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捨てられ仮面令嬢の純真  作者: 山田あとり


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43/43

第43話(終) 誇り高き王妃

  ✻ ✻ ✻



 セレスとレオは新婚の思い出深い館を引き払った。王宮に移り、現在の政の状態を確認しつつ戴冠式をどうするか検討中なのだ。

 形式上、何もしないわけにはいかない。だがリュシアンたちの式典をしたばかりでまた、というのも無駄な話だ。

 儀礼としての式は簡素に行い、国民への布告と近隣諸国に通達の特使を送るだけで済ませる方向で検討が進められている。


 もうリュシアンの退位は公にされていた。それはあっけないほど簡単に各所から受け入れられ、なんの抵抗もなかった。

 私室に軟禁状態のリュシアン夫妻の救出を試みる側近などもあらわれなかった。侍女を怒鳴りつけ、気軽に解雇するような主人だったので当然だろう。


 粛々と離れの塔に移され、幽閉されたリュシアンとミレイユ。

 政治的な力も知識もまったくなかったために対抗策を講じることもできず、退位宣言書に署名。だが恭順を示したことにより処刑はまぬがれている。


 一連の心労がたたったのかミレイユはかなり早く産気づいてしまった。急変に王宮の医師が駆けつけたが、子は助からなかった。

 伯母として悲しんだセレスだったが、見舞いを伝えることはしない。ミレイユは姉が自分を陥れたのだと信じ半狂乱だと聞いたから。

 心からのいたわりも、あざけりの言葉と感じて荒れ狂うに違いなかった。


「――思い込んだ者に何を言っても仕方ない」


 なぐさめてくれるレオとともに、セレスは民に愛される王妃となるべく努力するしかなかった。



  ✻ ✻ ✻



 新しい国王夫妻の助けとなってくれているのは、宰相補佐官マティアス。今も三人で仕事中だ。弟に王位を押しつけてご満悦のマティアスに、レオは恨みがましい目を向けた。


「俺は気楽に騎士をやっていくつもりだったのに」

「あきらめろよ。私はな、王者を影であやつる方が性に合うんだ」


 策士なことを言い放ちマティアスは悪びれなかった。苦笑いしてしまうセレスの隣でレオはため息がとまらない。


「あやつってないで表に出てくれ。兄のくせに継承権順位をすっ飛ばすなんて、どうかと思うんだが」


 ブツブツ文句を言われてマティアスはしばし沈思した。


「――そうだな、ひとつ願いを叶えてくれたら考えてもいいが」

「なんだ?」


 王座を背負ってもいいほどの切実な願いなど、マティアスにあるのか。

 レオは真剣に耳をかたむけた。話が気になって目を上げたセレスのことをチラリとして、マティアスは寂しげに微笑んでみせる。


「レオ――これから私のことを、また『にいたま』と呼んでくれないか? あれが可愛くて好きだったんだよ」


 ガタンッ!

 思わず執務椅子を蹴り飛ばして立ったレオは、真っ赤になって恥ずかしさにふるえている。セレスは声をあげて笑ってしまったが、夫の手を引き必死でなだめた。

 ――即位前に王と補佐官が暴力沙汰なんて、あってはならないのだ。たとえ仲良しな兄弟喧嘩だとしても。



  ✻ ✻ ✻



 空位期間は短い方がいい。そう考えてレオの戴冠式は早急に準備された。

 冬の寒さがゆるみ春のきざしが感じられるようになった頃。

 臣下たちも待ち望んだその日がやってくる――。



 セレスがいるのは王都の大聖堂。レオも一緒だ。

 ここは結婚式も挙げた場所だが、今度はみずからの戴冠式に臨むことになるなんて。あのひっそりした式の時には思いもしなかった。


「レオさま――ご立派です」

「セレスこそ、とても優美だ」


 騎士団のではなく、王として正装したレオ。毛皮で縁取られたマントを羽織り、堂々と力強い姿だった。

 セレスは夫の晴れ姿にときめいてしまったが、自分だってなめらかなローブにマント。神々しいばかりでレオは見とれてしまう。だが――。


「――本当に、仮面はなくていいのか」


 レオは妻に確認した。セレスは今、素顔だった。

 もちろん化粧はしている。以前レオが話しに行った、劇場でメイクを担当している化粧師に指導してもらった。

 それでも昼間の明るい光のもとで、うっすらと跡は見てとれた。わざわざ人目にさらさなくても――とレオは不安になってしまうのだが。


「いいんです。何からも隠れることなく、私は私のままで王妃のつとめを果たしたいの」

「俺も……セレスは素顔がいちばん綺麗だと思っている」


 やや照れながらレオは告白した。仮面を取ってくれた夜にあふれたセレスへの愛は、毎日ふくらんでいくばかり。

 夫の気持ちを感じてセレスもはにかむ。


「――私ね、レオさまに申し訳ないと思っていて」

「何がだ?」

「この傷……リュシアンさまなんかを庇って傷を負った馬鹿な女でごめんなさい、と」


 セレスはほんの少しイタズラな目だった。「なんか」という言い方は、ちょっと前まで不敬だった表現だ。「今ならいいですね?」という正直なセレスの気持ちを伝えられて、レオは苦笑する。


「セレスがおろかなら、この世の女性は全員おろかだよ」

「そんなことは。でも考えたんです、私が真心を尽くしたのはリュシアンさまへじゃなく――マルロワの国へなんだって」


 幼かったあの日、落ちてくる枝の前へ飛び出したのは「王太子」を守るためだった。この国を継ぎ導くことになる人に、力の及ぶ限り仕えなさいと教えられ従っただけ。


 だがその純真は今これから、レオに向けられる。愛した人へ。

 愛するレオが愛する国の頂点に立つなんて――セレスはとても運がいいのだ。


「そう――だな。セレスが俺を全身全霊で愛してくれているのだと受けとめよう」

「もちろんです。私はあなたのものなの」


 そしてレオも、セレスのもの。それは言わなくてもわかっている。

 いつの間にそんなふうになったのだろうか。セレスは感慨深く結婚式を思い出した。


 「傷もの」のセレスを押しつけられたレオに対して申し訳なく思っていたこと。

 口づけの許可を求められ優しさに驚いたこと。

 まだレオを愛せるか自信がなくて、おびえていたこと。


 今から考えると、花嫁の控室をのぞいたレオはかなり浮かれていたのだろう。ずっと恋していたセレスと結婚することになって。

 今日、あの同じ控室でともに戴冠を待つなんて夢のようだ。


「――レオさま」


 そっと隣に立ち、セレスは夫を見つめた。なんて愛おしい人。


「ああ」


 何も言わなくていい。ただまなざしを交わすだけで通じる想いがあるから。

 レオはセレスに左手を差し出す。セレスは右手を預ける。

 ――コンコン。

 扉が軽く叩かれた。


「――行こうか」

「はい」


 二人はすべるように歩き出す。

 静かな熱気に満ちる聖堂へ。清浄な光が降りそそぐ祭壇の前へ。


 レオが王となり、セレスは王妃になる。

 そして生きるのだ。誇り高く。

 

 ――この愛に誓って。



   了



セレスとレオの物語、最後までお読みいただきありがとうございます!


この作品、私個人としては、国を揺るがすブラコンのマティアスがお気に入りなんです。

でもオタク気質な商人娘コラリーもいいし、世話焼きイケオジ執事ダニエルも捨てがたい。

皆さまのお眼鏡にかなう登場人物はいましたか?


楽しかったよー、と思えましたら、評価・ひと言感想などでお伝えください!

また別の作品でお目にかかれることを願っています。


山田あとり

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