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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

伊岳露理の葛藤

作者: ウエけん
掲載日:2026/01/22

期待と興奮の悲鳴が聞こえる。

ここは小さなライブハウス。観客は700名ほどだが胸がはち切れんばかりの声が裏方にまで響く。

音楽が始まる。出囃子だ。

まだ私たちはステージに立たない。興奮のボルテージをMAXまで引き上げるためだ。

まだ、まだ。もっと興奮を盛り上げないと。

私たちも興奮が止められない。

ステージにライトがともる。もはや悲鳴だ。

さあ、今ステージの上に立つのだ!


・・・


「いやー今回のライブもよかったね~」

拍手しながらマネージャーの代々木健吾(よよぎけんご)が言う。

「おかげさまで、過去最高の収益、しかも今回のライブのチケットは売り切れ!もう少し大きなライブ会場の方がよかった?」

にやにやしながら語る。

「・・・私たち・・・今の今まで歌ってきて疲れてるから・・・今お金の話やめてくれない?」

ベースの鹿島歩佳(かじまあゆか)が言う。

「でも、いままでで一番お客さんの反応が良かったよね?もっと予算つけて演出凝ったほうがいいんじゃない?」

今度はギターの住吉(すみよし)ゆうかが言う。

「その前にもう少しチケット代安くしたら?ライバルたちと比べて高額な気がするんだけど」

ドラムの幸浦(さちうら)もねも言う。

健吾がムッとした顔で続ける。

「あのね、ライブって稼げねーの!このぐらい高額にしないと元が取れない!他のやつらは赤字覚悟でやってるからあんな値段なんだよ。稼ぎたいんだったらもっと客を入れないと。なぁリーダーの伊岳露理(いたけつゆり)?」

私はニッと笑って言った。

「当たり前でしょ?もっと大きくしていかないと!私たちはこんなところに収まりきらないよ!」

他のメンバーは呆れたような顔をしたが、マネージャーは興奮した顔をした。


私たちは「ゴスロリゴシックス」というバンドを組んでいる。メンバーは4人、曲調はメタル。ゴスロリの服を着て歌うのが私たちのスタイルだ。

元々はとあるバンドのコピーバンドだったが今は独自路線を走っている。

結成して3年目でようやく脚光を浴びて、今まさに人気が加速している最中なのだ。

マネージャーの健吾は少しお金にがめついからチケットの値段は高額だが、それでもファンはついてきてくれている。

せっかく注目され始めたこの流れを止めてはいけない。それがリーダーとして正しい選択だったと確信している。


少しの談笑をしたのち、バンに乗って少し離れた駅まで向かう。ライブ会場を出るとたくさんのファンが出待ちしていた。

黄色い声援に交じってセクハラめいた発言も聞こえる。そこで私が窓を開けて一言。

「・・・キモイ」

そう口にするとさらに大きな声援になった。ファンはこれを求めてる。だから私はこの発言をする。

「そろそろやめたらアンチがつくよ?」

心配そうな顔でもねが言う。ほかのメンバーも少し複雑な表情をした。

「少しぐらいアンチがいた方がいいんじゃない?そのぐらい有名になったっていう証拠だよ」

私がそう伝えると、ほかのメンバーはそういうことじゃないんだけどなぁと小言を言った。


・・・


家に着いたのは夜10時半まだ家には電気がついていた。

「ただいま」

そういいながら玄関を開けると真っ先に弟の文十(ふみと)が駆け寄ってきて、私にハグをした。

「おかえりー!」

元気いっぱいの姿には相変わらず元気がもらえる。

「やあ姉さんおかえり、今日のライブどうだった?」

もう一人の弟、真一(しんいち)がやってきた。

文十を剥がし、靴を脱ぎながら

「今日のライブは良かったよ。なにせ満員&チケット売り切れ!それだけ人気が出てきたんだよ」

文十の顔がキラキラしている。この顔が見れただけ私は満足だ。

「ほら、もう今日は遅いんだし、もう寝なさい!」

リビングの方からお母さんが出てきた。

文十はしばらく抵抗したが、自分の部屋へ行き眠りについたみたい。


私の家族は6人家族。両親と私、弟の"真一"と"文十"、そして妹の"影華(えいか)"。

真一は今年で18となり、大人の仲間入りをしたが、文十と影華はそれぞれ11歳と6歳である。

私はライブを行ったこともあり疲れて眠る身支度を始めた時、リビングに呼び出された。

「露理、今日のライブはどのくらいだったの?」

父が言う

「売切御免の満員だったけど?」

嫌そうに椅子に座りながら言う。

「・・・売れてきてるのはわかるけど、お父さんとしてはやはりもっと・・・地に足の着いた仕事をしてほしいというか・・・」

困り顔でこっちに言ってくる。いつものことだ。

私は適当にハイハイと流し、疲れているからと言いそのまま自分の部屋へ行きベッドに横たわった。

気が付いたら翌日の朝だ。平日だが私には関係ない。

私は次のライブのため、そして新しいアルバムのための曲作りに勤しんだ。正直、別のメンバーも作詞作曲してほしい所ではあるが・・・


気が付けば昼時だ。家に何か食べ物がないか探ったが特になし。

『なんにもないからご飯買いな』

とお母さんのメモと紙幣が一枚。

小遣いなんていらないのにと思いつつ、その金を握りしめ家を出た。


外は晴れていてとても清々しい日だ。春真っ盛りということもあり気温も快適。


私の住んでいる龍戸市(たつとし)は、まるで隕石が降ってきたような盆地にある。盆地と言っても、市の周りには大きな壁がそり立っているようなかんじだ。

地質調査したところ、本当に隕石が昔降ってきたそうだ。そんなところに人が住み着くようになるなんて、ほんと人間って変な生き物だと思う。

せりあがった壁の向こう。つまり龍戸市の隣には古き良き下町のような漁村が広がっている。

私は電車に乗り、漁村の方へ向かった。


「ありがとうございました!」

たまに利用している小汚い定食屋を背中に、目の前に広がる海を見てなにか新曲のヒントにならないか耽っていた。

夏になれば海水浴で賑わうが、今はシーズンじゃないので人は全くと言っていいほどいない。

私は砂浜に立ち、大きく深呼吸をした。海風が気持ちいい。

「すみません!困ってることってありますか?」

突然後ろから女性が話しかけてきた。

年齢は20代、髪は金髪で目は緑。身長はとても高く170後半はあるんじゃないかと思う。ベージュのつばが長い帽子を被り、おしゃれな春陽気にピッタリな服装をしていた。

「ごめんなさい!いきなり話しかけちゃって!私、こういうものです」

女性は名刺を私に渡してきた。

正直、第一印象は『怪しい』それが顔に出てたのか、

「私は怪しいものではありませんよ」

と女性はつづけた。

名刺を見るとそこには

「歴史改変ならおまかせ! 改変家 カリー・ソムラミ・真理(まり)

と書かれていた。肩書も名前もすべて怪しい・・・だが興味はある。

「あなた何者なの?」

私が口を開くと彼女の顔はパァと明るくなった。

「ありがとうございます。では自己紹介をさせていただきます!

 私の名はカリー・ソムラミ・真理。175歳の改変家をさせていただいております!」

突っ込みどころがあるが一旦は黙り話を聞く。

「改変家って言ってもわかりませんよね?そうですね簡単に言えば過去改変能力と言えばいいでしょうか?

 例えば、現在仕事で成功した人がいるとします。その人が現在富豪で成功しているのは変わりはないけど、

 過去はとても貧乏でこんな状況から脱するために起業した。という過去があれば、

 もともと実家が太く、簡単に起業した結果たまたま成功した。という過去もある。

 私は現在は変更できないけど、過去は変更できるって言う能力を持ってるの」

話がややこしくてついていけない。そんな私をよそに彼女は続ける

「過去の依頼では、友好関係にあった国同士の仲を、過去から最悪だったことに置き換えて、戦争に発展させたこともあるわ

 この能力があれば、今の日本をよりいいものにできると思っているんですけど、どうでしょうか?

 その前にまずは下積みということで人々の悩みを聞いています!」

ほんと、話についていけない。何を言っているんだ?

「すみません。私用事思い出しちゃって・・・」

そういってその場を離れようとしたら

「あ、ごめんなさい。私ずっと話してましたね。何か困ったことがあったら名刺の連絡先で待ってます!」

彼女は元気に手を振り、私はその場を離れた。


さっきの女は一体何だったんだ?

年齢は175歳?神人とかじゃなければありえない年齢だ。

それにあの能力、まだ超能力の方が信ぴょう性がありそうだ。過去を改変して現在は変わらない。親殺しのパラドックスを起こしたらいったいどうなるのか質問すればよかったか?いや、めんどくさい話が増えていくだけだ。

そう思い、私は帰りの電車に乗った。

家につくとマネージャーの健吾から電話がかかってきた。どうやら次のライブ会場が決まったらしい。そのため早急に曲を作ってほしいという依頼だった。

私はため息をつきながらパソコンに向かい、曲作りを始めた。


・・・


納期2週間という短期間で仕上げた曲はもう少し詰めたいが時間が無いので、一旦提出する。

どうせ、レコード会社に文句の一つや二つ言われるんだから、その時にまた詰めればいい。

伸びをして席を立つ。時間はもう夜中だ。

家族はもう寝ている。


起こさぬよう部屋を出て電気もつけずリビングへ、少しでも腹ごしらえができるものを探した。

突如、部屋に電気がつく。後ろを振り返ると父親が立っていた。

「こんな夜遅くに何をやっているんだ?」

父親は怒るでもなく、ただ心配そうな顔で私に問いかけた。

「その疲れた顔、ここ数日まともに部屋を出ていなかっただろう。その、心配なんだよ父さんは・・・」

ふと、近くにあった鏡で自分を見た。酷くむくんでるしクマもスゴイ。そりゃ心配になるわな。

「別に大丈夫だよ。大きい仕事は今片付いたから」

「そう・・・ならいいんだが」

何か言いたげで父親は部屋を出る。

「夢を追いかけるのは素晴らしいことだ。だが、どうしても心配なんだ・・・」

最後は私に言ったのか自分に言い聞かせたのかわからなかったが、吐き捨てるように言った。

私も何か食べたら寝よう。

そうして、冷凍のご飯を温めて塩むすびにして食べた。


・・・


「こんな曲で人気が取れると思ってるの?」

レコード会社のお偉いさんが言う。

「だから、ベースの歩佳ちゃん曰くその曲はストーリーがあって・・・」

「そういう話をしてるんじゃない!あんたら才能あるんだから、もっといいのが作れるんじゃねーのって聞いてるの」

私の反論をかき消す大声。ほかのメンバーとマネージャーはビビっている。

こっちが言い返さないのをいいことにさらに続けていってきた。

「こっちだって、遊びでやってるんじゃないんだよ。金が重要なの。もっといい曲作れねえのかって聞いてんだ!」

「・・・そんな言うんなら、てめえが作ってこいや!その売れる曲っていうのを!」

思わず、私もヒートアップしてしまった。もう誰も止められない。

いつもこうだ。殴り合いだけで済めばいいが、だが、これでいい。

メンバーを守るのもリーダーという立場なのだから。


「いてて・・・」

バンドの練習場所として使っているアパートの一室で私は頬に氷を当てて、腫れを抑えてた。

「また派手にやったね」

ドラムのもねが私に声をかけた。

「あのお偉いさんも大概だけど、いくらなんでもやりすぎだよ露理。幼馴染として、あんたの性格よく知ってるから止めたところで無駄なんだろうけどね」

「当たり前じゃん。今更止まらないよ私は。それに」

「それに?」

「以前みたいにほかのメンバーに危害が向くことが無くなるじゃん?」

「・・・確かにそれはありがたいけど、さあ」

「私が悪者になればいいんだよ」

「・・・」

もねは苦虫を潰したような困った顔で私を見た。

「さあ!練習をしよう!次のライブも近いよ!」

「・・・」

「どうしたの?もね」

「あんたこれ知ってる?」

そういって私にスマホを見せてきた。

そこには私たちのバンドに対する誹謗中傷が連なっていた。

「うわ、結構言われてるね」

「そろそろ、ファンに向かって悪口を言ったり、今回みたいな騒動を起こすのは辞めといたほうがいいと思うよ。今だったらまだ挽回できると思うから」

「大丈夫だよ!アンチが付くほど有名になったっていう証拠だから!」

「違う!私はあんたが心配なの!」

「・・・」

「あんた、いつも強気で頑張って、私たちには一切頼らない!それでいて、メンバーが間違ったことしてもすべて自分の責任って自分を押し付けて、いつか潰れるんじゃないかって心配で・・・」

だんだん声が小さくなって最終的には涙ぐんだ声になってしまった。

「ごめんね、心配かけちゃって、もっとしっかりするから。だから・・・」

もねはより感情的になり、私の胸を掴んできた。

「なんで理解してくれないの!少しは私たちに頼ってよ!」

「頼ってるよ。いつも。じゃなければバンドってできないでしょ?」

「そういう意味じゃ・・・」

「さ!早く戻ろう!最高の演出をファンに見せればアンチも黙るよ!」

「・・・」

もねは何も言ってこなかった。

大丈夫。私がいれば何も心配はいらない。私がいるそれだけで大丈夫だから。


・・・


数日後、曲はすべて何とか完成させた。達成感が半端ない。

確認お願いします。とメールを打ち、今日の仕事はこれでおしまい。

しかも休日の昼間だから、のんびりしていてもモウマンタイ!

「ちょっと漁村の方まで買い物行くけど行く?」

母親が部屋に入ってきた。

「ん~いいかな?弟たちは?」

「行かないよ、お父さんと行こうかなって」

「あ、そう」

「じゃあ戸締りよろしくね」

そういって両親は家を出た。家には兄弟全員がそろっていた。

だからと言って特にやることは無い。むしろ疲れたからもう少しのんびりしようと地面に横たわった。

1時間ぐらいたっただろうか、何もしていないのにヘアスプレーが落ちて、顔にぶつかった。

「いって~」

と上体を起こしたとき、異変に気付いた。

まるで地面が唸るかのような、いや違う。まるでアトラクションに乗っているような揺れだ。

直感で命の危機を感じる。


大地震だ


私はすぐ体を起こし、倒れるものから離れた。

家中がきしむ音、弟たちの悲鳴も聞こえる。だが助けに行けない。とても歩ける状態じゃない。

本棚は倒れなかったが本が飛び出し、机の上のパソコンのモニターは倒れてしまった。

揺れが収まり、弟たちの安否を確認した。幸い全員けがはなかった。

「いったん家を出て公園にいこう!その方が安全だよ」

私は弟たちに言い聞かせ家を出た。

大丈夫だとは思うが倒壊とかしたら命が危ない。

私は影華の手を取り、貴重品だけ持ち家を出た。後ろには弟たちがついてきている。

町中は共変していた。倒壊している家がちらほらあった。

何とか家の近くの公園にたどり着いた。そこには多くの人たちがいた。中には大けがをしている人がいて、この地震の大きさを物語っていた。

「露理ちゃん!大丈夫だった?」

近くに住んでいるおばさんが声をかけてきた。

「ええ、兄弟たちもけがが無くて」

「よかったぁ・・・あれ?お父さんとお母さんは?」

「今出かけてて、漁村の方に買い物行っちゃって・・・」

「えー大丈夫?こんな大きな地震だったら・・・」

その時

遠くからサイレンの音が聞こえた。

あの音は、確か・・・

「あの音って、津波警報じゃないか?おい!漁村の方は大丈夫なのかよ!」

そう叫ぶ声が聞こえた。私はとても嫌な予感がした。

「おばさん!すみません!弟たちを見ててくれませんか!」

「えぇ、いいわよ?」

「ちょっと見てきます!」

「ッ!危ないわよ!」

そんな声を無視して、私は走り出した。


町の端、通称壁と呼ばれる山を上って見えた景色は今まで見てきた景色と違った。

どす黒い水が辺りを消し去っていた。

「・・・」

周りにいた野次馬たちも声が出ていなかった。

私もこの光景に圧倒された。

頭が真っ白になった。

見たことも聞いたこともなかったからだ。

「やめて!離して!」

少し離れたところで、幼い女の子が暴れている。大人二人でようやく抑え込まれている。

「お父ちゃんとお母ちゃんが!」

その言葉を聞いて、思わず私はハッとした。

私はお父さんとお母さんを探しに来たんだ。

飲まれたなんて、そんなはずない。

だって、まだこの目で何も見ていない。

「お父さん・・・お母さん・・・」

私の足は勝手に動いた。山を下りどす黒い水に向かって歩き出した。

「お父さん!お母さん!」

嫌だ、そんなこと想像することも嫌だ。だけど・・・だけど・・・

「パパ!ママ!」

私は走り出した。1秒でも早くママのところに行きたい!

「何してるんだ!」

男の人が私の手を掴んできた。

「私の・・・私の両親があの町にいるんです!」

「・・・大丈夫だ落ち着け、ほらあそこ」

男の人が指をさしたところを見る。

そこには大きなショッピングモールの屋上で待機している沢山の人たちがいた。

「きっと両親もああいった避難所で避難してるよ。だから今は一旦戻ろう」

「・・・」

私は素直に従った。


公園に戻ってきた。

兄弟たちは心配そうな顔で私を見た。

「お父さんとお母さんは大丈夫そうなの?」

文十が言う。私は笑顔を作りいった。

「大丈夫だよ。漁村の方には避難所もあるし、きっと避難しているはず。」

その後、家にいったん帰り私たちは両親の帰りを待つことにした。

日が暮れても、両親は帰ってこない。電話も出ない。

真一が私の元にやってきて言った。

「お姉ちゃん。夕飯とかどうする」

「・・・そういえばお腹すいたね。作り置きとかなかったかな?」

私は冷蔵庫を開けて、食べ物を出して兄弟でご飯を食べた。

「おかあちゃんは?」

影華が無垢な声で言ってきた。

「ちょっと帰りが遅れてるだけ。大丈夫すぐ帰ってくるから」

その時、電話が鳴った。

「ごめん先食べてて」

私はリビングから離れ電話に出た。

電話先はマネージャーの健吾だった

「やっとつながった!大丈夫?そっち地震凄かったんじゃない?」

「ええ、ですが全員けがなかったのが幸いですかね?」

「そうなんだ。よかったぁ、こんだけデカかったらしばらくバンド活動できなくなると思うから、それを伝えたかったんだ」

「わかりました・・・」

「どうした?元気ないけど・・・あ、いや被害に遭ったらそりゃ元気ないよね!ごめん変なこと言って」

「実は、両親と連絡とれないんです・・・」

「・・・わかった。一応こっちも連絡先知ってるからこっちからでも安否が取れないか連絡するよ」

「ふふ。マネージャーってお金にがめついだけじゃないんですね」

「失敬な!当たり前だろ!」

電話は切られた。マネージャーは怒ると顔がすぐ赤くなるから今頃赤くなってるんだろうな。

私は適当にご飯を食べ、余震が来てもいいように家中に対策を施した。



三日後。両親が死んだことが伝えられた。


車に乗っているところを飲まれたらしい。遺体が見つかり、身分証から警察が私達に伝えてきた。

真一は泣きはしなかったが涙目で現実を受け止めた。

文十は思いっきり泣いた。

影華は何が起きたか理解できていなかった。

私は・・・泣けなかった。理由はわからない。ただ、受け入れなければならないと思った。

私があの時、買い物に行くのを止めていたら。

もし、私が一緒に行っていたら。

何か、変えられたんじゃないか。

そんな選択の間違いが私に襲い掛かってきたからだ。長女として、私は最悪のミスを犯してしまった。


私はどうすればいい?何が正解?それが分からない。

誰に頼るのが正解?私がみんなを支えなければならない?

どうすればいいの?誰か答えを教えてくれないの?

どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば・・・


気が付いたら私の部屋は酷く荒れていた。

物が散乱し、指の感覚が鈍くなるほど手が赤く腫れていた。

部屋を出ると真一が待っていた。

「・・・大丈夫?すごい音がしてたけど・・・」

私は、やつれた顔を隠し、なるべく笑って答えた。

「ごめん。ちょっとストレスが溜まってたみたい。今のでだいぶ落ち着いたから」

真一が私の部屋を覗こうとしたが、とっさに扉を閉めて隠した。

こんな姿は弟たちには見せられない。

両親が死んで1週間、食事の味もしない。

余震に怯える声も、もはや意識しないと私には届かない。


もはや私は何も感じなくなってしまった。


・・・


ここ一か月、記憶がない。

弟たちはちゃんとご飯を食べられているのだろうか。一緒に住んでいるのにそれすらもわからない。

スマホの通知が凄いことになっていた。バンドメンバー全員からの電話やメッセージだ。

またかかってきた。今は、返信する元気もないが間違えて出てしまった。

「やっと出た!ねえ大丈夫?」

電話先は幼馴染だった。

「・・・」

私は何も言葉が出なかった。

「ほんとに辛い中お願いがあるんだけど、一回スタジオ来てもらっていいかな?」

「・・・わかった。行くよ」

私は、何かにすがるように返事をした。いや、何かを伝えるために応答した。


弟たちには帰るのが遅くなると伝え、家を出た。

電車は津波の被害を大きく受けていたが、一部区間で動いていた。

人が少ない電車に乗り込み、スタジオへ向かう。


スタジオの扉には鍵がかかっていなかった。

扉を開けると私に気付いたゆうかが真っ先に私にハグをしてきた。その顔には涙が浮かんでいた。

「ずっと心配だったんだから!」

顔をうずめながら言ってくる。

「ちょっと一か月も連絡なしってどういうこと!全員心配してたんだよ!」

歩佳が怒り顔で言ってくる。だがその目には涙が浮かんでいた。

「大丈夫?その・・・ちゃんと寝れてる?」

もねが言う。

私は、スタジオの、慣れ親しんだ楽器が並ぶフロアへ足を踏み入れた。

そこには健吾が立っていた。

「ありがとう。来てくれて。とても辛いかもしれないが、何があったか話してくれないか?」

私は、親が津波に飲まれて遺体を見たことを伝えた。

皆、口を押え驚いた顔で私の話を聞いていた。

「・・・私にはリーダーとしての資格がないかもしれない」

そう私が切り出すと、皆何も言ってこなかった。

健吾が口を開き

「そんなことない。君は責任感が強いからそう感じてしまっているだけだ」

「だけど、最近弟たちにどうやって接しているかわからないし、こうやって皆のことをひたすら無視して自分だけのことを考えていたから私にはそんな資格はない!」

私にもわからなかったが、大きな声が出てしまった。

歩佳が口を開く

「・・・今回ばかりは例外だよ。私だって・・・そのぉ、同じようなことになると思うし」

「あんたは一人っ子だからわからないんだよ!兄弟を守ることが!」

ダメだと思った。だが口が先に動いてしまう。

歩佳は怒った顔で私を見つめたが何も言ってこなかった。

「・・・そこまで言わなくてもいいんじゃない?」

ゆうかが言う。

「あんたはメンバーの最年少だから、あんたこそ甘えてるんじゃないの?私の気持ちは理解しようとしてないんじゃないの?」

「露理!」

もねが止めに入る。ゆうかは今にも泣きそうな顔だ。

「あんたもあんただよ!なに私の唯一の理解者みたいな立ち回りして!私の何がわかるっていうの!」

「私だって露理を理解しようとしてるよ!それをわかってないのが露理なんじゃないの?」

「じゃあどう理解してるの?親を失って、弟たちを守らなければいけないこの私の気持ちをどう理解してるの?このグループのリーダーとしてどのように立ち回ればいいか理解してるの?私がどれだけ苦労して、私がどれだけ辛い思いをして、あんた達に立ち振る舞いをしてると思ってるの!?」

「やめろ!」

健吾が大声を出し、制止した。

「いったん落ち着け、頭を冷やせ、今周りを敵に回すべきじゃないだろう」

「・・・」

周りを見た、全員が困った顔をしているし、泣いている人もいる。

こんな状況に私がしてしまった。

「君の気持ちを理解するのは正直難しい。だからせめて、このグループを憩いの地にしてほしいんだ」

健吾が言う。やめて。

「だから、一旦今のは水に流そ・・・あ、いやそういうわけじゃなくて」

やめて、やめて。

「いったん災害を理由に活動を休止して・・・」

私は、涙があふれた。もうこのチームのリーダーである資格がない。

もうここにいる資格がない。

「・・・私、やめます」

全員が驚いた顔をしたが誰も何も言わなかった。

しばらく葛藤した顔で男が言う。

「わかった。だが俺たちは君の味方だ!だから、何があっても露理のことを見放さないし、助けてほしいことがあったら必ず言ってほしい」

女性たちは男の方を見て何か言いたげだった。だが誰も何も言わない。

男が何か言っているが、私にはわからなかった。


気が付いたら家の前にいた。

どうやって帰ったか覚えていない。

玄関を開けると、弟たちが心配そうにしていた。だが、心配させてはいけない。私は頑張って笑顔を作った。

「ごめんね遅くなっちゃった。ご飯作るから待ってて」

そういってリビングの方へ向かった。


・・・


レジ打ちの仕事をする。

スーパーのバイトでも地に足のついた仕事をしなければならない。

それに仕事している間は嫌なことを忘れられる。


「伊岳さん、休憩の時間だよ」

おじさんが私に言ってきた。

「わかりました。休憩行ってきます」

休憩所にはおばさんが一人、先に休憩していた。

私は、持ってきた昼ごはん用のおにぎりを食べて、壁を見つめた。

「伊岳ちゃん大丈夫?」

おばさんが声をかけてきた。

「ずっと虚空を見つめてるけど、何かあった?」

「・・・」

「もしかして、大震災の被害者?だとしたらごめんね、変なこと思い出させちゃって」

「・・・大丈夫です。もう慣れました」

「ちょっと話してくれないかな?おばさんこう見えても元々福祉の施設で働いてたからもしかしたら助けになるかもしれない」

「・・・」

私は親を失ったこと、弟たちを守らなければならないことを伝えた。

おばさんは真剣に私の話を聞いてくれた。だが、話したところで状況は変わらない。

「そんな状況だったら、きっと助けるすべがあるわ。保険とかわかる?」

「・・・わかりません」

「そう、だったら今日でも家にあるはずだから必ず探して」

「・・・わかりました」

「こんな若いのにこんなところで暇を潰しちゃダメ。どんな困ったことでもおばさんに話して。必ず助けになってあげるから」

そういって、連絡先が書かれたメモ用紙を渡してきた。

こんなもの。いらない。


バイトから帰り、笑顔を作って玄関を開けると、真一が文十のことを殴っていた。

「何やってるの!」

私は靴を脱ぐのを忘れ、家に入り込み、真一を制止させた。

真一は暴れて、私の知っている真一ではなかった。

「こいつらが来てからこの家はおかしくなったんだ!父さんと母さんが死んだのはこいつらのせいだ!」

「やめなさい!そんなことない!」

「文十と影華は養子!こいつらが不幸を連れてきた!」

私は我慢ができなかった。家族は家族。守らなければならないのに、どうしてこんなことになるのか理解できなかった。

気が付いたら私の手は赤く腫れていた。

「やめなさい!真一だって・・・」

私は口を押え、冷静になった。

真一は頬を抑え怯えた顔で私を見ている。文十もそうだ。

なんてことをしてしまったんだ。なんてことを言おうとしてしまったんだ。

私は・・・私は・・・


お姉ちゃんとして失格だ。


よろけながら後ずさりして、家を出る。

もう何が正しいのかわからない。月明かりが照らす町をただひたすら走る。

走る。誰も声も聴きたくない。もう消えてしまいたい。もう私は私じゃない。

この怪物を消し去るにはどうすればいい?何をすればいい?もう私は何をすればいいのかわからなかった。


「ここは?」

気が付いたらとても遠くまで来ていた。

私は体力がなくなり、その場に倒れた。

月光が私を照らしている。その光すら忌々しく思う。

私は思わず吐いた。胃に入っているものを出すためじゃない。この体に入った邪悪な物を出すためにただひたすら吐いた。

意識が朦朧とする。もう消えてしまってもいい。そう思ったとき、頭に浮かんだのは弟たちの顔だ。

私が消えたら弟たちは誰が守る。お父さんとお母さんを失った彼らにさらに私というピースを失ってしまうことになる。

私は消えるわけにはいかない。だけど、消えてしまいたい。

もう、正常な思考は私にはできなかった。


すると、捨てたはずの名刺が、カバンから滑り落ちた。

「歴史改変ならおまかせ! 改変家 カリー・ソムラミ・真理(まり)

そうだ、この人なら解決できるかもしれない。


そう思い、フラフラしながら歩み始めた。


時間は・・・わからない。もう夜中かもしれない。

名刺に書かれていた住所にたどり着いた。雑居ビルの4階だ。

扉には名刺と同じ文言が書かれており、24時間営業とも書いてあった。

インターホンを鳴らすと、声が聞こえ扉が開いた。

「いらっしゃ・・・あなた数か月前に海辺で会った方?」

あの時の女性が現れた。

「そうです」

「にしては、ずいぶんと変わったね。痩せこけてるし、覇気もない」

「色々あったんです」

「まあ、とにかく入りなさい」

彼女に誘われ、私は事務所に入った。

内部はアンティークな内装でまるで西洋にやってきた雰囲気を感じた。

私は案内された椅子に座った。

「カフェインゼロだから」

そういって彼女は紅茶を出してきた。とても飲める気がしない。

「で?悩みは」

彼女が私の正面に座りながら話を振ってきた。

「・・・私の両親がいたことを消してほしい」

彼女は口に含んだ紅茶を噴き出して咽ている。

「ゲホッ・・・ゲホッ・・・はぁ!?何言ってるの?」

「私の両親がいなかったことにすれば・・・」

「待て待て、まったく話が見えない。まず、その考えに至った経緯を教えて」

「・・・この前の震災で私の両親が死んだ。仕事のバンドも私が守れなかったし、なにより、私の弟たちを守りたかったのに、手を出してしまった。こんな私が生きている意味もないし、だからと言って私が死んだら兄弟たちが悲しむ。だったら私の両親が元々いなくなればすべてが丸く収まるの」

「・・・まずはご愁傷様です。そして、聞いたうえで言ってる意味がよく分からない」

「・・・」

「まず、両親がいなかったことにすると弟たちにも影響が出ると思うけど」

「大丈夫。血がつながってるのは私だけ。私以外は養子だから」

文十と影華は約7年前に難民として他国からやってきた。そして真一は18年前、私が5歳の時にお母さんが連れてきた。

私以外全員養子。私だけ特別なのか私だけ仲間はずれなのか。何度も考えたことがある。

その嫌な記憶も思い出してしまった。忘れてたはずなのに。

「・・・なるほど、つまり、両親がいなかったことにすれば、弟たちには元々両親がいなかったから災害の被害者にならないし、影響を受けるのが自分だけになるってことね」

「・・・」

「まず、大前提として死者を蘇らせることはできない。まあそれを望んでないみたいだけど。あと、こんな依頼は初めてだよ。どんな影響が出るか私にもわからない。下手したらあなたの存在そのものが消えることになる可能性だってあるのよ」

「それでもいい」

「正直私も信頼の問題もあるし、そう簡単にやってあげるって言えないの。増してはこんなリスク・・・」

彼女が何か言っている。変な話なんか言ってないで私が早くこの世から消してほしい。もう生きている価値もないのだから・・・

「聞いてるの!」

私の顔面の間近で声を出した。

思わずハッと意識を取り戻した。

「あんたね、その様子じゃ助け舟出してくれた人いるんじゃないの?その人に頼ってみたらどう?」

「助け舟?いなかったよ・・・」

彼女は少し悩んだ顔をした後、そういうことかと言って、立ち上がった。

「お代は無料でいいわ。だけど、最後の警告よ。本当にあなたに助け舟を出してくれた人はいなかったの?」

「いなかった!何度も言わせないで!」

「・・・あなたって多分、人の話をちゃんと聞かない人間なのね」

そういって彼女は私の頭に手を当てた。

その瞬間すべてが楽になった気がした。


・・・


俺は文十になんてことをしてしまったんだ。

兄として取り返しのつかないことをしてしまった。

文十には謝罪をしたが、口をきいてくれない。それに姉ちゃんも家を飛び出してから帰ってきてない。

「おねえちゃんは?」

影華が眠たそうな目をこすりながら俺にやってきた。

「・・・わからない」

そう言うしかなかった。

俺も大人だ。いつまでも子供のままでいられない。増しては今の状況だと俺もしっかりして姉ちゃんのサポートしてやらないと。

姉ちゃんが帰ってきたら謝ろう。そして、一回やり返そう。

そして、仲直りして・・・


仲直り?誰と?

ああそうだ、文十と喧嘩したんだっけ?どんな内容で喧嘩したんだっけ?もう覚えてないや。

覚えてないってことは大したことじゃねえな。

もう夜遅いし、寝て明日謝ればいいか。

「影華、もう夜遅いし寝よう」

「うん・・・」

にしても珍しいな影華がこの時間まで起きてるなんて。

窓の外の町はやけに静かだ。それもそうか、ついこの前まで災害に遭ったんだから。

明日もボランティアに参加して被害者を助けないと。幸い俺たちは何も失わなかったから最低限のことをしてあげないと。

それが被害に遭っていない者の役割だからね。


・・・


気が付いたら公園で寝ていた。

ここは?私は?

あれ?私って誰だっけ?でも、思い出してはいけない気がする。

思い出したら何かが崩れちゃう気がする。


あぁ、朝焼けが気持ちいいな。


・・・


私は炊き出しの列に並んだ。

災害の被害者ではなかったが、そのツラをしていた方がましだった。

何をして、どのようになったのかは覚えている。

弟たちを守りたくてこの選択をしたのも覚えている。

だが、”私”に関することはすべて忘れてしまった。そして、私のことを覚えている人は誰もいなかった。

私は避難所となっている学校の隅で豚汁を食べた。まもなく夏になるということで熱かったが腹に何か入ればそれでよかった。


私はこの後どうしよう。避難所の医師からは災害によるショックで記憶を失った人として処理されており、行政に手続きすれば新たに戸籍を手に入れられると聞いた。

だが、私には頼る人がいない。このまま消えてしまってもいいと考えていた。


私は食べ終わると片づけを手伝い、学校を後にした。

学校に長居するのはあまり良くない。だって・・・え~っと弟の名前なんだっけ?

とにかく!弟の学校だから居心地が良くない。

しばらく歩いていたら慣れ親しんだ公園についた。ここでよく遊んだっけ?

何して遊んだんだっけ・・・?誰と遊んだんだっけ・・・?

ダメだ思い出せない。だけど、それでいい。

それが私の選択した結果なのだから。

私は公園で一休みすることにした。

大きな木の下で地面に座り、思いに耽っていた。


私、今後どうしよう。


木漏れ日が痛いほど私を刺す。

ボロボロの服を着た私には、こんな晴れ晴れとする天気すら忌まわしかった。

太陽は私には似合わない。どうせだったらこのまま吸血鬼のように灰になって消えたい。

不思議と死にたいとは思わなかった。こんな精神が不安定でもどこか冷静でいられるもんだなと変に感心してしまった。


しばらくしたら私はうたた寝をしてしまった。

目を覚ますと、少年が立っていた。

「お姉さん大丈夫?」

年は10代前半。赤い半そでに緑の帽子・・・

その緑の帽子。見覚えがある。弟がよく被っていた帽子だ!

私は動悸がした。早くこの場を逃げたい!今の私は弟に会わせる顔なんてない!だけど・・・

私は立ち上がり、少年に思わず抱きしめてしまった。とても懐かしい匂いがした。

「・・・ごめんね」

ひねり出た言葉は謝罪だった。

抱きしめた時間はわからない。1時間かもしれないし1秒だったかもしれない。

私は少年から離れ急いでその場を後にした。


数日後、私は商店街の道端にただ座っていた。

学校にいるのは居心地が悪い。それ以外の避難所も私を生かそうとしてくる。

このまま雨が降ったら私は泥のように消えてしまいたい。

今の私、どんな姿になっているんだろう。物乞いをするわけではないが、通行人からは物乞いにしか見えないのだろう。

おかげで私の足元にはおにぎりや小銭があった。いらないのに。

「ちょっと、お姉さんここに座られちゃ困るよ」

警備員らしき人が私に言ってきた。

「被災者だったら学校とか大きな公園に行ってくれるか?」

「すみません。今どきます」

私は立ち上がり、その場を後にしようとした。

「ちょっと、このおにぎりとか持ってってもらっていいか?ゴミ増やされても困るんだよ」

「・・・」

私のものじゃないと言いたかったが、口論しても仕方がない。

私は黙って地面に落ちているものを拾った。

またどこか座れる場所でも探そうかな。そう思ったとき、緑の帽子を被った少年が年が離れているであろう少年と、妹っぽい子を引き連れて現れた。

あの少年だ。

私は動きたかったが、まともなものを口にしてなかったからか立ち上がったら、フラついてその場で膝をついてしまった。

動かなければ、逃げなければ、朦朧とする意識と焦点の合わない視線とは裏腹に鼓動だけが明確に私を襲う。

目の前に手が差し伸べられる。

帽子を被った少年が心配そうな顔で私に手を差し伸べていた。

そうだ、この子は困っている人を見過ごせない子だった。

「・・・大丈夫」

枯れた声をひねり出し、立とうとするがうまく立てない。

すると少年は私の肩を持ち、サポートしてくる。動悸が止まらない。

何とか立たせたところで、少年は口を開く。

「あの時のお姉さんだよね。ご飯食べてるの?」

「はぁ・・・大丈夫、ありがとね少年」

何とか平常を保ち、誤魔化そうとする。

「お姉さんこの前のあのお姉さんだよね」

「はぁ・・・はぁ・・・」

動悸が止まらない。胃から何かが出ようとえずく。

だけど、弟たちにはいい顔をしないと。

私は必死になり笑顔になった。

「大丈夫だから、もう・・・戻れないだけだから」

なぜこの言葉が出たのかわからない。だけど伝えなければならないと思った。


しばらくして落ち着き、歩き出した。少年達はずっと私をサポートしてくれている。

近くの避難所についた。

「ずっと死にたそうな顔してたけど、もしかして家族とか失ってしまったのですか?」

長男と思わしき子が言う。

「・・・ごめん、あまり言いたくない」

「あ、いやそんなつもりは無くて、俺たちボランティアやってるんで何かあったら助けになるかな?って」

そういって彼は私にチラシを渡してきた。

私は思わず、その手を跳ね除けてしまった。

自分の手を見つめ、こういうこと前にもしたという後悔を思い出してしまった。

「・・・ごめんなさい。もう大丈夫だから。一人にさせて」

そう少年たちに伝え、少年たちは離れようとした。

「バイバイおねえちゃん」

一番下の少女が言う。その声が懐かしい。

さらに私の胸をえぐる。


・・・


ここは・・・どこだろう。

つたない足で歩き続けて今は木々しかないところまでやってきた。

もう私には生きる気力もなく、このまま餓死するのを待っていた。

野生動物に食べられれば、少なくても自然には貢献したことになるのかな?なんて考えていた。

月光が木漏れ日のように地面を照らす。私はその光に入らないよう膝を曲げた。

何も考えれない。何もしたくない。


ようやく、この世から消えれる。

私は意識を手放そうとした。


「探しましたよ」

目を覚ますと、目の前に女性が立っていた。

「私のこと覚えてますか?カリー・ソムラミ・真理です。あなたをこの世から消した人です」

そうだっけ?もうそんなことも覚えていない。

「にしても、痩せましたね。ダイエット成功ですか?」

改めて自分の手を見る。比喩無しで骨と皮だけだった。

「あなた、弟たちを守るって言ってこの決断をしたんですよ。今はそんなになってしまっても弟たちを守ることってできると思いませんか?」

もう一度女性の顔を見る。

「私の組織に入りなさい。そうすれば、今後あなたがこんな決断をしなくてもよくなる世界を作れるはずです。あなたにはそれができる才能がある」

女性は私に手を差し伸べた。

私は一度、手を跳ね除けた。

「弟たちを守りたいんじゃないんですか?」

もう一度手を差し伸べてきた。

・・・そうだ、私は弟たちを守りたいんだ。弟たちが何一つ苦労をしないで幸せに暮らしてほしいんだ。

だから、今の私がいるんだ。だから、私はあの決断をしたんだ。

「それと、お代分働いてもらいますよ」

「・・・」

私は女性の手を取った。


・・・


「あの女性なのか?」

兄貴が言う。

「うん、間違いない。僕にいきなり抱き着いてきた人だよ」

「単なる不審者か?」

「いや、違うと思う。なんか謝ってきたから」

僕はお気に入りの帽子を外しながら家に入った。

僕は、何かを忘れている気がする。それはこの兄弟全員同じことを言っていた。

この家にはもう一人誰かいたはず。だけど思い出せない。

「兄貴も気になってるんじゃないの?もう一人の家族」

「・・・そりゃ気になってるけど、あの人なのかは決まったわけではないだろ」

お互い靴を脱ぎ、家に上がる。

ふと後ろを向くと影華が玄関の外にいた。

「影華なにしてんだ?」

「さっきのおねえちゃんをまってるの」

「何言ってるんだよ、さっきのお姉さん単なる被災者だよ」

「ちがうよ!いつかここにくるもん!」

影華が向きになって家に入ろうとしない。

「兄貴どうする?」

「とりあえず家に入れよう」

そういって、兄貴は影華を抱きかかえ家に入れた。


家では兄貴と俺で家事を分担して行った。

ずっと前からこうしていたはずなのに慣れてない。

震災で記憶がぶっ飛んだかもしれない。

夜ご飯を早めに食べ、ボランティアのため夜の避難所に向かった。

そこには多くの被災者がおり、中には影華ほどの年齢で親を失った子もいる。

それほどこの災害は大きな被害をもたらしたのだろうと毎回圧倒されてしまう。

僕は炊事の手伝いをしつつ、あのお姉さんを探した。だが、どこにもいない。

もしかしたら、またどっかに行ってしまったのかもしれない。

そう思い公園を飛び出したら目の前に背丈の高い女性が歩いていた。

「すみません。この辺で服がボロボロで痩せこけた女性の方ってみませんでした?年齢は20代ぐらいだと思うんですけど」

「あら、もしかしたらその女性私が探している人かもしれない。少年。もし見つけたらここに連絡してくれる?」

そういって女性は僕に名刺を渡してきた。そこに書かれている内容は

『歴史改変ならおまかせ! 改変家 カリー・ソムラミ・真理(まり)

変な肩書だなと思いつつ、僕は女性に質問をした。

「なんで、そのお姉さんを探しているんですか?」

「お得意様なんだけど、お代を徴収し忘れちゃって・・・」

困った顔で言ってきた。

「そういう少年はどうしてその女の人を?」

「・・・なんか懐かしい感じがしたんです。こんなことを言うのも変かもしれませんが元々家族だったんじゃないかって」

それを言った瞬間、女性の顔は驚いた顔をしていた。

「なにかありました?」

「あ、いえ、なんでもない・・・」

そのままブツブツ何かを言いながら足早に去って行った。


もしかしたらあの人、何か知ってるかもしれない。


僕はそう確信した。


・・・


「そういえば、あなた新しい名前を決めたの」

「・・・」


私は首を縦に振った。

これのアンサーソングみたいのを2023年に公開してました。

https://youtu.be/CaQ-RnilU0M

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