第25話 噂の派生
カルテが都市伝説『人生破壊光線女』の一次情報源を当たっていた時間、深衣は言われた通りに動画配信サイトやポッドキャストでの怪談配信を聞き漁っていた。
[都市伝説 怪談 人生破壊光線女]検索ワードを打ち込んで出てきた配信で行われていたのは、巷を騒がせる都市伝説の最新の怪談の紹介。
「6分くらいで一まとまりのものを十本ほど聞いてきました」
「少ないわね」
「う……夜更かしはよくないことなのです。代わりと言ってはなんですが、それに加えて行きの電車でショート動画を十数本見てきました」
「はいはい。それで?」
十本の光線女にまつわる怪談と十数本のショート動画は深衣の知らない展開や要素ばかりだった。
深衣はメモに残したそれらの中から、特に気になった三つについて報告する。
一つは、以前は探しても出てこなかった、呪いを解こうとする後日談。
ポッドキャスト番組『サト子の現代怪談語り Part41 光線女に呪詛返し』。
人生破壊光線女に光を浴びせられた友人に付き添って、知り合いの霊能力者にお祓いをしてもらうという怪談だった。
残念なことに、この怪談は霊能者が儀式の最中に発狂し自分の口に幣付きの木棒を押し込んで自殺してしまい、呪いは解けなかったというオチだった。
霊能力で力任せに祓おうとして逆に呪い殺される。
いつかの占い師はこれを見事に回避したということになろう。鞄のチャックに結び付けた彼女からのお守りを見て深衣は少し感心した。
「あ、でもそのあとにも何人かの霊能者さんや神社でお祓いをお願いしてもらったのに何も起こらなかったのです」
「まあ霊能者が返り討ちにされるなんてよくある展開だから。光線女独自のアイデンティティとして認められなくて反映されてないとも考えられるわね」
二つ目。光線女に会わないための対処法と、会ったときの対処法。
YourTubeチャンネル『標戸都市伝説語り~恐怖の街~』『第742怪 光線女と目が合ったら』。
人生破壊光線女を向いのビルの窓に見つけた男性の話だった。見てすぐにその異様なコスプレ姿から人生破壊光線女だと理解して、目を背けたのだという。
彼の体感では、0.5秒未満。本当に一瞬。本能的な反射に近い速度で、とのこと。
ただ目を逸らすだけでいいとはいえ、咄嗟にできるかといえば難しい。そんな具体性が評価されている話だった。
そして同チャンネルの『第745怪 燦宮では鏡を持ち歩け』。
こちらは目が合ってしまい誰からも認知されなくなった……クロユリさんの言う『異界』に引きずり込まれた女性の話。
彼女は光線女に追い回されたが、最終的に逃げ延びることができた。そしてそれは、『買ったばかりの手鏡を偶然そのとき持っていたから』だという。
これにはコメント欄やSNS上で追随する報告者が現れ、コンパクトでも姿見でもなんでも、とにかく光を完全に跳ね返せる鏡を持っていれば諦めてもらえる、という認識を形成しているらしい。
「男性を中心に『鏡なんて持ち歩かないよ』という反論も投げかけられていましたが、鏡のある場所に逃げ込めばいいと投稿者さんは言い返していました」
「アタシも鏡なんて持ち歩いてないけど……」
「…………」
三つ目。光線女が空を飛ぶ話。
YourTubeチャンネル『都市伝説まとめ動画』 ショート動画『人生破壊光線女、空を飛ぶ #都市伝説 #人生破壊光線女 #現代妖怪 #AI生成』。
こちらはSNSで散見された「魔法少女なら空を飛んでもおかしくない」という意見をきっかけにAIで生成されたイメージ動画。白とピンクのマジカルな衣装を着て空を飛ぶ金髪ツインテールの中年女性が、最後には飛びながらビームを撃ちおろしてきていた。
そのオチを真に受ける者はさすがにいなかったが、コメント欄には「あの時燦宮の空に見た白い人影って!?」「不思議なことに、これと同じのを現実で見た気がする」など、空を飛ぶ姿を目撃したという発言が相次いでいた。
「カルテちゃんはどう思いますか?」
「これはないでしょ」
「…………あたしもそう思うのです」
配信とポッドキャストを調べていると、振り返りとして何度も触れられていることがあった。
それは、現在流行っている都市伝説『人生破壊光線女』は、2012年に形作られた怪談が今年の2月にSNSでバズったことで広まったということ。カルテも口にしていたことだが、深衣が一人で調べているときには見落としていた部分だった。
2025年2月3日。大手SNSの中でもネタ文化が強い『Z』に、魔法少女のコスプレをした中年女性がニタリと笑みを浮かべた着ぐるみ顔で、血塗られたステッキで殴りかかる様子を映した画像が投稿された。「Zrokくんに魔法少女出してって言ったのにこれお出しされて顔ないなった」という呟きを添えて。
Zrokはアプリ内のAIサービスで、指示した画像を生成させることもできる。意図に反して恐ろしい画像が出力されたことを嘆いて茶化す投稿だったのだ。
しかしこれに相次いで同じ内容の引用ポストがなされるようになる。
[こういう都市伝説あったよね。はかいこうせん女?][人生破壊光線女じゃん懐かしい][令和の世に人生破壊光線女を見ることになるとは]
その名前のインパクトが人生破壊光線女を知らない現代の若者にウケて、光線女の話題は短期間に爆発的なインプレッションを生んだ。
2012年に取り残されていた都市伝説は令和の世にリバイバルされたのだ。
そして、このとき。
Zの住民は大いに話を盛っていった。
[光線女に魅入られると誰からも認識されなくなる][光線女のビームは極太で絶対に逃げられない]など。
[光線女は口からビームを放つことができる。誰も止められない]というのもリバイバルで加えられた要素だった。
「現状の派生怪談における『条件』の分析はまだなのですが、なんというか……全体像が見えてきた気がするのです」
ただの都市伝説だと思っていた『人生破壊光線女』。
それは深衣がまだ幼稚園児だった頃に誕生し、時代を飛び越えて蘇り、今なお変化し続けているものだった。
自分一人では気づくまでどれほどかかったことだろう。得られた新たな視点、新たな情報、新たな知見。
それをもたらしたカルテに、深衣は改めて感謝を告げる。
「カルテちゃん、本当にありがとうございます。カルテちゃんのおかげでずいぶん調査が進みました」
「っ……、……そう。うん。よかったわね」
くしゃりと一瞬ほころぶ顔を、すぐにしかめっ面に塗り替えて、それからすっかりそっちのけになっていたお弁当を物凄い勢いで口に運ぶカルテ。
その腹の底に疼いて温かい喜びと恥ずかしさ、肌を撫でる汗の冷たい罪悪感までも、深衣は共感して読み取る。
同じ様にお弁当を口へ掻き込んで、ちくりと頭痛がしたのでよくないことだと反省してゆっくり味わって食べる。
二人の都市伝説調査。それは着実な進捗を得て。
一週間後。
ついに条件を見つけ出した。




