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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第一章 人生破壊光線女
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第31話 望まなかった結末

「みい……こ?」

「……えへへ、わかってはいたのですが……」


 その口調は『いい子の深衣』のときのまま。

 悲壮であった表情は、すぐにカルテの喜びに『共感』して塗り込められて。


「ダメだったのです! カルテちゃん!」

「ミーコ……」

「呪いは、やっぱり消えないみたいです。クロユリさんが言ってたとおりに……」


 深衣が向き直る先の黒い怪異少女は、指輪を外してポケットに入れながら、穏やかな微笑みを浮かべて歩み寄ってくる。


「わたしにも 【人生破壊光線女】みたいに 都市伝説由来の力があるんだけどね」


【都市伝説怪異】、人間の噂話が実現したその存在は、語られた通りの力を持つ。

 光線女の権能は『人生を壊す呪いの光』。照射することで人間に対し特別な能力を与えたり精神構造を改造したりすることで破滅へと導く。

 では、怪異殺しの怪異少女が持つ権能それは。


「わたしは 【怪異退治のクロユリさん】として 怪異を殺すための権能をいくつか持ってる ひとつは ミーコちゃんを治した絆創膏とか さっき着けてた指輪とかの 便利な道具の数々」


 絆創膏と包帯。今し方しまったメリケンサック代わりの指輪。

 そのほか、無から引っ張り出す三叉槍、隠した黒曜石のナイフ、鈍器にもなる青銅鏡、十字架のネックレス、注連縄、神楽鈴、お神酒、塩、御幣、呪符、スタンガン、その他。

 それらがすべて一まとめに『退治道具』という権能。


「それから 『怪異理解』っていうのもあってね」


 クロユリさんはどんな怪異にも負けず、必ず退治する最強のヒロイン。

『怪異理解』の権能は相対してから時間が経過するにしたがって討伐対象の情報を自動的に彼女に付与する。


「時間経過……だからさっきは、すぐ倒さずに見てたんですか」

「そう ミーコちゃん 呪い解きたいって言ってたから なにか手がかりがあればいいなと思って」


 結果 得られた情報は二つ

 怪異退治の怪異がいわく。

 一つは、当たり前のことだが、光線は『人の一生を破り壊すもの』なので、怪異である光線女自身やクロユリさんには意味がないということ。


 そして、もう一つが。


「……『呪いは解けない』っていうことだったのです」

「ミーコ……?」

「共感の呪い、少しだけ思い通りにできる方法を見つけたのです。それで、クロユリさんが怪異の知識を取り入れているとき、覗かせてもらいました」

「……もしかして、ミーコが助けに来れたのも……」

「はいなのです」

「ちなみにわたしは 呼ばれてるなと思いつつ場所がわからなかったんだけど 急に強い気配が増えて その流れに任せたら来れたんだ」

「えぇ……っと?」

「ミーコちゃん 光 浴びたでしょ?」

「あ……」


 人生破壊光線女の呪いを焼き付ける光。

 カルテを庇って深衣は再び、それを一身に受けていた。


「あの光は 人間の脳を物理的に加熱調理することでその機能をいじってたんだ」

「…………えっ?」


 承知できていないカルテのために、処刑人たる少女から解説が入る。


 左前頭葉下前頭回、内側前頭前野、扁桃体、特定のニューロンにシナプス、その他無数。情動伝染に関係するあちこちの脳領域に特殊な熱処理を施すことで『共感の呪い』は実現していた。


 怪異がこの世界に与える小さな損害は、『現実の修正力』が働いて、誰も見ていない間になかったことにされる。


 しかし、ミクロの宇宙とまで言われる人体、その脳機能を大胆にも無数箇所細々(こまごま)と加熱し、焼き断ち、溶かし継いで実現された緻密な機能・精神改造は、この現実世界にとって小さな損害とは到底呼べないものだった。


 人の魂の成れ果てである心霊の超常的な呪いなどであれば、大元を除けば解呪はできたに違いない。

 しかし、深衣が掛けられた二つの呪い……いや。


 《《三つ》》の呪いは、いわば《《脳機能障害》》。


 怪異を倒しても修正されることのないものだった。


「ミーコちゃん わたしから見て今のきみは とても存在感があるように見える」

「へ……?」

「きみから見ても わたしのことがよく見えるんじゃない?」

「そういえば……」


 以前会ったときは、周囲の景色から浮いた異質な存在だと思った。

 そんなクロユリさんの姿が、今の深衣には現実に存在する女の子のように見える。

 肌は色白だが、マネキンのようではない。髪は綺麗だが、日本人形のようではない。瞳は闇のように黒いが、深衣を反射して捉えているのがわかる。

 神秘的だが、無機質ではない。


「ここを出ればわかるけど きみはたぶん 幽霊が見えるようになってると思う」

「幽霊が……?」

「怪異も もしかしたら 条件を満たしてなくても『実体条件型』が見えるレベルかも それくらいの とても強い……」


 『霊媒体質』。


 それが深衣に刻み込まれた、三つ目の呪い。

 オカルトオタクの友人カルテを庇って受けた、【人生破壊光線女】最後の呪いだった。


「人を引きずり込んだ後の閉じた『異界』は ふつう入ることができない」


 無数の地下階層を持つ施設で例えるなら。

 光線女が地下100階に少女を連れ込んでしまえば、少女が電話で助けを求めてもその電波が外に届くことはない。

 クロユリさんが助けられるのは、光線女が地上階で少女を捕らえてエレベーターに引きずり込むときか、あるいは怪異が自分の階層のボタンを押して箱を地の底へ沈めている最中まで。

 その時点ならば現場を抑えるなり下った先の階層をパネルで確認して追うなりできる、というわけだ。


「今回はそれに例外ができた とっても強い電波が急に現れて どこにいるか丸わかりだったの」


 どんな熱処理を施せばそんな超能力が目覚めるのか、そこまでの『怪異理解』は行わなかったが。

 異界という地層をぶち抜いて届くほどの電波・脳波が深衣から発されるようになり、助けを求める声に呼び寄せられる権能『求叫きゅうきょう召喚』が起動して退治人は召し寄せられた。

 こうして不可能だと思われていた異界での救助に異例ができたというわけだった。


「ふふ 光線女は自分に不利な能力を きみに与えちゃったことになるね」

「そういうことだったのですね」

「じゃ、じゃあ、なんですか」


 聞き役に甘んじていたカルテが、恐る恐るといった声色で、大まかに理解しつつも、理解できないと忌避してしまいたくなるその事実について確認する。


「ミーコの呪いは、治るどころかひどくなったってことですか?」


「…………」

「三つに増えてしまったので……、そういうことになりますです」

「そ、んな…………」


 深衣はぎこちない笑顔を作るが、カルテの心に浸み出した悔恨を和らげるには至らない。


 ──アタシのせいだ。

 アタシが囮作戦なんて言い出して危険な状況に首を突っ込まなければ。

 アタシがもっとちゃんと調査して、光線女が最新の噂を反映してるのに気付けていれば。

 アタシが、ミーコの盾になっていれば。

 こんなことにはならなかったはずなのに。


 今更どうしようもないとわかっているのに、カルテの頭はそんな『もしも』を想わずにはいられない。

 そしてその『もしも』の数だけ、感じる罪の重さを加えていく。


「カルテちゃんは悪くありません。こんな状況に巻き込んでしまって、ちゃんと止めることも守ることもできなかったあたしが、一番悪いのです」

「違う……違う、ちがう、ちがう……。アタシ、浮かれてたの……。まるで物語の登場人物みたいって、伝説でしかないと思ってたクロユリさんに会えるって、馬鹿なことしか考えてなかった……。間抜けのアタシが、全部悪いの……!」


 ごめんなさい、ごめんなさい……。

 地に膝をつき額をつけるようにうずくまって謝り続けるカルテ。それを宥めようと背中をさする深衣。

 愚かさ弱さを悔いるカルテから深衣に伝染して、二人は悲痛な涙を目の端に溜める。





 けれど。



「そんなに」



 クロユリさん。

 怪異を殺し、人間を守護するこの怪異少女は。



「悲しまなくても いいんだよ」



 彼女だけは、ニタニタと。

 邪悪な笑みを浮かべていた。

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