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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第二章 S高の禁じられた七不思議
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第35話 欠片は揃いて

「校内で行方不明……ですか?」

「うん。あの日ひめちゃんは確かに登校していて、四時間目までは普通に授業を受けてた。けど昼休みの後からどこかに行っちゃって、それから、誰もひめちゃんを見つけられなかった」


 学校には靴や鞄が残されていた。昼休み以後通学路での目撃情報もなく、街の店の監視カメラや道路の見守りカメラにも映っていなかった。

 学校の中で消えた。

 七不思議のすべての怪談を知ってしまった彼女は、【開かずの教室】に連れていかれてしまったのだ。

 ……そんな噂が立ってしまった。


 これが『S高の禁じられた七不思議』の真相。

 特別棟三階女子トイレ。加洲かしまにとってトラウマの始まりであるその場所で、彼女は深衣みいに語った。


 偶然この場所で出会った学校の人気者・すみ小灯芽こひめ

 彼女に惹かれていた加洲は二人きりになれる場所を守るため、新聞部という立場を利用して学校新聞で七不思議の怪談を広め、小灯芽との密会場所に近づけさせないことを画策した。

 しかしそれは裏目に出て、刺激を求める生徒たちが校内を巡り歩くようになり。

 逆に小灯芽が一人になれる場所を学校から奪い去ってしまった。


 怪談ブームが熱を増し、加洲による最後の七不思議発表が待たれる中。彼女は小灯芽が見知らぬ先輩に告白され交際を承諾してしまう現場を目にする。

 付き合い始めたらきっと、小灯芽が一人になれる時間はより少なくなる。無論、自分がそばにいられる可能性など、微塵も残されないだろう。

 絶望の中で彼女が夢想するように書き上げたのが、深衣たちが探し求めたその怪談。

『開かずの教室』。

 七不思議を追い求めた生徒全員への淡い復讐心と、すべての発端である己への自罰的な呪い。そして、小灯芽と二人きりで過ごせる理想の場所として、実在の噂をモチーフに創作されたもの。


 この名前を知り、六つの怪談すべてを知った人間の前に扉を現し、中へと引きづり込む怪異。

 その部屋に取り込まれた者は永遠に閉じ込められて、どんなに泣き叫ぼうと誰にも気づかれることなく、絶対に出ることはできない。


 そこに小灯芽は連れていかれたのだと、2017年の晩秋、学校内外でまことしやかに語られた。


 学校は急造の校則を根拠に「七不思議禁止令」を出し、怪談ブームに沸いていた生徒たちの間には「小灯芽のように行方不明になりたくなければこれ以上探ってはならない」という暗黙の了解が形成され。


 こうして、標戸の高校を舞台とした一つの都市伝説『S高の禁じられた七不思議』ができあがった。


「あんなことになるなんて、考えもしなかった……」

「先生……」



「そら、普通の人は考えもせんでしょう」



 凛々しく清らかな声がして二人は振り向く。

 入り口を塞ぐようにしてもたれ掛かっていたのは、絹のような白髪をおさげにした二年生の生徒。その後ろから覗くようにして、碧の瞳を持つハーフの一年生も立っていた。


「こみ先輩、カルテちゃん!」

「ミーコ! なに相談なしに突っ走ってんのよ!」

「あなたたち……今の話、聞いてたの?」

「はい。まー、先生と小灯芽ちゃんって子の出会い話のあたりからですけど」


 小路こみちとカルテは深衣からのメッセージを見てから学校へと急いだ。ほぼ同時に校舎に到着してバッタリ鉢合わせた二人は、そのまま強い霊的気配を放つ深衣の元へ直行。

 その時には加洲の説得が終わって話を聞きだしているところだったので、区切りがつくまで聞いていた、というわけだった。


「人払いの呪詛と、耳晦ましと、あと隠形も使って隠しといたから他の生徒は来んかったけどな。フツーに外まで聞こえてきとったで、みーちゃん」

「ごめんなさい……なんというか、勢いでそうなってしまったのです」

「呪詛……? そういえば、あれが夢じゃないのなら、小路さんって……」

「……加洲先生。こうなったからには、ウチも誠実に全部を話させてもらいます。他言無用・秘密厳守でお願いしたいことなんですが、ええですか?」

「っ……はい。本当にひめちゃんに償うことができるなら、私はなんだってします」

「先生、あんまりそういうこと言わない方が……」

「カルテちゃん。ここは空気を読んでください」


 小路は加洲に打ち明けた。

 標戸しるべという地の呪い。恐ろしい想像が強い認知を得て現実になるという『怪異言現(ごんげん)』。それが生み出す噂の怪物『伝承怪異』と、源を同じくするもそれらを打ち倒すために用いられる『陰陽術』、その使い手たる陰陽師について。

 そして今小路が直面している怪異『禁七』の状況と、現在それを打ち倒すべく活動している自分たちについて。

 朝のホームルームの時間も迫っているので、端的に説明する。


「あ、あなたたち……」


 すみ小灯芽こひめに償う。そのための覚悟を手にした加洲は小路の話を聞く間、苦しそうにしつつも意識を失うことはなく、その事情をはっきりと受け取ることができた。

 故に彼女は、まず教師一般が言うべきことを告げた。


「勉強は大丈夫なの? 来週の月曜にはもう中間テスト始まるのよ?」

「ぐっ」

「あー」

「はい……」

「学生の本分は勉強。将来に向けて知を蓄え学ぶ力を養い社会への洞察を育むこと。それを疎かにしてはいけません」

「そですねー」

「正論やなあ」

「おっしゃる通りなのです……」


 でも……。

 正しい大人としての言葉はここまで。続けたのは、鈴山学園高校に勤める教師・加洲姫綱(きづな)としての感謝。


「ありがとう。私たち先生のことを、ひいては生徒全体、学校全体のことを思って戦ってくれて。この学校の先生として、私はあなたたちを誇りに思います」

「え、ども……」

「いえいえー」

「こちらこそ、ありがとうございますなのです」

「うん……ん? 冷杯さんそれは、何のありがとうなの……?」

「はっ、えっと……」

「先生、ミーコは禁七とは別の怪異に『共感の呪い』っての掛けられてまして。先生の感謝の気持ちに同調してとりあえず感謝し返しただけです、それ」

「えぇっ!? 別の怪異、呪いって……あ! もしかしてさっきのって!」

「はい。心が読めるのは共感の呪いの副産物で……あ、でも普段は気持ちが引っ張られるくらいで、意識を向けないと心の声というほど具体的にはならないので安心してくださいなのです!」

「そ、そうなの……」

「言うてどのタイミングで心読まれてるかわかったもんやないんで気つけてくださいね」

「こみ先輩!?」


 怪異が齎した超能力のような現象が日常の一部となっているその会話。短い談笑が四人の心を緩やかにほぐし合わせた。

 その終わりを告げるように、朝のホームルーム前の予鈴が鳴り響く。


「わっ、もうこんな時間! ごめんなさい私まだ授業や会議の準備があるから行かないと。あ、えっと……この件って、これからどうなるのかしら」

「とりあえず、昼休みに特別棟の屋上来れますか? もう一人……一体? 協力者がおるんですけど、そいつも混ぜて今夜の作戦会議をします」

「え、今夜やるんですか?」

「ん。理由は二つ、一つは中間テストが近いから。これ以上みんなから通常の学生や教師としての生活を一秒たりとも奪いたない」

「あー」

「怪異のことが気になったままでは確かに、土日に勉強に集中できなそうなのです」

「もう一つは、条件を達成したまま生活するのが危険やから。全部知っとった先生が今無事な以上そう簡単に連れ込まれるもんではないんやろうけど、うっかり開けた扉がその開かずの教室って奴のやったら最悪やろ?」

「か、考えたくないことなのです……」

「入ったら二度と出られないって話ですもんね」

「わかりました。決行は今夜。昼休みに特別棟の屋上で会議、ね」


 そうして話は一旦まとめられ。

 加洲は職員室へ、三人の生徒は教室棟の自分のクラスへと向かった。



 今夜。都市伝説怪異【S高の禁じられた七不思議】を討伐する。

 四人のその決意を感じ取ったかのように、どこか茜色の教室で。


 孤独な彼女が髪を揺らした。

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