表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

世界の真実を知った先に―宿屋の少年と繰り返される日常―

この世界には、決められた流れがある。

誰も、それを疑わない。

一人の少年を除いて。

そして。

その少年に関わった者たちも、やがて気づく。

この世界は、どこかおかしいと。

―宿屋の少年と繰り返される日常―

俺はニック。

宿屋の手伝いをしている。

「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」

気づけば、口が勝手に動いていた。

何度も繰り返してきた言葉。

同じ声、同じ言葉で。

——退屈な毎日だ。

そんなある日。

扉が開いた瞬間、

いつもと違う感覚がした。

入ってきたのは、ただの客のはずだった。

でも——

どこかで見たことがある。

いや、違う。

“忘れてはいけない何か”を、

思い出しそうになる感覚だった。

そのせいで、仕事に集中できなかった。

皿を落としそうになり、

主人に睨まれる。

それでも、頭から離れない。

——あいつは、誰だ?

仕事が終わると、俺はすぐに外へ出た。

まだ、あの男はいた。

「なあ」

声をかける。

男はゆっくり振り返った。

「どこかで、会ったことあるか?」

自分でも、おかしな質問だと思った。

男は少しだけ考えて、首を振る。

「いや、初めてだ」

——当たり前だ。

今日、初めて会ったばかりなんだから。

でも。

それでも、何かが引っかかっていた。

男はしばらく俺を見たあと、興味を失ったように背を向けた。

「……じゃあな」

そう言って、歩き出す。

——その瞬間だった。

視界がぶれた。

頭の奥で、何かが“引っ張られる”。

「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」

気づけば、俺はそう言っていた。

さっきと同じ言葉。

同じ声。

同じ——状況。

「……は?」

目の前には、さっきの男。

扉を開けて、今まさに中に入ってきたところだった。

ありえない。

ついさっき、外で話していたはずだ。

なのに。

男は何事もなかったように、カウンターの前に立つ。

「一泊だ」

同じだ。

声も、動きも、表情も。

——全部、同じ。

心臓が、嫌な音を立てる。

逃げようとした。

でも、足が動かない。

腕が、勝手に動く。

鍵を取り、差し出していた。

「二階、右奥の部屋になります」

言いたくなんてないのに。

止めたいのに。

体は、まるで決められた通りに動いていく。

男は鍵を受け取ると、何も言わずに階段へ向かった。

——さっきと同じだ。

完全に、同じ。

「……なんだよ、これ」

声が震える。

頭がおかしくなったわけじゃない。

ちゃんと覚えてる。

さっき外で話したことも、

その時の空気も。

なのに、今の出来事は——

“なかったこと”にされている。

いや、違う。

最初から、やり直されている。

「……まさか」

喉が、ひどく乾く。

この世界は、一体なんなんだ。

俺は一体何者なんだ。

どうして同じことを繰り返しているんだ。

自分に疑問をぶつけ続けた。

また次の日、彼はやってきた。

その男が、また“同じ動き”を繰り返している間、

俺は観察することにした。

カウンター越しに、じっと見る。

男は同じタイミングで扉を開け、

同じ足取りで歩き、

同じ言葉を口にする。

「一泊だ」

やっぱり、変わらない。

一度、わざと声をかけるタイミングをずらしてみた。

それでも——

俺の口は、勝手に動いた。

「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」

決められたように。

逃げ場なんて、なかった。

……なら、せめて覚えるしかない。

男の仕草。

目線。

声のわずかな癖。

全部、頭に叩き込む。

最初のうちは、不審がられた。

「……なんだ?」

睨まれることもあった。

でも。

何日も繰り返すうちに、

少しずつ変化が出てきた。

「……またお前か」

男が、ぼそっと呟く。

——違う。

今のは、いつもと違う。

わずかに、反応した。

心臓が強く鳴る。

「……ああ。まただ」

できるだけ自然に答える。

男は少しだけ笑って、鍵を受け取った。

「変なやつだな」

それだけ言って、階段を上がっていく。

——今のは、初めての反応だった。

ほんの少しだけ、

この繰り返しに“ズレ”が生まれた。

「……なんでだ?」

思考が一気に回り始める。

今までと違ったこと。

俺がやったこと。

声をかけるタイミング。

視線。

言葉の選び方。

——全部、いつもと違う。

そこで、気づく。

「……まさか」

喉が鳴る。

「俺が……変えたのか?」

この世界の流れを。

決められていたはずの動きを。

俺が、外れたから——

だから、“ズレた”。

心臓が強く脈打つ。

もし、そうだとしたら。

この世界は——

決められていることだけじゃない。

俺が、変えられるかもしれない――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ