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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第一章 人生破壊光線女
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第3話 光線女の呪い

「メイクのときは赤かった……ような? あれ、どうだっけ……」


 燦宮さんみや駅の女子トイレで鏡を見ながらひとりごちる。

 そこに映る深衣みいの顔には、今朝一番に姿見で見たときのような日焼け痕はどこにもない。

 そしてもう一つ気づいたことがある。


 独り言なら、口が勝手なこと言い出さない……?


「なんなのこれ、ほんっとに……」


 最悪。

 そう言うつもりが、できなかった。


「ほんとに……なんだっけ。まいいや」


 ホームに向かう。まもなく電車がやってきて、込み合う車内に乗り込む。

 朝から厳しい暑気で蒸しあげられた人々の熱。誰もが感じるその不快感を深衣も感じていた。

 ため息を吐き、鞄からワイヤレスイヤホンを取り出して耳にはめ込む。せめて聴覚くらいは良い気分でいたい。先週配信され始めたばかりの有名アーティストの曲を掛けた。


 燦宮を出た電車がほどなく金華市きんかいち駅に到着する。電車を乗り換えたあとは、深衣が通う鈴山すずやま学園高等学校の最寄り駅、鈴山駅まで十五分ほどある。

 習慣的に行ってしまっていたSNSのチェックを切り上げると、深衣はWebブラウザを開き、検索ワードを入力した。


 [人生破壊光線女]


 ヒットしたウェブサイトの胡散臭いタイトルを下までスクロールして一通り見てから、とりあえず詳しく知ることができそうなものをタップする。


[【標戸しるべのトンデモ都市伝説】第106怪『人生破壊光線女』~ビームを浴びたら「人生終了」!?]

 更新日 2025年2月22日 / 公開日 2025年2月17日


 AIで生成されたというおどろおどろしいイメージ画像に出迎えられる。

 ボサボサに乱れた金髪ツインテール、アニメキャラクターの着ぐるみのような目鼻立ち、感情の見えない立ち姿と、血まみれの変身ステッキ。

 その姿は大いに昨日の夜見たものと重なっていて、一秒も見ていられずすぐにスクロールしてどけた。

 続く眉唾物の文章に目を細めながら、気を取り直してそれを読み進めていく。


 その記事を公開しているのはオカルト、特に都市伝説方面を中心に扱う個人サイト。

 深衣は今知ったことだったが、標戸という土地はなぜか怪談、超常現象、都市伝説の話が極めて多い「怪談の聖地」らしい。

 この記事はその中でも有名なものにフォーカスを当てていく人気企画の106番目ということだった。


 都市伝説『人生破壊光線女』


 どんな話かはその名の通り。食らうと人生が壊れてしまうビームを撃つ女が出る、という話だ。

 燦宮の交差点や商店街で目撃される魔法少女コスの女で、目が合うと追いかけられ、最後にはビームを撃たれる、といったくだりは以前友人から聞いたものと変わらなかった。深衣自身このような文章をどこかで見た気がしたため、もしかするとteatok(ティートック)や|Independent Styleインスタでも広められているのかもしれないと思った。


 彼女が知らなかったのはさらにその先の話。つまり今の深衣と同じ立場の話。

 あの化け物の光に曝された犠牲者がその後どうなるのかということ。


[人生破壊光線を浴びた人間は、それまでの人生が破壊されるような()()を背負うことになってしまう。]


 それがどういうことを意味するのか、記事は一つのエピソードを引用して語り始めた。



 ◇



 ある男が標戸に住むオカルト好きの友人Mに久々に会ったときの話だ。


 大の怪談好きで廃墟探検が趣味だったMが怪談の聖地と呼ばれる標戸にIターン転職して一年。仕事の出張でやってきていた男は、せっかくなのでMに会おうと連絡をした。

 住み心地はどうかと尋ねれば、きっと彼は大はしゃぎでこの一年の心霊体験やら聖地巡礼の話やらを聞かせてくるだろうなと思っていた。


 しかし、待ち合わせのカフェにやってきたMは骨と皮ばかりに痩せ細り顔を蒼白くして、まるで死人の出で立ちだった。

 お得意のマシンガントークもどこへやら、「久しぶりだな」と言うその声もずいぶん弱弱しく。「なにがあったんだよ」と男は聞かずにいられなかった。


 Mは言った。「人生破壊光線女に会ったんだ」と。


 「燦宮のセンター街で、彼女の買い物が終わるのを店の外で待とうと思って出たんだよ。献血の看板持った人と、献血コーナーと救急車が見えて、救急車にはコラボしてるアニメかなんかのポスターが貼ってあった」


 「でもそのポスターが、急に首をぐいっと回してこっちに目を合わせて来たんだ」


 「それはポスターじゃなくて、魔法少女の格好でそこに立ってた三十代くらいの女だった。近づいてくるコスプレ女から一生懸命逃げたんだけど、全然逃げ切れなくて捕まって、『人生ぇ破壊こうせえーーーーん!』ってビーム浴びせられてさ」


 っイ、ヒィヒヒヒ。

 それがMの笑い声とは、男は一瞬わからなかった。

 Mはニタニタと笑みを浮かべながら、こらえきれないという調子で鼻息を荒げながら語る。


「それ以来止まんなくてさ! 何がって、廃墟探検。パワースポットとか、事故物件住んだり、人が死んだ場所行くの。 俺、幽霊見えるようになったんだよ! いや、呪いみたいなもんなのかな。四六時中幽霊見えてて、視界にいなくてもどの方向のどのへんにいるのかとかなんとなくわかって、ずっと見られてて、ずっと呼ばれてて、ずっとさみしそうでかわいそうでほっとけなくてどうしようもなくてぇ!」


 突然興奮を爆発させるM。このままでは店の迷惑になると思った男は強引に彼を外に連れ出した。

 力なく膝をつくMは胡乱な笑い顔のまま、しかしその目は太陽を直視してギラギラと輝いている。


 もう、元のMじゃない……。立て替えたコーヒー代を惜しむこともなく、男は逃げるようにその友人だったものを置き去りにした。


 しかし後からこのときのことが気になって、男はMの元恋人に連絡をとった。


 気味が悪くて思い出したくないと渋る彼女からなんとか聞き出した話によると、Mは『光線女』に会ったと興奮気味に語った日から次第に様子がおかしくなり、仕事にも行かず家にも帰らない日が続いたという。

 たまに帰ってきても金をせびり、何のためかと聞けば「心霊スポット巡りに必要だから」などとぬかす。彼女は流石に愛想を尽かして出て行ったそうだ。

 あの日自分と会ったのも金を借りるためだったのか。

 男は戦慄した。Mはそんな性格の人間ではなく、奇矯な趣味を持ってはいても、真っ当な社会人として普通に生きている人間だった。


 そうなってしまった原因が本当に【人生破壊光線女】で、それが燦宮という町に現れるのだとしたら……。


 男は出張中、必要な時以外は絶対に外出しなかった。

 外で用事があったとしても、燦宮周辺には絶対に近寄らなかった。

 無事に東京に戻った今、このことを振り返って彼はこう言う。



「標戸で暮らすなら気をつけろ。あそこはたぶん、めちゃくちゃヤバイ」



 ◇



 ネット掲示板が初出とされるこのエピソードは、今年二月に冒頭の生成画像をきっかけに有名となった『人生破壊光線女』の代表的な怪談の一つ。

 そしてこれは一週間後同掲示板に投稿された標戸新聞のニュースを後日談としてセットで知られている。


 『「霊がいたから」男を逮捕 不法侵入常習』

 標戸市に住む無職の男「前田比路史」27歳が、住居不法侵入及び器物損壊の現行犯で逮捕されたという事件だ。


 前田は警察の取り調べに対し「幽霊が見える」「幽霊に誘われるまま従っただけだ」など意味不明の供述を繰り返し、精神鑑定にかけられると報じられた。

 ネット掲示板の住人たちによってこの報道とMの怪談を結び付けられると、前田比路史は都市伝説「人生破壊光線女」の被害者だ、そうまことしやかに語られるようになっていった。

 

 ……まとめサイトの記事はさらに二つの逸話『K高校の陸上部女子A』と『旧き資産家の老人N』の話を紹介し、次のように締めくくった。


 【人生破壊光線女】の人生破壊光線を浴びると呪いを受ける。

 あるオカルト好きの男は幽霊が見えるようになり、絶えずその呼び声に誘われて社会生活を破綻させた。

 ある陸上部の女子高生は痛覚と疲労を感じなくなり、休むことなく練習を続けて体を壊してしまった。

 ある資産家の老人は不幸な未来を予知できるようになり、でたらめな投資を繰り返して破産することになった。

 呪いの内容は総じて「本人にとって魅力的な()()」である。

 しかしそれを受けた人々は例外なく、ブレーキが壊れて人生を滅茶苦茶にしてしまうまで好きなことに熱中してしまう。


 それはまるで、眩い光で()()()()()()かのように……。



 記事を読み終えた深衣は、言い知れぬ落ち着かなさを感じて辺りを見回した。

 原因はすぐにわかった。

 数人の視線が、一人の男の方へ向いている。男は開閉扉の横で目を瞑りながら小刻みに首を上下させていた。


 チッ。音漏れうるさいな。周り見えてないのかな。


 そう思ってすぐ、不思議に思った。

 スマホを操作して音楽を止め、イヤホンを外して確認した。

 実際に、男の方から耳障りな音楽のなりそこないが車内に漏れ聞こえている。しかしその耳元は痛みきった長い髪に覆い隠されていて、イヤホンがあるとは見えない。

 

 うるさい……って、なんであたし、そんなこと思ったんだっけ……。


 ガタンゴトン、揺れる車内。深衣は再びイヤホンを着けて考えこもうとした。

 しかしちょうど「まもなく、鈴山、鈴山」とアナウンスが聞こえてきて、彼女はそのことを頭の隅にやり、男がいない方の開閉口へと移動した。


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