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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第一章 人生破壊光線女
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第22話 オカルトオタク

「話を再開したいんだけど」

「ええっと……」


 時刻は午後六時前。

 夕闇がぼかしてもカルテの表情の真剣さを深衣は呪いで感じ取ることができた。

 いや、今なら呪いなどなくともその心を通じ合わせることができたのかもしれない。

 呪いを早く解きたい。そう思う理由が、一つ増えた。


「どこまで話したのでしたっけ」

「『条件』の話。ミーコの呪いを解く唯一の望みは人生破壊光線女を倒すことで、そのためにはクロユリさんを光線女にぶつけるしかなくて、それには光線女が姿を現す条件を掴まないといけないってとこ」


 そうでした! ぱっと笑顔を取り戻して深衣は鞄を探る。

 クロユリさんいわく。

『条件型』の都市伝説怪異は、その都市伝説によって定められた条件を満たす相手の前にしか姿を現さない。


「トイレの花子さんは、学校の四階の女子トイレで四番目の個室を四回ノックして呼び掛けたとき出てくる。無甲山むこうざんのターボババアは、夜中の高速道路を走っていると後ろから現れて並走してくる。たぶんそういうのがクロユリさんの言う『条件型』なんでしょうね」


 端的に定式化するなら『○○すると××が出る』ということ。

 この○○に当てはまる事項を解き明かすことが、今の深衣の使命だった。


「あったのです! 失くしちゃったかと思いました」

「……暗くてよく見えない」

「教室で見せようとしてたノートです! 人生破壊光線女にまつわる怪談を抜粋して、要素ごとに整理してあるのです」

「見えん なに」


 ボロボロの教科書に紛れていたノートをやっと取り出して見せた。

 体を寄せて覗き込むカルテ。しかし暗くなった帰り道で歩きながら確認するのは容易でない。

 やがて目を凝らすのを諦め、手を払う仕草で「しまって」と伝える。


「今のところ、どういう条件があると思ってるの」

「うーん……実をいうと、調べ始めてすぐリコちゃんたちの……いじめが始まって、うまくまとめられていないのですが……」


 これまで深衣がノートに収集してきた怪談の被害者たちを振り返る。


 オカルト好きのサラリーマン。

 K高校の陸上部女子。

 資産家の老人。

 ピアノ塾に通う小学生男子。

 親戚の不良少女。

 宗教にハマっていた主婦。


 そこに加えて。

 いじめ主犯の女子高生。


「……………………みんな人間なのです」

「じゃなかったらそっちのが怖いわよ」


 まるで共通項が浮かばない。

 年齢も性別も職業も趣味嗜好も、何一つ一致しないのだ。

 唯一重なるのはその場所。燦宮さんみやで襲われたということだけ。

 ただそれもセンター街だったり駅地下だったり映画館だったりと、詳しく見るとまばらである。


「もしかすると、怪談に関係ない要素が条件だったりするのでしょうか。例えば、襲われたのは左利きの人だけ、とか」

「ミーコ右利きじゃない」

「右利きなのです」

「アンタ前よりちょっと馬鹿になってない?」

「そんなことは……ないと思うのですが……」


 『いい子の呪い』は、深衣が『いい子』に相応しくない行いをしたときや悪感情を抱いたときに頭痛を引き起こす。

 呪いを掛けられてから深衣が味わった頭痛は筆舌に尽くしがたいが、きっと常人が一生で体験する頭痛を五回分以上濃縮して十五日間に集中砲火されたような状態。

 知能に何らかの影響があったとしてもおかしくはないのだった。


「……クロユリさんが言ってたんでしょ。都市伝説怪異は幽霊や妖怪とは根本から違う、()()()()()()()()()()()だって」

「あっ」


 故に、噂として語られていること以外を条件にしているとは考えられない……。

 カルテのヒントでそのことを思い出して、深衣は再び頭を悩ませる。


「うう……じゃあやっぱりこの被害者さんたちの共通点を見つけないといけないのです……?」

「まあ、そうだけどさあ。 …………」


 とほほ、疲れの涙を目の端に溜める深衣を、カルテは横目に見つめる。

 肩眉を吊り上げたその表情を深衣は見ていない。しかしその沈黙から何か言いたそうな気配を感じ取って、「どうかしたのです?」そう訊いてみた。


「…………オタクが」

「?」

「なんか早口で言ってんな、とか、思わないでよ」

「わかりました。思わないのです」


 夜道にぽつりぽつりと灯りが灯っていく。

 街灯に照らされる寸前でそっぽを向いたカルテ。彼女の耳の赤さを深衣は見た。

 その心は、うきうきわくわくと踊り立つ気持ちを必死に抑え込もうとする不安や羞恥心、ためらいに包み込まれている。

 躍動するポジティブな感情がその薄膜を破って言葉になるのをやや待った。

 すると、一言。


「甘い」

「……へ?」


 それからは、洪水のように止めどなかった。



「甘いのよ、ミーコの調べ方。インターネット初心者かって。いや別にまとめサイトで概要を確認するのが悪いとは言わないわよ。都市伝説のアイデンティティを形作った名コピペを読んでネタを把握するって分にはね。でもそれじゃ足りないのよライト層のすることなのよ。まとめサイトはサイト運営が大なり小なり独断と偏見で編集したもので細かいニュアンスから大事な記述まで色々変わってたりするの。たとえば毛糸の塊に認知を侵される怪談があるんだけど侵されたまさにその描写を誤植だと思って削ってしまったりね。登場した霊能者が修験者から仏教僧に変わってしまったりとかもあったわ。そういう情報の過不足や変質が生まれてしまう場所なの。調査って言うくらい詳しく調べるなら一次ソースつまり掲示板やZのつぶやきを当たるべき。欲を言えばさらにその変遷を掴むためにインスタやらteatok(ティートック)やらにも目を通しておきたいわね。それにね、古い、古いのよアンタが参照したであろうまとめサイト。もう光線女界隈ではオカルトリーマンとか陸上部JKとか最初期の怪談誰も掘ってないわけ。まとめサイトの記事が最後に更新された日付見てみなさいよ半年以上前よ。もう他の都市伝説の話題にだいぶ押し流されちゃってるのこの媒体では。でもそうそれはまとめサイトだけの話。YourTube(ユアチューブ)の配信とかショート動画には最新の光線女の目撃談や怪談とそれを再現した映像なんかが出回ってるし、teatokやZなら投稿者とやりとりして詳しい情報も訊ける。現代の都市伝説ってそういう風に形成されてるところがあるとアタシは思ってるわ。もっと手を広げるならやっぱりSちゃんねるもまだまだ現役のネット掲示板でオカルトの話も盛んだしポッドキャストで怪談配信なんか聞いてると一つの話として洗練されたアレンジを加えられた状態の噂を聞けて視点の整理が進」


 深衣は適宜相槌を打ちつつ、彼女の話を聞き続けた。

 喋るスピードと情報量のせいで正直なところ一割も受け取れていなかったが、幸福そうな彼女を止めることなどいい子の深衣にできるはずもなく。


 結局、駅で別れるまでカルテは語り続けたのだった。



「ホラー映画では最後まで生き残る無垢な少女のことを『ラストガール』と呼ぶことがあってそれを援用してクロユリさんを『打ち滅ぼす少女(アンチガール)』と呼ぶ向きもあるわ。討ち滅ぼす少女って書いてルビが『アンチガール』ね。せっかくの怪談を安易に終焉に導いてしまう「怪談ネタ殺し」だとか不名誉な呼び方もあるけどアタシはそういう態度はちょっとクサいんじゃないって今となっては思うわ。というのも何を隠そうアタシも最初はちょっと嫌だなって思ってたのよ。だってそうでしょ?ホラー好きにとってどんな怪異も絶対倒すヒロインなんて実質敵みたいなものじゃないシンゴジに最初から最終強化形態のウルトラな巨人が剣とか槍とか持って出てたら台無しじゃない。でもね、一周、いや二周半くらい回ってくると逆にそこに味があるのがわかってくるのよ。映画のきさらぎ駅って見た?見てない?『カルト』は……知ってるわけないか。じゃあ詳しくは言えないけどホラーにおける強キャラが持つ安心感っていうのは他にはない魅力があってそれはジャンルがホラーだからこそ生きてくるもの恐怖と安心は互いに高めあっているの。良質なネット怪談が矢継ぎ早に生まれては消えるこの標戸しるべという街においてはそれがものすごく活きてくるのね。怪異蔓延る土地だからこそ逆にヒーローがいた方が現実味が出る。恐怖ばっかで飽和してしまうとどんな怪談も現実味が失われて食傷してしまう。知ってる?未だにSちゃんねるのオカ板では新しい都市伝説や怪談が報告されるたびに「それクロユリさんに勝てる?」って問う人がいるのよ?あもちろんネタとしてね、本気でそんなこと訊く人はインターネット向いてないわ。つまり何が言いたいかっていうとクロユリさんという強力な安心感が存在するからこそ、それをおびやかせるだけの恐怖を怪談側は目指すことができるのよ。クロユリさんが強くて頼もしければ頼もしいほど怪異はそれをどう打ち崩すかどうすればクロユリさんでもどうしようもないと思えるような激ヤバ怪異になるかという方向で発展を遂げられるわけ。もちろんそこには創作性が過分に加味されていて実話怪談や都市伝説の魅力の一つであるリアリティ流行りの言い方でいうならモキュメンタリーチックな要素を忘れがちになるきらいがあることは否めないわ。けれど近年のフェイクドキュメンタリーブームを鑑みるに

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