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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第一章 人生破壊光線女
24/34

第24話 噂の生まれ

 翌日。

 以前クロユリさんと会った燦宮センター街のビル内、あの物置場所に手紙を置いてから、深衣は学校へとやってきた。

 リコとエミは欠席だった。担任の加州先生によれば「体調不良」とのこと。だがその体調を悪くした原因であろう深衣たちが呼び出されて叱られるということはなかった。

 不思議に思いつつも、深衣はカルテとの情報交換を優先する。

 昼休み、久しぶりの教室での昼食。向かいにはカルテがライトグリーンのお弁当箱を広げていた。


「やっぱり初出はネット掲示板だったわ」


 言いながらスマートフォンの画面を見せてくる。そこに表示されていたのは国内最大手のインターネット掲示板『Sちゃんねる』、その中で近畿地方についての雑談がなされる『近畿板』に立てられた一つのスレッド。


「スレッド名は『標戸しるべ市中央区 Part2』。このスレッドの151番がネットで初めて、光線女の目撃情報を報告した」


 151番のスレッド住人いわく、自転車で職場に向かっていたら早朝から奇声を上げる女がいた。

 女は国民的女児向けアニメのコスプレをしていて、「人生破壊光線!」と叫びながらまばらな通行人に向けてステッキを振りかざす真似をしていたという。


 同じ女を見たという証言はすぐに他のスレッド参加者から寄せられ、掲示板住人の中でこの女は何者で、どうしてそんなことをしているのかという調査と議論……とは名ばかりのネタの出し合いが重ねられていく。

 加熱していくレス数が1000に到達すると『燦宮さんみやのコスプレ女がやばすぎる件ww人生破壊光線?w』という新たなスレッドが立てられた。


「で、このスレッド内で光線女を撮影した画像が出てきた。画質粗いけど」

「わ……」


 遠方から、古い携帯端末でズームして撮影したのだろう低い画質の写真。

 そこに映るコスプレ姿の女は、撮影者とは遠く離れているであろうにも関わらず頭をカメラへ向けている。

 顔は陽光で白飛びしていて見えない。


 深衣はその画像から、微かな感情を読み取った。

 ピクセルで記録された女の立ち姿。今にも折れそうに曲げられた膝、背を丸めて腕を脱力し、頭だけを捻りこむようにこちらに向ける女。

 その絶望感。


「…………」

「この画像がきっかけで、下世話な冷やかしメインだったスレ内の空気が不穏になっていく。画像を見たら呪われるとか、女に会ったら呪われるとか。そんな文脈のなかで、後輩が光線女に絡んだ現場にいたって言う人が現れた」



0269 名無しさん 2012/08/11(土) 17:14:38.12

その女マジでヤバいかもしれないから近づかないほうがいい


0270 名無しさん 2012/08/11(土) 17:16:44.58

俺の後輩怖いのとか全然感じないヤツで、女にズカズカ近づいてって何してんすかー?って聞いたんだけど、女が人生破壊こうせーん!っつってステッキで後輩の頭殴って

キレた後輩が殴り返してもヘラヘラ笑ってるだけでキモかったんだけど、さすがに警察沙汰になりそうだったから止めてさ


0272 名無しさん 2012/08/11(土) 17:18:00.01

でその次の日職場で後輩見つけて、おう頭大丈夫かって声掛けたら

めちゃくちゃびっくりして飛び上がったんだよ、怖いものしらずだった後輩が

なんか何するにもビビり散らかしてて、俺がふざけて後ろから脅かしたらチビったりして


0276 名無しさん 2012/08/11(土) 17:20:11.43

>>275

後輩来なくなった。親が声かけてもビビり散らかして生活できないようになって、そのまま引きこもりになったって言われてる

あれが人生破壊光線ってやつの呪いなのかもしれない

俺はもう絶対近づかないって決めてる



「人生破壊光線の……呪い……」

「真偽は不明だけどね。でもこのレスがあって以降、光線女に近づくとヤバイっていう共通認識が形成されて、近づいたらどうなるかって妄想や、実際に近づいたっていう人の報告が怪談みたいに話されるようになっていった」


 その表れとして、この話題を引き継いだのはオカルトについてのトピックを取り扱うオカルト板のスレッドだった。

 まだ詳しく見れてはいないが、光線女がビームを撃ち、それを食らうと人生が壊れる呪いがかかると語られるようになったのはこれ以降だろう。

 カルテはそう締めくくった。


「この頃の都市伝説【人生破壊光線女】がどんな条件で人を襲っていたかは……まだこの先を見てみないとかな。 ……ん、ミーコ?」

「……人生破壊光線女は、()()人間だったのですね……」

「……あれ? そういう話だっけ」

「え?」

「確かにこの2012年に目撃されたコスプレ女ってのは人間だった可能性が高いと思うけど……いやまだ合成のネタ画像ってこともありそうかな。でもどっちにしろ、今巷を騒がせてる光線女とは別物だと思うわよ」

「どうしてなのです?」

「ミーコが言ったんでしょうが。『語り喚び』……『怪異言現(ごんげん)』だっけ? 都市伝説怪異はたくさんの人間に広まった都市伝説が現実になったものだって。この怪談は初出こそ2012年だけど、17年後の今年2月にバズって一般にも知られるようになったの。だったら17年前のこの女と今年現れた光線女は別の存在って考えるのが妥当でしょ」

「あ……たしかに」


 カルテが話したのは、ネット掲示板に晒しあげられた奇人が伝説化されたという話。

 深衣を襲ったのは、その伝説の影法師が現実に現れ出たもの。

 過去の奇人と現在の怪異に繋がりはない。

 それは確かなことである。


 けど……それはなんだか、かなしいのです。


 スレッドに上げられた画像のコスプレ女を思い出す。

 勝手に写真をネットに上げられ、荒唐無稽な噂話を付加して遊ばれていた。挙句それが形を取ったものが今、燦宮で暴れている。

 あの女性が浮かばれない。

 生み落とされた怪異もまたそうだ。深衣には同じように不幸に見える。

 人々の噂に定められたとおり人々を襲って、その行動が元となった女性への報いとなることもない。ただ不幸な犠牲者を生み出して、匿名の外野を楽しませて。そんな存在に、喜びはあるのだろうか?

 救いは、幸福は、光は、あるのだろうか……。


 両者のことを考えると、深衣の表情に影が落ちる。


「…………ミーコ」

「あっ、はいなのです」

「元に戻ってくれるんでしょ。光線女を退治して」

「! ……もちろんなのです」


 気を取り直す。

 いい子の深衣がすべきことは、自分が傷つけた相手をまず救うこと。

 眉を顰めて怒っているようで、その実不安と心配を大きくしているこの目の前の少女。

 大宅おおやけカルテのために。元の自分に戻る。


「あたしが昨日調べたのは……」


 今度は深衣が調査の結果を報告する。

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