょうか。」

「よし、そしたらみんなで行こう!」

「え? そのパン屋さんって駅前にあるんですか?」

「そうだよ。あのパン屋さんカフェオレがおいしいんだよね~。」

「よーし、代々木、ラーメン屋ハシゴしようぜ!」

「止めとくよ……」

「なんだよー、いいじゃんかよー。」

「俺はそんなに食えん!」

「どうも大食い大王がいるみたいだね~。」

「……今年は支出が増えそうだわ……」

そして俺たちは部室を後にして、駅前へと向かった。


さてさて、ここまで読んでいただきありがとうございます。

きっとこの文章を読んでいらっしゃる方は全文読んでいらっしゃることでしょう。

(なに? 読んでない!? 今すぐ読んできてください!! お願いします)

えー、↑はおそらく該当する方はもういないと思うので続きをば……



いかがでしたか? 楽しんでいただけたでしょうか?

改めて掲載するに至り、微妙に改変している箇所があったような記憶が……

まぁそれはともかく、楽しんでいただけたのでしたら僕としても幸いです。

さらに続きが読みたい! なんて思っていただけたらもう御の字です。


それではまた! 感想なども是非どうぞ!

(五時……もとい誤字などを指摘していただけると助かります)


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